決意
「魔王を倒す……か」
「そうだ、お前達にとっても神と教国を守る事に繋がる、悪い話じゃないだろう?」
「魔王を討つ、そう意気込んで過去に何人もの勇者が魔王へと挑んできた、でも成功例は……」
「一度だけあるだろ?」
「……大英雄キュリオスの話か、ご存知だと思うけど……あれも所詮は延命に過ぎない、魔王を討ったとしても……100年以内に次の魔王が生まれる」
「延命に過ぎなくても、やるしか無い、今回の魔王は本気でこの世界を潰す気だぞ、加護があるから安全なんて時代は終わったんだ」
「何か策はあるのかい?」
ある昼下がりの事。俺は教会に出向き、上層から教皇を呼び出し、二人で話していた。
「まぁな、仮に万事うまく行けば……魔王の脅威は一切去る、多少失敗したとしても……この先100年間の安全は保証される」
「まさか……そんな方法が……」
「ただし、実行するには色々と準備が必要だけどな」
「そうか……先代の魔王がやったように、魔王を封印出来れば一番良いんだけどね」
「封印の手法は先代の魔王によって石版として残されていた、が……今は魔窟の底で残骸になって眠ってる」
「ならどうするつもりなんだい?」
「詳細はまだ秘密だ、協力してくれるってなら……話しても良い」
「私達に出来ることはもう、君に賭ける事しか……無いのかな」
「その通りだ、って訳で力を貸してくれるな?」
俺は口角を上げてニヤリと笑う。
それを見て、教皇は諦めたように溜息を吐くと、ゆっくりと頷いた。
「分かったよ、私が……いや、聖教会が君に力を貸そう、何が必要なんだい?」
「決戦に備えて勇者を集めて欲しい、それと……出来るだけ新しい聖遺物が必要だ、どっちも聖教会なら出来ない仕事じゃないだろう?」
「勇者の招集は分かるが……聖遺物なんて何に使うんだい?」
「可能ならば強力な代物を神に頼んで作って貰っても良いぞ、用途は……祝福の勇者の武器とでも言えば良いか?」
「武器として使うのなら剣が理想的かな、分かった、神様に頼んでみるよ」
「助かる、他国の協力も欲しいが……まぁ無理だよな」
「それは出来ないね……教国は外交に不干渉の姿勢を貫いてきた、今更助けを乞うなんて事は無理だ」
「教国の戦力を聖都に集めてくれ、国境警備に割く人員は最低限で良い、相手が空から侵略してくる以上、地上の警備は無駄だ」
「分かった、それに応って……具体的な期日を決めて欲しい」
「一月後だ、いけるか?」
「ギリギリかな、まぁなんとかしよう」
「助かる、取り敢えず今頼むのはこれだけだ、具体的な作戦は準備が整い次第、追って伝える」
「分かってると思うが、教国の未来は今此処で君に託された、失敗は許されないからね」
「おう、任せとけ。俺が教国を守ってやるよ、"神に誓って"な」
そう誓った所で、俺と教皇の話は終わった。
一月後の決戦に備え、色々と準備が必要だ。
俺は拠点に戻り、その夜、仲間達の前で話をした。
「と言う訳で……俺は魔王を倒すつもりなんだが……異議はあるか?」
「ご主人が決めた事ならば我は従うぞ」
「まぁ、何もしない訳にはいきませんからね」
「わたしが居れば魔王なんて余裕ね!」
「ヤマト様もやる気になったんだね……私は付いて行くよ」
「魔王を倒せば僕は英雄になれる……!賛成だ!」
「つか何で今日に限ってお前が居るんだよ……旅に出てから一月も経ってないぞ」
「えっと……これ僕達も関係あるの?」
「別に参加しないならそれでも良いぞ」
「じゃあ……協力はするけど決戦には付いて行かない……で良いかな、ファイの事もあるし」
「……」
Vとファイを除いて全員が付いて来るようだ。まぁ大凡予想通りと言える。
「ティア、魔窟の時を覚えてるな?あれが大人の殺し合いだ、いつ殺されてもおかしくはない、そんな危険を侵してでも……付いて来るのか?」
「前回の時は何も出来なかったけど……今度は違うわ!私だって戦える!」
「まぁ自分で決めたなら俺は止めない、エルはティアを守ってやってくれ」
「はいヤマト様、任せて」
「クロセルは、決戦に備えて魔力を溜め込んでくれ、出来る限り多くだ」
「うむ、任せてくれ」
「そうなると……公衆浴場は一旦休業になるのかな?」
「いや、普段の魔力消費であれば一晩あれば回復する故に、休業せずとも魔力は溜められるぞ」
「まぁそもそも最近のクロセルは殆ど大規模魔術使ってないしな、元々満タンみたいな物だろ」
「そんな感じだ」
「まぁ準備と言っても他に大してやる事は無いんだけどな」
「それでヤマトさん、作戦の詳細は?」
アカツキが俺に問い掛けてくる。まぁ気になるのも無理はないか。
俺だって無策で魔王に挑む訳じゃない。クロセルから手に入れた情報を元に、無い知恵を絞って魔王を倒す方法を考えてきた。
だから……今すぐにでもそれを披露したい気持ちもあるのだが……
「……話すと長くなるからまた今度だな」
「ギリギリに話してなんとかなる作戦なんですか?」
「お前らを疑ってる訳じゃないが……作戦が漏洩すると詰むからな、確実を期す為に今は秘密にしておこうと思ったんだ」
