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回想『Crocell Ⅰ』

それは700年以上昔の話。

魔王に仕える一人の魔族が居た。


「召喚に応じ参上しました……魔王様、私に何用でしょうか……?」


所謂現代で言うゴスロリの類と称されるであろうヒラヒラの黒衣を纏った、長い白髪に赤い瞳の人形のような容姿をした少女が、一人の男の前に跪く。

そして、魔王と呼ばれた男は玉座らしき大きな椅子に座ったまま、少女に対して言葉を掛ける。


「よく来てくれた、急に呼び出して済まなかったね、件の研究の進捗を聞きたいんだが、構わないかな?」


「分かりました……私達一人一人が特定の行動をする際に発揮される、誰もが固有に持つ力、それは『才能』と称される能力である、という所までは前にお話しましたよね」


「うん、そこまでは理解しているよ」


「その"才能"には様々な種類があり、同時に、同じ種類の才能でも実際に発揮される能力には個人差がある事が判明しました。私はそれを"才能指数"と称し、誰もが分かるよう数値化する事を目標に研究を続けています」


「そうか……これは出来ればで良いんだけど、その"才能"と"才能指数"を誰もが判別出来るような手段を開発して欲しいと思っている、それがあれば、この世界の人間は今よりもずっと自分の長所を活かす事が出来るようになると思うんだ」


「えっと……分かりました、頑張ります」


「うん、ありがとう、頑張ってくれ」


少女は小さく震えながらも、しっかりと研究成果を報告する。

魔王の圧倒的な力の前で、力の無い者は本能的に恐怖を感じてしまう。

故に少女は魔王を嫌っている訳ではない、ただどうしようもなく怖いだけなのだ。


「父上、お言葉ですが……人間が自らの能力を把握し、効果的に活用してきた場合、それは僕達にとって不利になるのでは?」


そんな少女と魔王のやり取りに、一人の青年が言葉を挟む。

青年は魔王の一人息子、闇の世界の王子である。

流石は魔王の息子と言った所か、魔王の前であっても一切怯む事無く、自分の意見を述べる。


「それで良いんだ、人間には今より強くなって貰わないといけない」


「何故ですか!?魔王には世界征服を遂げられる力があるのに!どうして父上は……人間を滅ぼそうとしないんですか?」


「あはは……そもそも僕は望んで魔王になったんじゃないからね」


「それは……分かっていますが……辛くはないんですか?」


「破壊衝動の事か……確かに厄介ではあるけど……僕の能力……いや折角だし才能と称そうか、僕の才能があれば抑え込むことが出来る」


「父上の才能……?」


「君なら正確に分かるだろう?僕の才能がどんな物か、教えてくれないか?」


「えっ、えっ……私ですか……?」


「うん、君に聞いている」


突然話題を振られて、少女は困ったように辺りを見渡す。だが当然助けはない。

少女は覚悟を決めて魔王を直視すると……そのままゆっくりと言葉を紡いだ。


「魔王様の才能は……えっと……とても強い『意志』と強い『槍術』普通の『カリスマ』と少しの『魅力』……です」


「まさか……父上は魔王の破壊衝動を意志の才能で抑え込んでいると?」


「まぁ、そんな感じかな」


「くっ……本気で父上は人間を滅ぼさないつもりなんですね……?」


「うん、僕は人間を滅ぼさない」


「そう……ですか……」


魔王の息子は両拳に力を込めて、悔しげに歯を噛み締める。


「そんな事を言ってても、勇者は父上を討ちに来ますよ」


「うん、来るだろうね」


「それでも父上は……人間を殺さないと?」


「殺しても意味がない、どうせ勇者に討たれずとも100年で尽きる命だ、他人を殺してまで僕が生き延びる必要は無い」


魔王の命は、魔王として生まれ変わったその時から100年である。これは神の定めた絶対のルール。100年以上この世に君臨し続けた魔王は今まで居ない。

場合によっては魔族の寿命の方が長いぐらいである。


「……分かりました、父上の考えは十分に分かりましたとも、では僕は部屋に戻ります、失礼しました」


やや怒りの込もった口調でそう言い捨てると……魔王の息子は玉座の間を後にした。

そして後に残されたのは、魔族の少女と魔王の二人。


「君も戻って構わないよ、報告ありがとう」


「あっ、はい……」


少女はゆっくりと立ち上がると、魔王に向かって深く一礼した後、回れ右して部屋を出て行った。


そして月日は流れる。


ある日、少女は再び魔王から召喚の命を受ける。

魔王城での暮らしにも慣れ、魔族としての振る舞いも板についてきた。そのお陰か、魔王に対してあの言いようもない恐怖を感じる事は無くなっていた。

ただ、今回招集を受けたのは少女だけではないらしい。辺りには、面識の無い他の魔族が何人も魔王の前に立っている。そしてその誰も、用件は伝えられていないようで……誰もが息を呑んで魔王の言葉を待っていた。


