六十四話:対面
すみませんめちゃくちゃお待たせしましたーー!!!!
いや、あの、弊社がクソヤバブラック会社+そのせいで意識の薄れがあって倒れかけるが何日何度も起きて体力も気力も無い+前日に有給取り消されてそのショックで鬱になっていたのもあり……申し訳ないです。
ただ、無理して更新しても意味はないので、これからは無理しない程度に更新しておきます。
さて、次回からはアリュヴェージュ兄さんの過去回に突入します。
ほんとはもう少し後に挟む予定でしたが、三節の目的をハッキリさせておくにはもう出しちゃおうといった魂胆です。
ノエアくん過去回や序章なんて目じゃない位は長いはずですが、兄さん過去回は物語にとってはとっても重要なので見て頂けたら幸いです。
アリュヴェージュは表情は爽やかに笑みを見せ、その背後には重苦しい圧が隠しきれていない。
怒りと憎悪が混ざり合った槍のように鋭利なそれは、リシェルティアが恐怖すら忘れて一歩下がる事すら出来ないものだ。
リシェルティアの様子に気付いてジュンとウルリラが目の前に割るように入ったが、そんな二人もアリュヴェージュの圧力を前にして膝を折り曲げて神経を尖らせる。だとしても自分達が下がる訳にはいかないのだと心に鞭を叩いてジュンは腰に挿した刀を、ウルリラは左の指抜きグローブを脱ぎ捨て細い銀の腕輪に手をかける。
「で、でも、なんで私達が南国に居るって……」
「偶然だよ」
アリュヴェージュ曰く、南国に到着した時にリシェルティアの〝神魔〟を感知した。
リシェルティアが居るという事はレフィシアが居る。でもそのレフィシアは感知しても探すのが難しい状況。つまり誰かが隠している。
それが出来るのは優れた魔法士であり、エンジェルとのハーフでもあるノエア。ノエア自身も上手く隠れてるようなので探すのが大変。それなら隠れてないリシェルティアの所に行って聞いた方が速くて確実だと彼はすらすらとここまでの経緯を説明した。流石一国の王、頭の回転は平民と比べて段違いに高いのでこれくらいの思考は当然の如くやってみせる。
「まだ目が覚めないんだろう、レフィシア」
「……はい」
「治そうか?」
「えっ……」
「だから、治そうかって言ってるんだよ。〝神魔〟は二種類あるんだ。君はその片方しか使えないし、不安定の〝神魔もどき〟だ。そんなんじゃ治せない。さあ。どうする?」
やはり、アリュヴェージュも神魔の存在を知っている。知っている上で、レフィシアを治せると断言した。
偽りなどない。華やかなラベンダーの瞳が揺れ動く事はなく、ただ真っ直ぐにリシェルティアを捉えている。
「その代わり、レフィシアは連れて帰る。君達は結局、一時凌ぎでどうにか止めた……いや、止めて貰えた過ぎない。そんな人達に僕の可愛い弟は任せられないな」
レフィシアを治す代わりに、そのレフィシアを寄越せ。アリュヴェージュは確かにそう提案してきた。
リシェルティアは食い下がろうとしたが、相反した気持ちがそれを抑え込む。アリュヴェージュの言葉は全て的を射ており、全てが正論だ。ぐうの音も出ない。同じ事が起こったとして、また上手く行くかの保証すらないのだから、反発しように言葉が詰まる。
「……それはシアさん本人が決める事っす。もし本人の意志を尊重せず無理に連れて行くなら、本人の心を殺してるも同じっすよ」
「……君がそう言うなら、この要求はやめておこう。サヨの後輩なら、尚更だ」
ジュンはいつでも鞘から刀を抜けるよう今でも刀から手を離さない。もちろん、常時霊力を練り上げて瞬時に死霊術を発動できるように備えながら偽りを纏わずに思った事を放つ。
アリュヴェージュは少しの間悩んだ末に、一度目の要求を諦めて小さな息をついた。
「あんた、サヨ様の何なんすか」
「それは一旦横に置く。じゃあ、二つ目の要求。ヒルデガルドっていう男の名に、覚えはないかな。あったら、色々教えて欲しいんだけど」
ジュンの問いを当たり前に横に流して、アリュヴェージュは二つ目の問いを投げてきた。
