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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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四十六話:死霊術士と死霊

昨日は更新出来なくてすみませんでした…!


「刀にその魂を宿り給え——〝リコ〟!」



リコ、という名を口にし、ジュンの刀に霊力が可視化した。青の霊力が満遍なく刀全体を包み込んでゆく。



「悪いんすけど、オレも相応の重さを背負ってはいるんで」




直後、スゼリの剣とジュンの刀が交差してぶつかり、高い金属音を響かせた。唾釣り合いとなって互いに体重を掛けて押し合う。僅かな筋力差でスゼリが優勢かと思いきや、ジュンはニヤリと口角を上げる。


濃い青の霊力は帯びた光から、小さく、次第により大きく。バチバチと耳を聾さんばかりの大きな雷鳴と共に霊力の姿は稲妻と化す。

刀から剣に伝っていこうとする様に顔を青く染めたスゼリは、自ら唾釣り合い勝負を諦め再度距離を取った。


スゼリも相応の戦闘能力を持ち合わせてはいるが、ジュンの戦闘スタイルはスフェルセ大陸には存在しない。それを十分に理解した上でより一層警戒を怠らないようにと、瞳は鋭く尖ったまま緩まずにいる。

逆を言えば今のスゼリの戦い方は消極的だ。それに気が付かないジュンではない。


スゼリの攻撃密度が薄いうちに、近距離戦闘に持ち込もうとジュンはただ真っ直ぐに突き進んでゆく。青の雷となった霊力はそのまま。当たればただでは済まないとばかりに何処からかやって来た枯れ葉が雷に掠っただけでその熱量で一瞬と失せる。


塵すら残さぬそれを見て、どちらかと言えば剣術に長けたスゼリは舌打ちを打つ。



「魔法には似ているようですが、魔法ではないのは本当のようですね。どういう仕組みでしょうか?」


「教えてやる必要は、ないっすよ!」



中々近づけないと察したジュンは刀を垂直に立てた。

より強く、より大きく。

青の雷は轟音を響かせて、今から放つ一撃に備えている。



「〝リコ〟! 〝尽きぬ事知らぬ青雷(アスル・トゥルエノ)〟!」




空を切る一閃。そこから伸びる青雷の斬撃。


一筋の雷の斬撃はやがて三つへと枝分かれを始め地面を這う。伝った地面は既に青雷の支配下だ。草木もバチバチと感電している。


一旦地面から足を離して感電から逃げるかと膝を曲げ足に力を入れていたスゼリ。そう思っていたのも束の間で、両足を鮮やかなウィスタリアの淡い光帯が地面から這い上がりスゼリの両足を巻きはじめた。振り解こうとしても力強く足を振っても、全くうんともしない。


魔法の詠唱をする暇もなく、三つの青雷の斬撃がら各々の方向から標的に素早く向かってゆく。


スゼリは詠唱破棄をした初級の地魔法で自らの足元の地面を盛り上がらせた。光帯はその反動で緩まって、スゼリの両足はなんとか一時の自由を得る。盛り上がった地面を蹴って身体が宙を舞うが、青雷に気を取られてしまい背後にジュンが刀を振りかぶってきている様に気づくのが遅れた。


ぐるりと体勢を変える為に振り返ろうとするも間に合わなく、先にジュンの刀がスゼリの背を縦に一閃。切先が衣服を貫通し、僅かに皮膚を貫いた程度だがスゼリは痛みに顔を大きく顰める。

本物の雷のような熱を持ち、痺れも襲ってきて、なおもスゼリは受け身の体制で落下した。

青雷の支配下となったそこは、受けたダメージと共に地面からも痺れが襲ってきて更にスゼリの体力を著しく削ってゆく。スゼリは顔の筋肉を強張らせて、その痛みと痺れに耐えながらなおも力強く足を踏み込んだ。



「貴方の戦い方は何となくですが分かりました。ですが、私も負ける訳にはいきません」


「あんたの想いは分からないっすけど、やるからにはオレも負ける訳には行かないっすよ」



ジュンは自らの霊力量が多いのを自覚している。だからこそ、ナエを出しながら今の戦い方を可能としていた。


——が、勿論それにも限界はあるのもジュンは察している。


特にナエに与える霊力量は常に多く、ナエだけならまだしもジュン自ら霊能力や死魂武器(しこんぶき)を同時に併用すれば、あっという間に霊力が底を尽きるのだ。


このままでは何れ先に切れてしまうだろう。


ジュンは思考を巡らせる中で、〝アレ〟を使えばその問題は丸々と解決するのだが、それは無いなと心の中で首を横に振った。本人が一番自らの身を理解していて、悟られないように平然を装って口角を上げる。



