人選
「ヤマトさん、起きて下さい!」
「なんだよ……今日はやけに早いな」
ある日の早朝。何処か焦りのような色を含んだアカツキの声で、俺は叩き起こされる。
隣で気持ち良さそうに眠っているクロセルを一瞥すると、俺は安眠を邪魔された苛立ちからアカツキを軽く睨み付けつつ、むっくりと起き上がる。
「そんな怖い目をしないで下さいよ……ヤマトさん、あとクロセルさんも関係ありますね、緊急の報告です」
「……なんだよ、報告って」
「魔王の復活地点が特定出来ました、王国の文書解読班が80年前の文献を片っ端から漁って、やっと割り出せたみたいです」
「今まで特定出来てなかったのか……そりゃ危ない所だったな、何しろあれから今日で……」
「24日です、魔王の復活は恐らく7日後、丁度一週間後になると思われます」
「もうそんなに経ったのか……時間が流れるのは早いな」
「それで、その場所ですが……帝国領にある迷宮、通称"魔窟"と呼ばれる場所です」
「帝国領ってのは分かるが……迷宮ってのは何だ……?」
「ある場所に、何の前触れもなく発生して、内部から魔物を生み出す異空間です。その多くは最深部に聖遺物や魔の力を持った品が封印されています」
「おかしな話だな、そう聞くと人為的に作られた物のように思える」
「えぇ、私もそう思います。現時点では神が生み出していると考える説が有力ですね」
「んで……その魔窟とやらの最深部には"魔王"が封印されてると、そういう訳だな?」
「はい、現代の魔王が消失した時期と魔窟の発生の時期は一致しています、恐らくはそういうことかと」
「迷宮の内部は……まぁ大凡予想はつくが、文字通り迷宮になってるのか?」
「はい、その通りです」
「迷宮の中で魔王が復活するなら、下手に攻め込むより迷宮の入口で出待ちした方が良さそうだな」
「それがそうとも限らないんです、魔王は封印の影響で非常に弱った状態で復活します、そこから時間と共に力を取り戻すと推測されています」
「つまりは……魔王を仕留めるなら迷宮の奥で復活した直後、弱ってる時を狙って仕留めるべきってことだな?」
「魔王を"仕留める"ならばその方法が最善だと思います、ですが魔王に関しては仕留めてはいけないんです、殺さず生かして、再封印せねばなりません」
「どういうことだ?魔王は殺せないとかそういうことか?」
「いいえ、そういう事ではなく。魔王を殺すと"魔王の血を浴びた者"に力が継承され、次の魔王として目覚めるのです」
「……話が読めてきたな」
話している内に寝惚けていた頭も覚め、思考は正常に回転を始める。
俺にはずっと謎だった事がある。それは皇帝が何故魔王の復活の儀式を行ったのかについてだ。
それが今1つの仮説として分かった。恐らく、皇帝の目的は魔王の復活自体ではなかったのだ。
皇帝は魔王を復活させ、直ぐに"殺す"事で……皇帝自身が魔王に成り代わる。
推測の域を出ないが、それが皇帝の目的となれば色々と納得がいく。
「はい、なので魔王は殺せません。殺してしまえば次の魔王が完全な状態で目覚めることになります、それだけは何としても阻止せねばなりません」
「それで……魔王を封印する方法を取るって訳だな、復活直後で弱ってる所を殺さずに封印すると」
「そういう事になります、ただ……封印の方法ですが……現在王国は魔王を封印する手段を持っていません」
「……は?」
「封印する方法があるのは事実ですが、そもそも手段が現状不明です、恐らく唯一皇帝だけが封印する方法を知っています」
「確かに封印を解除する方法を知っていたということは、封印をする方法を知っていてもおかしくはないな……」
「なので……今朝、私にある任務が下りました」
「大方予想はついたが……聞こう」
「帝国領での諜報任務です、目的は魔王封印の手段の獲得、そして期日に魔窟の深部に潜り、復活した魔王を再封印します」
「……無茶だろ」
「私もそう思います、ですが何もしない訳にもいきませんからね。国王陛下も余り期待してはいないみたいです。主に王国領の防衛の強化を優先しているので人員も割けません」
「クロセル奪還と同じく、少数精鋭って訳か……」
「そこでヤマトさんに相談です、王都を明日発つことになります、なので今日中に連れて行く方を見繕って貰えませんか?」
「そこはお前の仕事だろ……俺の人脈なんてたかが知れてる」
「そうなんですが、私は旅の手配で恐らく今日が潰れてしまうと思うので、此処は人望が厚そうなヤマトさんに頼もうと思いまして」
「……誰を選んでも文句は言わないな?」
俺にも宛が無い訳じゃない。
