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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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四十七話:予測、援軍

 

 一般兵はミエルとその召喚獣、本調子でないノエアが凌ぐ。



 ジュンとスゼリ。


 ナエと紅。



 そして——。





 レフィシアとキアー。

 



「連携しなくていいんだ?」


「思ってもない事、無理に言わなくていい」


 

 キアーはレフィシアのトップスピードからの剣を予測と身体能力だけで受け流し続けながらも、レフィシアの言葉に薄ら笑う。


 表向きに現れた言葉と心の底の感情の矛盾を敢えて分からせるように仕向け、レフィシアに煽りを促進させた。しかし、キアーがそのような人物だと言うのはとうの昔に分かり切っていた話で、レフィシアが今更煽りに乗る筈もない。



「久しぶりだね、殺し合うの」



 ——だがキアーのその言葉には首を傾げた。


 レフィシアには二年前の記憶がぽっかりぬけていて、ロヴィエドから自らが中央を裏切った——としか聞かされてない。


 もしかしたら、その抜けた記憶の中では殺し合っていたのかも知れない——。


 そう思うと、自分の微妙に抜けた記憶が気になってきて、小刻みに身体を震わせる。



「ねえ。何処まで覚えてる?」


「……答える必要はない」


「ははっ、言い返されたな」



 今のキアーの言葉に耳を貸せば調子が狂う。


 殺しにかかろうとしてくるレイピアの切先を余裕をもって弾き返しながら、ひたすらに次の一手と脳の中に血が巡る。

 表情に一筋の光すら無く、余計な感情を落とし、目の前の標的の命を当たり前の様に殺そうとする威圧感。

 今のレフィシアの表情も雰囲気も、まさしく戦いの際のアリュヴェージュと重なってキアーは唇を強く噛み締めた。あまりに強い力の前に歯の圧迫に唇の皮が耐え切れず、赤く鮮やかな血が滲み出す。


 三度レフィシアの剣先がキアーの身体を捉えようとして——左脇腹を貫通した。刺された箇所から大量の血が流れている様は黒の軍服が赤黒く変色しているのを見ても一目瞭然である。ただおかしかったといえば、つい先程までは身体能力と予測だけでレフィシアの攻撃を捌いていたキアーが、今は殆ど動かなかった事だろう。


 襲い掛かる痛みに眼を細め、口の中の血を外に吐き出したキアーだが、レフィシアが剣を手前に引き抜こうと思い立った直後。



「捕まえた」



 狙い通りだ、とばかりの嘲笑いを浮かべてキアーは両手でレフィシアの手首を大きく掴む。素の身体能力だけでなく、握力も常人より強いキアーの手をレフィシアは中々振り解けない。

 こうなれば無理にでも引き抜くしかないと考えて、すらりと左脚を上にあげてキアーの腹部を突く。それでも離すものかと耐えて、後ろに背りはするが吹き飛ぶ事はない。



「……剣以外の攻撃って、初めて……じゃなかった? どうしたの? 何か大きな心境でもあった? ……まあ」



 未だ腹部に突き刺さる剣の痛みに渋く汗を掻きながらキアーは語りを続ける。



「お互い様だ」



 そのたった一言と共に、レフィシアにも痛みが伝う。剣の如く鋭利に尖り、岩のように硬くなった地面の破片達がレフィシアの背に突き刺さる。

 一撃の威力もなければ数もない、初級の地魔法に過ぎないが、それでも攻撃魔法なのだから威力自体は存在していた。

 ぐりぐりと食い込みはじめて、更にレフィシアの痛みは強く引き立ってゆく。その様はまさしく一撃で楽にさせてやろうとする気など無く、キアーはざまあみろとレフィシアが苦しみに耐える様子を口角を上げて見下している。


 今のうちにキアーが右脚でレフィシアを横に蹴って吹き飛ばし、自らの腹部に未だ残るレフィシアの剣を引っこ抜く。魔物、ラビリッツとのハーフとして常人よりも頑丈な身体であるキアーはこれくらいの傷で膝を折る事はない。