「そもそも、貴方は戦争には関係がないのでしょう? 何故そこまで協力するんですか?」



スゼリの発言は最もだ。


協力してくれと頼まれて頷いてはみたものの、ここまでする理由はジュン自身も不思議と首を傾げるものがある。

しかし、意外にもその答えを探すのに苦労はなくて、すぐさっぱりとした晴れ渡った顔つきに戻った。



「皆して魂が他の人とは違う。だからこそ、それが何なのか……知りたいのかも知れないっすね。勿論、帰る方法を探すのが一番なのは、分かってるんすけど」






「で、どうすんのよ。連携とかふざけた事だけは言わないでよねえ」



ナエはジュンとスゼリの戦いを横目で確認しながら、目の前の議題をレフィシアにぶつけた。

連携勝負なら向こうが上なので、ナエの発言は当たり前だろう。



「紅を頼む」


「あのクソ仮面? 何で」


「二人とも身体能力は高いけど、紅は姿を変化出来る。魔法も一部を詠唱破棄してくるし、君と俺だと、攻撃に対する対応力は君の方が高い」


「成る程ねえ。じゃ、そうする」




狙いを定めたナエはその勢いを保ったまま、濃い青色の霊力が空気中に飛散し始めた。



「淡く消えゆく人の夢と書き、儚きと詠む者なり!」



飛散した霊力は三日月のように反った大きな鎌の刃に変化し、その数は五十をゆうに越える。

ぐるぐると凄まじい回転を唸らせ、怨念の籠もった死神の刃は標的である紅に向かってゆく。速度こそレフィシアのトップスピードには劣るものの、その速さは常人よりかは上を行っていた。


紅は姿を蜂に変化させる。ひんやりと冷やかな氷の粒のように小さな蜂だ。その状態でいつもの姿と何ら変わりない回避となれば、的も小さくなる。

追尾を続ける死神の刃達の嵐をもすらりといとも簡単に避け続けた。刃が木々にぶつかろうとしてもすり抜けて通過した様を冷静に分析。

このままでは当たらないとナエは、唇を噛み考えを巡らせる。


——刃達を再び霊力として飛散させた。



「諦めたか?」


「まさか。あたしの刃の形は、一つじゃないっての!」



霊力を霧のように広範囲に広げる。次第に濃くなっていく様から、霊力をより一層多く放出しているのが窺える。


何をするつもりだと警戒心を強めてじっと身体を動かさず聴覚を立てた紅だが、まだ辺りに変化はない。


飛散した霊力が紅の上下左右にまで広がってゆくと——。


突然、拳ひと握り程度の大きさの刃が弾丸のように複数弾け飛ぶ。飛散した霊力から刃を先程よりも細かく、多く生成したのだ。



「威力重視の所を命中重視にしてやったのよ!数打ちゃ当たるわよねえ! ほらほらほらほら! さっさと堕ちなさいよ!」



ナエの攻撃の密度は先程の二倍、否、四倍以上だ。


威力を捨てた代わりに数で補い、紅に反撃の隙を与えない。現に紅自身も避けるので精一杯である。

ナエはただ数を打ってはいない。自分に近寄られないように攻撃密度で紅の動きを制限している。思い通りに反撃の糸口を探れない紅はが痺れを切らして元の姿へと戻ると、彼は仮面越しでも分かる薄ら笑いを浮かべた。



「貴様の能力、面白いな」


「そう? あたしはあんたの能力の方が面白そうだけど。芸人にでもなったら? 大ウケするわよ」


「私は研究者だ。そして、不老不死を追究する者だ。芸人などに興味ない」


「不老不死、ねえ……」



不老不死という四文字を耳にした瞬間、ナエの瞳はがらりと変わった。殺害欲求という狂気的な色の中に別の悲痛を訴えた感情が渦巻いている。




「だったら、尚更殺さないといけない。あたし達は不老不死を否定する。それが、死霊術士(ネクロマンサー )協会の死霊術士(ネクロマンサー )と、その死霊だから」



「何故不老不死を否定する? 自らの死が、消滅が恐ろしくはないのか? 永遠に老いない身体。死なぬ魂。まるで今の貴様のようではないか」


「——は?」


紅の言葉は、ナエの心情に怒りを加えさせた。


とても低く、高低差のない声。




「決めた。絶対に、絶対に殺す。あんただけは、生かしておくものか」



殺害欲求、悲痛の中に怒りが加わって——。


殺人鬼の霊力は燃え盛る炎のように高らかに上昇していった。




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