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調査開始

「では満場一致で引き受けるということで、良いですね」


「俺は賛成してないけどな」


「あはは……ヤマト様もそろそろ諦めなよ……」


「うむ、ご主人は男なのだからもう少し広い心を持つべきだな、それとVとやらの部屋は我のを使うと良い、我はご主人の部屋を使うからな」


「おい」


「分かりました、結果としてクロセルさんの部屋も用意しておいて助かりましたね」


「すいません、助かります」


「てかこいつも一緒に住むのかよ……」


 帰宅した後、皆に紹介と説明を済ませ、数時間に渡る話し合いの結果、俺以外の全員の一致でVの依頼を引き受けることが確約された。

 ついでに事件が解決するまでの間、行く宛のないVは俺達の拠点で住むことになった。クロセルの分の部屋が空いていた為、そこを使う事になったのだが……


「ヤマトさん彼の事がそんなに嫌なんですか……?」


「子供と面倒事が苦手ってだけだ、あいつ自体を嫌ってる訳じゃない……筈だ」


「失礼だな……僕はちゃんと成人した大人だよ」


「そうなのか、まぁ……その背じゃ子供にしか見えないな」


「うっ……気にしてるんだぞ……余り触れないでくれ……」


「可愛らしくて良いじゃないですか、私は小さい子の方が好きですよ」


「複雑ですが嬉しいです、ありがとうございます」


 Vの振る舞いだが、アカツキに対して、いや正確に言えば俺以外に対しては敬語を用いて礼儀正しい。

 俺だけ敬われてないってことだろうか……いや、違うな。アカツキはあれでも身分のある人間だ。Vはアカツキが国王秘書であることを知っているから敬った対応をするのであろう。そうだと信じたい。


「それでどうするんだアカツキ、策があるんだろ?」


「そうですね、当面の方針ですが……まず聖教会が奴隷としてV君の妹を捕らえているのは確定しているとみて良いでしょう」


「そうだな、だから盗賊退治をする必要はない」


「はい、そして聖教会から妹さんを奪取する方法についてですが……」


「次の奴隷商の開催を狙って救出するのじゃ駄目なのかな?」


「あぁ、俺もそれが一番手っ取り早いと思う、安全に解決したいのなら奴隷として買ってしまうのが一番だが」


「その方法だと、真っ向から聖教会と敵対することになりますよね」


「あぁくそっ、分かってる、じゃあどうすれば良いんだよ」


「私の策はこうです、聖教会を利用して聖教会を叩きます」


「アカツキ……お前何言ってるんだ?」


 俺とエル、そしてVの三人は頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。一方クロセルだけは何故か合点がいった様子で一人頷いている。

 やはりこのメンバーのブレインはアカツキとクロセルの二人のようだ。

 因みにティアは結構前からソファで寝ている。難しい話にはついていけないよな。俺もついていけないもん。


「ふむ、なるほどな……教国の統治形態を考えると……確かに良い方法かもしれん」


「クロセルは分かるのか?」


「えっと……僕も良く分からないです……もう少し説明を頂けますか?」


「V君、聖教会が盗賊から奴隷を買い取っている……という話は何処で手に入れた物ですか?」


「聖都では無く、教国にある村ですね……僕達を襲った盗賊団を追って辿り着いた場所なので、村をその盗賊団が支配していて治安はかなり悪かったと記憶しています」


「その話の信憑性は……まぁその盗賊団の被害にあってる場所だし無くは無いのか」


「仮にその話が本当だとして、それを知っている人間は聖都に居ましたか?」


「居ない……と思います、先のオークション会場でも何人かに話を聞きましたが皆揃って間違った……『罪を犯し人の身から落ちた犯罪者を売り払っている』という認識を持っていましたね」


