御前にて
「以上が、今回の任務の報告となります」
「……そうか、大義であった」
謁見の間、王座の御前。
俺とクロセル、そしてアカツキとゲーテの四人は並んで立っていた。
今は丁度、アカツキが今回の任務の報告を終えた所。
俺のような素人が下手に口出すより、こういうのは慣れた人間に任せた方が良い物だろう。
それは他の皆も承知のようで、先程から喋っているのは王とアカツキだけである。
「決して少なくはない犠牲はありましたが、結果として魔杖の奪還には成功しました、今後は予定通り魔杖とその主人を王城で監視、保護しつつ一月先に起こるであろう魔王の復活に対策を練ることを進言致します」
「ゲーテ・フォルモントは大任ご苦労であった、貴殿には後日然るべき褒美を与えよう」
「有り難き幸せで御座います、陛下」
「魔杖クロセルとその主人、ヤマトに関してだが……二人には各自部屋を用意し、王城に住まわせる事を許可する」
「すまん、陛下。今回も少し提案があるんだが、発言の許可を貰えるか?」
「ははは、余を相手に随分と砕けた態度で出て来たな、だが貴殿の活躍もアカツキの言葉で確かに聞いておる。構わん、言ってみろ」
「一月先の魔王の復活、それの対処に俺とクロセルを使って欲しい」
「ほう、何故だ?貴殿に国を守る義理はないはずだが……正義感か?或いは褒美が目当てか?」
「単に俺自身が自分の平和な日常を守りたいだけだ、国を救うだとか世界を救うだとかは、おまけに過ぎない」
「我からもお願いしよう、これでも下手な魔術師よりはずっと戦力になるはずだ」
「ふむ、確かに魔杖クロセルは王国一の戦力として数えられる程の存在だ、その力に頼るのは悪くない相談だと言える」
「なら……!」
「そう急かずとも、魔杖とその主人が魔王復活の件に関与することなら許可しよう」
「助かる、俺も期待を裏切らない様に善処させて貰おう」
「勘違いするな、魔杖に期待はせど貴殿に期待はしていない、精々足を引っ張らないようにするんだな」
「……あぁ、そうだな、気を付ける」
なんとか此方の要望は通すことが出来た。
しかし、何故か王は俺に対して良い印象を持っていないらしい。
やはりディザビリティとは行かずとも、才能を持っていない人間というのは世間的にこういう扱いを受けるのが普通なのだろうか。
だとすれば何とも悔しい。次の機会で大きな成果を挙げて今度こそあの王を見返してやろう。
……最も、こう考えさせる為に敢えて挑発的な言葉を選んだのかもしれないが。
もしそうならば俺は完全に術中に嵌ったと言える。悔しい物は悔しいのだ。
「話は以上か?」
「あぁ、それと勇者に関してだが……どうも魔杖を敵視してるらしい、勘違いを解いてやって貰えるか、俺達としても別にあいつとはやり合いたくない」
だって面倒だもの、という言葉は飲み込む。
「そうだな……勇者ニコラスに関しては余に任せておけ、下手な気を起こすことが無いように良く言い聞かせておこう」
「助かる、それと無礼で悪かった、です。すいません」
「ははは!過ぎたことだ、もう良い、話が済んだのなら下がりたまえ」
「ヤマトさん、行きましょう」
「あぁ」
アカツキは王座に向かって一礼すると、そのままくるりと踵を返し、俺の耳元にそう囁きながら謁見の間を後にする。
それに続いてゲーテもその場を離れ、それに習うように俺とクロセルもその場から退出した。
「いやー……やっぱあの空気は苦手だな」
「ご主人はあんな奴相手にビビっておるのか?我の前では強気な癖に」
「お前には威厳って物が無いからな、少しはあの王を見習えよ」
「な……何故だ……何故あの王に威厳があって我には無いのだ……解せぬ……」
「まぁ……見た目があれだからどんなに頑張っても威張れない気もするが……」
と思わず小声で呟く。どうやら本人には聞こえていないようだ。助かった。
「そして、俺達は晴れて王城での暮らしを手に入れた訳だが」
「それでも、監視が無いと王都には出られないんだろう?息が詰まる生活が待っていそうだが……」
「監視と言っても私が同行するだけですから、そこまで気負わなくても良いと思いますよ」
「そう言えば引き続き俺達のお目付け役を任されたんだったな、王も人使いが荒いよな、傷は大丈夫なのか?」
「えぇ、クロセルさんの処置が良かったみたいで、もう殆ど回復しました」
今後のことを相談していると、横からアカツキが会話に入ってくる。
彼女のこれからの仕事は俺とクロセル二人分の監視だ。
最も、俺はクロセルから離れるつもりは無い為に、三人一緒が基本的な行動になるだろう。
「常に三人一緒……とは思った物の……クロセル、俺が邪魔だったらいつでも言ってくれて良いからな、女同士で話したいこともあるだろうし」
「アカツキ!?これはどういうことだ!?ご主人が優しいぞ……?何か悪い物でも食べたのか?」
「ヤマトさんは元から優しい方ですよ?ね?」
「うるさいぞ、それとアカツキ!俺は優しくなんか無いからな?」
「素直じゃないですねぇ」
「言われてみれば確かに……ご主人は元々優しい男だったな……」
「止めてくれよ……」
呆れて溜息を吐きながら、頭を抱える。
だがそんな苦悩も心地よい、これがいつもの俺達の調子だ。
「そんなことより……アカツキとご主人の距離が前より近付いてないか……?我が居ない間に一体何があったというのだ……」
「そう言えば、クロセルには言ってなかったな。どうやらアカツキは俺と同じ世界から来たらしい、その因縁があるのもあって色々と、な」
「はい、確かに同郷の人間相手だと話しやすいですからね」
「なるほど……そんな事があったのか」
「これも良い機会だ、アカツキの居た地球と俺の居た地球、それが本当に同じ物か確かめる為にも少し昔話でもしないか?」
「良いですね、私もヤマトさんがこの世界に来る前に何をしてたのか気になりますし」
「……あんま面白い話でも無いんだがな、まぁ言い出しっぺの俺が嫌がる訳にもいかないか」
どうせいつかは話すつもりだった話だ。
それが少し早まった所で別に不都合は無いだろう。
「それじゃあ私の部屋でお話しましょうか、準備もあるので十五分後に私の部屋で、良いですね?」
「あぁ、分かった。それまでクロセル連れて適当に散歩してるよ」
「それでは、また後で」
そう言い残すと、アカツキはすたすたと俺達の前を去っていく。
「ご主人の昔話か、我も実に気になるな」
「本当に面白い話じゃないんだって……寧ろ聞いてて嫌になるかもしれんぞ?」
「そうだとしても、我はありのままのご主人を受け入れるぞ、それに我の過去も余り褒められた物では無いのでな」
「そう言えばそうだな、気付かなかったが、俺達は似た者同士って訳だ」
「そうだぞ、ははは、今更気付いたのだな」
そんな風にクロセルと雑談をして、俺達は時間を潰した。
そして時刻は十五分後。俺とクロセルにアカツキを混じえた俺達三人は約束通り、アカツキの部屋で集まることとなった。




