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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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三十話:天ノ術

先日は投稿できず申し訳ございません。

取り急ぎの投稿となりますが、来週は週一更新とさせて頂きます。


再来週は週二更新に戻ります。宜しくお願いします。

「……それは、無理だ」



 救いを差し伸べる天使の手を言葉で跳ね除ける。それは本当はそうしたくて堪らないのを、ただただ我慢した結果だ。

 彼女は自分の心の内を理解してくれる唯一無二の家族なのだろうと分かっている。


 それでも。


 それでもとひたすらに繰り返して、ノエアのブルーグレーの瞳は揺れ続く。



「確かに、魔法士っつー生き物は知りたがりな人種で、オレだってそうだ。でもオレはその隣で二人の物語を守り、最後まで見届ける義務がある。それは例えお前が腹違いの妹だとしても、オレの魔法士としての好奇心が疼いたとしても、譲れない大切なもの。だから、お前とは一緒に行けない」



 揺れ動いてなお伝えようと必死にトルテと顔を向き合う。嘘でもない彼の本心を悟り、トルテはゆっくりと諦めの意を込めて両眼を伏せる。



「わたしやスカイルの住人がアリュヴェージュさんに手を貸しているのは、利害が一致しているから。アリュヴェージュさんのやる事が、一番いいと思っているから」


「……人を殺す結果になったとしても!?」




 横やりを入れるようなリシェントの否定的発言に、トルテの伏せったブリーグレーの瞳は再び開かれる。それは、天使のような慈悲でもなければ、悪魔のような狂気でもない。

 リシェント自身も感情を表に出すのを苦手としているがここまで感情の無い瞳を始めて見た。ここまで恐ろしいものを見るのは、戦闘時のレフィシア以外無い。




「では問いましょう。どうすれば〝セカイ〟は救われる? どうすれば〝レフィシア・リゼルト・シェレイ〟を〝彼〟から引き離す事が出来る?」




 トルテの脳裏に映る数々の出来事を二人は知らない。




 かつてのトルテは〝天空の巫女〟としてスカイルの老人達により厳重に管理されていた。


 まるで大切な鳥を誰にも渡さぬよう、鳥籠に閉じるように。


 自らもその理由に納得していて、あえて翼を広げず虎視眈眈とその時を待つ。



 ——地上の様子を天ノ術で監視するだけの生活。



 当たり前だと考えていた使命。


 ある日。



 どうやってスカイルに来たか全く検討のつかない地上の人間の子供。それこそが幼きアリュヴェージュ・リゼルト・シェレイ。



 そのラベンダーの瞳には人の子供とは思えぬものだ。



 咽び泣きたいほどの悲痛。


 〝彼〟に対して異常なほどまでの怒りの鬱積。



 様々な感情が渦のように混ざり込んで、今も思い出すだけで末恐ろしく思う。



 アリュヴェージュは〝セカイ〟とレフィシアの為になら例え自身が悪だ非道だと指を差されても、その先の未来の為にずっと、ずっと抗っている。


 トルテがアリュヴェージュに協力するのは利害の一致が大半を占めるが、アリュヴェージュの確固すぎる信念に動かされたのもあった。



 だからこそ。


 アリュヴェージュには幸せになってほしいと願い。


 その為ならば命すらもかけられるし、敵対している腹違いの兄の力をある程度まで覚醒させ、アリュヴェージュの味方につかせればと考えていた。



 ——作戦は、失敗したが。






「……わたしも一端の将です。私的な情を当たり散らす事はもうしないのですよ。ただ……確かめさせて下さいなのです」



 エンジェルの固有能力〝天ノ術〟。


 その数は十。


 一に、空間から物を出し入れする〝ラオム〟。

 ニに、一定範囲内の生物の動きを完全拘束する〝ドルミル〟。

 三に——一定範囲内にスカイルの土地そのものの幻を現実として出現させ、一時的に戦闘空間と化す〝サトゥル〟。


 〝サトゥル〟は地上での戦闘で周囲に被害を与えない為の能力。墓石達に気を遣っての能力発動だというのが安易に想像できた。

 まるで空中都市のように一帯が黄昏の空。岩の地面達は空を浮いているが、その原理が果たして魔法なのかどうかは理解し難い。

 現実の土地を破壊する恐れを避けられるのはありがたい事ではある。そこだけはトルテに感謝しておいて、リシェントにかけられていた〝ドルミル〟が解除される。



 エンジェルは通常地上の魔法は使えない体質を持つが、唯一無二、トルテだけは例外であった。その実力の差は火を見るより明らかで、リシェントやノエアが圧倒的不利な状況には変わりない。


 ノエアもそのトルテによりエンジェルの固有能力のおおよそを覚醒させてはいるだろう。それもまだ中途半端な上、魔法士であるノエアがエンジェルの固有能力の全てを知るはずもない。