「これは仮説ですが、恐らく聖教会も同じ認識を持っているのでしょう、いや……正確に言えば"聖教会の上層部"がその認識を持っている、と」


「我が思うに、聖教会は各層の格差が大きい組織であると推定する、聖都が下層、中層、上層に分かれているのが根拠だな」


「はい、クロセルさんの言う通りです、ですから聖教会の下層が受け持っている奴隷売買の全容について、聖教会の上層部は把握していないと思っています」


「要するに、聖教会のお偉いさん達は部下の汚職に気付いていない訳か」


「所詮は推測に過ぎないので……もしかしたら聖教会の上層部は下層の汚職を把握した上で容認している可能性もあります、その場合は別の方法を考える必要がありますね」


「つまり……聖教会の上層部に掛け合って下層の奴隷売買における不正を暴き、不正に手に入れた奴隷の解放を求める……ということですか?」


「はい、V君の言う通りです、これが私の考えた策となります」


「確かに下手に強硬手段を取るよりは穏便に事を運べそうだな……」


「凄い……流石はアカツキさんです!ありがとうございます!」


「喜ぶのはまだ早いぞ、これもそう簡単ではない、聖教会において影響力のある幹部格に直談判する必要がある。そして先も述べたようにこの国の身分格差は大きい、我々のような一般人が上層の人間に話をする機会など簡単には手に入らないだろう」


「正直な話、私達のような余所者だと中層に行く事すら厳しいでしょうね……」


「駄目じゃねぇか」


「じゃあ……どうすれば……」


「それはこれから考えるしか無いですね……今すぐに解決する方法は思い付きません」


「残念だが我も思い付かん、だが当面の方針は決まったな、聖教会の上層に住む、聖教会の下層に直接影響を与えられる権力のある人間に直談判する」


「最悪、V君の妹さんが売られてしまった後でも、聖教会と繋がっていれば購入ルートを辿って助け出すことも可能ですから、まずは聖教会と繋がるのが目標になりますね」


「聖教会なぁ……クロセルにちょっかいを出した男も聖教会の奴だったし、良い印象無いんだよな……」


「十分です、最終的に妹を救い出せれば、僕は何も文句はありません、それに妹と同じように盗賊に捕まってしまった不幸な子達を助ける事にもなりますし、その方針で問題ありません、僕も出来る範囲で協力します」


