五十三話:花の鎖
更新大変遅れましてすみません。
Twitter見てくれている方は分かると思うんですが、年末仕事多すぎな上に人は少ないし昨日一昨日は体調やばすきたし年末年始も有給蹴られて休みも少ないみたいな……感じでした……。
今年の更新はこれが最後になりますが、年末年始のお休みの中で順次訂正出来たらと思います。
本年は大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします。
——秋の空は昼を迎え始める。
「あたしに策がある。その間何とか食い止めて!」
「分かった」
「はあ……っ、た、く……女の子達が戦う、なら……オレも引き下がる訳には、いかない、じゃ、ない……す、か……」
リシェント——リシェルティアとミエルはまだ諦めていない。
ならばとジュンは震える腕の筋肉を張り、杖代わりにしていた剣で膝を伸ばし体重をかけて這い上がる。動く度に切り傷から血が溢れて流れていき、その度に痛みを堪えるように自らの唇を強く噛む。
「あんたは無理しないでよ。霊力の維持ができなくなった時点であたしも維持できなくなるわよ」
「……分かってる……でも、それでも……」
「……何かあったら、必ず守る。それが死霊と死霊術士としての関係性の一つなんだから」
まだ無傷に近いナエがジュンの前に立ち、その大鎌で空を切り構える。
「……ッ、忘れてもらっちゃ、困るな……」
「あら。居たの。うさみみ」
「……その子の力が、あいつを倒せる可能性があるのは確かだ……」
反対方向に吹き飛ばされていたらしいキアーもうつ伏せの状態から這い上がる。土と血で染みた顔を袖で拭って、その視線をリシェルティアとした。
「さて。かかってこい」
彼は、純白なる剣の先を突くように向ける。
試すように。遊ぶように。
左腕を横に振るい、その遠心力でノエアを吹き飛ばす。呼吸困難に陥っていたノエアはまだ横に転び咳き込みを抑えきれていない。
キアーはラビリッツとしての跳躍力を駆使し、彼を飛び越えてノエアを担ぐと今度はまたこちらまでやってくる。
着地した瞬間、ぴしりと軋むように傷の痛みが襲ってきて眉を潜ませた。全体重を足にかけて踏ん張り、キアーは身体を支えながら立ち上がる。
「とはいってもさ、どうするのさあのトンデモ化け物」
「まだ不完全状態ならやりようはあるよ」
「不完全?」
「あたしとノエアがあいつを拘束する。ジュン、ナエ、キアーさんでその間時間を稼いで欲しい。拘束したら、リシェルティアの一撃に全て賭ける」
「了解」
顔色一つ変えぬミエルを横目に確認して、どさりとノエアを地面に下ろしたキアーは再度レイピアを鞘から抜く。
キアーが一歩前に足を踏み出すと、横並びするようにジュンとナエが立つ。キアーはハーフだけあり通常の人間より頑丈。ナエはまだ決定的ダメージは無い上に死霊体は痛みを感じない。
唯一どちらにも当て嵌まらないジュンは意識と霊力を寸前の所で維持をして、どうにか並んでいる。ひゅうひゅうと呼吸音を鳴らしながらも、ナエが駆けた瞬間にありったけの霊力を込めた。
「〝淡く消えゆく人の夢と書き、儚きと詠む者なり〟!」
「 〝尽きぬ事知らぬ青雷〟!」
ナエの死神の刃はこれまでに確認された数を遙かに上回り、その数は百以上を越える。温存している余裕などない。ここが本気を出すべき所だと踏んでジュンの霊力を惜しみなく喰らいその力を発現させた。
最早木の枝についた葉のよう。辺り一帯が刃で埋め尽くされ、標的である彼を裂さんと向かった。
——当然のように刃と刃の僅かな隙間を、あり得ない速度で潜り抜けて回避される。
ならばと数を増やした所で、彼は身を包むように銀の光の粒を発生させた。死神の刃は銀の粒に触れた瞬間、硝子が割れるようにヒビが入り、がらがらと鈍く、瓦礫の如く崩れ落ちる。
休ませるものかとジュンが放つ、一筋の青雷の斬撃。轟音を轟かされながら三つへと枝分かれを始め追撃を開始。標的は同じく、三方向より攻め立てようとした。
虚しく、彼が纏う銀の粒が雷に触れた途端、死神の刃と同じ末路を辿って届かない。
ジュンとナエ。二人の攻撃の隙間を抜けて、キアーが一気に懐へと潜り込んでくる。完全にレイピアの間合いに入り込む事ができたが、彼は余裕を含んだ笑みと同時に唾釣り合いに持ち込む。
「行くよ! 相棒!」
「——! ああ!」
何らかのやりとりを終えたノエアとミエルが、隣同士に並び立って両手を繋ぎ合わせる。
どうするつもりだとその場の全員が疑ってかかる中、集中する為に二人は小さく深呼吸。
ゆっくりと目を瞑る。
「天に願う」
「大地の恵み」
「「——合わせるのは救いの鎖——」」
「夢幻に見た空に」
「花綻び笑んで——」
「「——それを顕す——」」
「「〝神創滅・共鳴〟! 〝天羽織る花の鎖〟」」
秋の枯れ葉は天に向かってゆるく発生した風と共に踊る。
金色の粒と銀色の粒は煌びやかな桃色の花びら達を幾万と象ってゆくと、花びら達は彼の足元とその周辺に吹き上がった。
彼は花びら達に視線を奪われて、天より鋭く降りてくる羽根の槍という名の雨が注がれるのに反応が僅かに遅れる。
数本の羽根の槍が彼の身体を貫通。
そこから身動きが取れない状況の中で追い討ちをかけるように花びらは凝縮し鎖と化して、四肢と胴を何重にも巻き上げていく——。
今だ。
今しかない。
右の手を軋むほどに握り、宿る銀の光が応えるように燃え上がる。
利き足を踏み込み、勢いよく駆け抜け、直前でその拳を振るう。
——しかし。
間に割って入る金色の光の粒が集合した楕円形の盾に阻まれる。拳はそこで止まるが、なおも壊さんとリシェルティアは拳に力を込めた。応えるように拳の銀の光は更に大きくなってゆく。
ピキ。
僅かに、小さく。
ヒビ割れる音がした。
小さなヒビは全体を伝ってゆき、そして楕円形の盾は硝子のように割れて無くなる。
「——レフィシア!!」
リシェルティアは呼ぶ。
彼は光なき眼をまん丸に見開いてから、唇を震わせて、一言。
だが、その一言はあまりにも小さすぎた。リシェルティアには届かない。
一度瞼を閉じた後、彼は力なく後ろに倒れ込んでいく。
ただ、どうしても今伝えなければならないと、薄れゆく意識の中で、もう一度弱々しく目を半分開く。
光を持ち、水でも潤わせたような彼のラベンダーの瞳は目尻に涙が溜まってゆく。
「リ、シェ……」
弱々しくも、レフィシアは左手をリシェルティアに向けて伸ばした。
それをリシェルティアは慌てて取ってから、引き寄せる。
倒れ込もうとしていたレフィシアをどうにか支える事ができたのに胸を撫で下ろしてから、一旦地面に両膝をつく。
気を失っているレフィシアの涙を指で拭ってからようやく張っていた気が一気に抜けて、リシェルティアは涙を流さんばかりの声でレフィシアの名を呼び続ける。