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帰還

 クロセルの転移魔法を用いて、俺達は無事に王都に辿り着く。

 驚いたことに。転移先として出た場所はアカツキの執務室だった。

 不思議に思った俺は意を決してクロセルにこう尋ねる。


「んで……何でお前が王都の、しかもアカツキの執務室の場所を知ってたんだ?」


「あぁ……それはだな、我を助ける経緯で一体どんな事があったのか気になって……彼女の記憶を見せてもらったのだ」


「覗き見た、の間違いじゃないのか?」


「いや、確かにそうだな……反省している」


「後で謝っとけよ、勝手に頭の中身見られるなんて良い気はしないだろ」


 破茶滅茶な理屈だが、取り敢えずは納得した。

 それにしても他人の記憶すら見れるとか魔術とはつくづく万能な物だ。

 そう言えば、ステラの魔法薬も魔術に負けず劣らずの万能っぷりを発揮していた。

 彼の才能指数はどれくらいなのだろうか……最低でも5はありそうだ。


「取り敢えず俺はアカツキを医務室まで連れてく、ゲーテは適当な家臣を見付けて帰還の報告をしておいてくれ、ついでに勇者の処理も任せた」


「チッ……面倒な役を押し付けやがって」


 渋々と言った様子だが、任された以上ちゃんと仕事はやってくれるらしい。

 ゲーテのそういう律儀な所は嫌いじゃない。

 俺は両手でアカツキを抱き抱えると、そのまま医務室へと向かう。

 王城の内部構造は大凡把握している、迷うことはないだろう。大丈夫な筈だ。


「……ご主人」


「なんだよ」


「なんでもない……」


「は?意味が分からないんだが?」


 突然クロセルが不機嫌そうに俺の腰を指先で突いたかと思えば、俺が反応すると何事もなかったかのようにそっぽを向く。一体何がしたいんだこいつは。


「よし……此処だな、邪魔するぞ」


 暫く歩けば、目当ての医務室に辿り着く。

 中に入ると、医者らしき人物が駆け寄ってきて、俺にあれこれを聞いてきた。

 俺はその手の話題に詳しくない上に、そもそも今のアカツキの容態など一切分かっていない為、クロセルに説明は任せる。


「では容態が安定するまで此方で治療を行います、お勤めご苦労様でした」


「あぁ……任せたぞ」


 アカツキの身柄を医務室の医者に引き渡すと、居心地の悪い医務室をそそくさと後にした。

 さて、これで後はアカツキの目が覚め次第、国王との謁見になるだろう。

 それまで手持ち無沙汰となった、クロセルが居るから暇はしなそうだが、どうしたものか。


「ヤマト!?」


 そんな時、聞き覚えのある声が耳に入る。あぁ、そういえばこんな奴も居たな。

 声のする方に振り返り、飛び込んできた少女を抱き留める。


「ん、ただいまだな、ティア」


「ご主人……我が囚われてる間に隠し子を!?」


「馬鹿、んな訳ねぇだろ、こいつは国王陛下の娘さんだよ」


「つまり王女様という訳だな?」


「そういうことだ」


「ヤマト、この人は誰?」


「こいつか?うーん……何と言った物か……まぁ、取り敢えず俺の女だ」


「ご主人!?わ……我はそんな関係になったつもりは……まだ無いのだが」


「何を狼狽えてるんだよ……俺の所有物とか言ったら教育に悪いだろ、これでもオブラートに包んだんだ」


「だからと言ってもう少し言い方って物がだな!?」


「うるさいなぁ……んで、ティアの方は大事無かったか?」


「父上にまたお部屋に閉じ込められちゃって、此処暫くは退屈だったわ」


「つまり今は現在進行系で抜け出し中って訳か……」


「そういうことになるわね、凄いでしょ!」


「全く……うるさい奴が二人も居ると暇しないな」


「誰がうるさい奴だと言うのだ!我は静謐な淑女であるぞ」


「何処がだよ」


 こんな他愛の無い会話を交わしていると、俺の日常が戻ってきたと実感する。

 クロセルとティア、本人達が知らぬ間に大きな因縁が出来ていた二人だが、この様子だと仲良くやれそうだ。


「ったく……二人共くっつくな、子供同士で遊んでろよ」


「我を子供と侮辱したな!?こう見えても700年以上……」


「肉体も精神も年季の入った割に成長してないんだから大人しく認めろよ」


「ヤマトの女さんもわたしと遊んでくれるの!?」


「その呼び方は辞めてくれ……色々と気まずい」


「ふふっ、元はと言えばご主人が言い出したんだから諦めるのだな」


「確かにそうだな……んじゃクロセル、ティアの相手は任せたぞ」


「子供の相手は苦手なのだがな……命令であれば仕方ない」


「じゃあヤマトの女さん、鬼ごっこしましょ!ヤマトの女さんが鬼ね!」


「ふはは!我が鬼か、良いだろう!この魔杖クロセルが悪鬼の如く貴様を追い詰めてやる!覚悟するのだな!」


「きゃー!」


「ノリノリで楽しんでるじゃねぇか……」


 何処と無く既視感を覚えたが、気の所為だと思いたい。

 そのままクロセルとティアが遊ぶ様子を眺めながら、俺は今この瞬間の平穏と日常を噛み締める。


「猶予は一ヶ月か……長いようで短いな」


 この平和な日々も一ヶ月で幕を引くことになると思うと、何とも言えない気持ちになる。

 悲観的になっても仕方ない、魔王が復活するならば、魔王を倒せば良いのだ。

 やることは実にシンプルだが、それは途方も無い難易度の偉業である。俺のような一般人が出来るような事ではない。


「でも祝福の勇者があれだもんなぁ……」


 この時代に勇者が他に何人居るのか分からないが、その筆頭であり代表である祝福の勇者があの様子では……人類の勝利は望み薄である。

 そもそも魔王が何処で目覚めるのか、魔王とは一体何なのか。俺には分からないことが多すぎる。

 機会があったらクロセルに聞く他無さそうだ。魔王に関しては同じ魔王であるあいつが一番詳しいだろう。


「ま、クロセルみたいな優しい魔王が目覚めるんだとすれば……案ずる必要も無いんだけどな」


 クロセルの所業と言えば、所詮は小悪魔。少なくとも現時点では、彼女は本質的な悪逆には手を染めていない。

 今回目覚めるという魔王も、そんな魔王であれば良いのだが……なんて希望的観測をする。

 猶予は残り一ヶ月だが、逆に言えばまだ一ヶ月もある。

 その間に情報を集め、来るべき魔王の復活に備えるのが、今の俺達に出来る最善策だろう。


 その日は結局アカツキの目が覚める事はなく、俺とクロセルはアカツキの部屋を借りて眠りに就くのであった。

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