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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
MEMORIA STORY File 2: Jun・Sazanami
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Filing1:生者と死者の関係

番外編『MEMORIA STORY File 2: Jun・Sazanami』となります!


全二話構成になります〜!

「聞こえますか?」



 夜より暗い、深く広がった闇の中の一室。オレは両腕を後ろに回され野太いにも程がある鎖で身体を拘束されている。


 何故そうなったのかは分かり切っていた。


 この力を忌み嫌い、断罪する為のものだろう。



「返事を」


「……はい」



 返事を促され、致し方なくとオレは力の無い声を発した。

 オレに返事を促した側の声の主は鈴が鳴るような可愛らしさと共にとても柔らかく優しい声色をしている。



「死刑は無くなりました。貴方の自由も約束されます」



 声の主の言葉は、普通の人であれば大喜びでさぞ舞い上がるように嬉しがるのだろう。


 でも、今のオレは違っている。


 何で、と。現状自由を許された首を横に振った。




「……いいえ。いいえ。殺してください。オレは、赦されない罪を犯しました。魂を燃やし、楽にさせてください」



 巷の噂では、王族には魂の存在を消去する力を持つ……とかなんとか広がっていた。

 それを言いやすくした結果として、燃やすという言い方が市民間で広まったのだと思う。


 まあ、もう、そんな理由などどうでもいいか。


 この罪の意識に苛まれて自分が自分で無くなってしまうくらいなら、いっその事この世から消えてしまいたいと強く願う。


 まだ幸せな思い出が残っているうちに、消えたい。




「楽になるのは簡単です。でも、貴方がそうなるならば、私も同じです。私にも貴方とは違う〝罪〟があります。なのに死刑にはなりません。何故だかお分かりですか?」



 声の主、その足音と声が次第に大きくなってゆく。


 近づいてきている。


 でもオレは頭を垂れて、見向きもしない。興味すら失せていた。



「身分。血統です。私は王族。貴方は一般市民。人々は命の価値の判断を責められた時、余程の事がない限りはそれで判断します。王族と市民、何方が大切なのか、と」




 そうか。声の主は王族なのか。


 まあ、当たり前か。


 正論だな。





「——でも私はそうは思わない。身分差別はクソだもん」




 唐突に声の主は敬語を外した。


 この人でもクソという言葉を口に出来たのか。




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからこそ、私には分かる。誰よりも友達を、仲間を、誰かと関わっていきたい。一人は寂しい。貴方は……罪を認めた上で楽になりたい……同時に、本当は人並みに幸せに生きたいと願っている」


「……矛盾だらけだろ?」


「人は矛盾に満ちた生き物だから、否定はしないよ。ほら、顔を上げて。私は、貴方の全てを否定はしない」




 ふわり、と頭に置かれたのは恐らく手だろう。

 恐る恐ると、ゆっくり、それはまるで時計の針のように頭を上へと上げた。

 銀の髪に、毛先が青がかかっている。

 モルプローヴ大陸、ファガ国の王族に伝わる髪の色。染め物でも老化によるものでもない、艶やかで、宝石の様に美しい銀の髪。

 そんな髪を赤いシュシュで後ろ二つ縛りをして、夜空のように深い群青の瞳はオレに罪を抱いていても、罰を求めていない。



  『捕らえろ! 十の子供と言えど奴は〝 十冥死廻(とおみょうしかい)〟だ!』


死霊術士(ネクロマンサー)協会、二級以下の死霊術士(ネクロマンサー)は下がれ! 奴の力は……!』



 記憶に残る、化け物と指差された眼差し。


 それとは程遠い、目の前の少女。


 ああ。 そうだ。


 力を抑えきれなくなった時。


 あの事件の時。




 自分を倒したのは、紛れもないこの少女だ。




死霊術士(ネクロマンサー)になりなさい。死霊を昇華し続けなさい。それが死刑を無効にする為に、私がお父様に叩きつけた条件……とは言え、無理にとは言えない。考える時間も必要で……」


「…………オ、レ……は……ッ、生きたい、生き、た……い……もう、二度と……誰かを、殺し、たくない……あの力を制御する、術が、欲しい……! 罪を償うとは、言わない、言えない、けど……だとしても、オレは……オレ、は……ッ!」




