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機甲兵

 僕達は最後にもう一度だけお互いの顔を見合わせると、大小様々な装飾の施された大きな扉を同時に押して、開く。

 鍵を掛けていなかったという事は、魔王は正々堂々僕達と戦って始末するつもりなのだろう。

 そんな事を思っていると、直ぐに中の光景が目に入る。


「なんだこれは……」


「良く来たな、ヤマト」


「お前が……皇帝なのか?」


 玉座に座していた男は、僕の知っている皇帝の姿とは遠くかけ離れた姿をしていた。

 眼鏡は外れ、赤い瞳で僕達を見下し、褐色の肌に二つの角。そして……その圧倒的な覇気。

 僕はそんな魔王に対して、本能から来たであろう言い様のない恐怖を覚えた。


「違うな、俺は皇帝エルクじゃない、魔王オセだ」


「あぁ……そうだったな」


「それで……無断で俺の城に踏み入ったお前達の用件を聞こうか」


「そんなの……分かりきってるだろ?」


「ふん、俺を殺すか?」


「お前に死を与えるなど生温い、もっと辛い目にあって貰おうか」


「ほう?言うじゃないか。俺が怖くないのか?」


「お前こそ俺の事が怖いんじゃないのか?お前は俺に二度も負けてるだろ」


「……どうやら命が惜しくないようだな、これ以上の問答は無用。テラ、やるぞ」


 魔王が小さく手を挙げると、彼の座する玉座の後ろから、一人の人影が出てくる。

 人影は茶色い服を着た茶髪の青年。そしてその両手には、金属製の籠手のような物が装着されている。

 そして、彼が現れると同時に、天井から一体の人形が降ってくる。

 地面に接地する瞬間、ガシャンという喧しい大きな音が響き渡る。

 人形と称したが、これは跪いた姿勢をした巨大な金属製の人形である。

 いや……機械と言うべきなのだろうか。初めて見た物だ。これが何か。僕には分からない。


「お前は……傀儡使い、いや……ただの機械技術師か」


「ご名答、俺は機械技術の才能を持った帝国の技師だ、名は……」


「テラ、敵と何を話している、さっさと起動しろ」


「はいはい、じゃあやりますか。機甲兵……起動!」


 男が籠手を構えたかと思えば、機甲兵……と呼ばれたその人形の顔らしき部位に、赤い一つの光が灯る。

 それはまるで目のようにも見えた。実際、物を見る機関ではあるのだろう。機甲兵はヤマト君の方を見ると、その巨大な体躯が立ち上がる。

 どうやらこの人形は僕らの敵のようだ。無機質ながら確かな殺気を感じ、僕は剣の柄に手を掛けた。


「帝国の技術にはやはり驚かされるな……」


「所詮は大きいだけの魔物だろう?此処は僕に任せてくれ、この抜刀斎ニコンが八つ裂きにしてくれよう!」


 僕はそう高らかに告げると、機甲兵の元へと踏み出し、その腹部に掛けて聖剣を抜刀、その身を切り裂こうとする。が……


「なっ……」


 僕の手元で、甲高い音が響く。僕の聖剣が……弾かれた。

 敵は何もしていない、その身一つで、僕の剣を受け止めたのだ。


「僕の剣であれば鉄なんてバターのように斬れるはず……こいつは一体何で出来ているんだ!?」


「ティア、魔術で援護しろ!」


「分かってる!魔術回路構築(クリエイト)……詠唱!

