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聖剣ミスッテルティン

「っ!?」


「一本、で良いかな?」


「あぁ……俺の負けだ」


 悔しげにそう呟きながら、俺は棒を片手、地面に膝をついた。

 そんな俺を見下ろしながら誇らしげに剣を掲げるのは、祝福の勇者ニコラス。


「お互いに才能を持たない、クロセルとやりあった時と違って、才能持ちにはどうやっても勝てないか……」


「いやいや、ヤマト君、僕を相手にかなり良い動きをしてると思うよ、杖術の才能を持ってないとは思えない」


「まぁな、バットやら鉄パイプに近いから使い慣れてるんだ」


 才能を持たない者が同じ分野で才能を持つ者に勝つ事は出来ない。これはこの世界における絶対のルールだ。

 だが……俺は元々この世界の人間ではない、故にこの絶対に当て嵌まらない、イレギュラーの可能性もある。

 故に剣術の才能を持つニコラスと戦って、勝てる可能性もあると踏んで今まで特訓してきたが……


「一度も勝てないってのは中々に堪えるなぁ……」


 何百戦にも渡る模擬戦の結果、俺は勇者に一度も勝てていない。

 勇者の獲物は例の聖剣、というよりは刀と言うべきか。どちらにせよ『剣術』の才能の適用範囲らしく、その動きは素人でも分かる程に洗練されている。

 あれは俺の得意とする喧嘩とは別物、別次元の戦いだ。正直、為す術がない。


「速度、重さ、持久力……何を取っても勇者以下だからなぁ……」


「でもヤマト君には知恵があるじゃないか」


「まぁ……頭の出来だけならお前に勝てる気がするな」


「自分で言い出しといてなんだけど酷くないかい!?」


 俺はへへっと小さく笑うと、重い身体を動かして立ち上がる。

 この特訓は無駄ではない、純粋に戦闘経験を積んで、明らかに成長はしている。その証拠に、俺は勇者の剣を完全に見切れるようになった。

 問題はそれを対処し続ける体力の欠如と脳から身体への信号伝達速度の遅延だ。そのどちらも理論上伸びしろはある。だから、俺はまだ強くなれる。この特訓も意味のある物だ。

 そう自分に言い聞かせると、俺は再び棒を構える。勇者はそんな俺の様子を見て、真剣な面持ちで頷くと、一度剣を鞘に仕舞い、柄に手を掛けたまま構える。


「そう言えばお前……なんで抜刀斎なんて名乗ってるんだ?」


「良くぞ聞いてくれたね!これは神から祝福を受けた時に頂いた二つ名なんだ、格好良いだろう?」


「いや……ぶっちゃけ神のセンスを疑うんだが……」


 俺が呆れたように呟いたその時。拠点の方から誰かが駆けてくるのが目に入る。

 一旦構えを解き、勇者にも目配せで中断を訴える。勇者もその意図を理解してくれたようで、剣の柄から手を離し、近付いてくる人影へと視線を移した。

 やがて、その人影は俺の目にも分かる距離まで近付く。エルだ。鬼気迫った様子ではない辺り。急ぎの用事だが緊急では無いと言った所か。


「どうした?エル」


「はぁ……ヤマトさんにお客様が来たので、お連れするようにアカツキさんから」


「俺に客?ってーと一人しか居ないか……」


「特訓は一時中断だね」


「あぁ、悪いな、それと多分お前にも関係ある用事だ、付いて来い」


「僕に関係ある用事?」


「そうだ、多分だけどな」


 俺に客と言えば一人しか居ないだろう。そいつが直々に俺達の拠点まで来たという事は……用件は一つしか無い。

 棒を地面に置き、勇者を軽く一瞥するとエルに案内するように促す。

 そして暫く三人で歩くと、以前と同じ客間に着いた。


「案内ありがとな」


「じゃあ私は仕事に戻るよ」


「おう、お疲れさん」


 エルは俺と勇者に小さく一礼するとその場を去っていく。

 取り残された俺と勇者は一度顔を見合わせると、ノックをして部屋へと足を踏み入れた。


「失礼するぞ」


「やぁ、暫くだね、ヤマト君」


「おう、良く来たな、教皇」


 客は予想通りと言った所か。教皇イヴ・エンドであった。

 今日は福音使徒が二名付いていて、教皇の座る椅子の後ろに立っている。

 教皇に向かい合うようにして椅子に座ったアカツキが、俺を睨み付けているが気にしない事にする。


「なんか文句でもあるのか?」


「いえ……言っても無駄でしょうから何も言いません」


「流石はアカツキだ、賢明だな」


 アカツキは呆れたように溜息を吐くと、拗ねたように俺から視線を逸らす。少しだけ可愛い。


「それでヤマト君、件の聖遺物だけど……」


「用意できたか?」


 教皇は俺の言葉に大きく頷くと、福音使徒に手で軽く合図を送る。

 それに従い、二人の福音使徒は背後から大きな箱を取り出すと、それを机に上に置いた。

 そして、教皇が丁寧に箱を開ける。

 中には、黒や赤を基調とした装飾の付いた禍々しい剣が入っていた。


「これでどうだろう、およそ200年前の祝福の勇者が握っていたとされる聖剣、ミスッテルティンだ」


「前から思ってたんだが、聖剣って誰が命名してるんだ……?なんか何処かで聞き覚えのある物ばっかなんだが……ついでに改変に悪意を感じるんだが……」


「聖剣は全て神が作っているんだが……どうしてヤマト君が剣の名前に聞き覚えがあるんだい?」


「あーそれについては……まぁ偶然だろ、多分……」


 俺が別世界から来た人間だと言う事はバレると面倒な事になる可能性がある。此処は取り敢えずはぐらかしておこう。


「それで……これは古い聖剣なんだよな、神直々には作って貰えなかったのか?」


「それは……出来なかった、としか言いようがないね」


「教皇であるお前の頼みでも無理なのか?」


「悪いけどヤマト君、これ以上は禁則事項、聖教会の幹部しか知らない事実だから話すことは出来ない」


「あぁ、そうか……分かった」


 神に関して言及する際、明らかに教皇の声色が変わった。

 聖教会は神について何かを隠している?だとすればそれは何だ?神が聖教会の言うことを聞かない……いや、聞けないのか?そもそも神は……


「ヤマト君、それ以上は考えない方が良い、私も君に危害を加えたくはないんだ」


 教皇が強い口調で俺を叱責する。思考は遮断された。俺は考えてる事が表情に出やすいタイプらしい。

 まぁ今思考を放棄する分には構わない、後で考えれば良い事だ。


「チッ……分かった分かった、詮索はやめるよ」


「取り敢えずこれを届けた事で此方の用件は済んだ事になるけど……何か話すことはあるかい?」


「特に無いな、ただこれから面白い事をするが……見てくか?」


「それは、私達が持ってきた聖剣に関係する事かい?」


「あぁ、そうだな……聖剣絡みで、ついでに言えば滅多に見られない物だと思うぞ、なんてったってそれは……」


 教皇の問いに答えながら、俺はニヤリと笑みを浮かべる。

 そして懐から真紅の水晶球を取り出すと、それを掌で転がしながら、言葉を続けた。


「――魔剣誕生の瞬間だからな」

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