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刹那の安寧

魔王を封印して、一週間が経った。

永遠に続くかと思われた日常は、いとも容易く崩れ去る事になる。


「そう言えば、どうして魔王をアカツキや魔杖が封印しなかったの?魔剣グレモリーに封印の方法を聞いたのはアカツキと魔杖でしょ?」


「何かを封印する際には原則、封印術の才能が必要なんだよ、それを使えるのが俺だけだったから俺がやった、それだけの話だ」


「それなら魔剣グレモリーを作る必要は無かったんじゃないの?」


「ティアには言ってなかったか、俺が才能を発揮できるのは短い時間の間だけなんだ、だからグレモリーに封印の方法を聞いておく必要があった」


「ヤマトさんの言う通り、グレモリーさんの知識は役立ちましたよ、魔窟のような迷宮を媒体にして封印を行う、これが分からなければ先日の作戦は上手くいきませんでしたからね」


「ふーん、そうなんだ」


今は朝食の場。珍しく皆が集まっている。普段は各自自由に行動している為、こうして全員が揃うのは魔王封印以降初めてだ。

人数は……俺、クロセル、アカツキ、ティア、エル、勇者、V、ファイ、瀬野……9人か、多すぎだろ。


「それにしてもやっぱり凄いですね、本当に魔王を封印してしまうなんて」


「Vは最近そればっかだな、付いて来たかったのか?」


「いえ……僕が付いて行っても足手まといになるだけでしょうから……でも、本当にヤマトさんには感謝しています」


「……V、俺に対しても敬語になったな」


「今やヤマトさんも敬うべき相手ですからね、当然ですよ、それに……これで兄の無念は晴らされたと言えます」


「兄?お前に兄なんて居たのか?」


「えぇまぁ……魔王に殺されてしまったんですけどね」


「そうだったのか」


魔王オセは公国を滅ぼした以外、人里に直接侵攻した事はない。

それでありながら魔王の被害にあっているという事は……Vの兄は魔族か勇者だったのか、或いは公国から逃げてきたのか。

疑問には思うが、問い詰めるべき事でもない。俺には興味のないことだ。


「それにしても……私とヤマトさん以外にあそこから来た人が居たなんて驚きですね」


「僕も驚いてるよ、ヤマト以外にあそこから来た人が居たなんてね」


「瀬野は俺を殺した奴らに殺されてこっちに来たのか?」


「そうだけど……言ってなかった?」


「想像はついていたが、直接聞いたのは初めてだな」


「そうだっけ、それで……ヤマトは今までどうしてたの?」


「それを話すと長くなるな……瀬野の方はどうなんだ?」


「僕はヤマトと別れた後、皇帝に才能を見込まれて帝国に仕えてたんだ、皇帝が魔王になった後、魔王は僕達の過去を調べたみたいでね、魔王に脅されて僕は魔族になり、魔王の側に置かれる事になった、ヤマトと戦う際の保険として」


