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誕生

 

「意外と呆気なかったな」


「同意だよ……流石はアカツキさんだね」


 教国の国境とは砂漠に長々と鎮座する城壁であった。

 というかこれ……万里の長城その物だ。これも神が作ったのだろうか。

 そんな疑問を抱きながら待っていると、やがて城門が開く。

 どうやら国境警備隊との話がついたらしい。交渉したのはもちろんアカツキである。クロセルや俺が手を出すと荒事に発展しかねないからだ。


「戻りました」


「おかえり、ところでどうやって話を付けたんだ?」


「私達は熱心な宣教師団と言う事にしておきました、国籍は教国という設定なので、何の問題も無く入国できるという訳です」


「良くそんな設定を通したな……」


「こういう言い方は余り良くないですが……やはりまだ国境の警備はザルみたいですね、魔王の誕生が公になる前に来れて良かったです」


「アカツキの言う通りだな、国境が閉鎖されたら嫌でも強引な手段を取らなくてはならなくなる」


「うむ、それで教国に入ってお尋ね者になったら本末転倒であるからな」


「国境さえ越えればこっちの物だ、アカツキはお疲れ様だな」


「走り続けた甲斐がありましたね、物資も心許無いですし、取り敢えず補給に近くの街に寄りましょうか」


「そう言えば通貨は全国共通なんだな」


「そうですね、両替の手間が無いので便利で助かります」


「ところで資金にはどれぐらい余裕があるんだ?」


「こちらの物価が不明なので何とも言えませんが……かなり余裕はありますね、まだ何枚か黒金貨もありますし」


 アカツキがジャラッと音を立てながら中身の入った袋を取り出して見せる。

 その中身は伺えないが、アカツキの言葉が確かなら相当の大金が詰まってるんだろう。


「ところで、それは魔王退治の予算なのか……?」


「私のポケットマネーですよ」


「ったく……そんな事だと思った」


 人の良いこいつの事だ。それが自分の金であろうと、俺達の為に躊躇無く使っていくだろう。

 だが、それに甘える訳にはいかない。アカツキに養って貰うなど論外だ。


「こっちで仕事を見付けないとな」


「ヤマトさんならなんでも出来そうですよね……」


「それは買い被り過ぎだぞ、俺は無才だ。アカツキの方が何でも出来るだろ」


「否定できません……それもそうですね……」


「ふっふ~だがしかし!ご主人には我が付いているからな!」


「そう言えばそうだったな、こいつの手柄は俺の物だ、つまり俺は何でも出来る」


「あはは……物は言いようだね……」


「わたしだって色々出来るわよ!ヤマトの魔杖には負けないんだから!」


「ティア、残念だったな、魔術の才能はクロセルの方が上だ」


「えぇ!?わたしより魔術の才能があるなんて!?」


「そんな驚くような事なのか……?」


「クロセルさんが目覚める前はティア様が世界で一番の魔術師でしたからね」


「あぁ、なるほどな」


 そんな風に歓談している内に、馬車は走り出す。

 国境の門を潜り、砂漠に敷かれた道路を走っていく。

 こうして俺達は教国に入った。これで魔王からは一先ず逃れられたと言って良いだろう。


「問題は……王国だな……」


「これでめでたく私達は任務を放棄して逃げた大罪人ですからね……」


「そういう意味でも教国は安全だな、外交を断ってるから例え王国の刺客だろうと堂々と押し入っては来れないだろ」


「それに、王国は魔王の対応に追われてそれどころじゃなくなりそうだね……」


「あーそれなんだが……クロセル、魔王になった際に過去の人格、記憶は完全に破壊されるんだよな?」


「正確に言えば、元の人格は徐々に破壊され、やがて魔王の人格に完全に支配される。記憶に関しては魔王として不必要な部分は時間と共に封印されるが、脳の奥底には残る筈だ、我も人間であった頃の記憶が残っているからな」


