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 桜の樹の下には、君の罪が埋まっているの!

 これは信じていいことなの。掘り起こしてみる勇気はないけれど、その在り処は知らないにしても、君の犯した罪については知ってしまっている。

 どれほど目を逸らしたところで知ってしまっている。

 インターネットを使用しただけで、テレビを付けただけで、あの頃は君の顔を見せられることになっていたから。


 調べれば、知りたくない罪人の君の姿なら、今でも簡単に見られるのだろうな。

 そんなものを見てしまったなら、私の知っている君はもっと遠ざかって、わからなくなってしまうのだろう。

 記憶が薄らぐことを受け入れるくらいなら、君の罪を受け入れる。

 だけど、君の口から告げられた罪じゃなければ、受け入れられないよ。


 何度も言っているように、私は君を信じているの。

 私は君を、私は君を信じているんだ。

 ニュースよりも、警察よりも、君を信じているから。

 約束を果たしてくれることも、優しい君のことも。

 たとえ君が罪人だとしても、受け入れる自信はあるけれど、優しい君が本物であることを疑いたくない。


 狂気的な性格で、普段からそういった……そういった傾向にあったと、ニュースでは報じられていた。見たくないのに、私の目に入る記事は、何も知らないくせに君を非難した。

 非難されるようなことをしたとしても、罪とは違う、君を非難した。

 だから私は、見つかっていない君の罪がここにあるのだと思った。


 どうしてって、だって、桜の花がこんなにも見事に咲いているだなんて、信じられないことじゃあない?

 ぐにゃりと歪んでいる私の世界で、高画質で、ピントも合っていて、明らかに格別の輝きを放っていた。

 この美しさが私には信じられないのだ。

 スマートフォンの充電はもうないから、確認することもできないけれど、もう三月に入っているのだろうか。

 どれほどの時間が過ぎているのか、私には見当も付かなかった。


 所持金はもう底を突いている。

 飢えを満たすものは何もない。精神的な飢えは置き去りに、肉体的な飢えだけを満たしたいのならば、それは簡単な話だ。

 もしかしたら、それは、君に近付くための手段でもあるかもしれなかった。


 優しい君のことだから、自分の罪のことを恥じて、私に近付けないのかもしれない。その葛藤を抱えているかもしれない。

 君は約束を破らないけれど、君は約束を守れない。

 何度も確認していた知っていた、今もそれが認められていないのか、私はそのようなことを考えてしまう。


 これから私がしようとしている、君に近付く手段なんて、君に知られたら君を悲しませるだけの方法だ。

 君の罪が偽物だとしたら、裏切りにも相当する行為だ。

 わからないでもないけれど、安心するほど不安なんだ。

 落ち着いて、次の仕事をする気になるまでは、貯金を崩して生活をしたらいい。そんな正論は、今の私には悪であるように思えた。


 間違っている。ああ、私は間違っている。

 そして君も間違った。

 やり方を間違えたのはお互い様だ。

 その罪の理由を、在り処を求めるとすれば、導き出されるのは桜の美しさしかなかった。


 だから桜の樹の下には君の罪が埋まっている。

 これは信じていいことなの。

 君の潔白と同じくらい、信じていいことなの。



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