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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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三十六話: 首都〝リーロン〟

 ——首都、リーロン。


 紅葉の葉を持つ木々が連なり、緩い風が葉を攫って空を舞う。


 道中はミエルの魔力回復やら、途中で魔物に襲われたりしていたら丸三日はかかってしまった。ようやく辿り着くことのできたその景色に達成感を抱きかけたが、それはこの先が終わってからだろう。

 ここまで来れば後は徒歩で城に迎えると判断して、ファフニールがゆっくりと降下を始める。やがて地上の地面に三人が足をついた瞬間、役目を終えたファフニールはミエルによって戻されてその巨大なる姿は一瞬にして消えた。


 程なく道のりを真っ直ぐに歩む。


 田んぼや畑が相次いで並び、まだ城下町でないが為か人通りはやや少ない。人はいても農作業に夢中となっていて、幸か不幸か珍しがるような眼は向けてきていない。

 道中、あまり目立ちすぎる行為は避けておきたかったのでそれは助かった。何より、聞きたい事を堂々と発する事が出来ると思ってレフィシアは隣できょろきょろと辺りを見渡すジュンに声をかける。



「ジュンは俺達以外の誰からスフェルセ大陸の知識を得たの?」


「えっ!? い、いやー、ほ、ほら! 俺は死霊術士なんで! スフェルセ大陸の死者の霊が見えるし! 会話出来るんすよ!」



 ジュンは慌てふためいた。王弟殿下という立場上様々な人物を見てきたレフィシアだが、ジュンのこれは何かを隠そうと必死になっている様だ。嘘をつきにくい性格なのは好感が持てるが、隠されると余計と気になってしまう。


「だからまあ、そこそこの知識はあるんで、はい」と無理にこの話を切り上げようとしてきたジュンに対してレフィシアは柔らかく笑んで返した。だがそれはあくまで表面上はという話で、本当は隠しているものが何なのかを問いただしたかったのを拳を握りしめて耐える。



「しっかし、ほんと紅葉が綺麗っすねここは!」



 まるで遠足のように楽しんで歩むジュンを見かけて、畑から鍬を肩にかけた老人が寄ってきた。見た目六、七十程度の白髪の男はその服や白の手袋を土に染めている。



「元気な子達だねえ。旅のも……」



 老人はそう言いかけてレフィシアに目をやった瞬間、鍬を剣のようにして突き立てる。他国でこの顔を知っているのは軍の人間のみなので、恐らくこの老人は軍の関係者なのだろうか。鋭く尖った眼孔はレフィシアを捉えている。



「……もしかして、中央の国王?」


「…………いえ。弟の方です。隠していた訳ではありませんが、もう兄や中央とは縁を切っております。今は北の女王陛下やロヴィエド総大将殿にお世話になっています」



 見た目が似ている為勘違いされやすいが、弟と名乗れば自然とその弟の方の名が浮かぶであろう。予想は的中して、老人は鍬をゆっくりと下に下ろしたが、眼孔だけはそのままだ。



「覚えておるかの。三年前の——」


「はい。覚えております」


「事実か?」


「はい。間違いございません。俺が殺しました」



 ミエル、ジュンは後ろで首を傾げているが、レフィシアの中で東国の三年前といえばあの事しか考えようがない。まだ中央の王弟殿下、中央四将として居た頃に起きた悲劇。その真実を知る者はごく僅か。表面しか見ていない人物達は全てはレフィシア・リゼルト・シェレイのせいだと指を指す。


 レフィシア本人もそれを否定はしない。事実そうだと首を縦に頷くが、老人は眉をしかめたままだ。

 何故ならばと問われたら、今目の前に立つレフィシアからはとても想像がつかないと答えるだろう。無闇に人を殺す残酷で無慈悲な行為を、この悲しみの瞳をした青年がやるものか、と。


 だが彼が自分のせいではないと否定をしないのならば、他人である老人はただ黙り込むしか無かった。



「北国の女王陛下、並びに西国の女王陛下の命により陛下に謁見をしに来ました。私達が普通に行っても印象は悪い。身勝手で申し訳ございませんが、どうかお手伝いして頂けないでしょうか?」


「いいだろう。じゃが、等価交換だ。ちょっと畑耕すの手伝ってくれんかの。若者の方が体力があるじゃろう」


「はい。是非やらせてください。こちらも勉強になりますから」


「はいはーい! あたしもやるー! 身体動かしたい!」


「農作業は学校で専攻してるっすよ!」





 *




 二時間ほど経過するものの、敷地面積が広くあと少しという所で最初にミエルが根を上げ始めた。近くの椅子にぐったり背をつけて座っているのを横目に、レフィシアはひたすらに鍬を振るった。ジュンは早く、適切に耕してゆく。ジュンが農作業は初心者ではないとはいえ、少しばかり悔しいという気持ちに苛まれた。



「ジュンは慣れてるみたいで凄いなぁ……」



 うっかり声に漏れてしまい、すぐ隣にいた老人が目を丸くしていた。



「……レフィシア殿は何でも出来ると思っておりました」


「何でも出来る人間は居ませんし、最初から完璧に出来る人間も居ませんよ。俺も最初から剣が出来た訳ではないです。五歳の時から剣を握った記憶がありますけど、それはもうボコボコにやられました」



 過去を振り返れば五歳の頃、レフィシアの剣術の相手と言えばアリュヴェージュとキアーの二択だ。素の身体能力が高いキアーはまだしも、ごく普通の兄にさえ勝てなかった当時のレフィシア。

 この頃はただがむしゃらに、負けたままは嫌だ、勝ちたいという気持ちを糧として人一倍剣を振ってきた。後に剣術ではあの兄を越え、キアーを相手に勝ち越す程に登り詰めていったのだ。


 今となっては〝瞬光〟などという大層な異名を付けられたレフィシアだが、天才などではなくただの努力の賜物に過ぎない。


 まだ自分の中で平和だった、幸せだった頃の記憶を掘り返して懐かしむと何だか涙ぐんでしまう気がして堪えるように唇を噛み締めた。その様子を見逃す事はない老人はただその後どうなったかを聞き返しはしなかった。

 


「使者はお主とこの二人だけか?」


「後から二人来ますよ。今はルーベルグにいる筈です」



 レフィシアやミエルは魔力感知が出来ない為、二人が今何をしているかは分からない。ただジュンに限っては話が別だ。リーロンに向かう最中に聞いた話だと、効果範囲はそこまで広くはないが霊の魂と魂を繋げ自らの霊力を中継させて特定の魂の場所を探知する術があるらしい。なので、リーロン付近までリシェントとノエアが来ていれば詳しい居場所が分かる。


 とはいえまだそこまで日が経過していないのであればまだ来ない。余裕を持って三、四日は見積もるべきだろうかと今後の動きを考えている最中、畑を見下ろすように道端に一人の男が立ち止まった。



「そうなると、トルテの方は引き上げたんだー、へえー」



 全員が一斉にその声の主のする方へと顔を向ける。レフィシアは見覚えのある姿にまさかこのタイミングで会うとは予想がつかずに名を呼ぶ。



「キアー!」


「あれっ、レフィシアじゃん。噂はほんとだったんだ」





 人間と魔物〝ラビリッツ〟のハーフ。


 国王陛下、アリュヴェージュの側近にして軍の総指揮官。


 〝中央四将〟 キアー・ルファニア。



 頭部の長く尖ったラビリッツの白耳をぴんと立たせて、キアーは下の畑まで余裕を含んだ笑みを保ち降りてきた。






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