「皆、忙しい中良く来てくれた、感謝する」


魔王はその場に居る全員の顔を見渡しながら感謝の意を述べると、安心したように顔を綻ばせ、深く頷く。


「時間が無い、早速だが用件を伝えよう、僕の息子、スカルフ王子の謀反を鎮圧して欲しい」


魔族達にどよめきが広がる。それもそうだろう、魔族が魔王の意志に反して謀反を起こすなど自殺行為にも程がある。それを魔王の息子、スカルフはやってのけたと言うのだ。驚くのも無理はないだろう。


「スカルフは魔物を指揮し、王国方面に侵攻している、その道中にある町村は確実に滅ぼされると言っていい、君達にはそれを阻止して欲しいんだ」


今度は魔族達の心に疑念が広がる。魔族が人間を攻め滅ぼすのは当然の事だ。それを"謀反"と名付けた魔王に対して、魔族の多くは疑念を抱いた。


「命令ではない、僕は魔王の力を使いたくないんだ、だから僕と一緒に、スカルフを止めてくれる人は前に出てきてくれ、仮に協力してくれないのだとしても、罰したりはしないから安心して欲しい」


此処に居るのは魔族。仮に魔王の命であろうと、人間を助けるなど論外である。故に、誰も歩みを進める者は居なかった。

――そう、一人を除いて。


「……私……私が!行きます!」


「君は……」


少女はなけなしの勇気を振り絞り、魔王の前に一歩出た。

当然、これだけの魔族の中でたった一人立候補するとなれば、嫌でも注目が集まる。

周りの魔族は少女に対して奇異の視線を注ぐ。その視線には少なからず悪意の込もった物も混じっており、それを感じ取った少女は震え、俯く。


「おかしいですよね……私、魔族なのに……人間を傷付けて欲しくないと思うなんて」


「あいつ元人間なんだろ?」


「魔王様に媚びを売りたいからって……」


「魔族失格だな」


辺りから嫌な言葉が耳に届く。その心無い誹謗中傷は、未だ幼さを残す少女の心に強く刺さった。

魔族らしくない自分が嫌で、思わず涙が溢れた。


「良いんだ、君は間違っていない」


そんな少女に、魔王は歩み寄り、その小さな身体を抱き締める。


「魔王……様?」


「君は魔族でありながら優しい人の心を持ってるんだ、それは間違いなく美徳なんだから、誇って良い、もっと自分に自信を持って良いんだよ」


「私は……間違ってないんでしょうか」


「君は間違ってない、君を魔族にして良かったと思っている、僕の目に狂いはなかったと言うことだね」


魔王はゆっくりと両腕を離すと、少女に笑い掛ける。

そして再び立ち上がると、他の魔族達に強い口調で言葉を投げる。


「先も言った通り、君達が罰される事はない、もう下がって構わないよ」


「はい、では失礼します」


次々と魔族達は回れ右をして部屋を出て行く。

そして、魔王と少女だけが残された。


「協力してくれてありがとう、確か君は……魔術が使えたよね?」


「あっ、はい……使えます」


「此処にスカルフの軍の現在の座標がある、空間魔術で飛べるかな」


「分かりました、やってみます」


魔王は地図に数列が書き込まれた謎の紙を少女に渡すと、玉座の後ろへと歩いて行き、一本の大きな槍を取り出す。そしてそれを背負うと、紙とにらめっこをしている少女の元へと戻る。


「飛べる……と思いますが、一度に大人数は無理です……すいません……」


「いや構わないよ、行くのは僕と君の二人だけだ」


「えっ!?」


少女は驚いたような声を漏らしながら、とても意外だという顔をした。魔王が魔物を引き連れ、此方も軍として迎え撃つのかと思ったからだ。


「君の事は僕が必ず守る、だから僕を信じてくれないか?」


「はい、信じます」


即答だった。少女は自分の言葉に自分で困惑している様子で、慌てて口を抑える。

そんな少女の様子を笑って見守りながら、魔王は少女の手を握った。


「さぁ、頼むよ」


「はっ、はい!分かりました!魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

ル・トゥーム・アウナデム・ティロ

――空間魔術……空間接続(ゲート)


少女は少しだけ照れたように頬を染めながら、静かに魔術の詠唱をする。

そして、彼女の口が魔術言語を紡ぎ終わると同時に、魔王と少女の足元に白い魔法陣が生まれ……辺りは光で真っ白に染まった。

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