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魔王復活

 私は腰から短剣を抜き、一度敗北した黒ずくめの人型へ立ち向かう。


 右には血のように真っ赤に染まった聖剣を持った勇者。

 一人では勝てなかった相手でも、二人なら勝てる可能性がある。


 遠くでは魔杖とヤマト様。そしてアカツキさんが戦っている。

 私の背後にはティアお嬢様。そして正面に黒ずくめの人型。

 これで位置関係は把握した、今は目の前の事に集中しよう。


「……」


「貫き穿て聖剣!フルティィィィン!」


魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

 リ・スォーム・リクシア・ティル

 風魔術……鎌鼬(エアスラッシュ)!」


 私と勇者の間を縫って、風の刃が飛んでいく。


 それに合わせて勇者と私が僅かな時間差を置いて斬り掛かっていく。


 黒ずくめは、風の刃を横に避けながら、勇者の聖剣を片手で掴んだ。


 なんという荒業なのだろう。黒ずくめの手から血飛沫が上がる。


 それでも黒ずくめが剣を掴む力は衰える様子はない。勇者は剣を振るえず困惑している様子だ。

 だが今なら片手が塞がっている、これは好機だ。


「はっ……!」


「……」


 私は姿勢を低くすると、黒ずくめの足元に潜り込み、その脚を斬り裂かんと迫る。


 しかし、それは叶わなかった。全く予備動作の無い突発的な攻撃。黒ずくめの蹴りが私を襲い、私は後方へと蹴り飛ばされる。


「っ……」


 片脚だけで地に根を張りながら勇者の剣を握り続け、予備動作無しで重たい蹴りを放つ。

 言語化すると痛感する。あれはまさに人間離れした怪力だ。


「くっ……なんて力だ」


 勇者は大きく後退して強引に剣を黒ずくめの手から抜き取る。


 その瞬間。黒ずくめが攻勢に出る。


 ふらりと黒ずくめの姿が揺らいだかと思えば、一瞬にして勇者の前へと間合いを詰め、左手の掌で勇者の腹部へと突きを放つ。


 途端。勇者の身体が不自然に丸くなり、そのままの姿勢で一瞬静止したかと思えば、勇者は口から血の塊を吐き出して、ふらふらと後退する。


 まずい。このままでは一方的に攻撃を受けて勇者が負けてしまう。


 そうはさせるものかと、私は先程の蹴りによる鈍い痛みを振り払い、身体を奮い立たせて黒ずくめへと迫る。


「……」


「させません!」


 追撃の姿勢に入っていた黒ずくめは、直ぐには行動を変えられない。


 黒ずくめの元へと走り込むと、地を蹴って黒ずくめ背に回り込み、短剣の刃を宙に走らせた。


 確かに手応え。黒ずくめの背から鮮血が散る。


 が、黒ずくめは反撃とばかりにくるりと振り向きながら回し蹴りを放つ。


 ダメだ……早い。避けられない。


「っあっ……あぁぁぁ……」


 胸元に激痛が走り。私の身体は再び宙を舞う。


 ダメだ……実力差がありすぎる。私ではあの黒ずくめを止められない。


 ……それは残念ながら勇者も同じらしい。


 黒ずくめは私を無視して勇者に向き直ると、拳を叩き込んでいく。


魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

 リ・スォーム・トゥルッリ・ティル

 風魔術……吸空竜巻(サックトルネード)!」


「……」


 黒ずくめの後方に空気の渦が生まれ、黒ずくめはそちらへと吸い寄せられる。


 ティアお嬢様の援護が功を奏した。その隙に勇者が姿勢を立て直し、剣を構える。


「一体何者なのか知らないけど……僕を此処まで追い詰めた事を褒めてやろう」


「勇者様、これでは……」


「……分かってる、僕達じゃこいつには勝てない、だから……君は下がって僕に任せてくれ」


 勇者は小さな声で私にそう告げる。


 こちらの戦力では黒ずくめを倒せない。彼は一人で……時間を稼ぐつもりだ。


「さぁ掛かってこい、勝負はこれからだ!」


 勇者は口元の血を拭うと、黒ずくめへと斬り掛かっていく。


 複数対一のアドバンテージが事実上消えた今。勇者の剣戟はただ躱され続け、宙を切っていく。


 黒ずくめは余裕綽々とした様子で、時折勇者へとカウンターの拳を叩き込んでいく。


 その度に勇者は血を吐きながら、ぐらりとよろめく。


 それでも決して隙は見せない。その身体は痣だらけだろうに、痛みに耐え、立ち続けていた。


「……」


 祝福の勇者を仕留めることは出来ないと判断したのか。黒ずくめは勇者の脇をすり抜け、走り出す。

 その狙いは……ティアお嬢様では無く。


 ――私だった


 黒ずくめの蹴りが響いていて、全身が痺れ立ち上がれない。


 絶体絶命。私は死を覚悟した。


 黒ずくめが大きく腕を振りかぶり、私の前へと迫る。


 私はどうやら此処までらしい。


 ヤマト様、ごめんなさい。私が仕える彼の事を想い、僅かな無念を抱きながら。


 私は目を閉じた。


「グシャッ……」


「うっ……ぐっ……ごほっ……」


 肉が潰れ、弾ける嫌な音が響く。


 が、痛みは無かった。一体どういう事だろうか。


 私は閉じた瞳を再び開ける。


 そこに広がっていた光景は……


「……」


