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ロイトン

 

 夜が明けると共に、俺達は再出発した。

 エルが目覚めなかった為、俺は再びエルを背負って歩くことになった。

 ティアの方は、明け方に目を覚ました。道すがら話を聞き出せないかと試みたが、襲撃から直ぐに眠らされた為、何も覚えていないという。

 ただ、襲撃があったという確固たる事実はこれで否応無しに浮かび上がる。

 次に考えるべくは、昨日覚えた違和感の正体だが……残念ながら俺にはまだ何も分からない。


「あれが……」


「えぇ、あれがロイトンです」


「帝都ばりに大きな防壁があるんだな」


 そして半日近くの片道を遂げ、やっと遥か遠くに都市の存在が見えてくる。

 それは帝都と同じように厚い防壁に囲まれた都市。

 ……これだけならば別にありきたりな都市なのかもしれない。

 だが、俺は直ぐにその都市の抱えた"異常"に気が付いた。


「防壁に入口が無いぞ……?」


「それは……直に分かると思います」


「いつもの方法で入るんだな」


「はい、そうなります」


 俺達は防壁の前まで歩いて行くと、クロセルが詠唱し、防壁の内部と外部を繋げ、空間の穴を生み出す。

 それを潜ると、たちまち身を包む、酷い匂いに悪寒を覚えた。

 この匂いには覚えがある、腐敗した死体の匂いだ。


「これはまた……酷いな」


「これが……迷宮都市の末路です」


「迷宮から無限に湧き続ける魔物の流出に耐えきれなくなり、都市は崩壊。被害拡大を防ぐ為に、防壁で外部から隔離、そんな所か」


「ご明察です、クロセルさん」


「こりゃまるで……牢獄だな」


 此処も、過去にはそこそこに発展した都市だったのだろう。損壊した建物跡や、舗装された道路から、そう察せられる。

 しかし、今のこの街は、廃都市と形容するに相応しい惨状と化している。

 道を進めば、何度だろうと嫌でも人の死体が視界に入る。

 息をすれば、腐敗物の臭気と血の匂いが胸の中を蝕む。

 今のこの都市で心を落ち着かせられる場所は、何処にも無かった。


「迷宮ってのは、どうすれば消えるんだ?」


「最深部に封印されている物を解放すれば、時間と共に自然に消失します」


「なるほど、ロイトンの迷宮は最深部に魔王が封印されている。仮に最深部まで辿り着いた者が居たとしても、その封印を解けなかったからこの街は此処まで酷い事になってるんだな」


