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作戦決行

 

「さて、始めるとするか」


「これも魔王退治の為……そう、これは悪い事じゃないんだ……僕は正義に違いない」


「何をぐずぐずとしている、ゆくぞ!」


「よーし……聖剣フルティンの力を見せてやる!」


 ヴァルハラ砦、正門前。その前に二人の人影が躍り出る。

 内片方の足元に魔法陣が浮かび上がったかと思えば、突如虚空から水が溢れ、濁流が正門へと押し寄せていく。

 そして、堅く閉ざされた門を水流の力だけで吹き飛ばした。

 突然の敵襲に、要塞は混乱状態に陥る。


「ごぼっ……敵襲!敵襲!」


「敵影は……二人です!」


「馬鹿な、たった二人でこの要塞の鉄壁の守りを打ち破る気なのか!?」


「正門突破されました!接敵まで3!2!1!接敵します!」


「ふむ、こんな物か……後は適当に敵を蹴散らすだけだな、射線に入るでないぞ?祝福の勇者よ」


「ははは!僕は祝福の勇者だからね!入っても大丈夫だ!」


 正門を破った水は消失し、陣形もままならない兵士の海へと勇者が斬り込んで行く。

 その後方でクロセルが詠唱。お得意の水弾の嵐が、片っ端から兵士達の身体へと叩き込まれる。

 幸運にも、兵士達は鎧兜で重装備していた為、クロセルの攻撃で致命傷を負うことは無さそうである。

 最も、クロセルが少しでも出力を上げれば、兵士達の身体は風穴だらけになるのだろう。

 流石はクロセル、兵士達を無力化して殺さない匙加減を弁えている。


「ぐっ、増援を呼べ!このままだと押し切られるぞ!」


「ははは!脆い脆い!君達のような雑魚がこの僕に適う筈もあるまい!全て聖剣の錆にしてくれよう!」


「祝福の勇者よ!そのまま前進して要塞内に入るぞ!」


「分かった!」


 倒れた兵士の数は遠目には数え切れない。この短時間で死屍累々と戦闘不能者の山を築き上げたのだ。流石は最大戦力、恐ろしい二人組である。

 やがて、二人の姿は要塞の中へと消えて行く。恐らく、続けて中で戦闘が繰り広げられているのだろう。


 そんな一部始終を、俺とアカツキの二人は、要塞の近くに位置する高い時計塔から見守っていた。


「頃合いか」


「そうですね、そろそろ行きましょうか」


「要塞まで結構距離があるが……いけるか?」


「いけます、魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

 ル・トゥーム・アルガス・ティル

 空間魔術……接続(コネクション)!」


 俺とアカツキの眼の前に、空間を引き裂いたような穴が生まれる。

 その先には、要塞内部らしき石畳と石壁に覆われた空間が広がっていた。

 躊躇う事無く二人で中に入る。これで要塞内に侵入出来た。

 思惑通り、警備の人間は見当たらない。この調子なら、作戦遂行も現実的かもしれない


「皇帝の部屋はどっちだ」


「こっちです」


 音を殺して小走りで、要塞内を進んでいく。

 要塞は王城以上に入り組んでいた。それは言うなれば人為的に作られた迷宮、侵入者を迷わせる事を目的とした造りになっている。

 だが確実に道はある。どんなに複雑な構造であっても、要塞として機能させる為には構造を把握した人間が真っ直ぐ目的の場所に向かえるようになっていなければならない。

 故に、必ず目的の場所に辿り着く道はあるのだ。そこに辿り着く道程に差はあれど。


「此処で、壁を抜きます」


「ショートカットか、本当に要塞の構造を把握してるんだな」


「半日の間、要塞を観察、分析したんですから、これぐらいは出来て当然です」


 そう言うアカツキの表情は、少しだけ得意気だった。

 良くやった、と小さな声で呟きながら、思わず手を伸ばし、アカツキの頭を撫でる。

