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直談判

 帝国兵により制圧された下層の教会施設の速やかな鎮圧によって、勇者と教国兵の援軍が上層に到達。

 上層での援軍と帝国兵隊の数時間に渡る交戦。その軍隊の壊滅を以て、飛行船は上層を発ち、帝国軍は撤退に追い込まれたのであった。

 そして、教国には再び、平和が訪れたのであった。


 一方その頃。襲撃が終わり、一段落ついた所で、俺とクロセルとアカツキの三人は、今後について話し合っていた。


「以上が今回の襲撃の概要ですね、聖教会の発表ですがヤマトさんの言ってた話とも特に食い違う点はありませんし、間違いないと思います」


「教国は追撃しなかったのか?」


「帝国……いや魔王軍の飛行船の速力には教国の持つ移動手段じゃ追い付け無い上に、国境を超えられたら追跡は困難ですからね、追撃が出来なかったのは妥当でしょう」


「なんとも奇妙だよな……結局、魔王軍は何がしたかったんだよ」


「神の抹殺……で間違いないだろうが、明らかに今回は戦力を抑えての襲撃だったな」


「はい、クロセルさんの言う通り、あれはどう考えても魔王軍の全力では無いですね、教国の戦力を図る為の襲撃……であったと考えるべきかもしれません」


「教国が何らかの"奥の手"を持ってることを想定して、石橋を叩いて渡る手段に出た訳か、魔王の奴も中々に慎重だな」


「まぁ、仮にそういう意図だとすれば今回の襲撃は成功だと言っていいでしょうね。兵に多少の損害が出たとしても、教国の戦力情報を無事に持ち帰れた訳ですから」


「今回のが本気じゃなかったなら、襲撃には"次"があるってことだよな。そしてその次こそは相手も全力を出してくる、となると神が殺されるのは時間の問題か……」


「教国の取れる対抗策としては……他国の協力を仰ぐか、此方から打って出て魔王を討つ事ぐらいですかね」


「教国は今まで頑なに外交を断ってきた国だから前者は望み薄、後者は無謀としか言いようがないな」


「同感です、後はそうですね……神様が動いて"奇跡"を起こしてくれることを祈る事ぐらいでしょうか」


「今回もそうだが神って奴は何考えてるんだ……今回神がやった事と言えば、自分の身を守る為に勇者を呼び寄せたぐらいだろ?」


「神も自由にその権能を使える訳じゃないのかもしれないですね……私達人間のように自由には動けないのかもしれません」


「或いは……神は"意志がない人形"だったりしてな、最低限の自衛本能と条件付けされた行動しか取れないロボットみたいな奴なのかもしれない」


「ロボット……?」


「待って下さい、神に意志がなければ"神の意志を代行"する聖教会の存在が矛盾します」


「聖教会が本当に"神の意志を聞き届けている"とは言い切れないだろ?もしかしたら自分勝手に神の意志とやらをでっちあげて、好き勝手やってるのかもしれない」


「確かに……一理ありますけど……流石にそんな筈は……」


「無いとは言い切れないだろ?」


 アカツキが何かを言いたそうに口を開くが、その口から言葉が紡がれる事は無く、束の間の沈黙が訪れる。

 クロセルはロボットの意味が分からないようで、頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、小さく首を傾げている。少し可愛いから放っておこう。


