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作戦終了

「よっこいしょ……っと」


「……」


「そんな恨めしそうな目で俺を見ないでくれ……お前の為なんだから」


「ご主人、地上にも帝国の伏兵が潜んでいることを忘れるでないぞ、気を抜くな」


「分かってる、索敵は任せるぞ」


「なに、撃退も任せておけ」


 ティアを抱え、クロセルを背に、長い空中散歩の末、俺達は地上に降り立った。

 と言っても……自由自在に空を渡れた訳ではなく、何度も躓き、転げ落ちそうになりながらの到着だ。

 真っ直ぐ降りてきた訳では無い為、拠点からは少し離れている。

 拠点に戻る途中で敵に遭遇するリスクを冒す事になるが、こればっかりは仕方ない。


「そう言えば、魔王は何が目的で地上に帝国兵を配置したんだ?」


「恐らく……上層に向かう冒険者の遊撃、各聖教会の施設の制圧が目的だろう、上層を孤立させる意図だな」


「下層から上層に向かうには聖教会の施設を経由する必要がある、そこを抑えれば上層に救援は来ない……って寸法か、それにしては兵力が心許ない気がするが」


「貴重な兵力は出来る限り上層に割きたいだろう。そもそも下層を完全に制圧する必要はない。時間を稼ぐ程度で十分だからな」


「捨て駒……って訳か……あの皇帝がやりそうな事だ」


 今回の狙いが上層で本当に助かった。俺は心の内でそっと胸を撫で下ろす。

 もし魔王としての本分である、破壊を目的とした侵略を行われていたら、戦力に乏しい教国に為す術はなかっただろう。

 勇者の加勢を加味しても、あの飛行船による空爆が行われれば甚大な被害が出ることは容易に想像できる。

 教国は"魔物、魔族、陸路を除くあらゆる攻撃手段"に弱い。良く今の時代まで生き延びてこれた物だ。


「まぁ、今回の魔王がイレギュラーってだけか、神も想定してなかったんだろうな」


「うむ、魔王が人間を魔族とせずに従えたのは前例のない事だ。それに加えてあの空飛ぶ船。あれには立派な長城による国境防衛も意味を為さない」


「正直……魔王が生まれる以前の帝国でも教国なら攻め滅ぼせたんじゃないか?」


「かもしれん……帝国の軍事力は間違いなくこの世界で最高の物だと言えるからな」


「魔王に対抗出来るであろう唯一の戦力である帝国が魔王側に付いたのが痛過ぎるな。王国教国公国の三国が手を組んでも対抗出来るか怪しいだろ」


「同感だな」


「あと、そんな事よりそろそろ降りろ、歩きにくい」


「おっと、そうだな、忘れていた」


「お前……俺が指摘してなかったらずっと背に張り付いてる気だっただろ……」


「そんな事は無いぞ!」


「どうだか……」


 何処か名残惜しそうに目を細めながら、クロセルは腕を解き、俺の背から降りる。

 その後も、他愛のない事を話しながら、拠点に向かって歩いていた。その刹那。

 ドォォン……と遠くで鈍く重たい音が響く。

 それは……例えるなら何かが爆発するような。


「あ?何だ?」


「ご主人!あれを見ろ!」


 俺はクロセルの言う通り、音のした方向へと振り返る。

 音の出処は、丁度上層の辺り。上層で何かがあったのかと目を凝らすと……


「上層から煙が上がってるな……何かあったのか?」


「音から推測するにかなり大きな爆発の筈だが……遠目だとあまり施設が破壊されたようには見えない、別の何かに爆発の衝撃を吸われたか……或いは上層が相当強固な作りになっているのか……」