 アカツキはそれに一瞬驚いた様子を示しつつも、嫌ではないのか、なすがままになる。

 だがそれも一瞬、クロセルと勇者が稼いでくれた時間は無駄にしてはならない。

 アカツキは直ぐに真面目な表情に戻ると先程と同じ詠唱を唱え、二箇所の空間を繋げる。


「そんなに魔術を乱発して大丈夫なのか?」


「実は大丈夫でも無かったりします、帰りの事を考えると壁を抜けれるのは次がラストです」


「やっぱり魔術も無制限に撃てる物じゃないんだな」


「はい、クロセルさんのような存在が規格外なだけです」


 そうして会話を短く済ませると、空間の穴を潜り、俺達は更に先に進む。

 そして、十分程度要塞の中を走り回った頃。俺達は目的の部屋の前に辿り着いた。


「まぁ、当然ではあるが……鍵掛かってるな」


「此処まで来て出し惜しむ理由もありません、繋げます」


 アカツキが詠唱し、部屋の中と外を繋ぐ。

 空間の穴を通り、部屋の中に入ると……俺とアカツキは手分けして目当ての物を探し始めた。


「石版なんだよな?」


「はい、石版で間違いないです、大きさはこれくらいで……あ」


 アカツキが手で大きな四角を作りながら、俺の大きさを指し示したかと思えば、俺の背後に視線が移り、そのまま静止する。

 何事かと思ってアカツキの視線の先へと振り向いてみれば……そこには金属製の金庫が置いてあった。


「なるほどな、こりゃ見るからに怪しい」


「私もそう思います、大きさも丁度その中に入るぐらいですし」


「取り出せそうか?」


「勇者の鎧と同様、魔術では干渉出来ないように対策されてますね……」


「……金庫ごと持ち出すか?」


「ヤマトさんそこまで怪力じゃないですよね?」


「だよな……どうした物か」


 ダメ元で金庫の扉に手を掛け、引いてみる。

 すると……金庫は呆気無く、ガチャ、と音を立てながら開いた。


「マジ?」


「驚きましたね……そんな、まさか……」


 鍵を掛け忘れたのだろうか。

 中を確認してみれば、そこには一枚の石版が入っていた。

 取り出してみる。そこには石に文字列が刻まれており、目的の物で間違いなさそうである。

 大体の文字列は俺でも読める物だったが、一部俺には読めない文字、言語が所々で使われている。俗に言う魔術言語って奴だろうか。


「ヤマトさん、見せて下さい」


「ほら、これだ……間違い無いか?」


「はい!確かにこれです、私は一度この石版を見ているので、間違いありません」


「よし、ならこれを持ってさっさと逃げるぞ、退路は任せた」


「任せられました、着いて来て下さい」


 内側から鍵を開けて皇帝の部屋を出る。

 そこで、少し遠くから人の走ってくる足音が近付いてきた。

 別段騒ぎは立てていない筈だが……俺達の存在を勘付かれたのだろうか。


「まずいな、このままだと鉢合わせになるぞ」


「足音から推測するに敵は一人、交戦します」


「分かった、前衛は任せろ」


 そのまま先に進むと、案の定。一人の兵士と鉢合わせになる。

 兵士は俺達の姿を視界に捉えると、剣を抜いて牽制してくる。


「お前ら……侵入者か!?俺に見付かったからには何処にも逃さん、大人しく降伏しろ!」


「おう、やるってなら俺が相手になる」


「ははは……武器も無しで立ち向かってくるとは威勢だけは良いんだな!お覚悟!」


「アカツキ、やれ」


「時間稼ぎ感謝します、空間魔術……亜空切断(ディメンションカッター)!」


 俺と兵士が睨み合った一瞬の間に、アカツキが後ろで詠唱を終える。

 それは見事に不意打ちとなり、剣を構えた兵士の利き腕が空間ごと綺麗に切断される。


「ぐあぁぁぁあああああ!?」


「残念だったな、悪く思わないでくれよ」


「行きましょう、ヤマトさん」


「おう」


