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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 三節・南国
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五十八話:一面に続く砂の景色

ついに三節・南国編 が開始です!


後これは大変申し訳ないのですが、今回よりこちらの作品の更新頻度を


「早ければ一週間に一回、遅くて二週間に一回」


に下げさせて頂きます。



理由としましては二節以降よりその多忙さから急いで執筆していた感が否めなく、特に三節から一気に情報量が増えていく関係でとてもではありませんが週二更新が難しいと判断いたしました。


完結まで遠のく形になってしまい申し訳ございませんが、納得する話に持っていく為、そして、自分の作品の良さを活かす為でございます。


そして、先日批評を頂きまして、また最初から加筆修正する予定となります。急いで執筆してしまった分も含めて、丁寧に修正出来たらと思っております。



長くなりましたが、今後ともよろしくお願いいたします。

 

 遠い。 遠い。


 遙かに昔。


 其れは、命が生まれた頃。


 其れは、空を生み。


 海と大地を与えた。


 木々が彩って、死と時も生まれゆく。


 新たな生命に知能が与えられ。


 従者に空の管理者を。


 陸に繁栄の管理者が生まれる。



 ——始まりの時代。




 十二人は集う。



「——」



 そのうちの一人が遠くで呆けている男の名を呼ぶ。男はその右手に緩く持つのは一本の剣である。男の力と心を写し取った、あらゆる全てが純白である片手剣。


 男に後悔はない。


 今の〝世界〟が好ましい。


 そして彼らと過ごす時間が愛おしく堪らないのだ。



 肩に届く暖かみを帯びた橙の髪が風に靡く。



 ——今行く。



 男は自らを待つ十一人の元へ駆け寄った。




 全てを知り、全てを知らない心を写した純白の剣。



 次第に色は濁り始めて、淀んでゆく。



 剣も、心も、その毒に——。






 *




 南国。


 夏の季節の国という言葉もあって国境を超えた瞬間、その温度差に一行は酷く打ちのめされた。

 青空の中、大地を照らす太陽の光は東国のそれとは違う。ちくちくと刺す様に痛む暑さ。場所によってはそれに加えて蒸すような暑さに次第と不快度が増してゆく。


 ライゼンレイグ。


 首都サレシオの手前の街までやってきて、一泊。

 その後ライゼンレイグと首都サレシオを繋ぐ道のりでは、長く険しく、広大に広がる砂の世界が続いてゆく。


 風と共に砂が舞い上がり、視界を遮っていく中——。


 砂の大地から這い上がるように背を伸ばして現れたのが〝フー・シュネッケ〟。

 全長二メートルくらいの、カタツムリのような魔物だ。北国で対峙したグラセ・シュネッケの派生でもあるその魔物は、グラセ・シュネッケよりかは小柄ではあるが、殻は火そのものである。何故火そのものを殻としているのか。原理こそ謎であるが魔法の一種だと考えられている。おおよそ身体を高温に保ち続ける事で南国の高気温に耐え抜いているのだろう。



 元々の外気温がじりじりと身体に熱を籠らせる中で更にフー・シュネッケと言う名の火だるまが近づいてくるのだから、意識しなくとも汗が滲み出始めた。



「ノエアさん! こいつの弱点は!?」


「オレが火の殻を弱らせる! 止めは頼む!」



 馬車、というよりも馬車の中の人物達の安全が最優先とされる中、馬車から離れるのは不安が募る。ノエアは元から後衛に向いているので馬車の近く、ジュンはそこより前に出て鞘からすらりと刀を抜いた。


 ノエアが放つ、水の中級魔法の一つの〝ヴァッサーディネ〟。

 渦巻く水の渦潮が、フー・シュネッケを取り込み動きを止めさせた。火の殻は水と衝突し、次第に弱まりながら蒸気を発する。蒸気という名の霧で視界を奪われたフー・シュネッケは火の殻が弱まった事による衰弱に襲われながらも標的をキョロキョロと探していた。



 しかし、当に遅い。




「〝尽きぬ事知らぬ青雷(アスル・トゥルエノ)〟!」




 青雷の斬撃はフー・シュネッケの大触角と小触角、足を切り捨て、それらはぼとりぼとりと雪崩のように砂漠の地面に落ちる。フー・シュネッケの耳障りな甲高い鳴き声は虚しく、触角達と足を無くしてバランスを崩し、その巨体は力なく横倒れた。



