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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 三節・南国
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六十話:日照りの国

Twitterでお話ししてましたが、実はコロナ陽性反応がありました……現在自宅療養中です。

現在熱や喉は比較的に落ち着いております。

 砂が舞う灼熱の砂漠を越え——。


 首都・サレシオ。


 砂漠地帯ほどではないが相変わらず太陽は眩しく照り輝いている。その日差しといえば肌にちくちくと刺すように痛く感じる暑さだ。人の賑わいで密集し、汗が蒸発し、更に蒸してくる。

 馬車を降りて少し歩くと、小さな二階建ての宿屋に辿り着いた。もう少し豪華な宿でもいいのではと案が出されたが、北国から得た資金があるとはいえ無駄遣いはできないのだとノエアが首を横に振る。


 手続き諸々を済ませておいて、レフィシアを個室のベッドに寝かせてから四人は別室で涼み始めた。



「あー! 暑かったー!無理ィー!」


「いや……ほんとそれっす……」


「そ、そう、だ、ね……」



 ミエルは駄々をこねるように頬を膨らまして文句を吐き、ジュンとリシェルティアが即座に頷いた。リシェルティアは体力こそあるが北国で生まれ、育ってきた。暑さだけでいえばジュン以上に慣れていないので、今まで痩せ我慢で砂漠を歩いていたのだ。

 それに、スフェルセ大陸には「無闇に素足を出してはいけない」という謎の決まりがあり、衣服の調節による対策も難しい。


 そんな話題をミエルと繰り広げていると「腕は大丈夫なんすか……」と恐る恐る、大丈夫じゃないとしても既に手遅れな半袖Tシャツ姿のジュンが伺ってきた。リシェルティアがこくりと首を縦に頷くと、ジュンは大袈裟に右手をガッツポーズに変える。



「とりあえずシアに関しては後日だな。まずはお前らちゃんと休めよ」


「……あの。私、少し外を見て回りたいんだけど」


「……一人にはさせられねーな」



 リシェルティアの提案は否定こそされないが、承認もされない。ノエアの顔は未だに渋い顔つきのままだ。南国は中央国に降伏して以降主従関係に近い関係性の為、リシェルティアの存在が漏れてしまっているなら彼女が狙われるのはほぼ必須。

 人混みの中で急襲されるかも知れないし、攫われる可能性もある。人質だって選択肢の中に入るだろう。

 だが、それは今眠っているレフィシアも同じなので、最低でも一人はリシェルティアの護衛につかせないといけない。



「……ジュン。頼める?」


「いいっすよ。あ、ナエの身体お願いしててもいいっすか。人通り多いと通れないんすよね」



 どうするかとリシェルティアとノエアが黙り込んでいる沈黙の間に、ミエルの方からジュンに依頼が来る。突然の事で少し肩を引きつらせていたが、ジュンの返答は思ったより早く出た。

 ジュンも感知をする術があるならば、適任だろう。だが、ナエの棺を引っ張って密集している人混みの中の市場に突撃する事は叶わない。それでもジュン一人で一般兵程度なら軽く捻れる実力は持っていると判断されて「それならいいか」とノエアは腕組みをしながら納得の意を示した。




 *




 改めて外に出ると、三度その太陽の眩しさと暑さがリシェルティアとジュンに襲いかかってきた。外気温がこれなのに、人通りは広くないのに数だけが多くごみごみとして行き来が激しい。

 人の汗が蒸発して蒸した空気は匂いも良くはない。



「ごめんね、ジュン。付き合わせちゃって」


「問題ないっす! それに、今のこの状況で引きこもってても何も始まらないっすから、こういう時こそ外に出て新しい発見をするべきっすよ!」



 外に出たかった理由は単なる気持ちの整理の為、息抜きだったが、どうやらジュンはそれを察してくれたようだ。




「(昔の私は、ただ何もしなかった。縋っていただけ……もう、それだけは嫌……)」



 何もしなかったからこそ次第に諦めて。


 縋ったからこそ更に重荷を背負わせてしまった。



 ——だけど。



「ジュン。私、諦めたくない。レフィシアの事も、他の事も」


「……凄いっすね」


「え?」


「リシェルティアさんは、記憶を取り戻したばかりでまだ混乱してる筈なのに……軸はしっかりしてる。羨ましいっす」




 人混みの中を通り抜けながら、前を先行するジュンの表情は見えない。ただ、ほんの少し。行き交う人々の喋り声で掻き消されそうなくらいの、震えが含んでいた気がした。


 深く踏み入ってはならないものだと、リシェルティアは返事を返す事はない。そのまま二人が練り歩いていると、次第により一層人の声達が大きく交わってきているのが耳に届く。



「すんません。あそこ、やたら賑わってるんすけど、何があるんすか?」


「ああ、あそこは市場じゃよ」


「へえ! 楽しそうっすね!」


「面白いのは市場だけではないぞ?」



 いきなりジュンが知らない老人に声をかけるものだから、リシェルティアはびくりと肩を一瞬張った。中には話しかけられたくない人もいるだろう。それを死霊術士なりに見極めているのか、単純に人懐っこいだけなのか。ジュンのコミュニケーション能力はミエルと張り合えそうだ。

 嫌そうな顔を一切見せず、寧ろまるでジュンを尻尾を振る好奇心旺盛の子犬のように見立てた老人はとても好意的に返事を返してくれた。


  老人が言うに、市場の通りを超えた先左を曲がった住宅街に新しく越してきた女性がいるらしい。何でもその女性は赤ん坊や子供の玩具道具の修理から、魔法付与された生活用品まで最短数分で直してしまう修理屋を営んでいる。あまりに老人が自慢げに話すものだから更に話を伺ってみると、孫が亡くなった父親からの誕生日プレゼントの玩具が水没してしまって壊れてしまったのを、その女性が直してくれたのだと思いに馳せていた。



「かなり珍しいものもお持ちのようで、この辺りじゃそこそこ有名じゃよ。見ておいて損は無い」


「じゃ、市場見るついでに行ってみるか! さんきゅー、じーさん!」



 老人と別れを告げてから、ジュンとリシェルティアは賑わいを見せる市場に足を踏み入れた。



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