「僕は……祝福の勇者……だからね……僕が……僕こそが……正義の味方……だ」


 私の前には勇者の背があった。


 そして、彼の身体の中央を、一つの拳が貫いていた。


 あれは……黒ずくめの男の手だ。


 ――勇者は私を庇ったのだ。


 祝福を受けた勇者が死ぬことは無いと聞いたが、それでも痛みが消える訳じゃない。


 他人の為に己の身を犠牲に出来る勇敢な精神。それは並大抵に出来る事ではない。


 私には、勇者ニコラスが、今この瞬間だけ、救世の英雄に映って見えた。


「正義は……不滅……だ……」


 それが勇者の断末魔となった。


 黒ずくめは勇者の腹から拳を引き抜き、血飛沫が辺りに撒き散らされたかと思うと、勇者の身体はガクンと力無く地に倒れ伏す。


 辺りにはどくどくと血溜まりが生まれていった。


 私達は、敗北した。もはや勝ち目はない。


 ぐらぐらと視界が揺れる。これは私の動揺だろうか。


 ――違う


 確かに世界が、この地面が揺れている。


 大きな揺れで黒ずくめは姿勢を崩し、一時撤退とばかりに後ろへと飛び退く。


 私も……この揺れの中で立ち上がるのは難しそうだ。


 一体何が起きているのだと言うのだろう。


「っ……眩しい!」


 突如、辺りが真っ白な閃光に包まれる。


 揺れが止まり、静寂が訪れる。


 そして私は、少し遅れてこれが何か理解する。


 これは……魔王の復活だ。


 辺りが明滅する。余りの光量に、目を開けていられない。

 それはこの場に居る者、全員が該当するらしい。


 暫く明滅を繰り返していたかと思えば……やっと光が収まる。

 そして、私は部屋の中央に視界を移す。


 ――そこには、魔王が立っていた。


「……徒に我を目覚めさせた者は誰だ?」


 魔王は、私の想像していた魔王像とはかけ離れていた。

 あれは……美しい女性と形容するのが相応しい。

 生気を失った白い肌に、燃えるように赤い髪。黒いドレスを纏っている。


 だが、その身体から放たれる殺気は、彼女が魔王であることを堂々と主張している。


「我は56代魔王グレモリー。甘美な悠久の眠りを妨げた罪、その生命で償って貰おう」


「魔王と聞いてどんな怪物が出てくるかと思えば、只の美人じゃないか」


「ヤマトさん!?何をこんな状況で言い出してるんですか」


「待てよアカツキ、取り敢えず落ち着け。会話の余地があるんだから此処は出来る限り穏便に済ませるべきだろ」


「ヤマトと言ったな?お前が我を眠りから目覚めさせたのか?」


「いや、お前を起こしたのはそこで転がってる皇帝だ、俺達はお前にもう一度眠って貰う為に来た」


「ふむ……なるほど、その言葉に偽りは無いな?」


「嘘をつく必要が無いだろ」


「まぁよい、我にはそれを判断する術が無いからな」


「んで、どうする?大人しく封印されて貰えるか?」


「構わん、我は平穏を望む、好きに封印すると良い」


「話が分かるようで助かった……っ!魔王!危ない!」


「っ、なんのつもりだ?」


「そいつはお前を殺すつもりだ!」


 魔王の背後から黒ずくめの男が現れる。

 静かに近付き、そのまま不意討ちしようとしていたのだろう。

 だが、ヤマト様のお陰で魔王はそれに気付き、既の所で奇襲をひらりと躱す。危ない所だった。


「こいつはお前らの敵ということで良いのだな?」


「その通り、そいつは俺達の敵だ」


「……」


「皇帝、起きてるか?」


「……なんだい?」


「こいつはお前の味方じゃないんだろ?」


「……そうだね、そいつは僕の味方ではない」


 ヤマトと皇帝の会話が聞こえる。

 皇帝の言うことが確かならば、この場には三つの陣営の人間が集まっていたということになる。

 目的はそれぞれ、魔王の殺害、同じく魔王の殺害。そして私達、魔王の封印。

 黒ずくめが皇帝の手の者では無いと分かったが、状況に変わりはない。黒ずくめが私達の敵であることに違いはないのだ。


「まぁ、という訳だから、魔王は少し力を貸してくれ、そいつを仕留める」


「……我は復活直後故……戦えぬぞ?」


「マジ?そこまで弱体化してるのか?」


「本当だ、だから早く我を助けろ」


「まさか魔王に助けを請われる日が来るとは思いませんでした」


「勇者!は死んでるか……くそっ、戦える奴がもう居ない……こうなったら、エル!獲物を貸せ!」


 ヤマト様の声が響く。賢い彼の事だ、何か策があるのだろう。

 私は力を振り絞り立ち上がると、ヤマト様の足元に向かって短剣を投げ付ける。

 ヤマト様はそれを握り締め、安堵したとばかりに溜息を吐くと、一つ頷く。


「剣と短剣は別カテゴリみたいだな、どう考えても屁理屈なシステムだが、助かった」


「ヤマトさん……一体何を……」


「俺があいつの相手をする、無力化は任せた」


 二本の短剣を構えると、ヤマト様はそのまま黒ずくめへと立ち向かっていく。

 一方、魔王は黒ずくめから逃げるようにしてアカツキさんの方へと走って行く。なんとも拍子抜けする光景だ。

 ヤマト様と黒ずくめが、間も無く交戦を始める。

 私はそれを、力無く地に座り込みながら、ただ見ているのであった。

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