回想『Crocell Ⅲ』
「魔王様!王国から勇者一行が魔王城に進軍中との事!」
「そうか、報告ありがとう、でも交戦命令は出さない、全ての魔物に告げてくれ、勇者一行の進軍は無視し撤退すること」
「ですが……それでは魔王城への侵入を許す事になるのでは?」
「手を汚すのは僕一人で十分だ、魔族達にも地下に隠れているよう伝えてくれ」
「分かりました……では失礼します」
魔王は伝令の魔族とそんなやり取りを交わす。そして間も無く、伝令の魔族は素早く王座の間を後にした。
その様子を、魔族の少女は魔王の隣でただ見守っていた。
「スカルフの反乱は立派な魔王主犯の侵略行為だった、こうなるのも当然の帰結だね」
「魔王様は悪くない!悪いのは……!」
「いや、あれは僕の責任だ。出来れば……君の事も危険に晒したくはないんだけど……」
「っ……私は魔王の側近です……最後までお供します」
「そうか……分かったよ、別に僕が君の事を守り抜けば良いだけの話だ、君も僕と一緒に戦ってくれ」
「はい!頑張ります!」
自分を必要としてくれた事が嬉しいのだろう。少女は満面の笑みを浮かべて魔王の言葉に頷いた。
一方その頃、勇者一行は魔王城の眼前まで足を進めていた。
「良いか?俺達が史上初の……魔王を討伐した英雄になるんだ」
「勿論、分かってるぜ、祝福の勇者様」
「ジョージ、君も分かってるね?」
「イエェェェス!ミーは分かってマース!」
「まぁ一番自覚が無さそうなのはプルマゲだけどな」
「まぁ……ハイルさんの言う通りなんじゃないですかね、僕なんか居ても大して役に立たないですし……」
「そんな事は無い、勇者プルマゲの魔術が無ければ、俺達は此処まで来れなかった」
「いやいや……魔王領に入ってから僕一回も魔術使ってないんですけど……」
「そう言えば魔王城まで真っ直ぐ来た訳だが、一度も魔物に遭遇しないなんておかしいよな?」
「確かにオカシイですネー?まるでミー達を避けてるような感じデース」
「きっと……戦力を魔王城に結集させたんだろう、だから本当の戦いは……これから始まるんだ」
勇者一行は魔王城の門の前に立つと、お互いに仲間の顔を再確認する。
羽のついた帽子に巨大な弓を背負った茶髪の勇者ハイル。
猫背で手に本を持ち、陰気なオーラを漂わせる緑髪の少年、勇者プルマゲ。
独特のアクセントのある口調で話す、タイツのような赤と青の全身スーツに身を包んだ勇者ジョージ。
そして最後に。聖剣エックストラカリバーを腰に携え、輝かしい黄金の鎧を身に纏った金髪容姿端麗の美男子。祝福の勇者キュリオス。
四人は仲間の姿を今一度確かめ合うと、満を持して魔王城へと足を踏み入れた。
「……敵は何処デース?」
「見事に……無人だな」
「はぁ……此処まで来て罠だったりしませんよね」
「いや、この強大な気配は……魔王は確かに奥に居る」
「本当か?祝福の勇者様」
「本当だ……皆、気を引き締めて俺に着いて来い」
敵の本拠地である魔王城が無人……ともなると、勇者達が訝しむのも当然である。
だがその中、一人だけ未だに真剣な面持ちで、先へと歩みを進める男が居た。その男こそ、祝福の勇者キュリオスである。
先を急ぐ祝福の勇者に続いて、他の三人も魔王城を進んで行った。
そして、勇者一行はある部屋の前で足を止める。
「……宝物の気配がする」
「またかよ、祝福の勇者様の気配探知」
「うるさい、この部屋だ……罠に気を付けて入るぞ」
何処か呆れたような声色でハイルが呟くと、祝福の勇者はそれをぴしゃりと一蹴し、魔王城の一室へと足を踏み入れる。
「此処は……研究室ですかね?」
「ヘーイ!宝物なんて何処にも無いネー!?」
「いや、あそこに金庫がある、破壊する」
「相手が魔王と言えど……それって立派な窃盗なんじゃねぇの……」
「唸れ聖剣!エックストラカリバー!」
「前から思ってたんですけど、聖剣とか魔剣とかを振ると剣からビームが出る謎理論って何なんですかね」
「ついでに宝箱とかを強引に破壊しても中の物が無事な理屈も謎だよな」
「勇者だから!当然デース!」
祝福の勇者は剣を振り、その余波で金庫を破壊する。
ぱっくりと裂けた金庫の中には、厚い書類のような物が入っていた。
「……何かの研究資料とかですかね?」
「少し読んでみる、待っててくれ」
祝福の勇者は書類を手に取ると、それにざっくり目を通していく。
「おいおい……これは大発見じゃないか!?俺達が普段何気なく使う"能力"を才能と称してその実態を隅から隅まで解き明かしている、それに何より……その"才能"を誰もが分かるように数値化する方法まで書いてあるじゃないか!?」
