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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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四十一話:他の誰でもない

キリがいいので今回短めです。

そろそろ二節も後半かな……今年中に終わるか終わらないか。


 

「陛下!」


「後始末は頼む」


「お任せください」



 アリュヴェージュと共にこちらにやってきたのは、おおよそ十四の少年兵士。〝七星団〟入りも間違いないであろうと周囲から期待の眼差しを受けている彼は、他のどの兵士よりもレフィシアを強く慕っていた。慕っている上官に何かあれば心に不安が募るのも無理はなく、顔つきは濁っている。



「あ、あの……」


「……問題ない。君がレフィシアを慕っているのは僕も知ってる。心配してくれてるのは嬉しいけど、今は……」


「……はい」



 今は陛下に任せるべきだと強く頷き、少年はテキパキと四肢を無くした紅を背に負う。



「紅様のこれは、治るものですか」


「魔法じゃ治らないから、とりあえず止血と痛み止めの薬を処方しておいて。彼が反省したら僕が元に戻す」


「畏まりました」



 紅を背負った少年兵士が立ち去ったのをよく確認してから、気力だけで立ち上がっていたレフィシアの両膝ががくんと崩れ落ちた。

 それに気がついてアリュヴェージュは倒れないようにと支えてから、ぺたりと地面に膝をつかせる。


 レフィシアの涙は先程ありったけ流していたので止まっているものの、声の色は未だ悲しみから変わらない。



「……オズバルト国王陛下の、遺体は、どうするの……」


「このまま東国に返すよ。流石に今回は紅が悪いからね。せめてもの謝罪として、遺体だけでも」



 アリュヴェージュとしても今回移動中の国王陛下の殺害を命じてはいない。これが自分達と似たような家系で無ければここまではしなかったが、何よりレフィシアの望みであるなら出来る限り叶えてやりたい。それは王として、というよりも、兄としての感情が大きい。



「——生き返らせられたら、そうしたいかい? でも、それだけは駄目だ。生きる者の命という灯火はいつしか必ず消えゆく。それが当たり前。いつしか死を迎える。だからこそ生き物。人の儚さ。これをねじ曲げるような事は、絶対にしちゃいけない」



 突然何を言い出してくるのか。


 そんな事出来るはずないというのに。


 そう思ってフと顔を上げたレフィシアの視界に映ったのは、今の自分よりも泣きそうで、堪えているように潤ったラベンダーの瞳。向けてきたそれがあまりにも見た事がなくて、レフィシアは目を見開いた。



「……もし、それをしてしまったら…………いや。心配しなくていい。僕が、そんな事をさせない」



 その先を紡ごうとして、アリュヴェージュは思い止まる。首を横に振ってからレフィシアの頭を優しく撫で続けた。



「お前を、必ず……」



 表情は笑んでいる。声は悲しんでいる。


 レフィシア自身もアリュヴェージュが自らを溺愛しすぎているのを理解していた。


 しかし、これはあまりにも異常だ。


 向けられた感情の意図が読めなくて、でもそれ以上に今はまだ今抱く悲しみが抜けなくて。



 ゆっくりと視界が暗くなり、意識が途切れた。






 *





 オズバルトとレフィシアによって明かされた三年前の事件の真相。


 マティリアスだけでなく、他の兵士達も口をぽかんと開いて驚きを露わにしていた。あの時は東国側の兵士は紅に皆殺しにされていたのだから、知らぬ者が居て当然だ。



「……何で、レフィシアさんは自分が殺した、って……」


「紅の爪は胴を深く裂き、俺の剣は陛下の心臓部を紅ごと貫いた。決め手といえば紅より俺だからだよ。結果論として、俺が殺したのには間違いない。それを、他の人のせいにはしないよ」



 過程がどうであれ、最終的に結果を見られる以上嘘はつけないしつきたくない。東国の恨みを一身に背負う事になったとしても、自分がそうするべきだと思ったからこそアリュヴェージュに頭を下げた。


「自分が陛下を殺したと伝えてほしい」と。


 もちろんアリュヴェージュは最初こそ渋ったが、レフィシアがどうしても貫き通してくるものだからとそうしたのだ。



『マティリアス。同盟を結べ。私は中央は信じぬが、レフィシア・リゼルト・シェレイは信じておる。彼は、お主らが思っているほど怖くはないぞ』


「そうそう! 日常会話なんて、ルーベルグの魔法士にド正論突かれて頭が上がらないんだもん!」


「あー! 言い負けてる図は確かに想像できるっすね! ノエアさんの方が冷静だし!」


「リシェントにあーんなプレゼントもあげてたの、あたし知ってるもーん!」


「ちょっと!? 陛下達の前で好き勝手言うの止めてくれないかな!?」



 オズバルトの言葉の信頼度を上げる為か、ミエルとジュンが便乗し始めた。

 何やら楽しげに語っているが、流石に言い過ぎであるとレフィシアは慌てふためいて思わず声を上げる。歳下二名にからかわれるなんて我ながらどうかとは思うが、自重のしなさすぎは不敬に当たるので阻止したい。


 とはいえ、張り詰めた空気がほんの少し和らいだ気がしたのでそこには心の中で感謝の意を称えた。



「……レフィシアさんに、一つ聞きたいんだけど」



 恐る恐ると、マティリアスがレフィシアに向き合う。



「僕や他の人が、兄を殺せと命じれば、君は殺せる?」



 マティリアスの問いは、レフィシアの心を深く抉る。まだ決断し切れてない部分を的確に突いてきたからだ。



「僕は君はそこまで悪くないと思う。良くもないけど。でも君のお兄さんは別だ」



 まだ成人にもなっていないのに、流石と言うべきだろうか、正論に正論を重ねて叩きつけてきた。その瞳からはオズバルトに向ける子供らしさはなく、一人の王として懸命に振る舞おうとしている覚悟を持ったもの。


 どう返すべきかと悩まされたレフィシアだが、その答えは意外にもすんなりと言葉が並ぶ。




「……本心では、まだ未練は残っております。ですが、それとこれとは、話が別です。もし兄が結果として正しい行いをしていたとしても、俺の大切な人々を傷つけるなら……他の誰でもない」



 この先の言葉を紡ぐのに一瞬躊躇ったが、一息をついて決意する。



「弟である俺が、兄を殺します」



 そうならないようにしたいのがレフィシアにとっての願いであるが、そうなってしまった時には他の誰かに命を奪わせる事はしたくない。血縁者として、弟として、兄の後始末は自分がやるべきである。兄弟そっくりなラベンダーの瞳だが、レフィシアの今の瞳は揺れ動いてはいない。


 これは本物だとごくりと息を呑んで、マティリアスは小さく頭を下げた。



「……ごめん。酷な事を言わせた」


「いいえ。ごもっともです」



 幼いながらも人を見る目を持ち、王であろうとする様は正しく昔のアリュヴェージュを思い出させた。



「……同盟は結びたい。だけど、君達にはもう一つだけ頼みたい事がある。この東国から中央軍の遠征部隊を速やかに追い払って欲しい。そうじゃないと安心して戦の準備に取り掛かれない」


「……畏まりました。それが陛下のお望みであるならば」



 東国側の兵士が動いたらそれは反逆と疑われてしまうが、現状無所属として動いている彼らが動けば問題はないだろう。マティリアスはそう考え、レフィシアに命を下す。


 膝を折って、首を垂れたレフィシアは、ミエルとジュンを連れて一先ず城を後にする——。




 だがこの時は誰も知らない。






 起こる戦いの末の先を。







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