 片腕を失い、激痛でのたうち回る兵士を一瞥すると、そのまま兵士を無視して先に進む。


「アカツキって結構えぐいことするよな」


「可哀想ではありますが、戦闘不能にするにはあれが一番手っ取り早いので……」


 そして要塞を駆け回り、二度壁を抜けると、遂に要塞の外に出る事に成功する。

 俺の手には確かに石版が握られており、追手らしき者も無し。此処までは物の見事に完璧だ。


「正門の様子はどうだ?」


「微かですが騒ぎが聞こえます、まだクロセルさんとニコラスさんがやりあってるみたいですね」


「見事な陽動だ、後で褒めてやらんとな」


「では宿に戻りますよ、エルさんとティア様と合流しましょう」


「そうだな」


 俺とアカツキは、要塞を出た後に、真っ直ぐ宿へと向かった。

 エルとティアとは、荷物を纏めて宿の前で待機している約束だ。

 故に、宿に戻ったら真っ先にその姿が見える筈なのだが……


「嘘……だろ……?」


「エルさん!?大丈夫ですか?」


 そこにあったのは血溜まり。そしてその中に倒れ込む人影。

 俺は石版を抱えたまま、呆然と立ち尽くした。余りの出来事に思わず脳が理解を拒む。

 が、俺は込み上がる絶望を飲み込み、脳を無理矢理に回転させて状況を冷静に整理する。

 まず倒れている人影、これはエルだ。約束通り宿の前で待っていたのだろう、近くには荷物も散乱している。

 ティアは……何処だ?少なくとも俺の視界には見当たらない……それはつまり


「くそっ、待たせるのが安全だと思った俺が馬鹿だった」


「いえ、この作戦を考えたのは私。これは私の落ち度です。ティア様が居ないとなると……ヤマトさん、要塞に行ってクロセルさんと勇者を呼んで来て貰えますか?」


「あぁ、分かった」


「私は彼女を連れて行きます、作戦通り、例の場所で落ち合いましょう」


「……気を付けろよ」


「ヤマトさんこそ」


「じゃあ行ってくる!」


 俺は無我夢中で走り出す。走りながら状況を分析する。

 まずティアに関してだ、遺体も無かった事から連れ去られたと考えるのが妥当だろう。

 次にエルの事。あれだけ出血していたとなると、傷の深さにもよるがかなり危ない状況だろう。

 ただ外傷だけなら生きている限りクロセルの回復魔術で対応できる。これに関しては一刻も早く合流することが急務だろう。

 そして、この惨状を生み出した人間。敵対勢力が居る。主犯格は皇帝で間違いない。

 が……あれが皇帝自身の犯行だとは思えない。皇帝自身ではなく、皇帝の手の者による犯行だと考えるべきだ。

 ステラか?いや違う。それは有り得ない。冷静に考えれば、皇帝の手の者など俺の知らない所に幾らでも居る。特定しようと考えても無駄だ。


「はぁ……はぁ……着いた、クロセル!勇者!居るか!?」


「ヤマト君!?何故此処に!?」


「ご主人……何かあったのだな?」


「あぁ、何かあった。取り敢えず要塞での用事は済んだから時間稼ぎはもういい、例の場所まで逃げるぞ」


「……我は先に行くべきか?」


「あぁ、先に行ってくれ、俺達は後から追い付く」


「承知した、ご主人も気を付けるのだぞ」


「お前……は心配する必要も無いな、取り敢えず急いでくれ、頼んだ」


 クロセルは魔術による身体強化からの高速移動で、一人先に帝都を走り抜けて行く。

 相変わらず人間離れした動きだ。

 そして残された俺と勇者は、兵士の追手から逃げる事となった。

 と言っても、意外にも勇者の体力は俺に負けず劣らず中々の物で、俺達は帝都を縫うように走り続けることで、いとも簡単に兵士を振り切ることに成功した。


 そして、完全に撒いた事を確認すると、俺達は真っ直ぐに集合場所へと向かうのであった。

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