直ぐに思いつくだけでも、祝福の勇者ニコラス、そしてティア。
どちらも大きな問題を抱えているが戦力としては十分過ぎる人材だ。
だがどちらも抱えている問題が致命的かつ大きすぎる。
今回の旅も、前回と同じぐらいのリスクを孕んでいる。
そんな任務に、ニコラスやティアを連れて行くのが最善とは思えない。
「はい、人選は完全にヤマトさんにお任せします、国王からも許可は降りているので誰を連れて行っても王国からは文句は言えません」
「そうか、まぁ了解した、やれるだけやってみるよ」
「助かります。では私は忙しいのでこれで、失礼しました」
アカツキは一礼すると、そのままそそくさと部屋を出て行った。
まるで嵐のようであった。唐突に訪れ、俺に重要な役回りを押し付けると、そのまま風のように去っていった。
残された俺は、軽く呆然としながら、頼まれた人選に付いて考えを巡らしていく。
「クロセルと俺、そしてアカツキは確定として……」
「……失礼します、ヤマト様、朝食をお持ちしました」
気が付けば日は昇り、普段目覚めていてもおかしくはない時間となっていた。
朝食を乗せたトレイを持ってエルが入ってくる。
相変わらず見ていて愛らしい。眼福とはこのことだろう。
「ありがとな、それと少し聞きたいことがあるんだが……良いか?」
「はい、ヤマト様。承ります」
「君の才能が知りたい」
「えっと……家事1、短剣術4、氷魔術4です……」
「……マジ?」
「嘘は致しません、ヤマト様」
驚いた。エルが戦闘向けの才能を持っているとは。
本来なら使用人として、家事の才能に目が行くのだろうが、俺としては後者二つの才能の存在の方が大きかった。
これほど可愛い子を危険に晒すと思うと胸が痛むが、ダメ元で問い掛けてみる。
「明日から俺はアカツキの任務に着いて行くことになるんだが……君も来るか?」
「はい、お供します」
「……マジで?」
「嘘は致しません」
二つ返事で了承されてしまい、思わず困惑する。
この子はあまりにも従順過ぎる。否定するということを知らないのだろうかと錯覚する程に。
だが了承を得られてしまった以上、今更無かった事になど出来ない。
これで同行者一人目が決定だ。余りにも呆気ないが。
「じゃあ頂くよ、ありがとな」
「いえ……滅相も無い、有難き幸せで御座います……」
「そんな畏まらなくても良いんだけどな……もう少し砕けた関係で良いんだぞ、その方が俺も気が楽だし」
「分かりました、以後気を付けます」
「敬語も無し……ってのは流石にハードルが高いか?」
「いや、大丈夫……これで良い?」
「出来るじゃないか、それで良いんだぞ」
態度が変わっただけだが、それでも少しエルと距離が近付いた気がして嬉しい。
その後、朝食を冷めない内に頂いた後に、まだ寝惚けた様子のクロセルを強引に引き連れ、部屋を出た。
「うぅ……ご主人……今日は何でこんな早くから起きてるのだ……?」
「いつもとそこまで変わらないだろ、それより人探しだ……俺の人脈で戦力になる人間って言うと……やっぱあいつしか居ないよな……」
王城から出て王都に繰り出す。
アカツキの監視が無いが、門番の方にアカツキの手が回っていて今日だけは例外ということにしてくれているらしい。
流石はアカツキだ、抜かりが無い。
「久々の王都だが……うかうかしては居られないな……勇者を探さないと」
「勇者と言うと祝福の勇者か?一体あいつに何の用があるのだ?」
「仲間へのお誘いだな……俺は全力で不本意だが、あいつを使わねばならない程に人手不足が深刻らしい」
「まぁ……確かに戦力としては申し分ないが……」
「あぁ、勇者ニコラスは頭がな……足りてない」
「扱いやすいという意味では利点でもあるがな」
「あぁ、その通りだ、単純で助かったよ……本当に」
そのまま王都を巡り歩いていると……そこそこに大きな人だかりを見付ける。
注目を浴びている何かがあるということだ。俺ははぐれないようにクロセルの手を握り、人だかりを掻き分けていく。
「お、見付けた……が、あれは……何してるんだ?」
「はははは!さぁ、他に僕に挑戦する人間は居ないのかい?この聖剣フルティンの錆にしてくれよう!」
「……帰るか」
「ご主人!?彼を仲間に誘うのでは無かったのか!?」
「分かってるよ、冗談冗談」
「嘘つけ……声色が本気だったぞ……」
どうやら勇者はまた新しく聖剣を手に入れて、決闘大会を開いているらしい。
冗談みたいな話だが、勇者の実力は確かのようで、辺りには勇者にやられたらしき男が何人も見受けられる。奴は装備と剣の腕だけは確かなんだ、剣の腕だけは。