「そう言えばその質問、私にもしてましたね……何か思うことがあるんですか?」


「あぁ……少しな、アカツキとクロセルじゃ言ってることが食い違ってるが……クロセルを信じて大丈夫か?」


「我は元魔王だぞ?」


「愚問だったな……となると……取り敢えず王国は魔王に滅ぼされる心配は無さそうだな」


「それは……どうして?」


「秘密だ、というか……直に分かるだろ」


 エルが訝しげに俺の瞳を覗き込む。

 なんとなく罪悪感に駆られるが、こればっかりはまだ確証を持てない仮説である故に仕方ない。まだ秘密にしておくべきだ。


「特にアカツキには知られると面倒だからな……」


「ヤマトさん、何か言いました?」


「何も?」


 アカツキは少し不満そうに唸った後に溜息を吐くと、そのまま押し黙った。

 俺は彼女の細やかな配慮に感謝しつつ、馬車はアスファルト舗装された道路を進んでいく。

 暫くすると、進行方向に村が見えてくる。そしてそのまま村に入っていくと、馬車は止まった。


「これが教国か……村ってよりはキャンプって感じだな」


 俺はそそくさと馬車から降りて、辺りを見渡す。

 村と言っても、道に沿ってテントのような家屋が点在しているのみだ。

 王国や帝国の町村に比べると、やや原始的な風景に思える。

 まさしく秘境と言えるアランの村と比べれば訳ではないかもしれないが。


「向こうにオアシスが見えますね、水には困らなそうです」


「此処に滞在するのか?」


「最低限の物資を補給したらもう少し大きな街に移りますよ、そうですね……上手く事が運べば明日には発てると思います」


「お前ずっと寝てないだろ……無茶はするなよ?」


「心配して下さるのは嬉しいですが、大丈夫ですよ」


「取り敢えず今日は寝ろよ、働き過ぎて死ぬぞ」


「分かってますよ……今日はちゃんと休みますから」


「よし、本当だな?言質は取ったからな?」


「心配症ですねぇ……取り敢えず私はあの大きなテントの方に泊めて貰えるか交渉してきます、ヤマトさん達は馬車を見てて貰えますか?」


「あぁ、了解した」


 アカツキを見送り、馬車の前で深呼吸をしながら天を仰ぐ。

 俺のような人間でも、新天地というのはワクワクする。前の世界で言う旅行の感覚だ。

 砂漠の砂一面の風景も、まだ目新しさを感じて見ていて飽きない。これも、過ごしている内に直に慣れてしまうのだろうが。


「……なんだ?」


 暑さからか、視界が歪む。

 いや、おかしい。心做しか身体まで揺れている気がする。

 俺はしっかり眠っている筈だ、目眩など起こす理由はない。

 となると……


「ヤマト様……これは……」


「あぁ……なるほどな……そういうことか……」


 鈍い音を立てながら、大地がぐらぐらと揺れている。

 この感覚には覚えがある。これが三度目だ。


「キィィィィィィィン!」


「なんだよこれは……うるせぇなぁ……」


 酷く不快な耳鳴りがする。

 どうやら聞こえているのは俺だけではないらしい。クロセルは平気そうな様子だが、エルとティアは顔を顰めながら耳を抑えている。


「えーえー、マイクテストーマイクテストー……世界中の皆様、聞こえますかー!?」


「この声は……」


「魔剣の悪魔さん……ですね」


「ったく、つくづく不快な奴だな」


 これも魔王の力だろうか。全世界の人間に同時に声を送るなど、あの弱小悪魔が出来る様には思えない。

 となると可能性は一つだ。どうやら遂に、魔王が目覚めたらしい。


「さぁさぁ、皆様驚いていらっしゃる事でしょう、え?ボクは誰かって?そんな事はどうでも良いのです、そんなことより!全世界の皆様に、重大発表があります!さぁ、主役に登場して貰いましょう!どうぞ!」


「やっぱりか……」


「……やぁ、皆。僕は魔王を冠する者だ、その名も57代魔王オセ、この世界を支配する者の名だ、しかと覚えておくと良い」


「そう!魔王様の誕生で御座います!皆様拍手~!」


「よせ、僕はそういうノリは好きじゃない」


「あははーおっと……これは失礼、出過ぎた真似をしました」


「では続きは僕が話すとしよう。これを聞く者の中には、僕を知っている人間も居るかも知れないね。そう、僕はクロム帝国の皇帝、エルク・ファルスであった者だ。聞いての通り、僕は魔王の力を継承し、新たな魔王となった」


 聞き覚えのある皇帝の声だ。肉塊と化した所で怪物になって出てくるのかと思えば、そういう訳でもないらしい。


「クロセルの言った通りみたいだな、あいつの人格は残ってる」


「だが魔王としての衝動はある筈だぞ……目覚めた直後だから抑えていられるだけで、衝動が抑えられなくなるのも時間の問題だろう」


「クロセル、今のあいつの居場所は分かるか?」


「この声が魔王の権能であるとすれば……奴の居場所は魔王城だろう」


「魔王の権能が只の念話だとは思えないな……何らかの才能の極地による物か、或いは魔術か……」


「まずは僕の力をお披露目するとしよう、手始めに……アステカス公国を粛清する。拒否権は無いよ、王国や帝国に遠く及ばない弱小国家に人権は無い。粛清が終わるまでが猶予期間だ、その間に皆は考えてみると良い。穢れを受け入れ、魔王に支配される世界を望むか、魔王に逆らって惨たらしく死を迎えるか、その二択をね」


「最初のターゲットは公国か……まぁ妥当な所だな」


「ご主人……本当に何もしないのか?」


「当たり前だ、俺だって命は惜しい。最も、魔王の手先になるぐらいなら死んだ方がマシだけどな」


「教国に居れば暫くは安全に過ごせそうだね」


「教国は衣食住を自給自足出来てるのか?」


「うん、神の加護があるから痩せた土地でも作物は育つし、砂漠と言ってもあのオアシスのような水源は結構な数あるから……飢える事は無い筈だよ」


「万能だな……神の加護とやらは」


「そりゃ神様だからね……」


 魔王の放送を聞きながら、俺達は呑気にそんな会話を交わす。

 エルの言う通り、教国に居る限り魔王は俺達に手を出せない筈だ。

 俺達が無事に暮らせるならそれで良い、魔王が何をしてようと知ったことではない。


「では今日の所はこの辺で。魔王に立ち向かう無謀な者は魔王城まで来ると良い、歓迎するよ。以上だ」


「ではこれにて閉幕と致しましょう!全世界の皆様!アデュー!」


「やかましいのは終わったか」


「……みたいだね」


「魔王が誕生したってのに、この村は落ち着いてるな」


「教国に居る限り安全だって分かってるからじゃないかな。神を信じていれば必ず救われる、そういう国だからね、此処は」


「なるほどな……」


 暫く待っていると、アカツキが戻ってくる。

 どうやら交渉が成立したらしい。大きなテントの一つに泊めて貰えるそうだ。

 その日の内に何人かの村の人間と顔を合わせたが、皆揃って落ち着いていた。

 人の事は言えないと言え、肝の太い者ばかりだと感心しつつ、俺達はその村に滞在するのであった。

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