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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 一節・北国
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十七話:煌々に再現する銀の力

ちょっと中々筆がのらない状態での執筆だったので、時間ある時に直し入ると思います……!

 ——一方。


 レフィシアの懸念通りの事がもう片方側で起こっていた。ミエルの魔弾銃も、ファフニールの風魔法も、ノエアの氷魔法すらも薄銀の()()には通用しない。ぐねぐねと常にその形状を変化させてひたすらに一般市民や兵士達の被害を拡大していた。呑み込まれた人々は瞬間的に粉末状となって、それは薬を飲むように吸収されてゆく。

 異様な光景を目の当たりにして、その場から足が動かない。



『ノエア殿。お気づきですか』


「ああ。魔法が効かない、というよりかは魔力という概念の消滅だな」


「そんなのアリィ!?」


「普通はねーよ! でも実際目の当たりにしてるんだし仕方ねーだろが!」



 ノエアは声を大にしながらも、氷魔法を放ってゆく。数十の氷の矢はそれの足元に狙いを定めて向かうも、あっさりと避けられてしまう。レフィシアよりは遅いが、それでも魔法攻撃を安易に躱す速さを持っている。直撃したとしても、効かないのなら意味がない。

 ファフニールもどうにか誘導を試みるも、彼らの餌食となりかけそうになって間一髪ノエアの強制転移魔法により救われた身だ。慎重になるのも無理はない。戦闘能力の違いでリシェントはミエルと共に一層の距離を保っている。下手に近寄ればやられてしまうとからという苦肉の策だが、ノエアとファフニールだけでは圧倒的に戦力不足だ。



 ——シアが来てくれれば。



 三人の脳裏に、同時に浮かんだのは別方向に向かっていったレフィシアである。彼ならば一瞬の如くに倒してくれるだろうという心躍らす期待が安易に生まれた。

 

だが——一人だけ期待とは違う感情が奥底に湧く。



「(違う。私は、彼と——)」



 頼るだけではダメだ。


 その優しさと強さに、縋るのもダメだ。


 きっとリシェントが望めばレフィシアは暖かな笑みと共に首を縦に振る。そういう人間だろう。例えレフィシアがそうしたいと思っていようとも、リシェントは否定したいと眼を細める。

 


あの銀の力を今こそ。


 念を送るように拳に力を入れても、上手くいかない。


 どうして——。



「あの力を、使いたいか? お前にその力を使う覚悟があるなら、少しだけ手を貸してやる。あいつほど、お前の力を引き出せる訳じゃねーけど」



 力を使えぬ悔恨の心に両足がすくむ中、ノエアが恐ろしく静かで落ち着いた声を向ける。

 声はそうだが、顔つきは違う。強張って眉を引きつってはいるものの、なんとなく、哀れみを感じる。ノエアの亜麻色の髪は足止めしているファフニールの風魔法の風力により強く靡いて入るが、ブルーグレーの瞳は揺らぐことはない。



