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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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三十三話:次世代の聖天魔法士

土曜の夜に身内の不幸の連絡があり、実家に戻っておりました。

月曜更新、翌日の更新が出来なくて申し訳ございませんでした。

葬儀は無事終了いたしましたので、また通常に戻ります。

 ひんやりと。


 それは冷たくて堅牢な鉄に封じられ。


 明日に希望などなく、心の輝きは年月が経つに連れて衰えていく。




 記憶の扉の〝錠〟は既に限界を迎えていたが、その感覚を知るのは——リシェントただ一人である。

 ただ果てしなく続いていく白い空間に、ぽつんと一人リシェントは立ち尽くした。視覚こそあれ触覚がないかのように地面に立ってる感覚が無い。


 夢であるのに間違いはないのだと強く頷く。


 辺りに何かの力の流れを感じて、勢いよく後ろを振り返る。


 周囲から金色と銀色の光の粒が集合して、リシェントの目の前に人の形を取った。



『顔を合わせるのは初めてだな』



 素足のまま宙に浮かぶその人の形は、一見すると男性の姿だ。まるで感情が欠落したかのように表情を変える事はない。それでも、余裕を含めた堂々たる態度である。



『あの小僧と貴様、そして今の貴様の記憶管理者——人とエンジェルの力を持つ小僧、それから……』


「貴方は、誰なの?」



 其れは、()()



『一つだけだ。我が貴様の質問に答えるのは。慎重に、選べ』



 彼は人差し指をぴんと伸ばして立てた。


 嘲笑い、皮肉まじりに口角を上げてきて、リシェントは小さく頬を膨らます。あまりにも余裕を含みすぎている。彼があまりにも人を見下した態度なのだから、怒りという感情がふつふつと煮えたぎり始めるのも無理はない。

 でも今の状況で怒る必要はないなと直ぐに判断して、煮えたぎったものをしんと沈ませた。

 悩みに悩んで唸りをあげてから、ふと浮かぶ疑問を呟くようにぼそりと問う。



「……魔力って、何なの?」


『ほう? 意外だな。それを選ぶか。てっきり我の正体や貴様自身、あの小僧について聞くかと思ったぞ』



 そこも気になっていた所ではあったが気になる所を上げればキリが無い。あえてリシェントがそこを問う理由。魔力なるものが全ての事象に繋ながっているのではないか、という疑問だが彼にとっては小さく愚かな事柄だと笑う。

『よいだろう。教えよう』とにやりと口角を上げて、染みつかれたようになめからと語る。



『北で魔法が使えない理由を……ノエア・アーフェルファルタに問いた時、あやつが何て答えたか覚えておるか?』


「魔法が強烈な原液を薄めたものを魔力としてそれをコントロールとイメージをするものとする。ただ、原液そのものはあまりにも強烈すぎて、薄めた魔力と魔法と同じやり方じゃ使えない……」


『そうだ。その答え方は合っている。流石と賞賛したい所だな』


  思ってもいない事を言葉として並べて、彼は小さく拍手を叩く。



『人は力を魔力と呼称するが、魔力は我の力を極限にまで薄めたものに過ぎぬ。魔力による魔法は、我からしてみれば〝偽物〟に過ぎぬ。魔力と同じ性質を持つ〝霊力〟と〝数値力(ノンボル)〟。〝霊力〟を利用した〝死霊術〟も、〝数値力(ノンボル)〟を利用した〝技巧(フィバイス)〟も所詮は名称が違うだけだ。我の力を極限にまで薄めた〝偽物〟を人が力としてどうこうしている術に過ぎぬよ』



 〝数値力(ノンボル)〟と〝技巧(フィバイス)〟については聞き慣れない単語だが——。



「(〝霊力〟と〝死霊術〟はジュンが使っていた……だから、彼の言う事に間違いはないはず

 )



