表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11



 まず、君が私をどう思っているのか知らないけれど、待ち惚けに遭っていられるほど、私は暇じゃあない。

 仕事だって、仕事だって忙しいのだし、とにかく仕事が忙しいのだから、休みが取れるものならその日はゆっくりしたい。


 それなのに、君との約束があるから!

 だから仕事を休んで、予定を開けて、ここへ来ているんだ。


 君の方から提案をしてくれたのに、誘っておいて、どうして君が来ないんだ。

 何年後の桜の頃にだとか、具体的に言われたわけではないから、責められはしないけれど、いくらなんでも待たせすぎだ。

 毎年、待っているとは言ったが、こうもまで待たせるとは思わないではないか。


 いや、思っていたな。

 こうなることを、あの日の私も知っていた。

 その日が来ないことを、あれで最後だということを、私は知っていた。


 諦めなければならない、君が消えてしまう期限を作るのが怖くて、永遠に甘えたのは私だ。具体性を避けたのは私だ。

 だからこそ、待っていなければいけない。

 待つことがこんなに辛いことだとは、私、知らなかった。


 しかし、君との約束だからと、私は我が儘を言ってきているのだ。

 それなのに、その約束が果たされていないで、何度も何度もその理由を唱えているのでは、ただ私が我が儘を言っているだけのようではないか。

 多少のブラックを感じる会社だが、理解ある、優しい会社であることもわかっているのだから、疑われるような心配はないだろう。

 私の我が儘を何度だって通してくれるだろう。


 ……有休を消化しているだけだから、我が儘というものではないかもしれないが、忙しい時期に、とは思われても仕方のないはずだ。

 そろそろ約束の季節なので、と。

 毎年毎年、毎日毎日。


 今年もまた、蕾が膨らんで、花が開きそうになっている。

 桜の頃とは、いつのことなのだろう。

 もうすぐ咲きそうな頃か、満開の頃か、散り始めた頃か、ひょっとしたら葉桜のつもりだったのだろうか。

 もしかしたら、桜の頃の認識が違っていただけで、君もここを訪れていたのだろうか。


 私の思う桜の頃は、蕾から散るまでだ。

 まだ信じたい。今年こそはと願いたい。その気持ちから、葉が出てきた頃まで待っているけれど、完全に花弁が散ってしまって、葉だけが残されたその木の下で、待っているようなことは未だしたことがない。

 君は桜の花が咲く頃とは言わなかった。

 桜の頃とだけ言っていたような気がする。


 考えてみて、溜め息が零れる。

 花見と言っていたのだから、花がなくてどうする。それに、桜の頃と言って、桜の花が咲く頃を指さないはずがない。

 そんなのは、余程のひねくれものか、余程の思い入れを持っている人、または特殊な職業の人だろうよ。

 理由がなければ、大抵、花が正解だろう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