 ——だがレフィシアは純粋な人間だ。


 耐えて、耐えて、膝を折ってもなお立ち上がろうとした。


 叶わず——地面から生えてきた破片がレフィシアの両足の土踏まずから甲までを、貫通。




「——シア!」


 距離が離れた場所でレフィシアの危機を察知したノエアはレフィシアの名を叫ぶが、今は一般兵達の放つ魔弾銃の弾丸達を凌ぐので手一杯になり大きく舌打ちを打つ。


 ミエルやウインドペガスも実力が無いわけではないが、一般兵の数と連携に中々倒し切れていない。


 ジュンはスゼリを相手に押し気味ではあるが、決定打にはならず、ナエは紅の相手に集中している。とても援軍は望み薄だ。



「初……級、地魔法、の、詠唱、破棄……ッ」


「ボクはね。昔から君が敵になってもおかしくはないと思って、全ての手の内は出していなかった。まあ、地魔法を詠唱破棄出来る様になったのはつい最近なんだけどさあ……」



 誰しもが昔と同じ戦い方ではない。


 誰もが自らの手の内の全てを明かしている訳ではない。


 キアーは転がり落ちていたレフィシアの剣を自分のレイピアの代わりに右手で拾い取ると「よくこんなのであんなくそ速く動けるよね」とまじまじ剣を観察していた。



「ま! でも足にダメージを与えたのなら、さっきよりかは遅くなるかな? 武器もここだし」


「……ッ、く、そ……」



 キアーの実力を見誤っていた、レフィシアのミスである。結果がこれだ。幾ら強くても読み間違えれば命の危険が伴うという言葉に見合う状況で、レフィシアは動けと自らの心に鞭を叩く。




 ——諦めたら、終わりだ。


 諦めないと、諦めたくないと、だとしてもと。


 口から咳のように血を吐き出し、喉が痛もうと。


 足を踏み込もうとして、余計に痛かろうと。


 背に食い込む破片が更に捻り込もうとして更なる痛みが襲ってこようとも。




「……俺にも、譲れないものくらい、ある…………」


「へえ? その状況、で——」



 レフィシアの怪我は重傷だ。余裕たっぷりのキアーがのうのうと語り始めようとするが、それを遮ったのは数発の弾丸。


 レフィシアの背に捻り込み続ける地面の破片に全て命中すると、その破片は捻り込む力を失いカランと抜け落ちてゆく。粉砕というならまだ分かるが、そういう訳ではないようで当のキアーは驚きの色を露わにした。すぐ様聴力にも優れているその白の耳を張り詰めて、弾丸が向かってきた方向を探り当てる。



 遙か上空。


 作り出された夜の世界に、似つかぬ空色が浮かぶ。





 豆粒程度に視界に入る——戦闘機。






 *



「全弾命中。まあ、特殊弾なら当然ね」



 前席のガラスを半分だけ開いた技術士の少女の両眼には黒縁と緑の液晶のゴーグルがかけられていた。上空の風の影響を避けた上で少女のそのゴーグルには数百メートル以上の望遠鏡機能と人感センサーが搭載され、 スナイパー用ライフルには調高倍率のスコープ。

 技術士の少女も格好もまるで違っていた。白のキャスケットはそのままだが、全身を深緑で包み込んだ何処かの所属の軍服に白のロングコートを羽織り、軍服のズボンには鋼のブーツ。焦げ茶のグローブ。



「視界情報、そっちのモニターに送ってるけど、どう?」


『……!! 技術士さん、ここから降りられない!?』


「出来なくはない。迎撃の危険性が無くはない、けど……」



 後席に乗っているリシェントの声が通信に乗せられて無線イヤホンを伝い技術士の少女の耳に届く。多分あの中にお仲間の数人がいるのだろう。



「ねえ。聞くんだけど、本当にあんな場合に乱入しに行くつもり?」


『でも……私は、行かなきゃ……』



 技術士の少女は息を呑む。


 ——自分は間に合わなかった。


 大切な場所だと安心していて、間に合ってと願って走っても、現実はそうは行かなかった。自分の非力さに虚しく拳を地面に叩きつけていた。


 でも今は——そうではない。




「はーー……仕方ない。あたしもどうかしてるけど、付き合ってやるか」




 面倒事を避ければもう少し楽に生きられるだろうと思っていても、過去に経験したものを誰かに繰り返して欲しくない。

 そう願って技術士の少女はスナイパーライフルを一瞬で数値力(ノンボル)へと変換し身軽となってから前席に座り直した。


中央四将の中ではぶっちぎりでレフィシアがつよつよなので、それを身体能力と予測だけで避けてるキアーも化け物っちゃ化け物。


大体中央四将は一人で城崩しが出来ますが、レフィシアとアルフィルネは物理的な城崩しで、キアーや紅はどちらかといえば内側から崩していくタイプ。物理的な城崩しするならレフィシアやアルフィルネの方が秒で片付く。キアーや紅にも時間はかかるけど出来なくはない感じ。トルテも出来る実力はありそう。


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