「お前は何で、戦うんだ」


「……私は、自分が守られるだけの存在じゃなくて、〝誰か〟を守る存在になりたい。〝誰か〟と共にありたい、それを叶える力が欲しい」


「その言葉と想いを、忘れんじゃねーぞ。これからも、ずっと。それが出来れば、きっと使える。オレ個人からしたら、使って欲しくは無いけどな」


「……それ、どういう」


「さて、出来るな? 悪いがオレは魔法以外お粗末なんでな」



 話を逸らされた。


 だが、ノエアはそれ以上口を紡ぐ事はない。


 今は、行き詰まった心を導くノエアに、リシェントは感謝の頷きを一つ。


改めて、一息をついて眼を閉じる。



 ——それは願いを叶えたいが如く。


 ——力を与えるが如く。


 ——炎のように燃え盛る銀の光は、一切の濁りも不純物も無く。


 煌々とリシェントの両手に纏わりついた。





「(そう……この感じ)」



 初めて発現させた時よりも、より一層の力が心に染み渡る。

 この力を使う度に——何処か自分の中で欠落したものが戻ってゆくと、リシェントは感じていた。

 悲しみも、幸せも。例え自らが望まぬものだとしても。

 確実に自分の一部であるという確信を噛み締めた。



 丁度その頃、援軍を引き連れてやってきたロヴィエドはその緑の眼を大きく見開く。目の前に、かつて守れなかった人が力を使っている光景を見て止めにかかろうとした。


 ——だが、それを自ら抑え込む。


 あの力でなければ市民も兵も守る事が出来ない現状を理解しているからこそ、今の自分に出来る事は市民や兵の安全確保だけだ。

 冷静に考えたらそれしかないと、大きく見開いた眼を再び細くして、援軍兵隊に指示を与えてゆく。

リシェントは一気に距離を詰めようと駆ける。速さ勝負では足元にも及ばない。一撃さえ与えられればこちらの勝利である。



「……効かなくても!」



 ミエルは再度魔弾銃を取り出し、発泡。勿論当たる事は叶わぬが、当たれば動きは止まり当たらなくてもある程度動きを誘導できる。最悪敵は一体しかいないのだから、そちらにだけ動きを集中すればいい。攻撃が向けられているのに気がついたそれは、リシェントに眼をくれずにミエルに素早く近づくも、一瞬のうちにミエルはその場から姿を消した。ノエアの強制転移魔法だ。急な転移魔法をかけられて身体をぐらつかせていると、ノエアがミエルの首根っこを掴んで支える。



「うわっ!」


「前に出過ぎるな。それに、一瞬の足止めなら任せろ」



 闇の重力魔法の詠唱破棄。淡い紫の魔力は半球体、広範囲に渡る。更に広範囲の中で対象をただ一つとした高等魔法。当たり前の如くノエアは安易にやってのけた。


 有効打ではない。ほんの僅かに動きを鈍らせる程度の、可愛い程度だが——。


 ——それだけで十分。


 リシェントも、両脚に同じ銀の力を纏えば、通常の何倍も速い。渡り合える。



「ハァァァアアァア!!」



 真正面の、人でいう腹の部分に、弾丸の如き一撃の拳の突きを二回。

 謎の奇声すら発しないままにそれの身体は不自然にひびが入って、硝子のようにピシャリと割れ——はしなかった。


 それは、ひびが入った所で止まって、ずしりと鈍い音を立てて倒れ込む。



「…………たお、せた?」



 伺うように試しに足の爪先で軽く蹴ってみる。生きていたら動いているだろうが、動かない様からやはり死んでいるようだ。

 ファフニールを戻してから、ツインテールを揺らしリシェントに抱きついて大喜びするミエル。二人の女子が喜びを分かち合うという微笑ましい光景を他所に、ロヴィエドの表情は責めるかのように険しい表情だ。矛先は微笑ましくしている二人ではなく、もう片方の、ブルーグレーの瞳を伏せているノエアの方に向けられた。



「何故、あの力を使わせた?」


「じゃないと被害が更に広くなるだろ。てかあんたもそれは思ってたんじゃねーの。まあ……後は、今後の為にも、リシェントの為にも」


「……君はやはり、セリッド様の息子だな」


「買いかぶりすぎだ」



 ノエア自身も感じていた。戦闘に関してあまりにもレフィシアに頼り過ぎている。意識的だけではなく、無意識の中でも。唯一、それを自覚した上で否定をしようと抗っていたのは紛れもなくリシェントである。ノエアは自らが反省すべき点はレフィシアに頼りすぎないと自覚して、そこからどうするかをよく考えてなかった所だろう。安堵と無力さにゆっくりと息を吐いていると、ロヴィエドとノエアの間にレフィシアが着地する。



