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過去

「それじゃ早速話し始めるとするか」


 場所はアカツキの執務室。

 机の脇に小椅子を並べ、俺達三人はそこに座していた。


「勿論ヤマトさんが先ですよね、言い出しっぺですし」


「あぁ、分かってる。んじゃまず俺が居た世界に関してだが……」


 俺の話も、大凡は当たり障りの無い話だった。

 俺が"地球"と称される惑星から来た事。

 その世界では才能や魔術なんて物はなく、人類史は科学によって発達して来たということ。

 科学の賜物で、この世界より遥かに高い技術を持った世界ということ。

 そして、その世界の暦で言う2018年から来たということ。


「とまぁ、此処までが俺の世界の話だ、アカツキ、何か質問はあるか?」


「やっぱり私より少し先の未来から来たんですね、私は西暦2014年にこの世界に来たので」


「……あれ、おかしいな、それだと計算が合わなく無いか?アカツキはシンシアに来てから今年で五年目だろう?」


「確かに本来なら今現在地球は2019年の筈ですが……」


「ふむ、地球とシンシアの暦では多少の誤差があるのかもしれんぞ?ヤマトも此方に来た直後は此方の時間感覚に慣れない様子だった」


「なるほど、それもそうだな」


「それで、ヤマトさん自身が転生した経緯をお聞かせ願えますか?」


「もう覚悟は決めてるんだから急かすなよ……」


 面白くもない話だというのに、耳を澄ませて聞き逃すまいとしている二人の様子を見て、思わず溜息を吐いた。

 そして、俺は重い口を開いてゆっくりと話し出す。


「俺の前世は俗に言う咎人……悪い人間と手を取り合って弱者を虐げる、地球ではヤンキーとか呼ばれる人間の類だった」


「話の腰を折って悪いんですけど、ヤマトさんって幾つなんです……?」


「18だ、お前は?」


「女性にそれを聞くんですか……?」


「冗談だ、見てくれで大体分かるから答えなくていい」


 服装と仕草で大人びていると錯覚しがちだが、良く見てみればアカツキも俺とそう変わらない年齢だということが分かる。

 根拠は勘だ、俺のも割と当たる。


「うーん……それはそれで困るんですが……」


「いいから黙って聞いてろ、んで俺が此処に来た経緯だが……まず、俺達は薬に手を出してたんだ、無論非合法のな。入手経路はモノホンのヤクザから奪い取ってた。それほどに俺達のグループは力があったんだ、武装した大人とやり合える程度にな」


「もしかして……ヤマトさんはそのグループの……」


「そう、頭を務めてた。霧雨組って名乗ってな、そりゃ色々やったさ。女も金も暴力も手を出した。犯して奪って殺したんだ。それらは全部俺の命令でやったことだ、やらされた訳じゃない。俺はそれを楽しんでやっていた、愉快犯って奴だな」