「聞いてる限りだとアカツキの経歴に似てるが、仕える相手が悪かったな」


「そうだね」


瀬野の経歴は大体は俺の予想通りと言った所か。

ただ、気になる点はある。


「そう言えば瀬野の才能ってなんなんだ?」


「前に言ってなかった?『時間操作3』『空間操作3』『射撃術5』『機械技術5』だけど……」


「……射撃術と機械技術以外意味不明なんだが……クロセル、解説頼む」


「"操作"系の才能は魔術の上位互換的才能だと言って良い、詠唱や魔法陣、魔力や触媒などの準備、過程を必要とせずに魔術と同様の効果を得られる才能だ」


「なんだそのチート的才能は……」


「とても珍しい才能だな、それを二つも持っているというのは、ディザビリティと同等なまでに稀有な存在だぞ」


「そうなんだ……でも僕が皇帝に見込まれたのは機械技術の才能なんだけどね……」


「帝国は飛行船やら機甲兵やら、機械技術で長けた国だったからな、帝国にとってゼノは優秀な人材だったのだろう」


「なるほどな、瀬野は戦闘経験はあるのか?」


「護身用に自作の拳銃は持ってるけど……使った事は一度も無いよ、僕が戦うまでもなかったしね」


「才能だけ見れば私より優秀ですね……ヤマトさんの友達って事は前世の行いが特別良かった訳でも無いでしょうし……解せません」


「やっぱ才能に前世の行いって関係無さそうだよな……そもそも検証のしようがないから今まで認知されてなかったんだろうが」


「前世と呼べる物が分かるのは私達だけですからね、そもそもあれは前世では無いのかもしれませんが」


「才能は決まった以上もう変えられないのだから前世云々を気にする必要は無いな」


三人目の異世界転生者である瀬野が現れたが、未だに異世界転生の実態は分からない。

ただ、俺と瀬野はほぼ同時刻、同じ場所で死んだ。そして二人とも異世界に転生した。

つまり、あの場所、或いはあの時刻が、異世界転生を果たす何らかの条件だったと推測出来る。


「この調子だと、帰る手段はまだ分からなそうだな……」


「ご主人は……帰りたいのか?」


「まだ考えてる途中だ、決めるのは方法が見つかってからでも良いだろう」


「それもそうだな」


あの世界に残してきた物、霧雨組の事ぐらいだろうか。

俺が居なくなった後も何とかやれているだろうか。

何だかんだ言ってもあいつらだって背中を預け合った仲間だ。人並みに心配はする。


「そう言えば勇者が静かだな」


「……」


「おい勇者、何落ち込んでるんだよ、お前は救世の英雄になったんだろ」


「そうだけど……僕にはもう祝福がないんだ……戦いたくない……死にたくないよ……」


「いつもの勢いはどうしたんだよ……」


「わたしは祝福なんて必要ないわ、本当なら返してあげても良いのよ?」


「神は僕を見捨てたんだ……抜刀斎ニコンは死んだ……僕はもうただのニコラスだ……」


「ダメだこいつ……」


祝福がティアに移った事で完全に意気消沈している。

まぁ今まで当然のように持っていた不死性が失われたら、不安になる気持ちは分かるが。


「人は死ぬのが当たり前なんだぞ……不老不死が当然だと思うなよ」


俺は呆れたように言い放つ。

しかし、勇者の様子が明るくなる事はない。

暫くはショックを受けるのも仕方ないか、いつか勝手に立ち直るだろう。


「ふぅ、これだけの人数になると家事をするのもちょっと大変だね」


「エルが家事が得意と言っても才能指数は1だろ?無理はするなよ」


「あはは……大丈夫だよ、この身体は結構丈夫なんだ」


「それなら良いが……」


給仕をするエルと少し言葉を交わした所で、遠くから戸を叩く音が聞こえる。


「っと、こんな時間にお客さんなんて珍しいね、ちょっと行ってくるよ」


「まだ公衆浴場は営業時間外ですし……ちょっと直感を感じたので、私も見てきます」


アカツキとエルは玄関に向かった。

なんだろう……胸騒ぎがする。出来れば杞憂だと良いが。

俺はパンをスープで胃に流し込むと、そのまま席を立つ。


「ヤマトも行くの?」


「あぁ、ちょっと見てくる」


ティアに見送られ、俺は玄関へと向かった。

その途中、廊下を歩いている所で、声が聞こえてくる。


「どういう事ですか?エルさんを連行するなんて……」


「エンド様の命令だ、大人しく付いて来い」


「エルさん、身に覚えは?」


「私は何も……」


「待って下さい、エルさん一人だけを連行するのは許可できません、私も付いて行きます」


「駄目だ、エンド様にはその少女一人を連れてくるように命じられた、そして抵抗するようなら武力行使を認める、ともな」


「そんな……」


嫌な予感はどうやら的中したらしい。俺は慌てて駆け出した。


「エル!」


「ヤマトさん!」


廊下の角を曲がり、玄関の様子が俺の目に飛び込んでくる。

二人の福音使徒に両腕を掴まれ拘束されたエル。その前で両手を横にぼそぼそと何か呟く福音使徒が一人。

そして福音使徒に阻まれ、俺の方へと振り向くアカツキ。

才能の解放をするまでもない。エルとアカツキが戦闘する意思を持てば対処できる相手だ。

だが、福音使徒を傷付けるという事は聖教会、教国を敵に回す事になる。それは出来ない。

此処は……大人しく引き下がるしか無いのか……


「待て!せめて説明を!」


「ヤマト様……ごめん……」


「――空間魔術……帰還(リコール)


まずい、手を広げている男が呟いていたのは魔術の詠唱だ。辺りに光が満ちる。

俺は慌ててエルへと手を伸ばす。

が……その手は届く事無く、エルの姿は三人の福音使徒と共に消え失せた。


「くそっ……逃したか……アカツキ、この状況をどう分析する」


「少なくともエルさんが殺される事はない……と思います、でも彼女は私達に何かを隠している、それが恐らく……エルさんが連行された理由です」


「エルが隠し事?仮にそんな事があったとして、聖教会は関係ないだろ」


「いえ、その逆です、関係あるから連行されたのかと……」


「くそっ……取り敢えず聖教会に行くぞ、教皇に直接話を聞いた方が早い」


「そうですね、私も付いて行きます、ヤマトさんはクロセルさんを連れて来て下さい」


「それは……最悪戦闘になると仮定しての事か?」


「いえ、それもありますが、クロセルさんの知識と分析の才能があった方が有利に事を運べると思ったので」


「それもそうか、分かった、連れて来る」


人生にアクシデントは付き物だ。

平坦なまま、何も起きない人生なんて無い。山があるなら谷もある。

それにしては、些か山が続き過ぎている気がするが。

少しぐらいは落ち着いて谷を満喫したかったというのに。


「はぁ……クロセル、出掛けるぞ」


「どうしたのだご主人、そんなに慌てて」


少し走った程度で息が切れる身体ではない。

なのに息が切れ、動悸を覚えるというのは……動揺が原因だろうか。

俺は一度頭を冷やす為に深呼吸をすると、クロセルに事情を告げる。


「エルが聖教会に連行された、これから教皇に話を聞きに行く」


「なんだと……?それは確かなのか」


「この目で見たんだから間違いない」


「そうか、分かった、我も付いて行く」


「おう、助かる」


こうして、クロセルとアカツキを連れ、俺達は聖教会へと向かう事になった。

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