「まぁヤマトさんがそう言うのなら……」
「と言っても、クロセルならばっちり俺の心を読めるから隠しても無駄なんだけどな」
「うむ!我は把握しているぞ」
「うん!心を読むなって命令を無視してた事が今此処で露呈したな!」
「あっ……いや……ご主人……それはその……」
痛い所を突かれたとばかりにクロセルが狼狽える。可愛らしい。
クロセルを見てニヤける俺の顔を、ジト目で少し睨みつけながら、アカツキはぼそりと言葉を漏らす。
「同じ分析の才能、私も頑張れば見ただけで人の心とか分かるんですかね……」
「才能指数の差は絶対だからなぁ……キツいんじゃないか?」
「なんか悔しいですね……事実だから何も言えませんが」
「いやアカツキの分析の才能も十分過ぎる程に有用だろ……相手の才能が分かるとかこの世界じゃ軽いチートだぞ」
「分かった所で何も出来ないんですけどね……」
なんかアカツキがどんどんマイナスな方へと思考を加速していく。
褒めたつもりなんだが、やっぱり女心は難しい。
「僕は特に何もしなくて良いのかい?」
「あーそうだな……勇者はクロセルの代わりに俺の特訓の相手でもしてくれ、お前は今回の作戦において重要なピースだからな、勝手に動かれちゃ困る」
「やっぱり……!僕は魔王に止めを刺す要員なんだね!?それなら仕方ないなぁ……ヤマト君の特訓に付き合ってあげるよ」
「いや止めを刺しちゃ不味いんだが……まぁ、なんて言っても通じないか、協力させる為に今はそういうことにしとこう……」
小さく呟きながら一人で納得する。まぁ素直に俺の言う事を聞くタイプでは無い物の、こいつは単純故に扱いやすい方だ。
「アカツキ、ティア、エルは自由だ、まぁいつも通り公衆浴場の営業に力を入れて貰って構わない」
「分かった、次の命令が出るまでは今まで通りにするよ」
「……とまぁ話は以上だな、決行は一月後、皆気を引き締めておいてくれ」
皆への話を終えると、俺は席を立つ。
そのまま寝室へと向かおうとすると、後ろに気配。振り向けば、クロセルが俺の後に付いて来ていた。
眼と眼が合って、一瞬の沈黙。どうやら何か物を言いたそうな顔をしている。
「俺に何か用か?」
「いや……ご主人は前にこれ以上魔王とは関わらないと言っていたからな、どうして今になって魔王を倒す事に精力的なのか不思議に思ったのだ」
「分かってて聞いてるだろ?」
「まぁな……一応ご主人の口から聞いておきたかった」
「仕方ねぇな……簡単な話だよ、俺は大切な物を守れなかった経験がある、この世界に来たきっかけだ、俺はそれを後悔していた。だからさ……二度目は嫌だと思ったんだ、これ以上……俺の大切な物を失いたくない、その為なら手段を問わない。お前達を守る為なら、俺はヒーローにも悪役にもなれる。これが今の俺の原動力だ、俺は英雄になりたい訳じゃない。ただ守る為に戦うんだ」
「ご主人も変わったな」
「そうか?」
「ご主人は自分は元々悪人だと言っていた、だから自分は真っ直ぐな生き方が出来ないとも言っていた、自分は正義の味方にはなれないと言っていた、だが今はどうだ?理由は何であれ、世界を救おうとしている、これはきっと……以前のご主人では出来なかった事だ」
「所詮は利己的な理由だ、俺は……」
その続きを言おうとすると、クロセルがこちらに近付き、人差し指で俺の口を抑える。
俺は勇者じゃない、英雄じゃない、ただ自分の為に生きる利己的な人間に他ならない。
「確かにご主人は世界の味方じゃないかもしれない……でも……」
俺の心を知っているであろうクロセルは、何故か笑顔を浮かべると、小さく背伸びしながら、俺の耳元で小さく囁いた。
「――ヤマトは……私のヒーローだよ」
「なっ……!?」
そんなクロセルの突然の発言に思わず俺は驚きの声を漏らし……反論が出てこず黙り込む。
顔に熱が回るのを感じる。不覚にも今、俺はクロセルに対しときめきを覚えた。これも俺には縁のない感情だと思ったが……
「我だけじゃない、アカツキ、ティア、エル、勇者、V、ファイ、ご主人は皆のヒーローだ、そうだろう?」
「あぁ……まぁ、そうだな……」
俺が戦う理由は、今クロセルが挙げた仲間達を守りたいからだ。彼女達との平和な暮らしを続けていきたいからだ。
だから確かに……今の俺は、少なくとも彼女達の中では……英雄に等しいのかもしれない。
「あぁ……くっそ……らしくねぇ……そもそもまだ何も始まってないんだ、まだ俺はヒーローなんかじゃねぇぞ」
「うむ、そうだな、なら私達のヒーローになれるよう、頑張ってくれ」
「やる気が削げるなぁ…」
「嬉しい癖に何を言う」
クロセルが俺の顔を指差しながら悪戯っぽく笑う。
そうだ、俺が守りたいのは……この笑顔だ、こんな日常だ。その為なら俺は……
「あー今日は色々な所を回ったから疲れた……寝る前にマッサージを頼む」
「全くご主人は、仕方ない……我に任せておけ」
そんな風に仲良く駄弁りながら、俺達は自分の部屋へと戻るのであった。