「そんなの……今のヤマトさんからは想像出来ません……」


「だろうな。我ながら丸くなったとは思ってる。それもこれも、神に自慢の拳を奪われて骨抜きにされたってのが正しいか」


「傷害のディザビリティが無ければ、ご主人は前の世界と同じような生き方をするつもりだったのか?」


「ぶっちゃければ、その通りだ。もし神が俺に力を与えていたら、俺は前と同じ、悪逆非道を尽くす人間にして魔王のような存在と化していただろう」


「なら、ディザビリティのお陰で今のヤマトさんが居ると言っても過言ではないんですね」


「だな、取り敢えず話に戻る。俺達霧雨組は色んな場所のヤクザから薬を奪って、それを高値で取引したり女に使ったり、好き勝手やってた訳だ」


 一呼吸置く。あの時の事は思い出すだけで腹立たしく、悔しい。


「だがいつまでも上手く行くわけがなかった、俺の右腕であり親友でもある奴がヘマをしてな、中国のマフィアに捕まっちまったんだ」


 もし過去をやり直せるとしたら、俺はあの時に戻りたい。

 もしそれが叶うなら、何度でもやり直して、絶対にあいつを救い出してやる。


 が、そんな奇跡が俺に起こる事は無かった。


 起きた奇跡は二度目の人生、それも拳を奪われての第二の生だ。

 本当に笑える。障害を持ったまま第二の人生なんか俺に与えられても何も成すことなど出来ないというのに。

 今だってクロセルに頼り切りなのだから。俺の存在価値なんて、この世界じゃほんの少しも無い。

 だがしかし、前の人生も似たような物か。俺のような社会の癌に存在価値なんて無かったのだろう。

 結局変わらないのだ。一度目も、二度目も。


「霧雨組の総意は奴を見捨てる事だった、俺も一度はその判断をした。だが……俺は諦めきれなかったんだ、奴を助ける為に、奴等の根城に単独で乗り込んだ」


「なるほど……」


「後はもう分かったな、俺一人でどうこう出来る筈もなく、親友の前で鉛玉を撃ち込まれてお陀仏だ。冷静さを欠かなければもっと上手くやれてた筈なんだけどな」


「つまり、ヤマトさんは一度死んでからこの世界に転生してきたという訳ですね?」


「そうだが……お前は違うのか?」


「はい、私はその……自ら転生したんです」


「分からん、最初から説明してくれ」


「分かりました、私が西暦2014年から来たという事は言いましたね?」


「あぁ、聞いたな」


「当時高校生だった私は、特に特筆する特徴も無い、ある女子校に通っていました」


「……年齢割れたな」


「うるさいですよ。それで、その七不思議の一つに、"異世界に行く方法がある"という物がありまして……」


「おかしな話だな、その方法で本当に異世界に行ったなら、誰がその事実を知って言い伝えたんだ?この手の怪談だと良くある矛盾だが」


「もしかしたら……異世界に"行って帰ってきた"人物が過去に居たのかもしれませんね」


「その学校はどの位の歴史があるんだ?」


「創立120年と少しだった筈です、ありえない話では無いですよね」


「だな、それだけあれば異世界に行って帰ってきた人物が居ないとも限らない」


「それで、私は興味本位でその七不思議を試してみることにしました」


「本当に興味本位だったのか?何か向こうでの暮らしで嫌なことでもあったんじゃ……」


「それを聞くのはデリカシーが無いって物ですよ、ヤマトさん」


「……言いたくないなら別に良い、話を続けてくれ」


「その異世界に行く方法なんですが、学校の近くにある活火山の火口に飛び込むという物でした」


「……冗談だろ?」


「本当です、そしてこの話には続きがあって……もしそれが成功したら、その火山が噴火して、異世界に行った人物が最も憎んでいる人物を殺す……という物なんです」


「突然怪談らしくなったな……」


「まぁぶっちゃければ、異世界に行くのは手段に過ぎなくて、心底殺したい人物が居たんです。私だって人間ですから」


「不確かな怪談に従って火口に身投げ自殺してまで、他人を殺すとか……凄い執念というか狂気を感じるな」


「はい、私も今思えば無謀なことをした物だと思います。」


「まぁ……納得は出来た、2014年ってのも辻褄が合う」


「それは良かったです、あわよくば復讐の方も成功していることを祈りましょうか」


「目が怖いぞ……アカツキ……」


 俺だけじゃなく、アカツキもかなりの訳有りだったらしい。

 というかぶっちゃけかなり怖い。絶対に敵には回したくない女だ。

 色々と気になることはあるが……余り深く詮索すると俺も身も危うそうである。止めておこう。


「その火山が地球からシンシアを繋ぐゲートなのだとすれば、その逆であるシンシアから地球に繋がるゲートも何処かにあるのだろうか」


「ふむ、可能性としては有り得るだろう、シンシアにも幾つか活火山がある、帰りたくなったら試してみるのも手だな」