「まぁ、取り敢えず今回の襲撃について考える事はこんなもんだろ、それよりだな……クロセル」


「……ん?何だご主人」


「上層に行った時、クロセルとティアの二人で死にかけてた爺さん助けたよな?」


「あぁ、助けたな、覚えているぞ」


「あいつが誰だか思い出した。何処かで見たことあると思ったんだよ、クロセル、お前も見てる筈だぞ」


「思い出せないな、あの老人は誰なのだ?」


「教皇だよ。あの……なんだ……イヴェンとか言う奴」


「イヴ・エンドですよ……」


「そうそう、そいつだ、そいつだったんだよ」


「あぁ!思い出したぞ、聖都に来た初日に下層で演説をしていた老人!」


「そうだよ、思い出したな、んで……俺達は教皇様を助けてやった訳だよな」


「ご主人……まさか……」


「そうだ、俺達には教皇と話をする大義名分が出来た、何しろ命の恩人だからな」


「ヤマトさん……教皇を助けたんですか?」


「いや俺じゃなくてクロセルとティアが……だけどな」


「うむ、助けて正解だったな!」


「あぁ、あの時は時間の無駄だと思ったが、やっぱり善行には善果がある物だな」


「というかヤマトさん、重傷の老人を見捨てようと思ってたんですか…」


「結果的に助けたんだから別に良いだろ」


 アカツキが俺に冷たい視線を送る。

 俺はそっとアカツキから目を逸らして、言葉を続けた。


「そうと決まれば早速教皇に会いに行くか」


「Vも連れて行くべきだな、下層で起きている聖教会の汚職については彼が一番詳しい」


「私も着いていきます、クロセルさんが居るので大事にはならないと思いますが……念の為です」


「ってことはエルとティアは留守番か……あの二人を残すのは嫌な思い出があるんだよな……」


 前に帝国で二人に留守を任せた際、エルは深手を負いティアは誘拐された。もうあの黒ずくめが追ってきてはいない事は分かっているが、やはり怖い物はある。


「まぁ大丈夫だろ……行くぞ」


 慎重になり過ぎては駄目だと、覚悟を決める。

 そして俺達は、クロセル、V、アカツキの三人を連れて、以前訪ねた事のある聖教会の施設に向かった。


「此処が教会ですか……やっぱり神聖な感じがしますね」


「そうか?俺は何も感じないな」


 施設に到着すると、アカツキが物珍しそうに辺りを見渡す。そう言えばこいつはこの手の施設に来るのは初めてだったか。


「さて、取り敢えずこの施設で一番偉い奴……を……」


「居たよ!あそこ、アダンさんだ」


「あぁ、そう言えば此処の一番偉い奴ってアダンって奴だったか……気が滅入るな」


「ヤマトさん、アダンさんって人の事が苦手なんですか?」


「まぁな」


 Vが駆け寄り、近くを歩いていたアダンに声を掛ける。


「お久しぶりです、アダンさん」


「おっと、また来てくれたんだね、歓迎するよ」


「今日はアダンさんにちょっとお願いがあるんです」


「なんだい?僕で良ければ聞かせて貰うよ」


 糸のような細い目でニコニコと笑顔を浮かべるアダンは、Vに向き直ると、腰を落とし、視線を合わせる。

 そして、俺達が近付いていくと、アダンは俺達の方に視線を移す。


「……こないだ一緒に来ていた彼かい?」


「そうだよ、俺だ」


「私はアカツキです」


「我はクロセルだ」


「お友達と一緒に来てくれたんだね、それで……お願いってのは何だい?」


「実は此処に居るヤマトさんとクロセルさん、先日の襲撃で教皇の命を救った、恩人なんです」


「それは……本当なのかい?つまりヤマトさんとクロセルさんは勇者なのかな?」


 その質問に対し、俺は言葉に詰まる。

 例え緊急事態であったと言えど、上層に無断で立ち入った事は罪だ。そんな根本的な事を俺は失念していた。

 だが、勇者が上層に立ち入ったともなれば話は違う。上層に勇者を呼び寄せたのは間違いなく神の意志だ。つまり勇者であれば上層に立ち入っても問題無かったという訳だ。

 となれば……答えは一つ。


「あーまぁ……そんな所だ、な?クロセル」


「うむ、我は勇者だからな、怪我をして死にかけていた教皇を治癒魔術で助けてやったのだ」


「そうなのか、それは凄いね……エンド様、教皇はそれを知っているのかい?」


「知っている筈だ。だから話をしたくてな、俺達が教皇と話せるように上に掛け合ってくれないか?」


「うーん……分かったよ、エンド様の命の恩人の頼みとなれば、断れないね。分かった、僕に任せてくれ」


「ありがとうございます!」


「助かります」


「君達の住んでいる場所は?」


「聖都にある唯一の公衆浴場って言えば分かるか?」


「あぁ、聖教会に水の提供をしてくれているあの施設だね」


「分かるなら話が早いな」


「教皇が下層に降りてきて下さるんですか?」


「そうなるかな、一般人を上層に立ち入らせる訳にはいかないからね」


「じゃあそういう訳で、頼んだぞ」


「エンド様を助けてくれたのはヤマトさんとクロセルさんの二人であってるね?」


「大丈夫です、あってます」


「分かった。それじゃあ任せてくれ、エンド様が降りてくるまで少し時間が掛かると思うから、それまでこの教会でゆっくりしていてくれるかな」


「分かりました、お願いします」


「うん、じゃあ行ってくるよ」


 アダンは俺達にそう告げると、施設の奥の方へと歩いて行く。

 後は待つばかり。俺達は近くの椅子に腰掛け、雑談に興じることにした。


