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違法奴隷売買

 違法奴隷売買の黒幕、アダンに手足の自由を奪われ、俺達は絶体絶命の危機に陥っていた。

 いや……俺の拘束はいつでも解けるしクロセルも口を塞がれている訳では無いから魔術でどうとでもなるのだが。

 人質が居る以上、強引な手段は取れない。相手の力量も未知数だ。という訳で……今は大人しく捕まっているのだが……


「約束通り、人質を解放しろ」


「分かってるよ、僕は約束を守る男だ、ほら……これで良いかい?」


 アダンは人質の少女を離す。少女は意識を失っているようで、そのまま力無く地面に倒れ込んだ。


「それで、俺達をどうするつもりだ?」


「そうだな……君達は強いから商品にする事も出来ないし……かと言って生かして帰す訳にもいかない。となると……答えは一つだね」


「そうか……」


 どうやらアダンは俺達を殺すつもりらしい。ナイフを片手に、俺達の方へと歩み寄ってくる。

 それに対して、俺は息を大きく吸い込み……大声で叫んだ。


「嫌だあああああああああああああ!!!死にたくない!!!誰かあああああああああああああ!!!助けてくれ!!!」


「命乞いとは意外だね……残念だけどこの建物は完全防音だ。君達に助けは来ないよ」


「うわあああああああああああああ!!!やめろおおおおおおおおおおおおお!!!」


「煩いなぁ……僕は煩いのが嫌いなんだ、だから君から最初に殺してあげるよ」


「死にたくない!死にたくない!嫌!嫌!嫌!」


「さようなら」


 アダンが俺の目の前でナイフを振り上げる。それを見て、俺はニヤリと笑みを浮かべ、一言呟いた。


「――なーんてな……やっちまえ、勇者」


「ヒーローアターック!!!」


「な……何処から!?」


 俺の目の前、アダンと俺の間を、勇者が抜刀した状態で駆け抜けていった。

 勇者の一刀によりアダンの両腕は見事に両断され、その足元に転がる。

 アダンは、何が起こっているのか理解出来ないとばかりに辺りを見渡し、驚きのあまり挙動不審になっている。

 そして、ふと自分の腕だった場所を見たかと思えば、一瞬の思考停止の後、絶叫を放つ。


「あぁぁぁぁぁ!?僕の腕が!?」


「まぁ文字を読む程度の脳はあったみたいだな、良くやったぞ勇者」


「くっ……どうして……いつの間に……」


 俺は呆れたように溜息を吐きながら、後ろ手で爪を噛み合わせディザビリティで鎖を解くと、そのまま立ち上がり、アダンの顔を指差し告げる。


「お前、今になってもバレてないと思ってるのか?」


「な……何がだ!」


「お前の"目が見えない"事だよ」


「っ……」


「その代わりに異常な程の聴覚がある、だから傍から見れば健常者に見えたって訳だ」


「いつ気付いた!?」


「疑ったのは初対面。俺とVの二人が居たのにV一人に対して声を掛けただろ、最初は俺を無視してるだけだと思ったが……二度目に会った時もそうだった。お前、俺が仲間を連れてたのに俺達の方を見て"俺だけ"が来たと勘違いしたよな」


「そんな事で分かる訳が無いだろう……」


「あぁ、そうだな。変な奴だとは思ったが、確証には至らなかった。本当に確信を持ったのは此処で会ったその時だ」


「なるほどね……人質か……」


「そうだ。あの応接室は壁が薄いという訳では無い。普通の人ならば扉の前に居るだけじゃ中の様子は聞こえないだろう。まぁ……それなのに聞こえてたって事はお前の聴力が普通じゃないからだと推測できる」


