決行準備
「今夜か」
「はい、本来なら念入りに下見をした上で決行に移すべきなのですが、魔王復活の期日が迫っているので今夜決行することになります」
「うむ、行動は早いに越した事は無い。相手に対策する時間を与えてはならんからな」
「どういう作戦を取るんだ?無策で乗り込む訳でも無いだろう?」
「それは今から説明します」
昨晩は皇帝の刺客による襲撃も無く。無事に日は昇り、俺達は宿屋の食堂で、朝食を摂りながら一堂に会していた。
会話の内容は言わずもがな。魔王封印の方法を獲得する為に、ヴァルハラ要塞に乗り込むという話だ。
「まずクロセルさんとニコラスさんが正面から要塞に入り、衛兵を陽動します」
「妥当な所だな、その二人はどうやっても目立ってしまう」
「はい、そして私とヤマトさんの二人で壁を抜きながら皇帝の部屋を目指します。そしてそこにあるであろう石版を回収した後に、そのまま脱出します」
「あの……私とティアお嬢様はどうすれば……」
「宿で待機になります、私達が目的を果たした場合、そのまま宿に戻り合流、ティア様の魔法で派手に花火でも撃って貰えれば、それが陽動班への合図になります。陽動班は合図が見え次第撤退、追手を振り切ってから昨日の馬車との合流場所で落ち合いましょう」
「そして、そのまま帝都を離れるんだな」
「はい、そうなります。その後は魔窟のある街"ロイトン"を目指します」
「ロイトンと帝都は徒歩で行ける距離なのか?」
「残念ながら、一晩で辿り着ける距離では無いですね、帝都からある程度離れた場所で一晩野宿して向かうことになります」
「なるほど、良く分かった」
俺はアカツキの言葉を噛み砕きながら、何度か頷く。
作戦自体は特に穴も見当たらない。人選も妥当な所だろう。
実戦経験の浅いエルとティアを待機させるのは正解だと思える。
「私は昼間の内に要塞内の構造を把握しに下見に行ってきます、日が落ちた頃に宿で集合で、それまでは自由行動で構いません」
「外から見ただけで内部構造なんて分かる物なのか?」
「はい、大体は把握できます。分析の才能の賜物ですね」
「そうか、やっぱり分析の才能は凄いな」
「私もそう思います、それではお先に失礼しますね」
「おう、気を付けろよ」
「はい、では行ってきます」
アカツキが席を立ち、そのまま歩いて行く。
その背を見送り、彼女の姿が完全に見えなくなった頃合いを見計らって、俺も席を立つ。
「ご主人も何処か出掛けるのか?」
「あぁ、散歩でもして時間を潰そうと思ってな。お前も着いて来るか?」
「ご主人が行くというのなら我も着いて行こう」
「あっ……私もお供します」
「わたしも!」
「……やっぱりこうなるか」
薄々覚悟はしていたが、結果として勇者を除いた三人を連れて行くことになった。
と言っても、やることは所詮散歩。何も面白い事など無い筈なのだが。
とまぁ、そういうことで。俺達は帝都を縦横無尽に歩いていた。
「ご主人……本当に只歩くだけなのだな」
「当たり前だろ、俺は一文無しだからな、都の賑わいを見て楽しむぐらいしかすることが無い」
「でも、私は楽しいですよ」
「あぁ、俺も案外こうやってひたすらに歩き回るだけでも楽しめる人種だ」
「わたしはつまらないわね……何か見世物でもやってれば良いのだけれど」
「生憎、そんな空気じゃないな……帝都は」
王都に負けず劣らず、帝都も確かに活気や人で溢れ返っている。
しかし、何処か空気がピリピリしているのだ。
それは武装した人間が多いからだろう。その内訳は冒険者が二割、他の八割は兵士である。
これほど兵士が多い街も俺は初めて見た。
そのせいか、良くも悪くも、治安は良さそうである。
「いや、昨日のあれを考えると治安が良い訳でも無いか……」
「あれは例外だろう、少なくとも王都より帝都の方が争い事や揉め事は少ない、治安は良い方だと言える」
「……久々に心を読まれたな」
「別に心を読んだ訳ではない、我はご主人の言葉に反応しただけだぞ!?」
「そうか、余りに的確な反応で心を読まれたのかと思った」
「ご主人は疑り深いな……」
「心外だ、慎重と言って欲しい」
クロセルの頭に拳を投げ込み、ばしんと弾かれる。
その様子を見て、驚いたような顔をしているエルが目に入る。
そう言えばこの子には説明していなかったな。
「ヤマト様……それは、その……」
「これはディザビリティ。俺の傷害の才能指数は0なんだ」
「ディザビリティ……ですか、それは不便そうですね」
「確かに不便だが、直ぐに手が出る俺にはこれぐらいの枷があった方が丁度良い」
「なるほど……そういうものなんですね」
「あとまた敬語に戻ってるぞ、俺のことは呼び捨てで良い」
「別に私は構わないんだけど、呼び捨てだとティア様と被るから私はヤマト様って呼ばせて欲しいな」
「どうして被ることを気にするのか分からないんだが……まぁ良いか、呼び方はそのままで」
「うん、ありがとう。ヤマト様」
「……中途半端にタメ口ってのも慣れないな」
「ヤマト様が言ったんだからね、不自然なのが気持ち悪いと言うならいつでも戻すよ」
「ならまぁ適度に使い分けてくれ、俺と直接話す時だけ砕けた口調にしよう、それなら特別感があって良い」
「それはまた難しい注文だね……まぁ善処するよ」
その後、俺達は日が暮れるまで帝都を歩き回り、観光に興じた。
四人で宿に戻ると、既に勇者は待機していた。後はアカツキが揃うのを待つばかり。
そして、俺達は静かに作戦が決行される時を待つのであった。