「皆! 大丈夫!?」


「……被害者は、出てしまったがな」


「そうか……」



 右手に剣を持ったままにレフィシアが到着。被害が出てしまった事実を突き付けられ、重苦しい雰囲気に変わる。



「大将。こいつと、シアが仕留めたヤツ。持ち帰っていいか?」


「それは構わないが……どうやって持ち帰る気だ?」


「まあ……とりあえずどっちみち城には行くんだろ。城に運んどいて貰えれば。あまり目立つ所で使いたくねーし」



 何の事だろうかとレフィシアとロヴィエドが首を捻っていると、ミエルがリシェントの左腕をひったくり、嬉しそうに引っ張ってきた。

 暗い雰囲気になるのはここまでかと、ロヴィエドは合流に向かってきた老兵、アドルフォンを視界に入れる。

 アドルフォンの黒眼は未だレフィシアに向けられて、憎悪に満ち溢れていた。彼だけでは無い。兵士の大部分が向けるレフィシアへの感情は、いくら女王陛下の許しが与えられてロヴィエドから安全を保証されてるとは言ってもそう簡単に変わるものではない。


 そんな中、今度は二人の女性兵士が足取りを速くに駆けつける。



「ロヴィエド様」


「ヴァレンティーヌ嬢。ロレーヌ嬢。ご無事ですか」


「ああ、無事だが、その敬語はいい加減やめてくれ。同じ子爵であろう?」


「いえ。子爵令嬢の貴女に何かあったら、私はマルシェ家に顔向け出来ませんから……」



 ロレーヌは男勝りの口調と態度を乱さずに、ロヴィエドに指摘をする。何故子爵令嬢たる人物が兵の一員となっているのか、その理由はまだ謎だ。

 ロヴィエドとロレーヌが互いに現状報告の共有を行なっている中、ロレーヌと同じ緋色の髪をしたヴァレンティーヌは、レフィシアの元に手早く駆け寄ってきた。



「レフィシア様!」


「……被害は出てしまったみたいだ。もっと早く駆け付けられたら良かったんだけど……」


「それはレフィシア様のせいではございませんわ!」


「……まあ、そうだと思うけどね」



 実はレフィシアがこちらに向かう途中にも同じものが数体出現していた。現状倒せる人物が自分しか居ないと分かっていたのでで民間人を庇いながら手速く処理するも、結果として到着が遅くなってしまった。だが、その結果別の民間人らの被害が出てしまって、気が沈んでしまった。


 悪くない。ヴァレンティーヌは何度もその単語を繰り返す事で少しでもレフィシアの気持ちを軽くしようと試みている。


 だが——結果論は覆せない。


 消化しきれない悔やみと、向けられた憎しみや嫉妬の重苦しい視線達にやりようの無い感情が渦巻くばかりだ。



「あ、の……!」


「ん? ああ。リシェント。無事みたいでよかった」


「……悔やむのは大切。でも、そこからどうするべきかも、大切、だから……」


「……そうだね。ありがとう」



 レフィシアは悲しみで伏せていたラベンダーの瞳をゆっくりと開かせ、どうにか作った笑みをリシェントに向けた。


 リシェントにとって、レフィシアは太陽であり、光のような存在。何処か欠如している自分に手を伸ばして、導いてくれる存在。悲しんで欲しくはないとは思うが、同時にそれを強要する権利は無いとも思っていた。


 幸せも、悲しみも、人の持ち合わせているものである。


 それぞれの感情を抱くのは個人の自由。そうして欲しくないと思うのまではいいが、悲しむな、怒るな、などの強要は正しくない選択。


 それがリシェント・エルレンマイアーとしての考えだ。



  「ロレーヌ嬢。ヴァレンティーヌ嬢は彼らをメルターネージュ様の所へ。私は事後処理をしてから向かおう」



 ロレーヌとの報告のし合いを終わらせたロヴィエドは、ずれかかかった眼鏡を整えてから、四人の今後をマルシェ家の姉妹に任せた——。


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