「神が無事だと良いんだがな」


「ご主人が神の心配をするとは意外だな」


「そりゃ誰だって世界が終わったら困るだろ、つか魔王は世界が終わるリスクを冒してでも何で神を殺そうとしてるんだ」


「世界が終わらないからじゃないのか?」


「そんな確証無いだろ……いや、魔王には確証があるってことか?あいつは神を殺したらどうなるのか知ってるのか?」


「さぁな、我には分からん」


「そうか……まぁ仮に神が死んだとしても世界が終わらないなら別に良いか」


「本当に利己的だな……ご主人は」


「悪いか?」


「否。そういう所も我は嫌いじゃないぞ」


 遥か遠くに立ち昇る黒煙を見ていてもつまらない。

 興味が失せた俺は、上層の方角から目を逸らし、再び歩みを進める。

 その後、道中で帝国兵に出会す事も無く、無事に俺達は拠点に戻ってくる事が出来た。


「ただいま」


「今戻ったぞ」


 居住スペースの方に設けた入り口から中に入る。

 予想はしていた事だが、仲間達は俺達の帰りを玄関で待っており、帰還と同時に盛大に出迎えられる事になった。


「おかえりなさい、ヤマトさん」


「ヤマトさん、おかえり」


「無事で良かった、ヤマト様」


 アカツキ、V、そしてエル。三人共大人しく拠点で待ってくれていたようだ。

 懸念していた襲撃の跡も特に見られない。本当に平穏無事だったようだ。

 そんな風に安堵の感情に浸っていると、何故かクロセルが不機嫌そうに俺の背を突く。


「皆揃ってヤマトヤマトと……我の事は出迎えてくれないのか」


「ごめんなさい、クロセルさん。改めて、おかえりなさい」


「うむ!ただいま戻った!」


 アカツキが気を利かせて直ぐ様フォローに走る。それで満足そうに頷いているクロセルもクロセルだが。


「ティアお嬢様も無事で良かったです……無事連れ戻せたんですね」


「手錠に猿轡……ヤマト様、なんというか……その……誘拐犯みたいだね」


「あ?何か文句でもあるのか?」


「まぁ本人の意志に反して連れ戻したのは事実だし……」


「いやそれは違うぞ、こうしてるのも戻って来たのも確かにティアの意志だ、上層に行きたがってるのは神の意志だからな」


「そうなんだ、それなら別に良いか」


 俺はティアをソファに降ろすと、ぐるりと辺りを見渡す。

 これで俺の仲間全員が揃った。後は事が済むまで隠れていればいい。


「よし、これで万事解決だ」


「後は神が無事なことを祈るばかりだな」


「まぁ勇者も居るし大丈夫だろ……帝国兵と言えど所詮は人、勇者を再起不能なまでに叩きのめせる実力者はまず居ないんじゃないか?」


「勇者……ってもしかしてニコラスさんですか?」


「あぁ……そうだ、神の御告げを聞いて我先にと駆け付けたみたいだぞ」


「そうですか……ニコラスさんらしいですね……」


「懸念するべきは悪魔か……あいつの実力は未知数だからな……」


「私の分析だと、そこまで強くは無かった筈ですが……何らかの特殊能力を持っているみたいなので、危険な相手ではありますね」


「皇帝の未来視が魔剣の力による物だとしたら、あの悪魔も同じ力を使える可能性はあるな」


 俺はあの悪魔に良いイメージを持っていない。寧ろ最低で最悪な宿敵の一人だ。

 機会さえあれば是が非でも殺してやりたいとすら思う。

 だが残念な事に、俺には傷害のディザビリティがある故、直接手を下すというのは絶対に出来ない事だが。


「今回の襲撃、魔王は来てないんだよな」


「うむ、魔剣の悪魔と帝国兵だけだな」


「まぁそれなら勇者の頑張り次第で何とかなりそうだな……よし」


 俺は手を叩き、決心した様子で大きく頷くと、自分の部屋へと歩いて行く。


「ご主人、どうしたのだ?」


「疲れたから俺は寝る!何かあったら起こせ!」


「現在進行系で聖都が襲撃を受けてると言うのに危機感無さ過ぎないですか……?まぁ良いですけど……」


「ヤマト様、おやすみ」


「おう、おやすみ」


 アカツキには呆れられ、エルは苦い笑みを浮かべて俺に手を振る。

 そしてクロセルが、慌てた様子で俺の背中に着いていくる。

 そんな仲間達を俺は軽く一瞥すると、小さく笑って俺はベッドに向かった。

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