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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 三節・南国
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六十一話:賑やかな市場の中で

最近お絵描きも楽しくて……な本編更新!

イラストページ作るか悩む所。

 市場の通りは決して横に広くはない。


 否、広くはないというよりも、人の数に合わない狭い通りと表現した方が正しいだろうか。

 人の流れに沿って歩行するにも人を避けて、人を避けてを繰り返す。



「主従関係っつー割に、そういう雰囲気感じられないっすよね」



 あの冷徹非道……と噂されている中央国。それが主ならば従っている南国も似たようなものかと身構えていた二人は、賑わう人々の溢れんばかりの笑顔に呆気を取られた。

 身は売っても心は売らない。そう言った方針なのかも知れない。


 市場に身構える店達は野菜、果物、魚などの食料品をびっしりと台に並べている。その他にも、そんな食料品達を使った料理を提供している屋台もあるようだ。ジュンに「オレ、スフェルセ大陸の物価は分かんないんすけど、どうっすか?」と聞かれたので、試しに一軒の店に立ち寄って見た。値札を確認する前にそこがどんなお店か気になって、品物を一通り確認する。水槽に魚、魚、魚とあっては、もうここは魚を取り扱ってるお店でまず間違い無いだろう。



「見た事ない子達だな!」


「ええっと、お魚を売ってるんですか?」


「おうよ! オススメは安くてうまい、新鮮なマーレフィッシュだ! そんでそのマーレフィッシュを捌いてそのまま焼いた、焼き立てのマーレフィッシュ焼きも300イルだ!」


「マーレフィッシュ……」



 マーレフィッシュとは、集団活動で深海に生息している全長四十〜五十センチほどの魚の魔物だ。数も多く、繁殖能力も高い。他国では南国から稚魚のマーレフィッシュを輸入し、マーレフィッシュの養殖業を行う事で食されている。


 リシェルティアも北国で口にした事はあるが、北国はその極寒で過酷な環境下からどちらかといえば人々は肉を好む傾向が強い。なので、リシェルティアも肉と魚どちらかより多く食した事があるかと聞かれたら、迷う事なく肉と答えるだろう。



「うわやべ、実際に食い物見るとお腹空いてきた……」


「南国のマーレフィッシュ、私も食べてみたいし、塩焼き頼んじゃう?」


「二人共見ない顔だし、特別に二つで500イルにしとくぜ!」


「ありがとうございます」



 北国から貰っていた資金を使うまでもないなと、自分がこれまで貯めていた貯金を下ろして銅貨で支払いを終える。

 店主の男は店の後ろに設置された魔法付与された調理台とコンロに向かい、手際良く滑りや鱗を取り、マーレフィッシュを下ろしてゆく。店主の男が調理に集中している隙に、ジュンがリシェルティアに小さく耳打ちの体制に入った。どうやら、スフェルセ大陸の金銭の関係の質問のようだ。確かに、いくら人の賑わう声が交わると言っても、聞こえる距離では聞こえてしまう。下手をすればジュンの存在が騒ぎになってしまう可能性だってある。


 ここは怪しまれない程度に耳打ちを交わした。


 1イルで銅貨1枚。

 100イルは銅貨100枚か銀貨1枚。

 1000イルは銅貨1000枚か銀貨10枚。

 一万イルは銅貨10000枚か銀貨100枚か金貨1枚。


 これを聞いたジュンは「紙幣にすれば持ち運びが楽なのになー」と手渡された銅貨を不便そうに見つめた。紙幣という言葉から察するに紙のお金とでも言いたいのだろう。確かに硬貨は量が多いと重いので紙幣化は是非して欲しいものだ。

 ただし、金銭の関係はそんな簡単に変えることなど出来ないのだろうなと考えているうちに、店主は焼き上がった魚の身を軽く解して、少し丈夫そうな紙の皿に乗せる。



「ほいよ! 南国の魚は塩を塗さなくても海水の中に生きてるから、味がついてるようなもんだ!」


「サンキューっす! うまそー!」


「ありがとうございます」


「オレァ、普段からここら辺に店を立ててるからよ、また贔屓にしてくれよな!」



 マーレフィッシュの塩焼き。受け取ると、塩焼きの熱が紙の皿に伝わってくる。


 ここでまだ突っ立っているのも邪魔だろうと思い、そろそろお暇しようとするとリシェルティアにとって聞き覚えのある声が耳に届く。



「こんにちは」


「おう! また来たな嬢ちゃん! この間はうちのガキの玩具の修理に、このコンロも治してくれてありがとな!」


「いえ。代金を頂いてますし、仕事ですから」


「真面目だなぁ! 何か買うか? 安くしとくぜ!」


「そうですね……」



 店主の店に足を止めたのは明るみがあるターコイズブルーの髪色をしたミディアムボブ。柔らかいオールドローズの瞳。白のキャスケットを頭に被せている——〝技術士〟だった。



「技術士、さん……!?」



 人の流れに少し逆らって戻り、それに気づいたジュンも慌てて追いかける。



「……ああ。あの時の」



 技術士はまさかこんな場所で再会するとは思っても居なかったのか、オールドローズの瞳をこれでもかと開いていた。だがそれもすぐにすんと戻って、視線を先程の店長に向ける。



「何だ、技術士ちゃんの知り合いならもっとサービスすんのに!」


「……とりあえずマーレフィッシュを数匹買います」


「毎度あり!」



 店主はマーレフィッシュを数匹、氷が敷き詰められた箱にぽいぽいと入れて、その上にまた氷を敷き詰め始めた。箱の蓋をして、紐で結び、それを技術士に渡す。五匹セットで1400イルを支払い終えた技術士が箱を持とうとすると、その前にジュンが手際よく箱を持ち上げた。



「折角なんで持つっすよ」


「ふーん。身体はもやしっぽいのに随分気が利くじゃないの」


「もやし!? まあいいけど……色々聞きたい事もあるし」



 年齢からしてまた筋肉が発達途上なのだが、もやしと言われたのが相当驚いたのだろう。ただ、怒る事はなくお茶を逃すように咳払いをして、次へ次へと進む技術士をジュンとリシェルティアは必死に追いかけていく。


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