 リ・スォーム・リクシア・ティル

 風魔術……鎌鼬(エアスラッシュ)!」


 勇者ティアの手から透明な風の刃が放たれ、機甲兵の腕部分に命中する。

 しかし、その部分が傷付く事は無かった。

 そして、機甲兵の反撃が来る。その巨大な腕を大きく振るい、僕の身体は薙ぎ払われる。

 大振りな動作でありながら、速い。純粋に速度で負けている。故に回避は叶わず、僕の身体は宙を吹き飛び、そのまま壁に叩き付けられる。


「うぐっ……」


「何らかの強化を受けているのか、或いは特殊な材質なのか……」


「少しくらい心配してくれても……」


 と言っても、これぐらいなら平気だ。僕は何度も死んでいるのだ。痛みなど慣れたし、自分の身体の限界も簡単に分かる。

 僕は剣を手に再び立ち上がると、機甲兵へと走っていく。


「っ!まずい、ティア!避けろ!」


 どうやらターゲットは僕から勇者ティアへと移ったらしい。

 が……機甲兵と勇者のティアの間には結構な距離がある。機甲兵は走り出す姿勢にも見えない。片手を前に突き出し、その姿勢はまるで……


「まさか、魔術!?」


 そんな僕の予想は、近くも外れる事になる。

 機甲兵の手から放たれたのは金属の塊。炎でも水でも風でも土でも無い。ということは魔術では無い。

 例えるならば、弓矢の矢尻だけが飛んでいっているような感じだ。

 僕であれば弾道を見切れるが、後衛である勇者ティアにそれが出来るとは思えない。彼女は無事に避けられるのだろうか。


「くっ……僕が走ってもあれは間に合わないな」


 残念ながら僕の庇える距離ではない。

 放たれた弾丸は真っ直ぐ勇者ティアへと吸い込まれていく。

 そして……着弾する寸前の事。勇者ティアはヤマト君に押し倒される。


「助かったわ、ヤマト」


「危ないな、もう少し気を付けろ」


 どうやらヤマト君のお陰で間一髪の所で躱す事が出来たようだ。僕は心の中でそっと胸を撫で下ろす。

 機甲兵の射撃、連射は効かないらしい。機甲兵は手を下ろすと、ヤマト君達の方へと接近していく。

 不味い、僕が前線を張らないと。


「ヒーローアターック!!!」


「……」


 僕は助走を付けて飛び上がると、機甲兵の頭上から振り下ろすように一撃を放つ。

 初撃よりは威力が乗った筈だが、それでも浅い。機甲兵の損害はその身体の表面に傷が付いた程度だ。

 機甲兵は振り向きながら拳を振るう。速度で劣っていても、予測して動けば避けられない事はない。

 僕は機甲兵の身体を蹴りながら飛び退いて腕を躱す。これで標的は僕に移った。これで良い。


「ヤマト君!僕が時間を稼いでる間に打開策を考えてくれ」


「おう、まだ死ぬなよ」


「ふふっ……僕は祝福の勇者だ、死にたくても死ねないよ」


「ヤマト、魔杖はどうしたの?」


「あいつは魔力切れだ、ほらな」


 僕は機甲兵の攻撃を躱しながら、ヤマト君の方を一瞥する。

 その手には、一本の杖が握られていた。

 確か、皇帝と前に戦った際、肉体を破壊された魔杖があの姿になっていたと記憶している。

 という事は……前と同じように肉体が破壊されたのか、或いは転移で魔力が切れたかの二択だろうか。


「取り敢えず機甲兵と正面から殴り合うのは愚策だ、どうやら自律稼働してる訳じゃないらしい、本体を叩くしか無いだろうな」


「本体……と言うとテラとか言うあの男?」


「或いは魔王だが……玉座まで通しては貰えなそうだな」


「ならまずはあの男だね、私が仕留める」


「了解、ティアはエルを魔術で援護してくれ、クロセルの使ってたような強化魔術とか使えるか?」


「分かったわ!任せて」


「あはは……もしかして僕一人でこの化物の相手しないといけない感じ?」


「当たり前だ、お前なら出来る、いや……お前にしか出来ないんだ、頑張れ」


「そこまで期待されてるなら頑張らないとね、よーし!抜刀斎の力を見せてやる!」


 この機甲兵を男の元へ行かせない事が僕の任務だ。最も、逆も然りだろう。

 男としても、この中で最も実力のある僕を機甲兵の力で抑えておきたい筈だ。

 自惚れかもしれないが、今現在で言えばこれは事実だろう。


「暴れ回ってる今は無理だが……動きが鈍れば仕留められる自信はある、そっちは任せたよ」


「初撃を盛大に弾かれてた癖に大した自信だな、まぁ任せとけ」


「戦うのは私なんだけどね」


「指示を出すのは俺だ」


「うん、ヤマト様の期待に応えられるように頑張るよ」


「強化魔術を掛けたわ!頑張りなさい!」


「驚いた、身体が軽いね、こんな物があったらもっと早く使ってくれれば良かったのに」


「それ、僕にもくれたりしないのかい?」


「無茶言うな、あのな、強化魔術は強化してる限り常に魔力を消費する上に才能の差を埋められるような強化をするとなると消費魔力も膨大になるんだ、クロセルみたいな魔力量でも無いとまともに運用出来ないんだよ」


