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早朝

 息苦しさで目を覚ます。朧気な意識で悪い寝覚めに舌打ちしながら、俺は横になったまま周囲を確認する。


「おいクロ。苦しい、その腕を離せ」


 窓の外は薄暗く、体感でしか無いが地球で言う早朝の空気を感じる。

 そして圧迫感のある胸元へと視線を持っていけば、そこには俺の身体に両腕を回し、すやすやと眠るクロセルの姿があった。

 声を掛けてみるが、反応がない。気持ち良さそうに眠っている。

 安らかな寝顔を見ていると、少しだけ腹が立ってきた。安眠の邪魔をした腹いせに悪戯でもしてやろうか。


「はぁ……」


 重たい溜息を一つ。無理矢理にクロセルの腕を解くと、ごろりと横に転がりながら起き上がる。

 眠い眼を擦り、ぼんやりとした意識で前日の記憶を辿る。


 当面の目標は安定した職を手に付けて正当な手段で衣食住を確保すること。

 その為に宿屋の亭主が仕事を手配してくれるらしい。些か強引な手段ではあったが。


「早起きし過ぎてすることがないな……少し散歩でもするか」


 ベッドから降り、未だ目覚めないクロセルに毛布を掛けると、そのまま一階へと向かう。

 階段を降りた所で、ふと見慣れない女性の姿が目に入る。

 エメラルドグリーンの長髪に高い身長。その背には矢筒と長弓。すらりとしたモデル体型の人間だ。


「やぁ、おはようございます」


 そんな彼女に興味を懐き、声を掛けてみる。

 忙しいならそれまでだが、あわよくば会話で暇を潰せれば良いなと思いつつ。


「おはようございます。旅の方ですか?」


「まぁ、そんな物です。こんな早朝から何処にお出掛けですか?」


「ギルドの依頼の消化です。朝早いのは習慣なので特に深い意味はありません」


「すいません、俺って田舎者で固有名詞が通じなくて……ギルドって何なんでしょう?」


「そうでしたか。ギルドとは依頼の仲介所です。冒険者に依頼を出したり依頼を受けたりすることが出来る施設ですね。タルフの街にもあるので詳しいことは行って聞いてみると良いと思います」