そんな、現在進行系で近寄り難い雰囲気を醸し出す勇者ニコラスに、意を決して近付いていく。
「よう、勇者」
「おっと、君はヤマト君じゃないか、一体どうしたんだい?僕の聖剣と手合わせしたいってなら、いつでも相手になるけれど」
「決闘には興味ない、お前と話していると酷く時間の浪費した気分になるから簡潔に言おう、俺達の旅に着いてこい」
「何の旅だい?」
「んまぁ……掻い摘んで言えば魔王退治だな」
「そうか!魔王と言えば悪の象徴!それを滅ぼすのが僕の役目だ!喜んで付いて行かせて貰おう」
「あぁ……そりゃ良かった、明日発つから準備しとけよ」
「分かった!ふふふ、僕の聖剣が活躍する時も近いようだね……」
「あぁ、活躍出来るといいな」
やはり単純だ、こいつが馬鹿で本当に助かる。
そんな事を心の中では思いつつ、飄々とした顔色で勇者の近くを離れる。
これで二人だ、アカツキとクロセルと俺を含め五人。
ラストはやはり……彼女ぐらいしか俺には思い当たらない。
「城に帰るぞ、クロセル」
「もう少し王都観光と行きたかったのだが……」
「同感だが……生憎勇者探しで時間が潰れちまった、最後の用事も、日が暮れる前に済ませたい」
「分かった、帰るとしよう」
王都見物もそこそこに、俺達は王城へと戻った。
そして、俺達はある一室を目指す。
本当は連れて行きたくないのだが……彼女の魔術の才能は確かだ。それにああ見えてしっかりしている。
「あぁ、どうしようか……非常に悩ましいぞ」
「……勇者ティアを連れて行くつもりなのだな?」
「ティア……ではあるが……勇者?あいつも勇者なのか?」
「あぁ、勇者だぞ、気付かなかったのか?」
「あんな小さい奴が……と思ったが、いや……冷静に考えれば才能は生まれつきなのだから年齢は関係ないんだな……」
国王の娘、王女様が勇者とは、偶然という物は恐ろしい。
連れて行っても邪魔にはならないだろうが……やはり一国の王女を連れて行くのはリスクが高すぎるだろうか。
考えれば考える程に泥沼に沈んでいく。ええい、こういうのは勢いだ、彼女も誘おう。こんなことでひたすら悩んでも仕方ない、本人が嫌と言えばそれで終わり、着いて来たいと言うのなら連れて行くだけのことだ。
「よし、邪魔するぞ。ティアは居るか?」
「ヤマトじゃない!どうしたの?遊びに来てくれたの?」
俺は大きな深呼吸を一つすると、覚悟を決め、ティアの部屋へと足を踏み入れる。
案の定、ティアはそこに居た。部屋に閉じ込められて居たのだろう。二人の使用人に囲まれ、ソファに座ってつまらなそうな顔をしている。
ところが俺が部屋に入ると同時に、曇った表情は一瞬にして晴れ、ティアは笑顔で俺を出迎えてくれた。
「いや、今日は真面目な話をしに来た、俺達は明日から任務で遠い所に行く。前回だって死者が出たんだ、危険な旅になるのは明白、そんな旅に俺達は行かなくてはならないんだが……」
「どうしてそれをわたしに話したの……?」
「そう、そこなんだよ。俺がお前にこの話をしたのは、お前も俺達の旅に着いて来ないか?と誘う為なんだ、良いか?よく考えて決めるんだぞ」
「ヤマトが行くならわたしも着いていくわ!わたしだって戦えるもの!」
「あぁ、そうだろう。才能に年齢は関係ない、お前の魔術の才能があれば、大人と同等かそれ以上に戦える。だから俺はお前を誘いに来たんだ、本当に良いんだな?死ぬことになるかもしれないんだぞ?」
「それでも着いて行くわ、わざわざわたしを誘いに来たってことは、ヤマトも覚悟を決めたのでしょ?」
「あぁ、その通りだ。お前を誘う覚悟は出来てる、お前を危険に巻き込む覚悟も出来てる、お前がそれを理解した上で、着いて来ると言うのなら……」
「言うのなら……?」
「俺はお前を歓迎しよう。出発は明日だ、精々足手まといにはなるなよ」
「ヤマトよりは役に立つと思うわ」
「……助けてくれクロセル、言い返せないんだがどうすれば良い……」
「これはご主人の負けだな、大人しく言い負かされるが良い」
「あとこれって……国王の許可とかも必要になってきそうだよな……」
「それなら心配要らないわ、お父様には私が言っといてあげる」
「あぁ……それは有り難いんだが、くそっ……ティアの方が俺よりしっかりしてるんじゃないか?」
「かもしれんな、ご主人も……もう少し頑張れ」
「くそっ……年下に負けるのがこれほど悔しい物とは」
こうして、旅の面子は決まった。
クロセル、アカツキ、エル、ニコラス、ティア、そして俺の六人。
その日、俺とクロセルは部屋に戻り、明日に備えて支度を始めるのであった。