 家族を殺されたなどと勘違いをして。


 知らぬまま孤児院で幸せに生きて。


 せめて新しい居場所を守りたいと願った結果として。


 オレは全てを奪っていた。



 周りの大人子供。老若男女。


 人ではないものを軽蔑する眼と声を刺された中で、この少女だけは。


 そう、この少女だけは。



 〝ジュン・サザナミ〟の全てを否定しない。





「ジュン・サザナミ。貴方はまだ全てを奪ってないし、失ってもいない。だから、貴方はまだ大丈夫。そしてきっと……貴方はこの世界に携わっていく死霊術士(ネクロマンサー)になれる」


「君、は、一体……」



 オレという本物の殺人鬼の存在を否定せず、かと言って罪を赦している訳でもない。


 少女の人柄は全てを包容し、淡く照らす月のようで——。





「サヨ・タチバナ。この国の皇女で……特別階級の死霊術士だよ」




 黒の羽織。左肩の腕章は金色。


 金色なる色は死霊術士(ネクロマンサー)協会の特別階級の証。




 モルプローヴ大陸、ファガ国。



 皇女、サヨ・タチバナ——。






 *




 六年後。


 放課後を示すチャイム音が校内に響いてオレは席を立つ。ダイヤル式のロッカーの暗証番号をいつも通りに巻き上げて、開閉。

 黒の棺を抱えて地面に下ろしてから、繋がれた鎖を手に持って引っ張る。一階の玄関で上履きから革靴へと履き替えた後に、



「おーっす! ジュン! お前ようやく二級になったんだって?」


「そうなんだよ。飯でも奢ってくれんの?」


「んな訳ねーだろ」


「オレより先に二級になってんだから金の蓄えあるだろー!?」




 先に死霊術士(ネクロマンサー)協会の二級にまで上がったクラスメイト。進級祝いに奢ってくれない先走る友人の背を遠くから眺める。


 そして、彼の死霊にも聞こえないようにオレは憐みを目一杯込めて小さく、小さく、呟いた。



「……知らぬが仏だな」


『ジュン』



 死霊体に憑依してない状態のナエが後ろから姿を現す。ここは廊下で人はある程度入り混じる。

 だが術士又は術士の才能がある人物以外に死霊の姿と声は見えないし、聞こえない。



「……オレは……死者であるナエに、罪を被せて生きている。ナエも、自分がそうであると刷り込んで、そうなっている」



 死者に罪を被せ、生者を守る。


 サヨ様が出した苦肉の策は、誠に正論だった。




「思い出さないようにしてる。そうしないと、また壊れちまう。オレの罪は——」



 ザアザア、ブツブツ。


 脳裏には砂が擦れる音、テレビの映像の途切れ途切れの音。

 断片的にあの日のことが流れてゆく。

 息が詰まり、呼吸さえ忘れそうな頃——サヨ様の顔が浮かび上がった。



「……そう、だな。ここでオレがまた逆戻りしちまったら、サヨ様に合わせる顔がねーもん」


『そうね。あたし達が今やる事——死霊を昇華し続ける。そして——』


「助ける……必ず——サヨ様を」



 タイミングを見計らっているとしか思えない程綺麗に、言い終わったとほぼ同時に。


 外から爆発音と僅かに悲鳴が耳に届いてくる。


 校内も慌ただしく、悲鳴と困惑の声で耳の鼓膜が破けそうだ。



 霊力感知。



 ——十五の死霊を感知。




 うち四体は校内に入り込んでいる。




「ジュン! そっち頼む!」


「了解!」



 先程の友人も慌ただしく戻ってきてオレに指示を与えると、スマホで同じ学校の死霊術士(ネクロマンサー)へと連絡を取り始めた。


 オレの学校で死霊術士(ネクロマンサー)は九名。


 同じチームあれば完璧な連携も取れただろうに、残念ながらそうもいかない。


 しかも、オレはチームを組んだ事がない。


 偶然にも人材不足の都合上今までがそうだっただけだ。


 でも、何故か安堵の息をついているのは——。




 オレの罪を、誰にも知られたくはなかったから。


 またあの罪なる力を使ってしまう時が来てしまったら、オレや、周りの人々は——。




『ジュン! ボサッとしない!』



 ナエの言葉で思い詰めていた思考が閉じられて、気づいたらすぐ目の前には——。








 負の感情に苛まれ、その魂を完全に悪と化した死霊の腕が伸びてきた。



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