「それにしても嘘ついて大丈夫だったんですか……?」


「バレなきゃ問題無い、相手の才能が分かるのは分析の才能持ちだけだろ?」


「仮にバレたとしても我々が命の恩人な事に変わりはない。心の広い教皇なら許してくれると信じよう」


「そうだと良いんですけどね……」


 アカツキが何処か憂いを帯びた目でそう呟いた。


 そして、そんな風に話をしている内に、数時間が経った。

 突如、辺りが騒がしくなる。何事だろうかと、俺は周囲を見渡し、そして納得する。


「あぁ、なるほどな……」


「ようやくお出ましという訳だな」


「あれが……教皇……」


 施設の奥から、見覚えのある老人と、複数人の福音使徒が歩いてくる。

 周囲の福音使徒、そして教会に来ていた一般人達は、その姿を確認すると、皆揃って頭を下げる。

 アカツキとVも倣って頭を下げるが、俺とクロセルだけはそのままの姿で構えていた。


「エンド様、彼らが本当に……?」


「あぁ、間違いないよ。確かに私を助けてくれた"勇者"達だ」


「そうでしたか、疑ってしまってすいません。教皇の命を狙う者が嘘を吐いた可能性もあったので……」


「まぁ、その可能性を踏まえて警戒する事自体は正しい判断だよ、私を守ろうとしてくれてありがとう」


「そんな……有難きお言葉です、感謝します」


 教皇の横で付き従っていた福音使徒が、教皇に向かって頭を下げる。

 そんな姿を優しい笑顔で見守る教皇は、次に俺達の方に視線を向けて言葉を続けた。


「あの時は世話になったね、君達には感謝してもしきれないよ」


「まぁ、死にかけてる老人を放って置く訳にもいかないしな、成り行きだよ」


「そうだぞ、ご主人が優しかったからお前は生きているのだ」


「ちょっとヤマトさん!クロセルさん!?教皇様相手ですよ!?」


「構わないよ。君も気を遣ってくれてありがとう」


 アカツキが慌てた様子で俺達を叱責するが、教皇はそれを片手で制しながら、アカツキに向かって感謝を述べる。

 まぁ、確かによく出来た人間だ。神に仕える人間のトップ。教皇ともなると、やはり根っからの善人なのだろう、俺とは正反対の人間だ。


「それで、話とは何だい?何か褒賞が欲しいのなら用意するつもりだけど」


「褒美とかそういうのは要らん、こうして話せる機会を貰えただけで十分だ」


「そうか、では話を聞こうじゃないか」


「その前に……人払いを頼めるか?」


「……彼の言う通りにしよう、別室に移ろうか。施設長、応接室は空いてるかな?」


「えぇ、空いてますよ、此方です」


 頭を下げていたアダンが顔を上げると、教皇に返答する。

 そして、此方に来るように促すと、施設の奥の方へと歩いて行く。


「着いてきなさい」


「おう」


「うむ」


 俺とクロセルは促されるまま教皇の背に付いて行く。

 一方。Vとアカツキは少し困ったように辺りを見渡し、遠慮がちに声を出す。


「あの……私達も良いんですか?」


「構わないよ、彼の仲間なんだろう?」


「ありがとうございます」


 二人は同時に頭を下げると、俺達の後ろから小走りで付いて来る。

 そして、四人は施設内の一角。応接室に案内された。


「では、皆は外で待っていてくれ」


「エンド様、本当にお一人で大丈夫なんですか……?」


「もう少し彼らを信じなさい、彼らは私に害をなすような人間ではないよ」


「そう……ですよね、失礼しました」


「では僕も失礼するよ、くれぐれも失礼の無いようにね」


 教皇の付き人の福音使徒と、アダンは部屋を出ていく。

 そして、部屋には俺達四人と教皇の五人だけが残された。


「さぁ、座ると良い。話をしようか」


「色々とありがとな、じゃあVとアカツキ、頼んだぞ」


 俺はソファに深々と腰掛けると、アカツキとVに目配せをして話をするように促す。

 それを見て、アカツキは呆れたように溜息を吐きながら、ソファに座る。

 因みにVは俺を見ながら苦笑いを浮かべている。なんか嫌だな。


「じゃあここは僕から説明するよ、教皇さん、まず聖教会が奴隷売買をしている事を知ってるかな」


「うん、知っている。でもそれは罪人に与えられる然るべき罰であると同時に、更生のチャンスを与える目的がある。神の意志に準じた正当な物だ」


「はい、その通りです、罪を犯した咎人を奴隷として売る事自体には問題はないと思います、ですが仮に……罪無き弱者が、不当に奴隷として拐かされ、売られている、としたら……どう思いますか?」


「……仮にそんな事実があるとすれば、それは良くない事だね」


「そうです、それは許されざる事なんです、そして……此処からが本題なんですが」


 Vが重々しい口ぶりで教皇と言葉を交わし合う。

 そして、ついにその口から真実が述べられた。


「――聖教会は盗賊から人身を買い取り、奴隷として売却しています」


「それは本当なのかい?」


「本当です。僕達は、そんな違法な奴隷売買が行われている事実を教皇様に伝え、なんとかして頂きたいと考えました」


「そうか……」


 少し考え込むように目を伏せた教皇に対し、アカツキが言葉を挟む。


「奴隷売買を管理しているのは聖教会下層組織です、教皇様が知らないのも無理は無いと思います」


「うん、確かに私は聖教会の全てを監視できている訳ではない、中層の現状すら完全には把握できていない状況だ、だから君達が持ってきてくれた話にはとても驚いた、まさに青天の霹靂だよ」


