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魔剣グレモリー

「アカツキ、クロセルを呼んできてくれ」


「私、何も聞いてないんですけど」


「別にお前だけに言ってない訳じゃない、知ってるのは俺とクロセルの二人だけだ」


「はぁ……分かりました、呼んできます」


 アカツキは席を立つと、クロセルを呼びに部屋から出て行く。

 残されたのは俺と勇者、そして教皇とその付き人二名。

 教皇は唖然とした様子だ。それもそうかと一人納得する、俺の発言は中々に突拍子だ。


「聖教会のトップである私の目の前で魔剣を生み出すとは……中々に勇気があるね?」


「別に聖教会が魔王と明確に敵対してる訳じゃないだろ?寧ろ神の教えに基づくなら聖教会は神魔の関係において中立である筈だ」


「まぁ、君の言う通りだね、聖教会は神魔の関係では本来であれば中立だ、でも実際は……聖教会は魔に対して敵対的な姿勢を取っている」


「それは民を導く国家君主としての体裁があるから……だろ?」


「……」


 教皇は押し黙る。この様子だと俺の思い付きも図星とは言わずとも的外れという訳では無さそうだ、俺は言葉を続ける。


「別に聖剣も魔剣も大した違いは無いんだ、そこに何かが宿ってるか宿ってないかの違いだけ、どちらも元を辿れば只の聖遺物だろ」


「それで……ヤマト君は魔剣を作ってどうするんだい?」


「もう言って大丈夫だろうし言ってしまえば……俺は魔王を"封印"するつもりだ、先代の魔王がやったようにな」


「魔王封印の手法は既に失われたと君が言っていたじゃないか」


「あの時点で魔王を封印する手段は確かに失われた、でも全てじゃない、俺達にはまだ一つだけ方法があった」


「まさか……先代魔王を魔剣として蘇らせるつもりか!?」


「その"まさか"だよ、それ以外に方法なんて無いだろ」


「危険だ……君も知っているだろう?魔王の魂を聖遺物に宿らせて蘇らせた例は過去に何度もある、だがその殆どが制御出来ずに暴走を許す結果になった、先代魔王が大人しく封印の手法を教えてくれると思うのか?」


 そう、教皇の言う通り、魔王を聖遺物に宿らすのはリスクの必要な行為だ。

 これはクロセルが何故封印されていたかを考えれば直ぐに分かることだ。詰まる所、俺はそれを承知した上で、今回の作戦に出た訳だ。


「まぁ確かにリスクはある、が……ケアできないレベルじゃない、恐らく大丈夫だ」


「何故そう言い切れるんだい?」


「先代魔王は何故己を封印したんだ?何故封印の手法を遺したんだ?それは簡単だ、先代魔王が人間を傷付けることを望んでいないからだ」


「……」


「既に魔王の力は継承された、故に先代魔王に破壊衝動は無い、そして人間と敵対する意思もない、となれば……敵対するより協力してくれる可能性の方が高いだろう?」


「確かにそうかもしれないね」


「ま、最悪の場合はクロセルが居るからな、話し合ってダメなら力で抑え込めば良い話だ」


「……待ってくれ?まさかとは思うが、君の仲間のクロセルと言う少女は……」


「おっと、今更気が付いたのか?そうだよ、俺のクロセルはあの魔王クロセルだ、今は魔杖クロセルだけどな」


「遥か昔に封印されたと聞いていたが……まさか封印を解いていたとはね……君には驚くばかりだ」


「ご主人、こいつに話して良かったのか?」


 気が付けば、いつの間にか俺の背後にはクロセルが居た。話に夢中で気が付かなかったが、いつから居たのだろう。


「どうせ隠し通す事なんて出来ないんだ、さっさと知って貰って協力して貰った方が楽だろ」


「ご主人は教皇を意外と信用しているのだな」


「うるさいな……それより、さっさと始めようぜ」


 俺は手に持った水晶球をクロセルに渡す。

 クロセルは俺の渡した水晶球を一通り眺めて確認すると、満足げに一つ頷き、机の上に置かれた箱から剣を取る。


「それで……僕は本当に必要だったのかい?」


「まぁ待ってろって、勇者の出番はこれからだ」


 今の今までずっと黙っていた勇者が何処か不安げに口を開く。

 俺はそんな勇者を諭しながら。クロセルの一挙手一投足に集中する。


「では始めるとしようか」


 クロセルは小さく詠唱した後、指先で地面に魔法陣を描いていく。クロセルの指が通った場所に光の線が浮かび上がる。俺にはさっぱり理解出来ないが幾何学的なその魔法陣は素人目でも綺麗に思えた。