「だから大声を出して仲間の行動する音を掻き消してたって訳か……」


「人質を解放した上でお前を無力化するには、これが一番良い方法だと思ってな。お前の目と耳について仲間に伝えた。後は味方次第、まぁ上手いことやってくれたって訳だ」


「僕は……ここまでなのか……」


「そうだ、大人しく諦めろ」


 両腕を失い、もはやアダンに出来ることはない。俺は悠々とクロセルとアカツキの鎖を解き、その鎖でアダンを縛る。


「僕がみんなを救ったんだ!凄いだろ!」


「はいはい、良くやったぞ勇者」


「私に黙れって言ったのは勇者さんがアダンさんに近付いてるのに気付いても黙ってろって事だったんですね」


「まぁな、察しが良くて助かったよ」


「むぅ……あの程度の雑魚ならば我の魔術で瞬殺出来るのだがな……」


「正直、どうしようも無くなったらクロセルに頼るつもりだった、今回は頼るまでも無かったってだけだ、能ある鷹なんだから爪は隠しとけ」


「なんだそれは?」


「才能のある賢人はその才能をひけらかしたりしないって意味の言葉だ、お前は賢いだろ?」


「うむ!我は賢いからな!決してその才能をひけらかしたりはしないのだ!」


「そうそう、勇者みたいにはなりたくないだろ」


「確かにご主人の言う通りだな」


 俺はアダンを縛り終えると、満足げに頷く。

 これで依頼は完遂できたと言っていい。後は事後処理になるが……


「アカツキはこいつを聖教会に突き出してきてくれ、ついでに此処に捕らえられてる他の奴隷の保護の依頼も任せた」


「分かりました、ヤマトさんは?」


「俺はこいつを連れて帰る、クロセルと勇者はアダンの配下の福音使徒達を縛って牢屋にでも入れといてくれ、その後はアカツキと合流して聖教会と一緒に事後処理を頼む」


「了解だ」


「任せてくれ」


「じゃあ頼んだぞ」


 面倒な事後処理は仲間に任せ、俺は人質の少女を抱き抱える。

 近付いて気付いたが、奴隷には首と手足に鉄の輪が付けられている。鍵穴などは無い。強引に破壊するしか無いのだろうか。


「ま、後でクロセルにでも頼めば良いか、じゃあ先に帰ってるぞ」


 俺は人質の少女、Vの妹と思われる人物を抱き抱えたまま、隠れ家を後にした。


 そして聖都を暫く歩き、真っ直ぐに拠点へと向かった。

 数時間後。俺は拠点へと辿り着く。


「ただいま」


「おかえりなさい、ヤマト様」


「エルか、Vは何処だ?」


「部屋に居ると思うよ、それで……その子がもしかして?」


「あぁ、多分だがVの妹だ。敵の隠れ家に居たから連れ帰ってきた」


「そうなんだ、流石はヤマト様、お手柄だね」


「じゃあVの所に行ってくる」


「行ってらっしゃい」


 俺はエルと短い会話を済ませると、Vの部屋へと向かった。

 ドアをノックし、中から短い応答が聞こえたと同時に、俺は扉を開き中に入る。


「よう、帰ってきたぞ、V」


「おかえり、ヤマトさん……ってその子は!」


 Vが俺の方へと振り返る。その刹那、驚いたように目を丸くしたかと思えば、全速力で俺の方に駆け寄り、少女の顔を覗き込む。


「お前の妹で間違い無いか?」


「うん!うん!間違いない!ファイだ!僕の妹の!」


 目を輝かせて何度も頷いたかと思えば、力を失ったかのように地面に座り込む。


「良かった……無事で良かったよ……」


「あぁ、良かったな。大した怪我も無いみたいだぞ」


「ベッドに寝かしてやってくれ、僕が面倒を見る」


「そうだな、後は兄のお前に任せる」


 俺はVのベッドの上に少女を寝かせると、そのままVの部屋を後にしようとする。


「あの!ヤマトさん!」


「あ?なんだ?」


「本当に、本当にありがとう!僕の妹を無事に取り戻せたのは貴方のお陰だ。面倒事に巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思ってる、この礼はいつか必ずするから!」


「あぁ、まぁ期待しとくわ」


 Vは俺に向かって何度も頭を下げる。なんともくすぐったい感覚に俺は頭を掻きながら……適当に手を振り、その部屋を後にした。


「これで……終わりか……」


 教皇の依頼、Vの依頼、その両方が解決し、これで俺達の抱える問題は無くなった。

 これで……これからは、平穏無事な日常を謳歌出来るのだろうか。


「少しは罪滅ぼしになった……だろうか……」


 らしくない呟きだ。俺の前世の罪を精算するには、この程度の慈善活動じゃ到底足りはしない。


「まぁ……この世界で安寧を得るには魔王をどうにかしないとだよな……」


 先日の襲撃で確信した。もはや教国も無事とは言えない。王国で犯罪者として生きる、帝国で魔王の傀儡として生きる、なんて手もあるが、それなら死んだ方がましだ。


「魔王を倒す……か、今の俺達じゃ無理な話だが……或いは……」


 あまり時間は残されていない。限られた時間をどう使うか……それが俺と魔王の勝敗を決めるだろう。


「公衆浴場の運営はアカツキ達に任せて、俺は俺で動くとするか……」


 策は無い訳でもない。魔王に対抗する術を用意することも不可能ではない筈だ。

 俺は拳を強く握り締め、未来への覚悟を決めるのであった。

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