「お前が聖教会のトップだろ、お前には部下の汚職を何とかする義務があるんじゃないのか?」


「その通りだよ、これは私が解決しないといけない問題だ」


「引き受けて下さるんですか?」


「うん、任せてくれ。君達の言っている事が事実か調査し、そして必ず解決に導いてみせるよ」


「そうですか!ありがとうございます!」


「あーそれと、ついでなんだが……俺達が何故こんな手間暇かけてまで聖教会の汚職を摘発しようとしたのか、理由を聞いてくれるか?」


「聞かせて貰うよ」


「実はこいつの妹が盗賊に攫われて、奴隷として売られている。俺達はこいつの妹を助け出す為にこうしてお前に会いに来たんだ」


「そうだったのか……それは災難だったね……」


「という訳で、聖教会の下層をどうにかするついでに……こいつの妹を助け出してやってくれないか?」


「それぐらいなら、私に任せてくれ、やれる限りやってみるよ、それで……君の妹の名前はなんて言うんだい?」


「あっ……えっと……それは……」


 困ったような顔をしながら、Vは口ごもる。

 妹の名前を言えない理由でもあるのだろうか?


「皆さんと教皇様になら……大丈夫かな……あの……僕の妹の名前、口外しないで貰えますか?」


「何か事情があるんだね、分かったよ」


「……僕の妹の名前は『ファイ・ドラゴファースト』です」


「えっ……ってことはVさん……貴方は……」


「あはは……やっぱアカツキさんにはバレちゃいますよね……出来れば今後もVと呼んで頂けると助かります」


「あ?アカツキ、何が分かったんだ?」


「ふむ……我も良く分からんな」


「秘密です、V君はV君ですから」


「すいません……ありがとうございます、アカツキさん」


「そうか……大変だったんだね……事情は察した。承ったよ。君の妹は私が必ず助け出そう」


「ありがとうございます」


 Vは教皇に深く頭を下げる。これで伝える事は伝えきっただろうか。


「まぁ、話は以上だ。時間を取らせて悪かったな」


「気にしないでくれ、有意義な時間だった」


 そう声を掛けると、教皇はにこやかな笑顔で応えた。

 それを見届けると、そそくさと俺は立ち上がり、出口へと歩いて行く。


「じゃあ失礼する」


「全く……ご主人は気が早いな」


「教皇も忙しいんだろ、俺達がさっさと立ち去ってくれた方が有り難いはずだ」


「では教皇様、本当にありがとうございました」


 俺に続いてクロセル、V、アカツキも立ち上がり、部屋から出て行く。

 部屋を出るとそこには教皇の付き人の福音使徒、そしてアダンがおり、俺達が部屋から出るとほぼ同時に部屋の中へと駆け込んでいく。

 やっぱり俺達は教皇以外には信用されていなかったようだ。まぁ寧ろその方が当たり前ではあるが。


「これで解決だな」


「まだ何も解決してないですけど……後は教皇様が上手くやってくれる事を祈るばかりですね」


「あーそうか……イヴェンの性格だと心配だな……部下の嘘を信じ込んで騙されるかもしれん」


「その略し方は何なんだい?」


「ああ見えても賢い人ですから大丈夫だと思いますよ、ヤマトさんとクロセルさんが勇者じゃないと分かってて目を瞑ってくれていたみたいですし」


「えっ……バレてたのか?」


「当たり前でしょう……上層まで来といて神を守らず帰るような人間が勇者な訳無いじゃないですか……」


「それもそうか……分かってて知らないフリをしてたのかよ……なんか腹立つな」


「いやそこは感謝する所だよね……」


「うるせー……取り敢えず帰るぞ、俺達に出来ることはもうない」


「そうだな、帰るとしよう」


「ところで……Vの妹の名前がどうしたんだよアカツキ、気になるだろ」


「Vさんとの約束ですから何も言えません」


「なんだよ……俺よりVの方が大事なのか!?」


「そういう訳じゃないですよ!というかどっちが大事とかそういう話じゃないですし!」


「うむ、ご主人の理解者は我だけで良いのだ」


「私だってヤマトさんの事を大事に思ってますから!」


「そうか、なら教えてくれ」


「えっ、嫌です」


「なんでだよ!」


 教皇に直談版する事に成功し、Vの依頼を事実上解決。

 眼前の目標を達成し、身も心も浮かれきった俺達は、仲良く歓談しながら拠点に帰るのであった。

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