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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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五十話:〝神創術〟

五十話突破! と同時に二節で一番やりたかった所です。

というかはよ誤字脱字追加執筆諸々やりたいですね……仕事ぉ……。

「シア! ノエア!」



 ミエルがウインドペガスを戻して駆け寄り、レフィシアの左隣に両膝をつく。息のないリシェントの様子を伺おうとすると、突然ミエルの右手首がひったくられた。



「——久しいな」


「えっ……」


「面白い巡り合わせだ。貴様といい、そこのエンジェルのハーフといい」



 レフィシア()だ。


 左手でミエルの右手首を掴んで離さない。その握力はミエルにとって到底敵うはずもない力で痛みの余りに眉を顰め、眼を瞑る。

 掴まれた痛みを堪えて、どうにか細く開けたミエルの青の瞳に映ったレフィシア。右眼が赤黒く変色し、ラベンダーの左眼も人としての光を失っている。

 眼を合わせるだけで恐怖を覚えて、無自覚にひゅうひゅうと過呼吸を起こす。今のレフィシアの瞳から眼を逸らそうとして、何故か逸せない。



 そして、ミエルの中で、()()()()()()。壊れた先にある自分の本当の役割を知って、更に逃れようと左腕を暴れさせる。



 ——だが、現実はすぐには敵わない。





「まあいい。約束だ。さっさと済ませるとしよう。悪いが少しばかり、お前の力も借りるぞ」



 その言葉を口に紡いだ瞬間。ミエルの中のあらゆる〝力〟が、彼に吸い取られてゆく。次第に意識の薄れを感じて、これだけはと唇を噛みしめ意識に鞭を叩く。



「あな、た……は……ま、まち、が……」


()()も同じ言葉は要らない」



 言葉は届かない。ミエルが枯れ葉の地面に横となって倒れ込む。



「ミエル!」


 彼の右隣に控えていたノエアは前のめりになりながら倒れ込んだミエルの様子を伺う。生きてはいるが、無事を確認するより先に、彼は動く。

 小さく息を吸って、大きく吐く。深呼吸で鼓動を整えると、金色に光の粒が数億数兆と凄まじい勢いで増加してゆく。その光はまるで台風のように渦巻いていった。



「——慟哭の渦の中で手を伸ばす。届かぬそれを、届くように。慕情の陽炎。祝意よ再び——」



 金色の光の粒は彼の左腕を旋回する。



「〝タブ・ヴダ〟、じゃ、ない。これは、まさか……!」




 左隣に居たノエアも圧倒されて後ろに後退りながら——。



神創術(テオクリゾス)——汝の名は、〝オリジン・ゼロ・リヴァイヴァル〟」



 左腕に旋回していた金色の光の粒が、今度はリシェントの身体を包み込むように旋回する。


 徐々に回復——。


 否、回復、再生——という言葉では生温い。



 ——()()()()()()()()()()だ。



 内臓と傷口の回帰も終わらせると、無数の金色のは高らかに飛び散って消えゆく。見た目こそ夜に浮かぶ蛍達のように美しいとも思えるが、それ以上に、得体の知れない力の源だという事実を前に綺麗だの何だの鑑賞している場合ではない。


 すぐ隣、間近で目視をしていたノエアも声を失い、離れた場所のジュンは自らの赤紫の瞳に映るそれを疑ってかかる。



「嘘、だ……嘘だ、ろ……? 蘇、蘇生って……いや、蘇生なんて、そん、そんなレベルじゃない……」



 ジュンは死霊術士として人の生死に関する知識は人並み以上に頭に入っているが、蘇生なんてものすら架空上の話に過ぎない。出来る筈もない、アニメや小説などの話で現実では関係ないと、ジュンは当然のように考えていた。その当たり前を叩き割った光景を前に、身震いを覚えた足で身体を引きつらせる。


 他の人物達もそうだ。


 回復は出来ても蘇生など不可能。


 魔法に携わっている者は回復や再生という軽い言葉で片付けていいものではないと悟り、辺りは声ひとつ響かぬ妙な静寂に包まれた。



 

「おい」


 三度、冷ややかで感情の読めぬ声が今度はノエアに向けられる。

 投げるようにリシェントをノエアに手渡した彼は、蝋燭の中で佇む火のようにゆらりゆらりと立ち上がった。



「不老不死を追求するヴァンパイアよ。愚かな事をしたものだな。よりによって今これに手を出すとは。我の楽しみを奪ってやるな」



 夜を作り出していた空間は限界を超えてゆるりと消えていき、昼の日差しが溢れてゆく。


 日の光を浴び情緒が不安定になった紅が自らの両手で髪を掻き毟り始める。次第に神経が張り裂けていき、リシェントの血で塗れた仮面を投げ捨てると、髪よりも濃い水灰の濁った垂れ目を鋭く尖らせた。