「リシェント! オレが牽制する! 一撃は頼む!」


「……大丈夫なの?」


「……問題ない」


「分かったわ」



 ノエアも相当の実力を持つ魔法士であるが、ルーベルグに行く事になってから精神面が揺らいでいる。無理はさせたくないが、下手な慰めは逆効果。ただ、大丈夫かそうでないかとシンプルに問う。顔色こそ言葉と相反して青ざめから戻ってはいないが、これ以上否定の言葉をかける必要はない。



「先ずは飛び回ってるのを落としてやる! 雷を凝縮し、槍となりて、穿て! 〝フードゥル・ランス〟!」



 紫電は槍のように凝縮。数本の雷の槍がトルテを四方八方から矛先を向ける。



 光属性魔法ほどではないが、雷魔法も比較的に速度が速い魔法が数多い。〝フードゥル・ランス〟はその中でも速度と貫通力に長けた雷の上級魔法だ。トルテは背の天色の六枚翼で空中を舞うが、簡単な追尾機能も兼ね備えたそれを、一度では躱し切れない。

 全方位、円球に白き羽根が盾のように〝フードゥル・ランス〟の威力を劇的に弱め、ちりちりと音を立てて消滅させる。


 天ノ術の一種——〝ヒンメル〟。



 だが〝フードゥル・ランス〟はあくまでもトルテにダメージを与える為のものではなかった。


 トルテが刺さる視線に気付いた時には、既に作戦は成立していたのだ。


 ノエアの転移魔法でトルテの真横にまで転移したリシェントはその右拳に銀を纏い、トルテはその攻撃を真正面から直撃を受けた。




「痛ッ、タタタ……素の人間や魔物だったらあっぶなかったー……エンジェルで良かったのです。まあ、その力の本当の使い方を知らないのなら怖くないですね」



 いくら飛べるとはいえ、勢いよく叩きつけられれば墜落はする。岩の地面に背を打ちつけ、反動で前に倒れそうになる所を右手を杖にして防ぐ。

 本来であれば自らの力の正体を吐き出させようとしたリシェントだが、今は自分の事はどうでもいいと唇を噛み締めて我慢を続ける。


 軽い足取りで再度立ち上がるトルテ、その右腕に、白の光が糸のように絡みつく。



「〝リトリビューション〟」



 その言葉を唱えると、トルテの隣にその獣が姿を露わにする。

 それは獅子のように気高い胴体。

 鷹のような頭と翼を持ち、前足二本はその漆黒の鉤爪がぎらりと輝いていた。

 大きさといえばミエルの召喚獣、ファフニールにも匹敵するであろう巨体。



「この子は〝ぐっちゃん〟。正式には〝シュテルリヒト〟」



 召喚獣の上位に値するスカイルの攻獣。

 スカイルは守獣と攻獣によって外敵を防いでいたという。つまり実質召喚獣よりも遥かに強く、実質二対二にもなる。不利な状況は更に不利と化した。



「そして、ぐっちゃん……スカイルの攻獣はエンジェルと似たような力を持ってる。リシェントさんの力にも精々五、六発は耐え切れるでしょう」



 トルテにだけは懐いているようで、すり寄っていたシュテルリヒトだがリシェントとノエアに向ける赭の瞳は殺意の塊に満ちている。

 四本足を踏み込み、二枚の翼で鷲のようにリシェントの真上を旋回。スピードをつけてから急降下。

 鉤爪を振りかざし、紙一重でリシェントは避ける事ができた代わりに犠牲となった岩の地面は深く抉られて、真っ二つ。


 足場をなくしたリシェントが空中で身動きが取れずにいる所を更に追撃。鉤爪が防御体制を取るリシェントの左腕にこれでもかと突き刺さり離れない。


 もう一撃。


 鉤爪ほどではないがその尖った嘴はまるで槍の如く鋭利である。喰らったらまず即死だ。


 痛みに眉を潜めながらも力強く右手で鉤爪を腕から引き抜く。体重もかけて常人であればそもそも不可能に近かったが、リシェントはどうにかやってみせた。鉤爪をなぞるように血が飛び出して、体全身が熱と痛みに苛まれる。そのまま右で鉤爪を捉え、左に銀を纏う。痛みを堪えて、シュテルリヒトの腹部に一撃を突く。


 後方に勢いよく吹き飛んだが、どうにか翼を広げて体制を維持させたシュテルリヒトはなおも戦意が失われていない。



「……わたしはこれにて失礼するのですよ。ぐっちゃんを倒すか、二人が完全に倒れるかすれば、サトゥルの効力は消えるようにしましたから」


「はあ!?」


「ああ。最後に。魔法は奇跡の力云々のお話、残っていましたのですね。一番やってはいけない事……いや、魔法では出来ない事。それは——いいえ。教える必要など、もう無い。では、さようなら」




 空色をした光の六枚翼を背に、一時的な戦闘空間の穴から差し込む黄昏の小さな光。転移魔法でも使ったのだろう一瞬のうちにトルテの姿は消えたが、問題はまだ消え失せない。


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