 秋空の下の死霊術士——ジュン・サザナミが見せた術。その名が出たという事は、つまり彼が語るものは真実なのだろう。それならば信じ難くても受け入れるしかない。



『……さて、我と貴様の会話だが』



 一通りリシェントの質問に応え終わり、一拍。



『話してもよいぞ』


「口止めしないの?」


『ああ。貴様にはな。その方が面白い。〝セカイ〟には歴史という物語があり、人もまたその物語の登場人物、駒である。我もこのままではつまらぬのでな。ハンデを付ける、と言えば分かりやすいだろう?』



 余計な一言だと掴みかかりたかったが、何故か身体が言う事を効かない。指一本、瞬きすらも許されない不可抗力ならぬものである。




『ではな。今度は夢の中ではなく——現実世界で会えるのを楽しみにしておるぞ』




 *




 今までにない夢の内容に思考を巡らせながら身支度を終える。ショートブーツのつま先を二回。髪を整えて客室を後にした。そのまま玄関扉に向かおうとすると、聞こえ慣れた声がリシェントの耳に伝わってくる。



「よお」


「あ、お、おはよう……」



 ノエアの格好が全体的に変わっていた。誰かと思って、リシェントの瞳は丸くなる。儀の装いとして髪をオールバックに整え、秋を模したような紅葉の色のローブと装飾の類。いつもの装いとは違って〝聖天〟と名乗り上げても疑わないほどの絢爛な見た目だ。今ここにミエルが居たら大騒ぎになるだろうなと想像すると少しだけ笑いがこみ上げてきた。



「そうだ、あの。ノエア、何かトルテに飲まされていたよね? 大丈夫?」


「あれは多分、力を覚醒させる為に必要な何かだと思う。流石に体内に入ったモンの成分解析はオレでも難しい」



 ようやく思い出したリシェントだったが、ノエアの顔色は至って健康そのもの。

 ちなみにあの夢の話は今は聞くべきものではないと思い伝えてはいない。急ぎではないのだから〝聖天の儀〟の直前に伝える必要はないだろう。合流した時にでも皆に話したらいい。今はただ、〝聖天の儀〟を終わらせ次第の合流を目指すだけだ。


 ノエアが言うに〝聖天の儀〟が終わった直後は倒れ、数日は本調子とはいかないだろうからそのままリーロンまで運んで欲しいとの事。

 ルーベルグから一番近い村への馬車もなく、かといってノエア以外の魔法士でそれまで繋ぐ転移魔法を使える魔法士は存在しない。方法として歩くしかないが、キアー・ルファニアと紅が東国方面に向かっている情報がある以上は合流優先。戦闘になる確率を考慮して、早めに行動すべきだろう。


 ちなみに、ルーベルグの魔法士二人が途中までノエアを運ぶかと提案をしたがリシェントはあっさりと首を横に振る。

 ノエアが驚きもせずに寧ろ呆れていた原因としてはレフィシア一人を抱えて下山してきた女だからという実績を知っているからだ。ただそれを知らない魔法士二人は「えっ」と声を大にして汗を垂らしていた。リシェントが「平気です」と真顔で言い切るものだから引き下がる他無くてしゅんとした顔で大人しく下がっていく。



「……大丈夫。オレはもう、怖くない。オレは、もう大丈夫だ。そんな顔すんなよ」



 ドアノブを開き、外に向かう。村の中心の小さな広場。その更に中央には人一人分が乗れる、ノエアの魔力によって描かれた魔法陣。魔法陣と向き合うように台座が置かれて、その台座の中にある箱にはセリッドの遺体——ではなくて、髪一房。遺体は不明の状況下で使用できないのでその髪を媒体にするそうだ。


 具体的な儀式の方法としては、魔法士が指定された魔法陣に立ち、髪一房をすくい上げるように持ち、自らの力を全て全開放。余計な力を抜くのと同じような感覚で、一度ありったけの力を外に放出する必要があるのだとか。

 その後地面に描かれた魔法陣と、髪に秘匿された魔法——魔法付与の更に上位と言われているらしい〝聖天魔法〟が発動し、その記憶は魔法士の脳と、血液、細胞にまで渡るとされている。


