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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 二節・東国
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二十四話:秋空の下の死霊術士

  「いや……マジですんません……」



 少年は未だにぐりぐりと杭のように頭を地面にこすりつけて土下座の姿勢を崩さない。草と土と石で出来上がった地面で、少年の額と髪にもそれがこびりついている。

 確かに下手をすれば危なかったものの幸いな事に怪我人は出ていない。少年にこれ以上敵意がないというならばこれ以上責めたてる必要もないだろう。

 顔を合わせながら全員一致の頷きの後「まあ、怪我人出なかったのが幸いだけどな。つか、そろそろ顔上げろ」とノエアが代表して少年に声をかける。

 顔を上げた青年の額は石で潰れて赤みを帯びながら草の緑色と土の茶色がついていた。右袖でそれを拭ってから、少年は両膝を浮かせ立ち上がる。



「あっ、自己紹介遅れて更にすんません! オレはジュン・サザナミっす! よろしくお願いします!」



 顔をほころばせ、少年——ジュン・サザナミは名乗った。




 *




「……じゃあ、要するに四人とも、戦争に向けての準備を手伝ってるんスね。マジか。魔法も有りなら完全に西洋ファンタジーじゃん」


「簡単に言うとそうね……」



 ジュンに今までの経緯を説明すると、想像以上の飲み込みの速さと順応さにリシェントは静かに目を見開いた。自分ですら戦争となれば恐怖を抱くというのに、ジュンは至って話に納得するように首を頷かせている。

 西洋ファンタジーという単語にどのような意味が含まれているのかの考察はこの際置いておくとして——。

 リシェントがぐるぐると思考を巡らせているうちにずいずいと薄緑のツインテールを揺らしてミエルはジュンに歩み寄った。



「ジュンって魔法士なのー?」


「ああ、これっすか? 魔法じゃないっすね。あ、見た感じはそう見えなくもないか……これは()()を使った死霊術(しれいじゅつ)っすよ。オレ、死霊術士(ネクロマンサー )なんで」


死霊術士(ネクロマンサー )?」



 物怖じせずに問いを投げかけたミエルに内心はらはらさせられたが、なんて事はないと平然にジュンはそれに返す。


 ——死霊術士(ネクロマンサー )


 リシェントも、レフィシアもノエアも。当然質問を投げかけたミエルですら聞いた事のない単語である。



「……おい。お前ここで暇してるなら協力しろ」


「あ、いいっすよ。詫びもあるし。ただオレはシアさんとついて行きたいっス」



 ノエアが協力を仰ぐとかなりあっさりと首を縦に振って承諾したので、流石のノエアもぽかんと口が開きっぱなしになっている。

 何故レフィシア、と更なる質問を投げたら、ジュンはげっそりと疲れ切った顔色で「ナエが勝ち逃げ許さないって隣でうるせーから」と大きな溜め息つきで言葉を返す。ジュンの隣には何も見えないのでどう言った意味でその言葉を言った意味は分からない。



「戦力が増えるのはいい事だ。じゃあ、後は頼むぞ」



 質問に質問が多すぎてキリが無いので後回しに出来る事は後回しだと感じたノエアは、ミエルと視線を合わせる。

 ——ミエルが召喚術にてファフニールを呼び出す。その風に紅葉が更に巻き上げられ空中に踊り舞う中、リシェントはジュンの反応が気になって横目で確認する。



「うおーー!! すっげーーーー!! ドラゴンなんて初めて見た!!」


「珍しい?」


「いやあ、こっちは召喚獣とか魔物とかいないっすからね!アニメとか漫画とか、小説とかの空想上の物語に出てくるヤツっすよ!! うおおおおおお!!!!」


「あ、あにめ……まんが……?」



 あのレフィシアでさえ勢いに圧倒されて引くほどに、ジュンは炎が燃えたぎるような熱量の声を出して叫ぶ。

 更に聞き慣れない単語を疑問形でレフィシアが復唱していると「えっ!? あ!? これアレか! 布教するパターンか!?」とぎらぎら眼も燃やしてきた。第一印象の異国人……かも知れない人から一転。今となればまるで異国人である可能性は高いが、それでもただの少年という印象に変わる。どこに在ろうとも、それだけはきっと人として当然なのだろう。



「おいそこのガキ二人! わちゃわちゃ遊んでないでさっさとしろ!」



 ミエルはジュンの話に興味満々として、ジュンも好きな話に興味を持たれて気持ちが昂っていると、ノエアのピシャリと雷のような厳しく一声が降り注がれた。

 ガキ二人と称されてしまったミエルとジュンがびくりと肩を上に引きつらせる。まるで叱る父親と叱られる子供の図だ。


 ——そういえば、ノエアの家族はルーベルグにいるのだろうか?


