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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
MEMORIA STORY File 2: Jun・Sazanami
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Filing2:トリップパニック


っはー! 打ち終わったー!


次回!!!


三節・南国!!!!!

いよいよ明かされまくりになります!!!

よろしくお願いします!!!!!!


 突然と意識を覚醒させる。


 倒れているな、と感じて大袈裟に上半身を起き上がらせた。

 死霊の腕が伸びてきたのは覚えている。


 だとすればだ。


 この広大に伸びてゆく自然豊かな草原は夢か、あの世というものなのか?

 緩い追い風が吹いて草木の揺れる音が聞こえてくる。両手を地面についてはいたが、草と土の感触と匂いがした。

 なおもまだ、現実ではないとオレが思っているのは、ファガ国にここまで続く草原など無いからである。他の国の事までは知らない。


 黙々考えていた中で、そこそこのラノベ愛好者である自分のあり得ない発想が浮かんだ。



 そう——異世界転生とか!


 異世界転移とか!


 死に際とかに無くね? え? 無い?



「いや、まっさかなー! ははははは!」


『あんた今、自分が異世界に居るとか思ってんでしょ』


「……は……は!? じゃあ何だァ、ここ! え!? 何!?」


『そうー! ここ、いせかい、じゃないよぉ!』


『うん。信じがたいけど……異世界っていうなら、そもそもぼく達の存在が無い筈。異世界じゃ無い違う所……?』


「違う所って何だよ! はあ!? じゃあ今日は野宿!? 野宿はっ、野宿はヤダァァァァ!!」



 聞き覚えのある声がオレの高笑いを止める。

 死霊体状態が解除され、魂の状態でふよふよと浮いているナエだ。

 それから、同じくオレと契約状態にあるリコ・モモセとユウマ・コトブキ。

 ナエ、ユウマ、リコ。この三人は肉体から魂が剥がされ人としての死は迎えたが、奇跡的にもその魂を完全失わなかった。王宮からは「奇跡だ」とまで言われ、逆を返せばオレなんかが奇跡とまで言われた魂と契約してるのを妬む者もいる。


 そんな三人の声と魂状態の姿を見て、異世界転移なんてラノベチックなものじゃないと現実を思い知らされた。





 オレと契約している死霊。


 ナエと同じく、生前かつて家族として過ごしてきたユウマとリコ。


 魂状態の姿は生前と変わらない。


 ユウマは十三、リコは八歳。



 若者の尊い人生を奪った証拠を、オレは間近で背負って生きている——。






「貴様、どうやって入り込んだ!」


「え?」



 呆けていると、大人の男が……三十人程オレを囲んでる。

 え? 何か西洋でよくある片手剣とか槍とか向けようとしてきてるんだけど?

 てか、黒い……これも西洋でよくありそうな軍服着てるんだけど何なの!?

 貴様、とオレだけを示しているあたり、オレのすぐ隣にいる三人の死霊は見えてないってのは分かったけどさ。



「ちょっとちょっと。こちとら抵抗する気はな」


「なら捕縛だ。後に尋問させて貰う」


「嘘っす抵抗します尋問は嫌っす!」



 オレはぶんぶんと首を横に振る。それはもう空を切れるくらいに、思いっきり。

 知らない土地に飛ばされた挙句捕縛尋問なんて流石に耐えられない。無慈悲が過ぎるだろう。

 もし一般兵ならリコの死魂武器能力で何とかなるのかも知れないが、相手の実力が分からない以上油断は出来ない。数で押されて背後を取られたら終わりだ。


 ——仕方ないか。


 偶然にもナエの棺はすぐそこにあった。中身もちゃんとあるらしい。つか、さっきまでナエも戦っていたのに棺に戻されてんの何でだ?

 野太い鎖に繋がれているナエの棺桶を手元に寄せる為、右手で鎖を思いっきり引っ張る。

 反動で棺桶を受け止めて、腰の焦げ茶のベルトに仕組んだナイフで軽く右手の親指の腹を切って鮮やかな赤の血を流す。

 親指の腹から滲み出る血を棺桶からそれを繋ぐ鎖、自らの左掌まで絵具のように伸ばした。



「其れは、繋ぐ者。天に昇らん魂達と、朽ちる肉体に、我が力を注ぐ——頼む! 〝ナエ〟!」



 バコン、と内側から破裂するように棺桶が開かれる。紛れもない本物のナエの死霊体である。

 菫色のロングヘアーが夜風に靡き、ゆっくりと開かれる白菫の瞳がつり目気味に大きく現れた。

 ナエは腰に携えた一本の筒を右に持ち、濃い青色をした魔力が筒を縦に抜けて大鎌の刃を象る。

 身の丈以上の大鎌を持った少女など相当見ないのか、兵士達は口が塞がっていない。




「知らない土地みたいだけど、使えるみたいね?」


「使えるだけありがてーけど殺さない程度にしろよ!?」


「ああもう! 分かってるわよッ! てか、あんたも戦いなさいよ!」





 *




 どうにか全員撃退して、援軍の来ないうちにその場から急いで離れた。方角なんて知らないオレはとりあえず霊力感知で生者の魂を避けまくって適当に移動。そのせいで余計に分かんなくなってきた。

