五十四話:あれから十日後の中央、あれから三日後の東国
今年初めての更新!
昨年はありがとうございました。今年もどうぞ宜しくお願いします〜!!
そんなセカてテもいよいよ二節がラストスパート!
二節終了後の番外編は、
「MEMORIA STORY File 2: Jun・Sazanami」
ジュンくんがモルプローヴ大陸からスフェルセ大陸に来てから、東国に行くまでのお話です!
まだ二節終了まで話数ありますが、お楽しみくださいませ!
ちなみにリシェントはレフィシアを「シア」呼びでしたが、リシェルティアは「レフィシア」呼びです。まだ記憶が混乱して呼び方定まってないと思われます。
中央 首都リゼルト。
十日後。
中央では夏を過ぎた頃、まだ日差しもゆるやかに暑さが滲む。両手に持つ数十の書類の紙の束を抱えて一人の兵士がある部屋でぴたりと止まる。
国王陛下、アリュヴェージュの執務室だ。
ノックをしようと右に軽く拳を作ろうとすると、人の気配を感じてぴたりと止める。
「待ちなさい。あいつ、今は機嫌が悪いわ。私が渡すから貸しなさい」
「アルフィルネ様」
中央軍の女性軍服に身を包み、ウェーブがかかった水のようなロングヘアー。兵士はアルフィルネのその美貌と容姿に惚けていたが、アルフィルネの金色の瞳がぎらりと敵と認識する鷹のような鋭い目付きである様にびくりと肩を引きつらせた。
貴族でないとはいえ中央四将という立場、何より「アルフィルネは男嫌い。陛下や他の中央四将以外が無闇に接したら命の保証はない」の噂を思い出した兵士は顔を真っ青にして大袈裟に書類を渡す。
「失礼します」の一言で兵士は逃げるように足取り速く去ってゆく。アルフィルネはそんな兵士を気にかける興味すらなく、そのまま右手の拳でノックを二回叩いた。
「アリュヴェージュ。入るわよ」
特に返ってくる返事はないが、拒否されている訳ではないだろう。そう勝手に判断してアルフィルネが扉を開けて中に入る。
静かに開けた扉を閉めてから振り返ると、そこには機嫌を損ねているアリュヴェージュが膨れっ面で頬杖をついていた。
「……何だ。アルフィルネか」
「何だとは何よ。あんたこそ、いつまでそんな膨れっ面してるの」
隠し切れてない苛立ちは声として低く現れている。本人は無自覚のようだが、アリュヴェージュが隠し切れてないもの、その一番の原因は昨日上がってきた遠征報告によるものだろう。
ただでさえ机の上に積み上げられた業務量に加え、あのような方向をされてしまっては今まで抑え込んできた感情が現れてもおかしくはない。寧ろアリュヴェージュの境遇を考えたらここまで表に出してないのが不思議なくらいだと思うと、今の態度に怒る必要はない。
アルフィルネは兵士から預かった書類を乱雑にアリュヴェージュの机の上に置くと、同時にアリュヴェージュは大きくため息をついた。
「そうだ。アルフィルネ、と、ヘルミーネ。明日から二十日間、予定入ってる?」
「入ってない……ヘルミーネも、無いんじゃないかしら」
「じゃあ二人で僕の護衛として、南国に観光に行こう!」
「は?」
思わず素の声を上げてしまったアルフィルネはその後口元を緩く開けたまま呆気に取られる。恩人であるからと少しは心配してやっていたというのに、いきなり観光などと口にするので流石に呆れたため息をついてしまう。
しかし、そんなアリュヴェージュもまるでから元気なのが丸わかりだ。少なくとも、アルフィルネから見てもそうとしか見えない。
「二十日も空けて仕事はどうするのよ」
「キアーに全投げするよ。罰としてね」
遠征から戻ってきた者のうち、処罰を受ける者と受けない者が選ばれた。
トルテについては処罰無し。
紅、七星団二名は三十日間の謹慎処分。
唯一キアーの処罰が決まっていなかったのは、キアーまで謹慎処分にしてしまったら城の業務が追いつかなくなる可能性があったからだ。
アリュヴェージュの休暇の代わりに業務を担当させる、それをキアーの処罰とするらしい。
しかしアリュヴェージュだけでなく護衛に中央四将である自分と七星団のヘルミーネが離れるならばどちらにしろ城の業務が追いつかなくなるのでは、とアルフィルネは首を傾げた。
「それってどっちにしろ意味がないんじゃないの?」
「キアーだから大丈夫大丈夫」
「哀れね……」
単純にいつもキアーは仕事が速いからなのか、それとも根拠のない幼馴染みの絆というものなのか。
どちらにしろまだキアーには伝えていないらしいのだが、これを知ったキアーがどのような反応をするだろうか?
きっとゲッソリと顔を青く染めるだろうなと想像するだけで同情してきた。
*
東国 首都リーロン
三日後。
窓越しにゆるりと舞う紅葉と枯れ葉。ほんのりと日が差す太陽を眩しく感じながら、リシェルティアはベッドから起き上がる。
身支度を整えて、部屋を出た。
混乱していた記憶は整いつつあるが、それでも完全に整頓しきれてはいない。
三人家族というのも記憶操作によるもので実はそうではなかった。
確かに覚えていた両親の顔は居なかった。
「……起きたか。リシェルティア」
「……なん、で」
「実はお前の事は知っていた。でも、言わなかった」
木材の廊下をゆったりと歩く中で、壁を背もたれにしたノエアにばったり出会う。
「……レフィシアは?」
「……まだ、起きない」
「怪我が原因……じゃ、ないよね?」
「ああ。ちゃんと話す。ついてこい」
あれから三日が経過したが、レフィシアはまだ目覚めない。
ずっと眠りについたまま動かない。
脈や心臓音は確認出来ているが一向に変化はないと、歩きながらノエアは淡々と説明を施す。
とある一室の部屋を開けると、ミエルとジュンが椅子に座ってテーブルを囲っていた。待ちくたびれたかのようにミエルとジュンは丸まっていた背をぐっと伸ばすと、ミエルの横にノエアが、ジュンの隣にリシェルティアが座る。
「じゃあ、情報のすり合わせから始める」
「じゃあまずオレからノエアさんに質問。〝神魔〟って何スか?」
「おま……いきなりだな。ちゃんと話すから待ってろよ」
突然躊躇いもなく超ビッグワードを投げつけてきたジュンに対して、些か愕然と口を詰まらせたノエア。それでも順を追って説明すべきだと思って、制止の言葉を促した。
「聖天魔法士の記憶の中にあってな。ただ、詳しい事はよく分からない。俺が知っているのは〝神魔〟とは魔力、霊力の上位互換に値する力である事。魔力、霊力は〝神魔〟を恐らく生物が適応するように薄めた下位互換だ」
「……じゃあ、〝神魔〟にしか使えない術があるっていう事スね」
「ああ。それが恐らく……」
ここで言葉を止めて、ノエアはリシェルティアに目を置いた。リシェルティアが一度死を迎えた時、彼が存在を回帰させた事は話には聞いていたがこれも〝神魔〟の力なのだろうか? そもそも、生物が適応するように薄めたのが魔力ならば、何故レフィシアはそれを可能としたのだろうか?
どうも納得が行かず、リシェルティアの顔つきは曇ったまま、未だ晴れない。
「でも聞いてる限り〝神魔〟って誰にでも使える訳じゃないでしょ……?」
「ああ。でも実力のある魔法士なら魔力と〝神魔〟は見極められる。オレは出会った頃からお前とレフィシアを魔力じゃないって思っていたからな」