「よせ! 紅!」


「いいだろう。一度とはいえ〝片割れ〟を殺した罪は重いぞ」



 キアーの制止を耳にも入れず、紅はただ自分の本能のままに彼に牙を向く。


 それも——一瞬だった。


 彼は痛みを感じない。だから、レフィシアの受けた外傷に痛みを感じて動きが鈍る事もない。圧倒する速度で、一撃で紅の腹を突く。骨が軋んで折れていく音を連れて紅は後方に吹き飛ばされた。


 いつの間にか彼の右手には一本の武器が握られている。見慣れない剣だ。創ったのだろう。


 柄頭から剣身まであらゆる全てが純白を施してはいるが、小刻みに剣身にはエメラルドグリーンに淡く光る。グリップが外れるのを防止してか、柄と右手を繋ぐように金色の光の粒が鎖の役割を果たしていた。



 彼は剣を手に自らに問う。


 ——これを手にしたのはいつ以来だろう?


 彼は地面に足をついて問う。


 ——自らがこの地面に立つのはいつ以来だろう?



 懐かしさに彼は胸が躍りかけたが、それはすぐに虚しく消え失せた。




「スゼリ!! 紅を連れて撤退しろ!!」


「キアー様!」


「早くしろ!」



 切羽詰まった剣幕にスゼリは否定せずに吹き飛ばされた紅の元に向かう。そういえばと自分の同僚である女も無事だろうかとスゼリが辺りを探すと、いつの間にか忽然と姿を消していた。

 彼女の手の速さと行動力、判断力は身に染みて理解していたのでそう疑問にも思わず、そのまま紅を背負い一般兵にも指示を仰ぐ。


 逃すかと彼が腕を動かしたと同時にキアーがレイピアでひと突き。


 当然の如く剣身で受けて防いだが、避けられる攻撃をわざと受けた事に対し、キアーの機嫌は徐々に悪くなっていく。



「ほう、まあまあの実力だな」


「……お前の、お前のせいだ。お前のせいで、アリュヴェージュがどれだけ苦労してると思ってるんだよ!!」


「アリュヴェージュ……ああ。こいつの兄、()()()の小僧か」



 何もかも見透かす瞳と、余裕の声音が更にキアーの怒りを炎の如く燃え上がらせてゆく。態度には現さないものの、キアーは目じりを険しく吊り上げて猛火で焙りたてるような激情に身が震えた。

 詠唱を唱え、上級闇魔法——重力の塊を数十と隕石のように落下させる。周囲の被害を気にしていては彼は倒せないと判断し、最早力押しだ。

 純白の剣の身に金色の光の粒が纏わり付く。その光の粒は次第に銀に色を変えてゆく。彼が全ての闇魔法を一閃に切り捨てると、闇魔法の塊達は闇魔法であるという存在そのものが無かったかのように消滅。


 やはり魔法では無意味かとキアーが様子を伺っていたのも束の間の休息に過ぎない。一瞬のうちに彼が間合いを詰めてきた。


 光が銀の状態のままに彼はその純白の剣を振るう。


 ——あれを喰らったらおしまいだ。


 それを分かっていたからこそ、ラビリッツ特有の跳躍力で空中に舞ってどうにか逃れる。地面に足をついて一定の距離を取るが防戦一方になっている状況。更にキアーの頭が熱く燃え判断を失いかけているのが彼には手を取るように丸見えだ。





「……無理だ」



 ジュンは声を震わせた。



「勝てる訳、ないっす……こんなの……」



 後ずさっていた。自分にはどうする事もできないものだと。叶うならば逃げてしまいたいとも思わせてしまう。


 その時。


 どさりと何かがジュンとナエの目の前に倒れ込む。二人は慌てて避けてしまったが、よく見れば倒れ込んで来たのは気を失っているミエルと、まだ目覚めぬリシェントだ。

 距離もあったのに何故こちらにいるのだろうと疑問に思ってジュンが視線を別に変えると、その理由はすぐに晴れた。




 ノエアが彼とキアーの間に割って入る。


 本調子ではなかったノエアだが、間近で金色の光の粒の影響を受けて、魔力や体力も回復しきっていた。



「どういうつもりだ……」


「シアは殺させねーけど、あいつを殺したいのは同じだ。手を組め、キアー・ルファニア」


「……話だけは聞くよ」



 自分一人では勝てない。こうなったらあいつを殺すならどんな手段でも利用してやる。


 悔しい所ではあったが、その悔しさを抑えこみながら、キアーはノエアの提案を呑む——。


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