 落ち着いてきて、足を止めて呼吸を整える。



「だらしないわねえ」


「ちくしょ……」



 連戦の連戦に霊力量以前に自分の体力の疲労が大きく、敵の気配を感じなくなったと思いナエの死霊体状態を解除。ナエの死霊体をせっせと棺に入れて、オレはそこら辺の木の幹を背もたれにする。

 どっと疲れが襲いかかってきて、ふかふかベッドじゃないのにこのまま寝れそうだ。最悪見張りは死霊三人に任せておけばいいと思って仮眠でも取るかと眼を瞑ろうとする。



『あの……』



 聞き覚えのない声に妨げられて、小さな欠伸と一緒に意識を覚醒させた。

 茶の髪を上にポニーテールで結んで、年齢は二十前半くらいだろうと推測できる。服装も先程の兵士たちが着ていた絢爛な軍服ではなく、街娘とでも呼んでもいい位の素朴なもの。

 それでも西洋ファンタジーあるある衣装なんだよなというのは、疲れのせいもあってツッコミを諦めた。

 重苦しい身体をどっこいしょと合図をかけて前のめらせ、もう一度小さな欠伸をかく。



「はいっす。どうしたっすか?」


『もしかして……死んだ人が見える、とか……?』


「ええ。まあ……あ、オレ、ジュン・サザナミっす」


『ナエ・サザナミよ』


『ぼくはユウマ・コトブキ』


『ハァーイッ! リコ・モモセ!』



 自然と名乗ってしまったオレは改めて自分が如何に軽率だったかを改めて後悔してしまった。此処が何処か分からない以上、下手に名乗るのは危険だ。いくらこの女性が死んでいるとはいえ、仮にこの場所の何処かに別の死霊術士がいたとして……敵であれば尚更。

 しかしこの女性は警戒もせず、自ら名乗る事になる。



『はじめまして。アデーレ・ベアトリクスよ』




 アデーレ・ベアトリクス。

 そう名乗る女性は濁る事もない元気溢れる笑みを浮かべている。

 偽りは無い。だからこそ、ナエも、ユウマやリコも敵視をしていないし、オレも安心出来る。

 死霊術士(ネクロマンサー)と死霊は人間の感情に敏感である。

 そもそも魂の性質を感じ取るというのは、自らの霊力を使って相手の霊力に干渉する事で判明する。同じ汚れでもそれが悪であるか、正から汚されたものなのか。それは時に例えるなら嘘発見機のように中には嘘を見破れる術士も存在はする。数は少ないが、少なくともオレはなんとなくそれが分かってしまう。なんとなく、確信こそはないが、このアデーレという女性に嘘偽りは感じられない。

 それは契約する死霊へと伝わっていったのだろう。原理は主が感じたものを従者も感じる……みたいなもんだろう。



 オレは周囲に他の誰かがいない事をよく確認してから、アデーレさんに包み隠さずに話した。


 モルプローヴ大陸、ファガ国。


 死霊術士(ネクロマンサー)とは。死霊術とは。


 疑う事も無く、ただ目を丸くして口が広がったままのアデーレさんだったがその代わりだとアデーレさんも教えてくれた。



 此処はスフェルセ大陸、中央国と東国の国境付近。

 現在の中央国の内情、各国の関係性。


 ……この国やべーな。


 オレは改めてこの大陸の闇深さを思い知らされて眉が下がる。

 モルプローヴ大陸は基本的に人間と人間の殺し合いは存在しない。裏切り者に関しては別なんだろうけど。

 正直な所、殺し合いが当たり前のように行われ、魔物が人を喰らうものなど耳を疑ってしまう。



「アデーレさん、住まいはここら辺なんすか?」


『違う、ここから遠い……首都、リゼルトから。人を、探したくて』



 通常の死霊には行動範囲が限られてくる。死霊術士(ネクロマンサー)と契約した死霊は、死霊術士(ネクロマンサー)の魔力量に比例。そうでない死霊は未練の度合いによる。

 彼女、アデーレさんの言う首都リゼルトが実際どれくらいの距離があるかまでは分からないが、通常と比べると範囲はかなり広い。



『私、二人を逃したの。その時に私は殺されて、祖父も殺された。祖父は多分天に昇ったんだと思う。でも、私は……』


「……」



 その先は深入りしない方がいいのだろう。


 否、しなくてもおおよそ分かる。分かってしまった。


 死しても尚、逃した二人の安否を確認し、生きているなら力になりたい。おおよそそんな所だろう。



「力になる方法ならあるっすよ」



 一刻も早く帰りたい気持ちは確かにあったけど。


 それ以上に、オレは放っておけなかったのだ。



「オレと契約しましょう、アデーレさん。オレが帰るまでの間だけっすけど、その二人とやらも探すっすよ」




 迷う人々に手を伸ばす。


 サヨ様が、かつてオレを救ってくれたように。



 オレの手の届く範囲で。




 それは、オレ自身の本当の魂からか。


 過去の償いから生まれた行動なのか。




 自分自身、よく知らなかった。



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