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まず、君が私をどう思っているのか知らないけれど、待ち惚けに遭っていられるほど、私は暇じゃあない。
仕事だって、仕事だって忙しいのだし、とにかく仕事が忙しいのだから、休みが取れるものならその日はゆっくりしたい。
それなのに、君との約束があるから!
だから仕事を休んで、予定を開けて、ここへ来ているんだ。
君の方から提案をしてくれたのに、誘っておいて、どうして君が来ないんだ。
何年後の桜の頃にだとか、具体的に言われたわけではないから、責められはしないけれど、いくらなんでも待たせすぎだ。
毎年、待っているとは言ったが、こうもまで待たせるとは思わないではないか。
いや、思っていたな。
こうなることを、あの日の私も知っていた。
その日が来ないことを、あれで最後だということを、私は知っていた。
諦めなければならない、君が消えてしまう期限を作るのが怖くて、永遠に甘えたのは私だ。具体性を避けたのは私だ。
だからこそ、待っていなければいけない。
待つことがこんなに辛いことだとは、私、知らなかった。
しかし、君との約束だからと、私は我が儘を言ってきているのだ。
それなのに、その約束が果たされていないで、何度も何度もその理由を唱えているのでは、ただ私が我が儘を言っているだけのようではないか。
多少のブラックを感じる会社だが、理解ある、優しい会社であることもわかっているのだから、疑われるような心配はないだろう。
私の我が儘を何度だって通してくれるだろう。
……有休を消化しているだけだから、我が儘というものではないかもしれないが、忙しい時期に、とは思われても仕方のないはずだ。
そろそろ約束の季節なので、と。
毎年毎年、毎日毎日。
今年もまた、蕾が膨らんで、花が開きそうになっている。
桜の頃とは、いつのことなのだろう。
もうすぐ咲きそうな頃か、満開の頃か、散り始めた頃か、ひょっとしたら葉桜のつもりだったのだろうか。
もしかしたら、桜の頃の認識が違っていただけで、君もここを訪れていたのだろうか。
私の思う桜の頃は、蕾から散るまでだ。
まだ信じたい。今年こそはと願いたい。その気持ちから、葉が出てきた頃まで待っているけれど、完全に花弁が散ってしまって、葉だけが残されたその木の下で、待っているようなことは未だしたことがない。
君は桜の花が咲く頃とは言わなかった。
桜の頃とだけ言っていたような気がする。
考えてみて、溜め息が零れる。
花見と言っていたのだから、花がなくてどうする。それに、桜の頃と言って、桜の花が咲く頃を指さないはずがない。
そんなのは、余程のひねくれものか、余程の思い入れを持っている人、または特殊な職業の人だろうよ。
理由がなければ、大抵、花が正解だろう。