 これは良いことを聞いた。雑多な依頼ということなら、俺にも何か出来ることがあるかもしれない。

 別に、良く創作で見るような危険な依頼が全てではないだろう。


「なるほど、お姉さんが今受けてる依頼はどんな物なんです?」


「あぁ、申し遅れましたね。私の名はシルヴァ・アルファード。シルヴァで構いません。私が受けてる依頼はアランの森周辺で目撃された変異種の討伐です」


「俺はヤマトです。討伐依頼ということは、シルヴァさんは戦えるんですか?」


「まぁ……それなりには。それでも私一人では厳しい依頼なので、ギルドの方で指定されたパーティを組むんです」


 なるほど。依頼の為に即席でパーティを組むこともあるのか。


「そうなんですね、有意義なお話を有難う御座います。シルヴァさん。」


「いえ、大丈夫ですよ。では私は依頼があるので失礼します。さようなら、ヤマトさん」


 感謝の気持ちを告げ、頭を下げて見送る。

 ギルドか……クロセルに頼ることになるだろうが、それで収入を得るのも悪くはない選択だろう。


「取り敢えず俺も出るか」


 一人そう呟くと、宿を後にする。

 早朝の空気は少し肌寒い。この世界に四季の概念があるのかは分からないが、感覚としては春の朝に近いだろうか。

 ふと街路の花壇を見れば、見たことがあるようで無い色とりどりの花が揃い咲きしている。のどかで気持ちの良い朝だ。

 そのまま暫く歩き、住宅街を抜けた所で十字路に差し掛かる。

 円形の広場のようになったそこで、くるりと回りながら周囲を見渡してみる。

 どうやらこの街はそこそこ大きいらしい。正面には住宅街が続き、左右は商店街のようになっている。流石に店はまだ開いていないようだ。


「案外人の往来もあるみたいだな、郊外まで行けば田畑もあるんだろうが……」


 時間感覚に自信はないが、既に日は昇り、辺りは明るくなり始めている。そろそろ戻るべきだろう。

 来た道を戻り、再び宿屋へ。芳しい香りに釣られて食堂へと足が向く。

 本能のままに向かってみれば、どうやら他の宿泊客もちらほら見える。悪くないタイミングで戻れたようだ。


「おはよう……ご主人……」


 ふと背中を小突かれ、振り向けばふらふらとしながら眠そうに目を擦るクロセルの姿があった。

 見た所、朝は弱そうだが一人で起きられたようだ。


「だらしないな、ちゃんと目を覚ませ」


「うっ……朝はダメなのだ……我は魔の者故……日が昇ると力が入らぬ……」


「昨日の昼は普通に動けてただろ」


 拳骨で突っ込みを入れようとするが、ばしんと弾かれる。慣れない物だ。


「それより朝ご飯はまだか……我は朝食を所望するぞ……」


「食欲無いんじゃなかったのかよ……全く……」


 呆れつつも、そんな様子のクロセルを微笑ましく見守る。やはりこうして見ると只の愛らしい少女にしか見えない。最強の魔杖だとか元魔王だとかが虚勢にすら思えてしまう程度に。


「でもまぁ、あれを見たら信じざるを得ないよな」


 先日の召喚魔法を思い出しながら、冷たい汗を流す。大事にならなければ良いのだが……

 その後、食堂で朝食を摂った後のこと。宿屋の亭主から声を掛けられる。


「おはよう。お二人さん、昨日の話なんだが……少し良いか?」


「あぁ、構わない。それより昨日は色々とすまなかったな……助かった」


「いやいや!君達のような凄い魔術師を泊められるなんて光栄なことだ、気にするな」


 凄い魔術師なのはクロセルだけなのだが、俺も完全に畏まられている。

 常々申し訳無いが、もはや過ぎたことだ。今や感謝することしか出来無い。


「それで話ってのはなんだ?」


「そうだ、君達に仕事を紹介するって話なんだが……腕の立つのなら、ギルドの方の依頼を受けてみてはどうだ?登録の諸々の手続きは昨晩に俺が済ませておいた、この書状を渡してくれれば直ぐにギルドで依頼を受けられるだろう」


「それは有り難いな、丁度俺達もギルドの依頼で生計を立てようと思っていた所だ」


 亭主から一通の書状を受け取る。

 身分証明も出来ない俺がギルドに登録するのは難しいと思っていた所、これは願ってもない手筈だ。このおっさんには感謝してもしきれない。


「時間も余り無い、早速ギルドに行ってみることにするよ」


「あぁ、そうすると良い。依頼も直ぐに達成できる物ばかりじゃない、数日分の宿代であれば後から払ってくれれば構わんよ」


「何から何まで恩に着る、では行ってきます」


「おう、気を付けな」


 深くお辞儀をして感謝の意を述べると、クロセルを連れて宿を後にした。

 目的地はギルドとやら。取り敢えずは簡単な依頼をこなして最低限の生活を確保する。問題となるのは……


「俺が『傷害』のディザビリティ持ちってことだな……前のように襲われたらどうしようもない」


「任せておけ、我が居る限りご主人には指一本触れさせん」


「お前のことは信用しているが……万が一もあるからな、自衛する手段が何もないと不安になる」


 そんな小さな不安を抱きつつ、ギルドを目指す。道中に関しては明らかに武装した人間の人通りが多い道を選べば迷うこともなかった。

 そして暫く歩けば、ギルドらしき大きな施設へと辿り着く。生け垣で囲まれた広々とした庭園のある洋風建築の大きな屋敷。

 これは共同施設というよりは財閥の豪邸と言った方がしっくりくるのではないだろうか。

 予想外の外観をしたギルドと思しき施設に少しだけ臆しつつも、人の往き来を見る限り間違いでは無さそうだ。

 俺は大きく深呼吸をすると、意を決してギルドへと足を踏み入れた。

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