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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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五十二話:〝リシェルティア・セアン・キャローレン〟

土曜にしてようやく喉が回復した〜!


来週ももしかしたら週一更新になる可能性があるかもです。


また、日曜の午前中に本文直せるところは直します。

 暗くて。


 ひんやりと冷たい鉄。


 たまに雨漏れを起こして、より一層鳥肌を浮かばせながら身を縮めたのは、多分冬の頃だろう。故郷よりは寒くないと感じたが、それでも、防寒くらいはしないと意識を持っていかれそうだった。


 用意されたのは薄手の毛布だけ。


 魔法付与なんてものはされてない、ありふれたものを雑に投げつけられただけだ。手を拘束していた鎖には余裕があって、あまり意味のないその毛布を身体にくるんで暖をとろうと目論む。


 無いよりかはマシだった。


 ——辛いものだった。いつしかそれが当たり前だと思っていて、何も感じなくなった。




 あの日までは。


 だからこそ、私は自分が置かれていた立場が辛いものだと自覚をし、今も恐ろしいものだったと慄く。


 ただそれ以上に、あの人は私に手を伸ばしてくれた。



 諦めの中に、また会いたいという希望が反していて、二十日間の間を待ち続けた。


 本当に来てくれるのだろうか?


 思わせぶりだったのだろうか?


 もしくは……私は夢でも見ていたのだろうか?




 でも来てくれた。




 暖かくて、優しくて。


 戦ってる時は恐ろしいとも感じてしまうのに、普段の姿や寝ている時はただの少年で。





 私は——そんな(レフィシア)に恋をした。





 *




「……起きたのね」


「えっと……ナ、エ……」



 一度か二度程度しか聞き覚えのない名前と顔を思い出して、私は目を覚ます。



「——ナエ! ジュンとそいつら……ッ、を、連れて、逃げ……!」



 小鳥にしては大きすぎる目覚めの合図に、私はびくりと肩を張り上げる。耳と眼を凝らして音源の先を辿ると——言葉は最後まで紡がれる事はなかった。誰かに片手で首を締めつけられていたノエアは、息を詰まらせている。私が状況が呑み込めないままに呆然としているのを他所に、右隣にどさりと重荷が倒れたような鈍い音が立つ。



「あ、ああ……リシェントさん。お、きた……す、ね……」


「ジュン……! その怪我……ッ!」


「こ、こんな……しくじり、は……あの時、以来、……す、かね……すんません……霊力の、維持、は出来てるんで……」



 刀を地面へと突き刺して、杖代わりにと身体を支えているジュン。背の切り傷から流れる血は止まる事を知らず、頬や腕などの切り傷からもどくどくと湧いて出ていた。痛みにより発せられる熱に今でも意識を失っておかしくはなく、それをどうにか抑えているのか瞬きの回数は異様に多い。耐えきれずに顔を下に俯かせていると、咳き込むと身体の中に溜まり込まれた血を外に吐き出した。


 急いで手当てを、と思い立っても私に医療の知識など無くて、一番医療に長けたノエアの方へと視線を向ける。



 そこには—— ()が居た。


 レフィシア・リゼルト・シェレイという人間の身体を借りただけの、全くの別人。


 夢の中に居た()だ。




 夢の中ではなく現実世界で会えるのを楽しみにしておるぞ、などと言っていた。


 身勝手で、人の存在を見下して、嘲笑う()だ。




 何故か、見ただけで直ぐに判別出来た疑問については今は捨て置く。




「愚かなものだな。我はお前達が攻撃してくるものだから、正当防衛をしたまでだが」


「悪、ィな……オ、レは……そ、んな……訳、には……いかねえ……」


「血も繋がらぬ他人だろう? どうして気にかける」


「……繋がり……っていうのは、血だけじゃねえ……それが分からねえっていうなら……やっぱりてめぇはまだまだ、だな……っ!」



 繋がり。


 それは、ノエアだからこそ言葉に出来るもの。彼の出生、今までとこれからの生涯全てを掛けて生み出した、彼なりの答えであると私は察した。

 ノエアの答えが余程不快極まりないものだったのか、彼は顔つきを僅かに渋らせて、より一層握力が増してゆく。こちらまで聞こえて来る骨が軋む音に、ノエアは言葉を紡ぐ行為すら与えられない。



 私が、何とかしないと。


 私の記憶に関しては、今この時だけは、どうだっていいから。



 だというのに。



 ——足が竦む。



 本当にこの状況を私が変える事など出来るものなのだろうか?


 目の前の彼は、人知をも超えている。

 ただのひ弱であった王女の私。

 たまに魔物とも戦っていた私。


 そのどちらを合わせた私でも…… ()には絶対に勝てない。


 抗えと心に鞭を入れても、身体は氷のように冷え切っていて、頑なになって動かないのだ。心の奥底に固まっている恐怖という感情が、全身にまで広がっている。




 ——そんな時。


 ゆっくりと瞼を開き、軸足を揺らしながら意識を取り戻したミエルが突然私の肩にその手を置く。



「リシェント。力を貸して。あいつをシアから切り離すよ!」


「……で、でも」


「あたしを、そして貴女自身を信じて。貴女自身が、自分を信じる心があるというなら、あたしも頑張るから」


「私、自身……」



 ミエルの青の瞳は、私よりもしっかりと一本線を貫いていた。少し違和感を覚えたと言えば、今までのミエルとは違う。感覚的なものなので確かな根拠はないけれど——意志の強さ。自分が果たすべき使命。


 今まで彼女は明るく振る舞い、笑顔を絶やさず歳相応に落ち込む……ただの少女であった筈なのに。




「ミエル。私は……シアを…………レフィシアを、助けたい」


「大丈夫。きっと出来る。その為の力が、貴女にはちゃんとあるんだよ」



 肩の上をするりと離し、私の左手を取ったミエルを中心に——金色の光の粒が、私達二人を巻き上げてゆく。


 私の右手に宿り始めた銀の光と反応して、銀の光が炎の如く燃え盛る。ただ私自身が驚きのあまりに目を見開いたのは、明らかに質が違う。


 その煌めきは濁りや不純物が無いという次元の話ではない。


 この天へと届かんと巻き上がる金色の光の粒が、銀の光の量だけでなくその質をも根本的に底上げしていく、感覚。


 どう考えてもミエルがそれを担っているとしか、思えない。



「——リシェルティア」



 フと、何故かミエルが私の本当の名を呼ぶ。



「後は、貴女次第」



 どうして、と疑問を口にする前にミエルが私の手を離してにこりと微笑む。

 上手く誤魔化されてしまったように思えるが今はそれどころではないのだから、こちらに関しては一先ず置いておこう。



 自分が守られるだけの存在じゃなくて、〝誰か〟を守る存在になりたい。



 それはきっと、私がレフィシアに守られてばかりだったから。あの時の私には力も何も無くて、あったとしても使用用途、内容すら知らなかった。


 ただただ、レフィシアに縋っていただけだ。


 でも……きっとそのままでは共に歩めない、否、歩みたくもない。



 ああ。


 リシェルティア・セアン・キャローレンとしての私も。


 リシェント・エルレンマイアーとしての私も。



 結局の所——決断は一つしかない。





「——ミエル。戦うよ、私は」




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