「なんとも壮大な事になってきたな……人一人救うだけだってのにやり過ぎじゃないか……?」


「ヤマト様、救うのは一人だけじゃないよ、これが成功すれば多くの不幸な人達を救うことが出来る、見返りはそれだけで十分じゃないかな」


「全く、お人好しばっかだな……」


 俺は重い溜息を吐く。それに反してアカツキ、エル、アカツキ、そしてVは希望に満ちた目をしていた。

 彼らの顔を一瞥すると、俺は再び溜息を吐く。そして小さく口元が歪んだ。

 この行いは善行だ、実現すればまさに英雄だ。本当に、らしくない。この世界に来てから、俺はらしくない事ばかりしている。

 でもまぁ、それも悪くないと思えてきた。そんな自分に笑えてくる。


「ま、何をするにも一歩ずつだ、今幾ら頭を捻ったって何も出て来ないだろ」


「そうですね、明日からに備えて今日は休みましょうか」


「明日からは公衆浴場の営業も始めるんだよね、忙しくなるなぁ」


「そうなると自由に動けるのはヤマトさんとVさんの二人になりますね、暫くは二人で調査活動をお願いします」


「分かりました、なんとかして聖教会に掛け合う手段を見つけてきます」


「こいつと二人っきりかよ……クロセルぐらい連れていけないのか?」


「水の供給をティア様一人に任せる訳にもいかないですし……暫くはお二人でお願いします、営業に余裕が出来てきたらそちらに人員を割きますので」


「あーしょうがねぇなぁ……分かったよ」


「よろしくね、ヤマトさん」


「正直気は乗らないが、まぁよろしく」


 Vは帽子を外して俺に向き直ると、人懐っこい笑みを浮かべて笑いかけてくる。

 こういう所がどうも子供っぽくて好きになれない。無垢な笑顔は俺には毒だ。

 そういう意味ではティアの相手も中々に苦手なんだが……本人に言うと泣くので黙っている。

 そんな訳で、今宵は解散となった。




 そして翌日より、俺とVの二人での調査が始まった。


「上層に行く方法?そりゃ聖教会の教会員になって地道に昇格するしか無いだろ」


「聖教会の構成員でない人間が上層に行く方法は無いのか?」


「うーん、あるのかもしれないが俺は知らないなぁ……」


「そうですか、ありがとうございます」


 俺達は聖都の酒場で聞き込みをしていた。本当は冒険者ギルドとかの方が情報収集には向いているのだろうが、この国ではギルドがほぼ機能していない為にそれは悪手、他に人が集まる場所と言えばやはり定番の酒場だろう。

 所詮は下層で手に入る情報。期待はしていなかったが、事実、多少の成果は出ていた。


「やっぱり聖教会の構成員で無いと上層はおろか中層にも行けないみたいだね」


「だが収穫はあったな」


「さっきの人が言ってた"各層の移動は聖教会の教会を通じて行う"って奴?」


「あぁそうだ、層を渡る移動手段は分かった、最悪の場合、変装して上層に行くって手もあるしな」


「その場合は僕達は不法侵入者になるから話を聞いてもらえるかは怪しいと思うけど」


「あー確かにそうか……つまり荒手は使えないと」


 良く考えれば、単純に行くだけであればクロセルやティアの魔術で飛べば良い話だ。


「ならどうすれば良いんだ、聖教会のお偉いさんと仲良くなる……とかか?」


「そのお偉いさんに会えないから困ってるんだけど……」


「なら……くそっ、どうすれば良いんだ……俺の頭じゃ思い付かんぞ……」


 アカツキやクロセルが居れば良い案も思い付くのかもしれないが、残念ながら俺は彼女達ほど頭は回らない。ここはVを頼るしか無いか。


「お前は何か案でも無いのか?」


「あるよ、ここ聖都には聖教会の施設が幾つかある筈だ、次はそこを調べてみよう」


「聖教会の下層って今の俺達の敵だろ?そこで調査をするのは危険じゃないか?」


「ただ聖都の上層に行きたいだけの人間と思われるだろうから、僕達の本来の狙いまでは流石に分からないはずだよ」


「まぁそうか……誰もが誰も頭が回る奴ばっかじゃないしな」


「そうと決まれば早速行こうか、場所はさっき教えてもらったしね」


 そう言うと、Vは何処からともなくメモを取り出し、俺の目の前で軽く振る。

 簡易的な地図のようだ。聞き込みをしながらいつの間に用意していたのだろう。


「準備が良いな」


「僕としては元からこっちが本命だからね、下層の一般市民から手に入る情報なんてたかが知れている」


 得意げにそう言い放つと、一人酒場の出口へと歩き出す。

 何故か無性に腹が立つ。俺はその苛立ちを近くの柱に吐き出す。店員と客に睨まれたが些末なことだ。

 俺は飛んでくる視線をぐるりと見渡しながら睨み返すと、そのままVの背に付き従うようにして店を出た。


「全く、野蛮だね」


「何か文句でもあるのか?」


「別に……無いよ」


 Vは振り向きながら俺に冷たい目を向ける。それは例えるならば、"期待外れ"とでも言いたげな視線。

 要するに軽蔑されているようだ。別に気にはならないが。


「強いて言えばもう少し協調性を持って欲しいかな、僕達は仲間だろ?」


「今だけはな、事件が解決すればもう他人だ」


「はぁ……はいはい、そうだね」


 俺の棘のある返しにVは呆れたように溜息を吐きながら返す。

 そして、なんとも険悪な雰囲気のまま、俺達は聖教会の施設へと向かったのであった。

ストックが切れたのでまた暫くは不定期投稿となります。ごめんなさい。

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