 ……というのはあくまで噂だけで、実際の所は何故そこまで高度な魔法が人に可能なのかは未だに謎であるらしい。


 ここまで全てリシェントの隣のルイジーナが丁寧に説明してくれたが——。



「(〝魔力〟〝霊力〟……と〝技巧(フィバイス)〟? は同じ。で、それらの力を使って魔法とか、死霊術とか……聖天魔法さえも出来る。でもあの人はそれを偽物だと告げた。だからきっと——)」



 嫌な予感か。



 希望の日差しか。




「(本物は、これに留まらないって事……?)」




 その謎は、リシェントの中でまだ閉じられたままだ。







「これより〝聖天の儀〟を始める」



 村長、ベレリムにより始まりが告げられ、金色の鐘が響く。一人、ノエアは魔法陣と台座への一本道をゆっくりと歩む。目線を逸らす事なく、下を向く訳でも、上を向く訳でもない。ただ真っ直ぐに受け入れる覚悟をした鋭く尖ったブルーグレーの瞳をしていた。


 新たな〝聖天〟の誕生の直前となるこれに、ルーベルグの魔法士達は深々と頭を垂れる。作法の一つらしい。

 ノエア本人も魔法陣へと足を踏み入れて、一礼。台座に置かれた白の小さな箱に手をつけてその中身——セリッドの髪一房をすくい上げるように手に持った。




「(任されたよ。母さん。きっとオレが——)」




 少しだけ、一房の髪を握る手が、強まる。



「おいお前ら!」


「!? おい、ノエア、儀式中だぞ、静かに——」



 ベレリムが村長らしくその威厳を発揮させようとしたが、それより先にノエアがこの場全員に聞こえるよう声を大きく広げる。



「魔法士の里ルーベルグは、これより、東軍の傘下に入れ!」


「はあ!? 軍に!? ヤだよ!」


「いや、そのようにしよう」



 一人が否定したが、それをベレットが静止をした。否定意見は少なくはなく辺りはざわざわと物騒な単語が飛び交ってきた。


 また戦えと。 また大切な人を失えと。


 恐怖を経験してなお、またも挑めと。



「ルーベルグの魔法士の魔法、東軍……何は討伐軍となれ! 抗う事を恐れるな! 未来の為に魔を取れ! オレもその為に——そして、あいつらの為にも〝聖天〟となる!」




 怒号のように激しく、されどそれは怒号とは違う唸りの声。一致団結となった人の抗いの声の塊である。

 その声を合図にノエアは自らの魔力を一気に外に放出。大きすぎる魔力は周囲の動植物に影響を与え、草木は揺れ動き、動物は危機察知して遠くに逃れ始める。闇の重力魔法で上から下に圧迫されるように重苦しく感じるのは、ノエアの魔力量の大きさ故なのだろう。


 次第にノエアの背には、エンジェルの中でも個体値が高い者の証——光の六枚翼が出現する。秋の色をした、東国に相応しい色に濁りのない光の粒が凝縮されて神々しくも見えた。


 ノエアの身体全体におびただしい数の魔法陣達が浮かび上がり、それが聖天魔法の発動を意味しているのだろうか。

 魔法陣が全て消え失せてノエアの魔力がしんと鎮まり感じなくなった頃、力なくノエアが前のめりに倒れ込もうとしたのをルイジーナが受け止めた。



 以上、これが〝聖天の儀〟の終了である。





「意外と、早く、終わりましたね……」


「でも、彼は暫く目は覚めません。一度に膨大な聖天の記憶を受けたのですから」







 秋の朝。



 日が昇りし時に——。



 〝聖天〟ノエア・アーフェルファルタ。




 知らずに人とエンジェルとのハーフとし誕生して、



 母に愛されて、母のような魔法士に憧れた。




 そして今。



 ただ普通に暮らしていた、ルーベルグの魔法士一の負けず嫌い。



 自分の出生を知っても尚、〝聖天〟の名を背負う。



 魔法士の頂点。 全治全能の手前となった、ただ普通の青年だった魔法士である——。

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