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帝国を目指して

 

「ヤマトさん……」


「なんだ?」


「このメンバー、私凄く見覚えがあるんですが……」


「そりゃそうだ、俺の人選なんてこんな物よ」


「だからと言って候補は他にも幾らでも居るでしょう、ゲーテさんとかギルドの冒険者とか……全く、ヤマトさんに期待した私が馬鹿だったかもしれません」


 後ろをくるりと振り向けば、確かに手配した通りの人間が集まっている。

 最強の魔杖に勇者二名も居る。戦力としては十分だと思ったが、どうやらアカツキは不満らしい。


「まぁ、今から集め直しって訳にもいかないんだろ?」


「そうですね、こうなってしまったらこの面子で行く他ありません」


「ならそれで決まりだ、さっさと行こうぜ」


「いや、やっぱりティア様だけでも置いて行きましょう、遠足じゃないんですよ?彼女を連れて行くのは危険過ぎます」


「嫌よ!わたし、ヤマトに着いて行くって決めたもの。それにこう見えても戦えるのよ、ヤマトよりは役に立つわ」


「……という訳らしいので、連れて行くことにした」


「馬鹿ですかヤマトさんは……」


「こいつよりは賢いぞ」


 俺は小さく勇者を指差す。

 それを見たアカツキは、一つ大きな溜息を吐くと、諦めたとばかりにひらひらと手を振る。


「分かりました、これで行きましょう」


「やっと覚悟を決めてくれたか。よし、それじゃ出発だな」


 何時ぞやと同じように、アカツキの手配してくれた馬車に乗り込む。

 六人も居るから乗り切れるか心配だったが、それも杞憂だったようだ。馬車の中はかなり広い。

 俺に続いて仲間が次々と乗り込んでいく。そして最後に、既に疲れた様子のアカツキが乗り込んだ。


「んな暗い顔するなよ、リーダーがそれじゃ締まらないだろ」


「……そうですね、私がしっかりしないと……そう、私がしっかりしないと……」


 アカツキが一人、同じ言葉を呪詛のようにぶつぶつと呟き始めた。駄目だこれ。

 俺は話題を逸らしてアカツキを正気に戻そうと試みる。


「帝国領を目指すんだったな」


「そうですね、帝国領の心臓部、帝都に位置するヴァルハラ要塞が今回の目的地です」


「要塞……?城じゃないのか」


「クロム帝国は軍事国家なので、その司令部は要塞となっているんです」


「つまり帝国の皇帝ってのは総司令官、元帥、そんな類の立場の人間ってことだな」


「そうなります、なので皇帝不在の今も、皇帝の次点で権力を持つ人間が執政を行えるので、大きな混乱は起きていないみたいですね」


「やはり皇帝は不在なのか……奴は本当に死んだんだろうな?」


「遺体を見ていない以上、どちらとも断定出来ないのが辛い所ですね……」


 やがて、帝国を目指して馬車が動き出す。

 話している内にアカツキの調子も戻ったようだ。


「ヤマト様……少し良いかな?」


「エルから声を掛けてくるとは珍しいな、何だ?言ってみろ」


「大したことじゃないんだけど……顔色が悪いように見えるから……大丈夫かなって」


「……そうだな、確かに少し調子が悪い」


 エルは俺のことを随分と良く観察しているのだろう。

 言われて思い出したが、確かに俺は今日調子が悪い。それもほんの少しだけだが。

 徐に手を額に当ててみれば、僅かだが微熱があるように感じる。

 鏡など見る機会など無い故に憶測になるが、確かにこの調子だと少し顔色が悪いのかもしれない。


「良く気付いたな、でも大丈夫だ。この程度寝て起きたら吹っ飛ぶ」


「いや……気を付けてね、この世界では風邪一つでも命に関わるから」


「そうなのか……回復魔術とやらがあるから風邪程度簡単に治る物だと思っていた」


「エルの言う通りだ、回復魔術とは外傷を修復しているに過ぎない、身体の内で蔓延る病は治せないのだ」


 ふと、何か違和感を覚えた。

