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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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二十八話:新たな中央四将

すみません、体調が優れないので(理由:女子の日)今回はかなり短めです。次回からノエアくんに関する超重要回なので……ちゃんと執筆したい……。

この回の訂正時に少し付け加えられたらと思います。

「あの。まだお話しても、大丈夫ですか?」


「ええ。大丈夫ですよ」


「〝聖天の儀〟ってそんなに必要なんですか?」


「……今年は特に、必要なんですよ」




 ルイジーナは語る。


 西国の予言魔法の結果として歴史上最悪とも称される事柄から人々を守る為に、聖天魔法士は必要であると述べた。その口調はまるで幼き頃からさぞ当たり前に染み込んだ習慣のように淡々としていたものだから、リシェントは自身の今の感情を疑ってかかる。



「あの事件の時にセリッド様が一部の記憶をノエアくんに移したそうですが、セリッド様が〝聖天〟であった以上、少しでもその記憶を保有している事はその権利を所有しているも同義。ご納得は……していらっしゃらないようですね」



 ルイジーナは引きつらせていた肩をがくっと下に下げる。ルイジーナがいくら説明をしたとしても、ふつふつと煮えたぎる怒りと似た感情はリシェントの中で消える事がない。

 ノエアが確かに凄い魔法士であるという点、〝聖天〟の素質があり、権利を所有しているのも事実。だがそれ以前に彼も当たり前のように人である。

 葛藤し、苦しみ、悲しむ。ルーベルグの魔法士達はそれがこの先の未来に繋がると信じて事実を突きつけているのだろうし、ノエアもそれを分かって頷いたのだろう。


 ただ——ルーベルグの魔法士達がさぞ当たり前のようにノエアに〝聖天〟という重荷を背負わせているかのような発言には、首を横に振るしかなかった。



「そもそも〝聖天〟って何なんですか?」


「……古い書籍、いや、伝承、と言ってもいいくらいの、古い、古いお話がございます」




 〝この世の万物を知り得る者〟。


 賢者、全知全能に限りなく近い存在。


 過去の聖天魔法士全ての記憶を受け継ぎ秘匿する者。





 ここでリシェントは今更ながらの疑問に辿り着く。


 ノエアの母、セリッドは既に亡くなっている。その状態でどのようにして記憶を全て受け継ぐのだ、と。



 浮かんだ疑問を容赦なくルイジーナにぶつけると、彼女は言葉を詰まらせる事もなくすらすらとその問いに答えた。




 ——ノエアはセリッドの記憶を少しでも所持している。


 そしてセリッド本人……というより、聖天魔法士は、自分が仮に亡くなったとしても引き継げるように死亡後もなお自らの身体の至る所——髪の毛から爪の垢にまで記憶を秘匿している、らしい。

 


 またも更に疑問が浮かび上がる。



 何故そのような事が可能なのか。


 死ねば身体からは魔力も失われて、ただの抜け殻になる。魔法付与……ならば話は別になるのかもしれないが、どうもまだ理解がし難い。



「(この世界の魔力や魔法は、もしかしたら……私の、私だけじゃない——)」



 他の誰もが想像も出来ないほどに複雑で、何よりも謎が多いものなのかも知れない。


 身近にあるようでまるで分からないそれは、この世界の歴史でもあり、魔力魔法の類であり、ノエアの魔法でない何かであり、リシェントやレフィシアの謎の力でもある。


 何もかもがまだ知るのは先だと言わんばかりに真実はカーテンに隠されている。透けて見えそうで、カーテンに手にかける事が出来ない。許されない。


 見えぬまま、知らぬまま、無知に生きる方がまだ楽なのだろうが——。





「ルイジーナ」


「村長」



 扉のノックがコンコンと小さく二回叩かれてからゆっくりと開かれた。ベレリムとノエアだ。ノエアは筒のように丸めた紙をテーブルに広げた。何かの図と共にびっしりと文字が詰められている。



「ノエア。解析結果を」


「ああ。まず、魔物でも希少個体種でもねー。なんつーか、力が圧縮して具現化した集合体、みたいな感じだ」


「みたい、って……」


「ったく、こんなん初めてだぞ」



 〝解析魔法〟。上級魔法に値するこれは、ルーベルグの中でも使用者が限られている。魔に関するあらゆるものの流れなどを感知・解析。主に遺体の解剖の代わりに用いられるものだ。この紙は、その解析魔法を元にして分かりやすく図にしたもの。

 ノエアは自らが決めている方針〝確信の持てない事は言わないし、言いたくもない〟を破っても説明すべきだと思って説明をしていると、ベレリムは今だとタイミングを逃さず話を切り替えた。



「〝聖天の儀〟の準備はこちらでしておこう。ノエアは今日一日はゆっくりしておれ。なんなら墓参りにでも行くがいい。ここからそう遠くはないだろう」


「……おー。んじゃ、ちょっくら行ってくる。リシェント。お前もついてこい。実際に見た方がよく分かる」



 謎の沈黙を作ってから、特に何ともなさそうにノエアはリシェントを後ろに連れて部屋を出た。



 *




 リシェントはノエアの後ろから、ただたた言葉を紡がずについてゆく。ノエアの背は何処か内側に丸まっていて、足取りは僅かと重い気がしてならない。


 下手な慰めは、ノエアにとって不必要なものだろう。

 ミエルのように付き合いがそこそこ長ければ話は別になってくるのかもしれないが、リシェントはそうも言えない。



 ルーベルグの住居からほんの少し遠く歩いてようやく到着したそこには、石で作られた墓石が連なって道を作っていた。


 百、二百、それ以上の墓だ。中には灰すら残らず消えた者もいて、埋葬されていないとノエアは囁くような小さな声で、語る。



「……魔法は、奇跡の力とか言うけど万能じゃない。万能であってはならない。少なくとも俺はそう思っている」



 ザァア、と乾いた音を立てて紅葉はゆるい秋風に力強く舞う。リシェントは漆黒に揺れた髪を掻き分けて、目の前に落胆の背を向けているノエアに自分までもつられて気持ちが落ちてくるのを感じていた。



 ——前を向いていても、後ろを向かなければならない事は必ずある。



 辛く、悲しい事でも、後ろにあったものが目の前に現れる事だって——今のようにあるのだ。


 それでもなお生を受けて地に足をついている以上は受け入れなければならない。それは、ノエアが一番理解している筈だ。



「(でも……)」



 突然として母を亡くし、母の代わりに背負うものがあまりにも大きく、重過ぎる。それに対し自分に出来る事が何もないのが悔しくて、リシェントは小さく唇を噛んだ。



「〝魔法は奇跡の力〟……ですけれど、万能ではない。確かにその通りなのですが、人というのは愚かな生き物なのです。一番やってはいけない事……いや、出来ない事があるのはご存知でしょうか」



 ——後ろから、いつの間に。


 全く気配すら感じなかった。


 ノエアですら感情に浸っていたのか気づくのが遅くなって、勢いよく後ろを振り返る。


 金の髪のショートボブは、秋風に小さく揺れて両耳は人間という種族とは違う形を持つ尖った長い耳。

 彼女はビー玉のようにまん丸としたブルーグレーの色の瞳を一瞬にして細める。



「初めまして、なのです。トルテ・エレーゼリーン。レフィシアさんと入れ替わりの……中央軍の〝中央四将〟なのですよ」



 愛らしい笑顔に秘められた謎は明かされる事はない——。




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