一つ目を断っているので今度こそは答えなければと身構えていたが、流石に知らぬ名だ。リシェルティアも、ジュンも首を横に振った。
しかし、その中で唯一首を横にしなかった人物がいる。
——ウルリラだ。
そうなると、アリュヴェージュの求める「ヒルデガルド」という人物はチフラ大陸の人間なのかも知れない。
ただ、気になる点がふつふつと沸いて出てきた。
アリュヴェージュはいつ知り合ったのか、どんな関係なのか。
それを今聞いた所で先程のジュンの時のように答えてもらえそうにないので、リシェルティアは疑問の数々を胸に仕舞い込んだまま様子を伺う。
ウルリラは判断を誤らないようにと慎重で、中々首を縦には頷かない。
「……ヒルデガルド様の事は知ってる……前に、この際、もういっそ互いに腹を割って話をした方がいい判断してこちらも提案させて貰いたいのだけれど」
「うん。何かな」
「そこまでレフィシアに拘る理由。私達に諦めさせたいなら、潔く知ってる事全部話せばいいんじゃないの? そんな難しい事情、察しろとか無理だから。だったら言えって話よ」
アリュヴェージュの身分を承知の上で、ウルリラは本音を前へ押し出す。嘘や虚勢ばかり繕っていても始まらないという彼女なりの判断なのだろう。しかし発言の内容自体は正論でも、発言の仕方が不敬だと指を指されてもおかしくはない。
しかし、アリュヴェージュは対して揺らぎもしなければ、彼の護衛のアルフィルネ、ヘルミーネも怒りのあまり眉間に皺を寄せる事もない。
「……それもそうか。でも困ったな。話が長くなるんだよ。お仲間さんも待ってるだろうし……あ。そうだ。アルフィルネ。悪いんだけど、ノエアくん探して事情を説明してきてよ」
「は? どうしてそうなる訳? 感知難しいんだけど。それよりも私やヘルミーネが男嫌いなの、あんたが一番分かっているでしょ?」
「ああ。でも、彼は異母とはいえ、トルテのお兄さんだ。少なくとも、彼は他の男共とは違う思考を持っている」
「……あんたの頼みだから、仕方なく聞くだけなんだからね。行くわよヘルミーネ。聞き込みするわ」
「はい。アルフィルネ様!」
人事だと思い退屈そうに欠伸をかいていたアルフィルネに、アリュヴェージュは指示を与えた。
アルフィルネの金眼は細くなって、眉間の皺が一気に増える。余程に嫌なのだろうが、アリュヴェージュの頼みとあれば彼女は断れない。これが地位の上下関係にあたるからなのか、それとも別の何かによるものなのか——。
アルフィルネは部下であるヘルミーネを連れてウルリラの自宅から出て行った。
状況で言えばリシェルティア、ジュン、ウルリラとアリュヴェージュ。三対一。だからといって、アリュヴェージュを討ち取ろうとは思ってもいない。
彼しかレフィシアを治せない。
彼があらゆる真実を知っている。
だからこそ、首を取る行為に移す事など出来ない。
実行したとしても勝てる見込みも無く、三人はただじっとアリュヴェージュの動向に身構えていた。
「じゃあ改めて自己紹介しとこうか。アリュヴェージュ・リゼルト・シェレイ。レフィシアの兄でこう見えても中央国の国王だ。今日は観光に来た」
流石に軍服で南国を訪れるのはお忍びにはならないとはいえ、服装だけ平民を装っていても王族独特の圧力は消え失せない。笑むその顔つきは側からみればレフィシアと瓜二つ。しかし、吊り目気味のレフィシアと違い垂れ目気味であるアリュヴェージュの笑みは何処か違う。
「リシェルティア・セアン・キャローレン、です。北国の王女っていうのは、もうお分かりでしょう」
「ジュン・サザナミ。モルプローヴ大陸の二級死霊術師っす」
「……ウルリラ・エーデルフラウ」
ウルリラは渋々と〝技術士〟ではなく本名を名乗る。内容が内容なので、偽名を語る事は得策ではないと判断したのだろう。
アリュヴェージュは空いた椅子に腰を下ろし、一人ずつに視線を送ると、
「……何処から話そうか」
アリュヴェージュはラベンダーの瞳を懐かしむように閉じる。
忘れる事のない幼き記憶の数々で、アリュヴェージュは物語を紡ぎ始めた。
一つの国の兄弟と、三人の約束。
この〝セカイ〟の真実の話。