「止めはささないのか?」


「魔物でも、無闇に殺したくは無いんすよ。こっちの魔物は分かんないっすけど、カタツムリは眼や触角を切っても時期に再生するらしいし」


「まあ、それならいいか。じゃあ、戻るとするか」



 カタツムリの殻の中には心臓を含んだ内臓達が存在する。もし同じなら殻を貫けば死亡してしまう。生死に敏感なジュンは魔物の命を奪うのを躊躇って、これ以上の追撃はしない。刀を鞘へと戻してひくひくと身体を引きつらせているフー・シュネッケにごめんなと小さく頭を下げていた。

 くるりと身体を方向転換させて、ノエアとジュンは数十歩先の馬車を目的地とする。



「おっつかれー! 戦いっぱなしだけど、大丈夫?」


「へーきへーき! つーか、寧ろ、暑さがだいじょばないっす……ノエアさん、よく暑くないっすねそんな服装で」


「まあな」



 馬車に乗っていたミエルが外のジュンとノエアに声をかける。そのタイミングを見計らって、リシェルティアは覗くようにその光景を伺う。

 馬車の中は氷の魔法付与で冷房されているが、外からほんのりと外気温が入り込んできて生温くなってゆく。ジュンは自らが羽織る黒のコートと上着としていたジャージを脱ぎ始めると、白のTシャツ姿になった。黒コートに留めておいた死霊術士協会の腕章だけを外して、Tシャツの左腕側に留め直す。どうやら、これだけは譲れないようでジュンは胸を撫で下ろした。



「幾ら暑くてもこれだけはつけとかないとプライドがダメっすね」


「ノエア。ジュンの服に魔法付与って出来ないの?」


「出来なくはねーけど、クソ面倒だし時間かかるからパス。体調管理ちゃんとすれば死なねーし」



 以前北国にいた頃、ノエアの焦茶のフード付きコートとズボンには火と氷の二属性の魔法付与が組み込まれていて、ノエアの魔力に反応し片方に切り替わるように仕込まれていると聞いた。北国の時は火の魔法付与で暖かくしていたなら、今はその真逆なのではないだろうか?

 現にノエアとジュンの顔色を見比べると、顔の火照り具合も、汗の度合いも違う。

 流石にどうかと思うのでノエアに提案をしたがあっさりと首を横に断られてしまった。確かに体調管理をしっかり行えば暑さでの死亡などはないかと思うが、流石に交代したくもなる。



「え? どういう事っすか?」


「ノエアの服、冷暖房備え付けのズルしてるんだよ!」


「は!? まじズルじゃないっすか!」


「ズルじゃねーよ! つーか早く歩けよ!」


「えええ……ちょっとこの暑さじゃもう……や、休みたい……」



 刺すような暑さ。蒸すような不快感にいよいよ限界値を迎えたジュンが不満を漏らす。

 ライゼンレイグを出てから一時間半ほど歩きっぱなしの戦いっぱなし、しかもこの暑さだ。



「ノエア。魔物と戦う時以外なら休ませてあげていいんじゃないかな……代わりに私が歩くから」


「……仕方ねえ。戦う時になったら叩き起こすからな」


「サンキューっす……うっ、リシェルティアさん、助かったぁ……」



 リシェルティアの提案に鈍くも頷いたノエア。リシェルティアの膝下には未だ目覚めぬレフィシアが横になっていて、ミエルがレフィシアの上半身を抱えている間にリシェルティアは席を立つ。

 そのまま馬車から降りて砂漠の大地に足を踏むと、入れ替わりでジュンが馬車の中に入ると余程快適だったのか暑さを我慢していた顔つきはかなり緩まっていた。レフィシアについては、やはり馬車の振動で転がるといけないので、今度はミエルに膝枕させる形で寝かせている。

 扉を閉めて、周囲を警戒しつつ馬車は更に南へと歩む。


 砂が積もった地面を初めて踏んだ。小さく音がするのは、砂に混じった小石か何かだろう。それに、普通の地面とは違い砂だけの地面は、どうやら踏ん張りが効かないようだ。

 しかし、北国の生まれであるリシェルティアにとって足場の悪さはそこまで気にはならないし、特に強い風で砂が舞っている訳でもないので支障は生まれない。



「サレシオまで後どれくらい?」


「魔力感知してっけど、距離からして後もう少しの筈だ。大丈……だよな」



 体力の心配をしてくれているのだろうが、北国の登山の件で既にリシェルティアの体力を知っていたノエアは途中で言葉を止めた。


 確かにちくちくと刺すように暑く、北国育ちのリシェルティアにとっては更に追い討ちをかけるようなものだ。それでも、砂漠に降りて問題になるのは気候だけなので、ここは我慢すべきとリシェルティアは頬に汗をかきはじめながらもその広大なる砂漠をノエアや馬車と共に歩み続ける。



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