 だがその正体が上手く掴めず、言語化出来ない。

 一体今の違和感とは何だったのだろう。


「まぁ安静にしてるよ、少し眠る、何かあったら叩き起こしてくれ」


「あぁ、おやすみご主人」


「おやすみなさい」


 エルとクロセルの言葉を聞き届けると……俺はゆっくり目を閉じる。

 思っていた以上に疲れていたらしい。やがて、俺は直ぐに意識を失った。


 そして俺は、夢を見た。


 広がる風景は白いもや。形を留めない雲のような世界。

 そこに、俺らしき人物と一人の少女が向き合って立っている。

 俺はそれを俯瞰的な視点から見ていた。


「ヤマトくん、貴方は――――います」


「――――るのはお前の方だ、俺はお前を――――から――する」


「無駄です、そんなことをしたら――――は―――るんですよ?」


「それは――、俺は知っているんだ、お前が――――――――――だということを!」


「……――はあるのですか?」


「――無い、その惚けた口調が他の何よりも確かな――だ!」


「残念です、私と貴方は――――、―――やれると思ったのですが」


 気が付けば、夢の中の俺は剣を取っていた。

 少女も剣を取っていた。

 やがて打ち合いが始まる。

 夢の中の朧な風景でも、それは惚れ惚れする程に鋭く、美しい剣舞に見えた。

 夢の中の俺は、少女と剣を打ち合い、踊り続ける。

 一見すると一体どちらが踊らされているのか、俺には判別できなかった。


「私にとっては実に―――で、―――時間ですが……――――時は――ですので」


「くそっ……舐めた真似をしやがって」


「―――にしましょう、ヤマトくん」


「っ……これは……」


「そう、分かりましたね……――はもう……」


「嫌だ!くそっ……俺は……お前の思う通りには……ならない!」


 物事には必ず終わりがある。それは時として唐突で、呆気ない。


 ――夢の中の俺は、少女の胸を刺し貫いた。


 驚いたのは少女の方であった。

 まるで思いもよらぬ事が起きているとばかりに、自分の胸元を見つめ……黙り込む。

 刹那、夢の中の俺が頭を抱える。同時に、それを見ていた俺にも酷い頭痛が起きる。

 一体今のは何の風景なのだろう、何を明示している?そんなことを薄々思いながら、俺の意識は一気に覚醒する。


「っはぁ……はぁ……」


「大丈夫か?ご主人、うなされていたようだが……」


「大丈夫だ……少し悪い夢を見た……」


「ヤマト様……それはどんな夢でした?」


「それは……」


 夢の内容を思い出そうとするが……思い出せない。

 俺は一体どんな夢を見ていたんだ?

 何故これほどに怯え、身体が震えている?

 幾ら考えても……俺はそれを思い出すことは出来なかった。


「悪い、思い出せない……」


「そうですか……」


「ご主人、酷い熱だぞ!?本当に大丈夫なのか?」


「いや……ちょっと不味いかもしれない……」


「此処は私にお任せ下さい、魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

 ラ・アイス・ナヴル・ティロ

 氷魔術……氷結籠手(アイスハンド)


 虚ろな意識の中、俺の額に冷たい物が当てられる。

 これは……エルの手か。程良く冷たく、心地よい。


「まさかこんな所で私の才能が役立つ時が来るとは思いませんでした」


「おい……それ、当ててる側は冷たくないのか……?」


「はい、全く私には問題ありません、ですのでヤマト様はゆっくりと休んで下さい、ね」


「そうか……助かる」


 エルの優しい手に包まれながら、俺はもう一度、ゆっくりと意識を手放した。

 それは恐ろしい程に心地よく、甘美な眠りだった。

 そのお陰だろうか……


 今度は悪い夢を見ることもなかった。

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