 リシェントの家族、両親は常に住み込みの生活で家には一度も帰宅した事がない。給金だと金がし送られてくるだけだった。もっともリシェントの家族の記憶も、実はリシェント自身違和感を抱いているもののうちの一つ。事実かどうかも疑わしかった。



「……お前一人で保護者係、大丈夫か?」


「た、多分、ね。でも賑やかなのは俺も好きだよ」


「おう……まあ、無事を祈るが」



 そしてルーベルグ行きのノエアとリシェント、リーロン行きレフィシア、ミエル、ジュンと分かれ道を進んだ頃。


 ノエアは顔を俯かせ右手で頭を支えた。


 何か問題事でもあるのだろうかとリシェントは気になりながら無言でノエアの後ろについていく。

 深く大きな溜め息をついて、ノエアは虚脱そうにぼうっとしているように見えた。



「ミエルも、多分あのジュンって奴も天然だろ? シアも甘やかしすぎてるし……戦闘のパワーバランスで分けたとはいえ……突っ込み不在で大丈夫なのか?」


「あー……」



 戦闘力についてはレフィシアも居るので問題はないだろうし、ジュンも先程戦った限りではかなり実力があるだろう。だが問題はそこではない。何となく想像が出来てしまって、ノエアの人柄を思うとこちらまで胃がキリキリと痛痒く感じてきた。



「お前、ジュンの戦闘を見てどう思った?」


「……私は、ジュン本人じゃなくて、ジュンの持ってた棺桶の中に居た女の子が気になってた。ノエアはどう?」


「本人も言っていたが、確かにアレは魔法じゃない。だけど魔法じゃなきゃ何なんだってなるけど、それを聞くのは後回しだ」



 ジュンが味方になった以上、聞く機会は幾らでもある。ならば、先に北国で手に入れたアレの解析が最優先なのに変わりはない。


 ルーベルグは紅葉の森の奥深くに静かと佇んでいるがそうゆっくりしている必要はないので、近くまで転移すると案を出された。


 特に否定もなくリシェントはその案を呑み、ノエアの転移魔法の光に包まれてゆく——。




 *



 転移魔法で視界に広がる景色が一気に変化を遂げる。とはいえ、紅葉と草木の種類こそ共通して変わらず。稲穂が刈り終わった田んぼが左右に広がっているのが唯一先程とは違うものだろう。



「こっからはまた歩くぞ」



 慣れた、というよりも当たり前のようにずいずいと紅葉の森の中の草むらをかき分けて進む。以降に道という道がないのは、里の場所を知られない為に道を拓いていないという。隠蔽魔法が二重、防御一重、計三重の魔法が重なっているとしても、念には念をという言葉は存在する。



「今のルーベルグの総人口は百五十程度じゃねーかな。非戦闘員を抜けばもっといねーと思うけど。非戦闘員の女子供、老人を優先させて避難させてたみてーだけど、それ以外はほぼ全滅。女子供老人も、避難中に殺されたりもしてた」




 無言を貫いていたノエアが、気まずい雰囲気になってしまったのに気付いて当時の事を思い出しながら語る。〝ルーベルグ魔法士大量殺戮事件〟ではアリュヴェージュは出陣こそしたが、彼自身はあまり人殺しという手をかけてはいない。

 大半は中央四将の手柄——主に紅とアルフィルネだという。もう一人のキアーは捕獲優先に動いていたらしいが、残りの二人がうっかり殺しをしていたのなら捕獲より殺された人数が多いのは当然だ。




「言っておくが、あんなのはまだ可愛い方だ。時期に始まるだろう、戦争よりか、ずっとな」




 ルーベルグまでの道のりの間。



 ノエアは自らの人生から〝ルーベルグ魔法士大量殺戮事件〟までをリシェントに聞かせた。



 まるで振り返るように。





次はノエアくん過去回!!! です!!!!!

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