「そんなすげぇ物なのか……でもこれってつまり、魔王がそれを研究してたってことだよな……?」
「魔王を倒して!これを俺の研究って事で公表すれば俺は大英雄になれる!それほど凄い物だよ!これは!」
「いや……それって立派な研究成果の盗用じゃ……」
「俺は祝福の勇者だぞ!?何か文句があるのかい?」
「はいはい、ありませんよ、祝福の勇者様」
「まぁ……もう良いですよ……凄いですねー祝福の勇者様は」
「サスガは祝福の勇者ネー」
文字通り仲間に祝福されながら、祝福の勇者は、手に入れた書類を大事そうに仕舞った。
「さて、宝物も見付けた事だし!魔王退治といこうか」
そうして研究室を後にすると、勇者一行は玉座の間へと進むのであった。
そして遂に訪れた玉座の間。勇者一行は魔王と対峙することになった。
「やぁ、良く来たね」
「魔物を従え散々無辜の民を苦しめた悪逆非道の魔王め!この俺!祝福の勇者キュリオスが貴様を成敗してやる!」
「成敗ネー!」
「という事なんで、よろしく頼む」
「僕本当は戦いたくないんです……あまり痛くしないで下さいね……」
次々に武器を構える勇者達を何処か悲しげに見つめながら、魔王は槍を手に取る。
その場に居る全員が臨戦態勢に入ったのを確認すると、ワンテンポ遅れながら少女も身構える。
「過去に魔王を倒した前例が無いから……もはや忘れ去られているだろうけど、僕を殺しても無駄だよ」
「嘘だ!自分の身を護る為に嘘をつくなど!恥を知れ!」
「君は……祝福の勇者だね……もう少し聡明だと期待していたんだが……」
魔王は祝福の勇者と目を合わせると、哀れみを帯びた瞳がゆっくりと閉じる。
「まぁ当然か、君達も手ぶらで帰る訳にはいかないんだよね……それなら僕は……」
魔王は徐に少女を抱き抱えると、その耳に何かを囁く。
「………………」
その言葉を耳にして、少女は驚いたように目を見開くと、嫌だとばかりに首を振った。
そんな少女に、困ったような笑みを返しながら、魔王は少女を強く後ろへと突き飛ばした。
玉座の間の後ろにあるのは、一面のステンドグラス。少女の身体はそれを突き破りながら……魔王城の高層から地上へと、真っ逆さまに落ちていった。
「何をしている!?な……仲間を殺すなど」
「僕は悪逆非道な魔王……なんだよね、こんな酷い事が出来る魔王を、君達は放っておけない、そうだろう?」
「その通りだ!覚悟しろ!魔王!」
「そう……だね……出来れば早く済ませてくれ」
魔王の身体がぐらりと傾く、その姿が揺らぐ。
槍を杖にしてかろうじて立っていると言った様子だ。
「良いのか?やっちまうぞ?」
「ヘーイ魔王弱ってるネー!チャンスヨー!」
「駄目だ!止めは俺が刺す!お前たちじゃない!僕が!祝福の勇者である僕が!英雄になるんだ!」
「僕は名声とか興味無いんで……勝手にやっちゃってください」
「唸れ!!!聖剣!!!エックストラカリバー!!!」
一気に踏み込んだ祝福の勇者に一刀が、振り下ろされたのと同時に、魔王の身体が真っ二つに切り裂かれる。
「やった!俺がやったぞ!俺が英雄だ!」
「ふははー……やーらーれーたー……なんてね」
致命傷を負った魔王は、何故か安堵するように笑みを浮かべると……そのまま地に膝をつく。
「君達の……勝利だ……今此処で……魔王は……死ぬ」
魔王の姿は霞み揺らぎ、やがて空中に溶けるようにして消え去り……後には真紅の水晶球だけが残される。
それを祝福の勇者は、無慈悲にも足で叩き割った。
そして辺りには、ガラスの割れるような音が響き渡り、次に静寂が訪れる。
「……呆気なかったな」
「えっ……マジで魔王退治の旅これで終わりなんですか?冗談ですよね?」
「ウーン……物足りないネー」
「長く辛い旅だったな……それでも俺に付いて来てくれてありがとう、君達は本当に優秀な勇者の仲間だ」
「いや……僕達も一応勇者なんですけど」
「うるさい!本当は勇者は僕一人で十分だったんだ……それをあのお節介な王が仲間を付けるとか言い出すし……」
「喧嘩すんなよ、もう終わったんだから良いだろ」
最後まで険悪な雰囲気が流れながらも、無事に勇者一行は魔王を討ち、帰還したのであった。
こうして、人類史には一時の平穏、平和が訪れた。
そして、祝福の勇者キュリオスは、人類史上初となる、魔王を討った英雄として。更には、今まで不透明な概念であった個々の持つ"能力"を才能システムとして読み解き、それを種別に特定、数値化する研究を発表。
その二つの功績は世界規模で大きく評価され、彼の名は未来永劫と讃えられる事となったのだった。