 そうして床に描かれた魔法陣の上に、剣を置き、クロセルは深呼吸をする。


魔術回路通力(ライン)……」


 そして、儀式は始まった。クロセルはその手に持った水晶球を魔法陣の上に掲げ、俺にも分かる言語で詠唱のような物を紡いでいく。


「狂い時計の針は黎明に日没を指し示し


 鶏鳴は常闇で響き渡る


 目覚めよ魔神


 胎動せよ原初の力


 その柱の名は


 その(ツルギ)の名は……」


 クロセルが言葉を紡ぐ度に、ドクン、ドクンと何かの鼓動、脈動が辺りに響き渡る。

 それがクロセルの持った水晶球から発せられた物だと分かるまでは一瞬の時間を要した。


「――魔剣グレモリー」


 最後の一節を紡ぎ終わると同時に、辺りが鮮血のような真っ赤な光に染まる。あまりの眩しさに俺は思わず目を瞑った。

 光が収まり、目を開くことが出来るようになった時、俺は事の顛末がどうなったかを冷静に確認する。


「水晶球と魔法陣が消えた……?儀式は成功したのか?」


「うむ、成功だな、これでこの聖剣はめでたく魔剣グレモリーとなった」


「残念だな……これで勇者が聖剣ミスッテルティンの名前を叫びながら攻撃する事は無くなったのか」


「それは……どういうことだい?」


「簡単な話だ、お前には魔剣グレモリーの主人になって貰う、拒否権は無いから宜しくな」


「そんな!?僕は祝福の勇者だぞ?勇者が魔剣を使うなんて……」


「闇の力を取り込んだダークヒーロー……的な勇者でもそれはそれで格好良いだろ?」


「言われてみれば……それも魅力的ではあるけど……」


 もう少し反抗すると思っていたが、予想よりあっさりといきそうだ。相変わらずちょろい男である。


「ってことで決まりだな、契約しろ」


「どうやってやれば良いんだい?」


「クロセルの時と同じなら、剣の姿でも話せるんだろ?おい、聞いてんのかグレモリーとやら」


「……」


「なんで喋んないんだ?」


「うむむ……なんでだろうな?」


「これ以上先は君達の問題だね、私は邪魔者のようだから失礼するよ」


 そんな様子を遠くで見ていた教皇が少しだけ口を挟み。ゆっくりと席を立つ。


「良い物を見せてもらった、中々貴重な体験だったよ、ありがとう」


「おう、聖遺物の提供ありがとな」


「ではまた、次は決戦の時になるかな」


「そうだな、その時はまた頼むぞ」


「承知したよ」


 そう言い残すと、教皇は福音使徒を連れて部屋を出て行った。

 さて、となると残る問題は魔剣が喋ってくれない事になる。


「本当に成功したのか?失敗したんじゃないよな?」


「お……おかしいな……我の手順は間違ってないはずだぞ」


「……」


「あー……クロセル、あの水晶球の状態で居る時って意識はあるのか?」


「うむ、あの状態でも意識はあるぞ、と言っても夢を見ているような感じだがな」


「もしかして……勇者と契約するのが嫌とかじゃないよな?」


「……」


「無言は肯定だな、図星かよ……」


「否だ、断じて否である」


 適当な事を言って挑発してみたが……案外通じる物だな。


「喋れるじゃねぇか」


「お前には伝えた筈だがな、我は平穏を望むと言った筈だ、戦乱になど関わりたくはない」


「つまり……俺達に協力する気は無いってことか?」


「そうとも言えるな」


「ぐぬぬ……想定外だな……」


 一度言葉を発した時点で隠す気は無くなったのか今は普通に流暢に喋っている。

 取り敢えず無視される事は無くなっただけ一歩前進か。あとは何とかして協力してくれるよう説得しないとだが……


「お前の望みは何だ?」


「平穏だ、静かに眠らせてくれればそれで良い」


「これまた随分と怠惰な願いだな……」


「何か言ったか?」


「いや何も」


 どうした物だろうか。純粋にこいつの願いを叶えるとしたら、勇者と契約して戦って貰うというのは願いに反する為にまず受け入れて貰えないだろう。ならば……


「ならこれはどうだ?お前は魔王封印の方法を俺達に教える、対価はお前の望む平穏だ、戦乱に巻き込むような事はしない」


「待ってくれ!それだと僕のダークヒーローになる夢が潰えてしまうんじゃ!?」


「うるせぇよ黙ってろ勇者」


「酷い!」


「本当にそれだけで良いのだな……?情報を提供するだけでそれ以上は何もしなくて良いと?」


「あぁ、良いぞ、此方としてもこれ以上は譲れない、最低限魔王封印の方法だけは教えてくれ」


 魔剣は少し考えるように黙り込むと、やがて俺に向けて答えを出す。


「分かった、その条件を呑もう」


「助かる、魔王封印の方法はアカツキとクロセルの二人に伝えてくれ、俺が知っても大して意味はない」


「今後も……知恵を貸すぐらいならしてやっても良い」


「おう、此方もお前を戦いには使わないと約束する、これから宜しくな、グレモリー」


「そもそも、我は戦いには使えないと思うぞ」


「あ?なんでだ?」


「此処はどうやら我の力が奪われる場所らしい、仮に勇者と契約したとしても全力は発揮できないだろう」


「待てよ?加護で魔剣の力が奪われると言うなら魔杖のクロセルはなんで弱体化してないんだ?」


「あれ……確かに不思議だな、王国や帝国に居た時と比較して、我の力は全く劣っていないぞ?」


「その魔杖は神の加護の影響を受けない理由があるのだろう、それが何かは我にも分からん」


「まぁそれは今は良いか、また今度考えよう、というわけで改めて宜しく」


「うむ、では宜しく頼む」


 これで交渉成立だ。当初の予定とはだいぶ違う結果になったが、些細な事だろう。

 勇者には元々自分の聖剣があったし魔剣を使えなくても大して問題はない。


「あぁ……僕のダークヒーローになる夢が……」


「じゃあクロセルとアカツキ、後は頼んだぞ」


「ヤマトさんは部屋に戻られますか?」


「あぁ、先に戻ってる」


「分かりました、行ってらっしゃい」


「おう、お疲れ様」


 後の事はクロセルとアカツキに任せ、俺は自分の部屋へと戻るのであった。

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