「試して失敗したら死ぬから誰もやらないだろ……」


「アカツキはそれをやったんだ、ご主人も男らしいとこを見せんか」


「男らしいとか女々しいとかそういう次元の話じゃねぇから!そういうお前は出来るのかよ!」


「火山如き、我の魔術を使えば泳ぐことすら容易よ」


「お前に聞いた俺が馬鹿だった……」


「と……兎に角!以上が私がこの世界に来た経緯です、質問はありますか?」


「火口に落ちた時に一度死ななかったのか?そのままの身体でシンシアに?」


「そうですね、落ちてる途中で一気に視界が変わって、気が付けばシンシアに降り立ってました」


「その場所は?俺はアランの森の湖だったが」


「王都の正面にある草原です、直ぐに通り掛かった国王に拾われたので殆ど苦労はしませんでしたね」


「やっぱり俺とアカツキの転生は、色々と齟齬があるな……参考にはなったが、いまいち繋がりが見えない」


「そうですね……そう言えば、私の才能は恐らく世界に降り立った直後から持っていたみたいなんですが、ヤマトさんはどうでした?」


「同じだ、最初から『傷害』のディザビリティを持ってた」


「才能がこの世界に来た時に決まるとしたら、そこには神の意志の介入があるのか、それともシステムに則ってランダムに与えられた物なのか、此処が気になる所ですね……」


「同感だ、だが俺は前者の説を推すな。俺が傷害のディザビリティを与えられるとか……偶然にしては出来すぎている」


「確かに、ヤマトさんと出会ってからは私もそう思うようになりました。神様……一度会ってみたい物ですね」


「ふむ、では会いに行くか?」


「何言ってんだよクロセル……そう簡単に神に会えるわけ……会えるのか?」


「そもそも神とは人の身に転生して普段は地上に居る存在だからな、知らなかったのか?」


「私も初耳です……勇者や魔王に関しては知識がありましたが、まさか神が普通に地上を歩き回っているとは……」


「と言っても、基本的には教国の保護下にあるから会うのは簡単では無いがな、見るだけなら現地に行くだけだから簡単だぞ?」


「教国……ってのはあれか、王国に帝国と続いて、また新しい国か」


「この世界は五つの領土に分かれてますからね、教国はその中でも一番小さな国ですが、神を強く信仰しているのもあって、民衆に対する影響力、発言力だけならトップレベルと言っても良いです。私の知ってるのはこの程度で……本当に神様をお抱えになってるというのは初耳でした」


「そもそも何で700年眠ってたクロセルが知ってるんだよ」


「教国は700年前にもあったからな、いやはや、あれは強敵だった」


「魔王時代に攻め滅ぼそうとしたのかよ……」


「我ではないぞ?我の元主人が攻め滅ぼそうとしていたのだ、我はそれに従って加担したまで」


「結局は同じだろ、んで教国が破れなかったのは何でなんだ?」


「文字通り、神の加護を与えられた国故に、魔の者が近付くと力を奪われるのだ、故に攻め滅ぼすことは出来なかった」


「祝福と来て次が神の加護か……魔王以上に何でもありな奴なんだろうな、神ってのは」


「そりゃ神なのだから当たり前だろう、世界を作った唯一神だぞ?」


「そんな神様が普通に国に抱えられて、生活していると聞くと……なんとも言えない違和感を感じますね……」


「……だな」


 創造神と聞いて、やはり超常的な存在なのかと思えば、普通に地上に生を受けて活動しているというのだ。

 これで違和感を覚えない方がおかしいだろう。


「……神が手を貸してくれたら魔王なんて一発なんじゃないか?」


「それはどうだろうな、我が思うに……恐らく魔王は神が作り出した存在、神が魔王をやろうと思えば簡単なのだろうが、実際にそうした例は過去に一度も無い。つまり、神が必ずしも人類側の味方であるとは限らないという訳だな」


「神が魔王を作ったって……いやそりゃそうか、この世界の万物は神が作り出してるんだもんな……ん、てことは」


 俺やアカツキのような"外から来た者"を例外として、他全ての物質から生物、法則やシステムに至るまで、神が作り出した物なのだとしたら。


「神は何で魔王や魔物を作ったんだ……?或いはその二つは俺達と同じ"外から来た者"なのか?」


「さぁ、そこに関しては神本人に聞いてみる他無いだろう、我のも仮説に過ぎないのでな」


「いつか会ってみたいな、神。そして文句の一つでも言ってやりたいな、神」


「そこは呼び捨てじゃなくて神様って言いましょうよ……」


 そんな得体の知れない"神"という存在について語り合った末。

 気が付けば日も傾き、アカツキも仕事があるとのことで、今日の所は解散としたのであった。

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