「はい、帝国からも死んだ土地として放棄されているのが現状です」


「住人は居るのか?」


「魔窟に挑もうとする勇敢な冒険者が居るので、機能している宿が幾つかある筈です」


「この都市は外部から入れないんじゃ……」


「正確に言えば"一度入ったら出られない"が正解です、傍目には分かりませんが、入口自体は存在します」


 そのまま都市を進み、大きな通りに出る。

 アカツキが宿を探し辺りを歩き回る、俺達はそれに付き従うようにして進んだ。


「ダメですね……この通りは全滅です」


「適当な廃墟を見繕って泊まるか」


「そうですね……そうしましょう」


 残念ながら、機能している宿は見付からなかった。

 故に、損壊の小さな家屋を適当に見繕い、そこを拠点とすることになった。


「ふぅ……良く歩いた、疲れたな」


「今日の所はこれ以上行動は起こしません、明日からは魔窟探索に明け暮れる事になりますからね、ゆっくり休んで下さい」


「……っ、此処……は……」


「エル?目が覚めたか?」


 背中から小さな声が聞こえる。どうやらエルの目が覚めたようだ。

 俺は直ぐに彼女を部屋のベッドに降ろし、座らせた。

 まだぼんやりとしていて、目の焦点が定まらないが、どうやら何とか会話は出来そうだ。


「エル、貧血でまだ辛いと思うが、少し話を聞いても良いか?」


「ぁっ……うっ……はい、大丈夫……」


 状況の整理が付いてきたのか、片手で頭を抑えながら返答すると、律儀に俺に向き直る。


「昨夜の襲撃の事……だよね?」


「そうだ、覚えてる事があったら聞かせて欲しい」


 合点がいったとばかりに一つ頷き、深呼吸すると、エルは口を開き、ゆっくりと語り出した。


「私はティア様と一緒に、宿の前で荷物を纏めて待っていた」


「あぁ、こっちもクロセルと勇者、俺とアカツキに分かれて行動していた」


「そして、私達は唐突に襲われたんだ。敵は一人、私は敵の気配を感じ取ると、短剣を抜いて応戦した」


「敵は一人か」


「うん、確かに一人だった。獲物は無し、相手は素手で立ち向かってきたんだ。あれは……恐らく才能の差だったね、結論から言えば私は敗北した」


「クロセル、素手の戦闘にも才能があるのか?」


「うむ、徒手格闘の才能が存在する」


「相手は一人で徒手格闘の才能持ち、他に覚えてる事はあるか?」


「……終始笑っていた、まるで戦闘を楽しむようにね。声色は男とも女とも断定し辛い、兎に角恐ろしかった……かな」


「そうか、取り敢えずエルの身に起きた事は分かった、参考になったよ、ありがとう」


「いや、ヤマト様の力になれたのなら良かったよ」


「明日からは忙しくなるからな、ゆっくり休んでくれ」


「そうだね、私なんかを気にかけてくれるなんて、嬉しいよ、ありがとう」


 エルは俺の顔を見つめると、小さくお辞儀をして、はにかんで笑った。

 相変わらず笑顔とは眩しい物だ。でも……今日は普段とは少し違う感覚。

 なんだか笑顔で力を貰えた気がする。まさか、こんな事を思う日が来るとは思わなかった。


「じゃあ、俺も休んでいいか、エルを背負って此処まで歩いて来たんだ」


「そうですね、ヤマトさんはゆっくり休んで下さい」


「ご主人もお疲れ様だな、我が側に居てやるから安心して休むがよい」


「助かる……それじゃあ、おやすみ」


「僕も何故かティアを背負って来る事になったし疲れたんだけど!寝ても良いかな?」


「あぁ、申し訳ありません、ニコラスさん、魔窟までの道を確認しておきたいので、用心棒お願い出来ますか?」


「そうだ、働くのだ勇者よ、キリキリとな」


「そうよ!祝福の勇者なんだからちゃんと働きなさい!」


「うっ、ぐっ、分かったよ……働けば良いんでしょ働けば……」


「文句があるんですか?」


「無いよ!?どうして僕を疑ったりするんだい!?」


「日頃の行い……」


「常日頃からご主人のように真面目に生きてれば良い物を……」


「そんな……僕は真面目に生きているというのに酷い……なんて仕打ちだ……」


「色々と残念なだけであって……悪い人じゃ無いのだと思うんですけどね」


「それより、アカツキは休まなくて良いのか?この中で一番無理をしているのはお主だろう」


「……そればっかりは確かに否定は出来ませんね、私はこれから石版も解読しないといけないので……今夜も眠れなそうです」


「くれぐれも無茶をするではないぞ、お主が倒れては我々の道標が無くなってしまう、アカツキの身体はお主一人の物では無いのだからな」


「そうですね、でも私は大丈夫です、信じて下さい」


「うむ、我は信じておる。自愛するようにな」


「僕のことは心配してくれないのかい?」


「ふむ?勇者は祝福があるだろう、存分に無茶するが良いぞ」


「相変わらず扱いが酷いんだけど!?」


 今日も賑やかな会話が聞こえる。相変わらず仲良さそうで何よりだ。

 俺はベッドに横になり、静かに目を閉じる。

 やがて、俺は眠りに落ちた。

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