「流石はヤマト、詳しいわね、でも一人ぐらいなら私でもいけるわ」


「魔術師は魔力が切れたら戦力外になるんだから使い過ぎるなよ」


「分かってる、まだ余裕よ」


「まぁティアも王国一の魔術師だったからな、そうそう魔力切れなんてしないだろ」


 残念ながら強化魔術は貰えないようだ。

 まぁ、確かに僕には必要ない。

 確かに基礎スペックでは機甲兵に負けてるが、才能の差がある時に感じる絶対的な力の差は感じない。

 寧ろこれぐらいなら努力で埋められる差だと言って良い。だから今は目の前の敵に集中するとしよう。


「っ……大見得を切ったけど、やっぱりギリギリだね」


 機甲兵の正拳突きを剣で受け止めながら、僕は独り言を呟いた。

 相変わらずの馬鹿力だ。一瞬でも気を抜けば吹き飛ばされる。


「僕は人斬りだからね……無機物を斬るのは残念だけど趣味じゃないんだ!」


 僕は機甲兵の手を乱雑に切り払い、一歩飛び退く。

 息抜きなどしている余裕はない。直ぐに次が来る。


「そもそも君には言葉が通じないか、そう考えると虚しくなってきたな……」


「……」


 この機甲兵とやら、どう見ても生物ではない。同時に魔物でもない。

 機甲兵と称されるからには機械なのだろう。機械の傀儡。技術者の操縦が必要と言えど強力な兵器だ。

 こんな兵器を魔王軍……いや帝国は、抱えていたのか。


「ただ、君は明らかに強化を受けているようだから……本来の機甲兵はもう少し弱いのかな」


 機甲兵のアームハンマーをジャンプで躱しながら、僕は呟く。

 僕の知識が全てではないが、恐らくこの機甲兵に使われている素材はただの金属だ。それがここまで強度を増しているという事は、何らかの強化を受けているのは必至。

 それはあの男による物か、それとも魔王の力か。

 或いは……両方か。

 そんな事を考えていると、機甲兵が男の方を振り向く。つられて僕も男の方へと視線を移す。男とヤマト達の戦闘が見えた。

 機甲兵はそちらへと歩いて行こうとする。が、そうはさせない。俺は機甲兵の前へと回り込むと……飛び上がり、剣を振り上げながら叫ぶ。


「お前の敵は、僕だ!祝福の勇者ニコラスだ!」


「……」


「ぐはっ……」


 邪魔だとばかりにその巨大な腕で振り払われる。避けられなかった。が……吹き飛ばされる事は無かった。

 僕は頭から血を流しつつ機甲兵の腕にしがみつきながら……地面に歯の混じった血反吐を吐く。


「へへっ、よそ見すんな……よ!」


 そして、その顔面。目と思われる場所に聖剣を突き立てた。


「パリン!」


「やったか!?」


 確かな手応え。機甲兵の急所を突けたのだろうか。


「って……ぐはっ!」


 そんな事は無かった。俺は機甲兵の頭突きを食らって盛大に地面に転がる。

 つーかこれ、目に見えるけどそもそも目じゃないんだよな、この機甲兵を操ってるのはあの男、目として俺を見てるのは男の方なんだから。


「くそっ……」


 俺は急いで立ち上がり姿勢を立て直す。男を倒す為の時間を稼ぎつつ、尚且つ敗北は許されない。結構ハードな任務だ。


「でも……僕にしか出来ない事だ、やってやる、やってやるさ!」


 僕は自分を鼓舞して勇気を出すと、再び剣を手に取り、機甲兵へと斬り掛かっていった。

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