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救出

「っ、俺は……確か……」


「目が覚めたか、ご主人」


 塔の外壁に背を預けたまま、俺は荒野で目を醒ます。

 間違いない。確かにクロセルの声が聞こえる。先程のあれは夢ではなかったようだ。


「本当に無事で良かった……他の皆は?」


「直ぐに回復魔術で応急処置は施した、やれることのことはやったのだが……」


 重たい頭を持ち上げ、ぐるりと周囲を見渡す。

 俺と同じような姿勢で壁に背を預けるゲーテ、そして横になって眠っているアカツキの姿が目に入る。

 ついでに、鎖でぐるぐる巻きにされた勇者も居た。良く見ると本当に背中の傷が塞がっている、祝福の力とは恐ろしい物だ。

 ところで、他の二人はどうしたのだろう、


「チッ……あの勇者だけは絶対許さねぇ」


「ゲーテは無事だったか、アシュバルはどうした?」


「あ?あぁ、そうだな……あいつは、勇者とやりあった時に階段から落ちて、そのまま真っ逆様だ」


「上層で倒れていた魔術師も致命傷だった、我が着いた時にはもう……」


「……そうか」


 薄々覚悟はしていたことだ。

 無念ではある。だがそれまでだ。


「兎も角、二人が無事で良かった」


「同感だ、何も全滅って訳じゃない、目的も無事に達成できて、此処は喜ぶべきだろ」


「そうだな、アカツキは大丈夫なのか?」


「失血で暫く意識は戻らないだろうが魔術で傷は塞いだ、暫くすれば目も覚めるはずだな」


「そうか、良くやった」


「その杖には俺も世話になった、礼を言う、ありがとな」


「ふふふ……褒められると悪い気はしないな!此方こそわざわざ我を助けに来てくれてありがとう、本当に感謝しているぞ」


「本気でお前を想って助けに来たのはヤマトとアカツキだけだ、他は王命だから従う他無かっただけで、そもそも乗り気じゃなかった」


「そうなのか?俺の目ではゲーテも本気でクロセルを助けようとしてくれていたように見えたが」


「だとしたらお前の目は節穴だ、もっと俺を良く見るんだな

 ……いややっぱ今の無しだ……おい!良いからじっとこっちを見るな、おいったら!ったく……」


 言われた通りじっと見詰めてみれば、何故か慌てた様子で俺から目を逸らす。こいつのこれは照れ隠しだろう。

 こう見えて、意外とからかい甲斐のある奴なのかもしれない。


「そう言えば……勇者は見ての通りだが、皇帝はどうなった?」


「我が軽く探してみたが、遺体は見付からなかったな、魔物に食われたのかもしれない」


「そうだとすれば……中々に酷い最期だな……してやったりだぜ」


「魔杖の奪還という大義名分があれど、帝国のトップを殺して大丈夫だったのか?」


「さぁ……向こうからすれば大変なことなのかもしれないが、王国側の俺達が知ったことじゃないな」


「ははっ、無責任なこった」


 そんな他愛の無い事を話しながら、俺は徐に立ち上がる。

 少し試してみたいことがあった。辺りをきょろきょろと見渡し、目当ての物が無いか探す。


「お、あった。さて……どうなるかな」


 目当ての物とは、大英雄キュリオスの聖剣、今は勇者ニコラスの剣であるエックストラカリバーである。

 見た目こそゴテゴテとした装飾で作者のセンスを疑うような代物だが、その実態は皇帝の魔剣と渡り合える強力な武器である。

 それを、手に取ろうと手を伸ばした、此処で俺の予想が正しければ……


「バチン!」


 剣の柄に指先が触れた瞬間、俺の手が謎の力で弾き飛ばされる。

 大凡予想通りだ。やはり、俺は二度と剣が持てない体になったらしい。

 此処でふと一つの仮説が思い付く。

 仮に俺の使った才能がディザビリティになるのだとすると……


「俺のディザビリティである『傷害』の才能は、ディザビリティとなる以前に一度使っている?」


 そんな筈はない。俺にそんな記憶はない。

 これに関しては、例外的に最初からディザビリティだったと考えた方が自然かもしれない。


「それにしても……今思い出しても不思議な話だな、持ってない才能を使えるなんて」


 もしこれが万人に使える権能なのだとすれば、今頃世界はディザビリティの所持者で溢れている筈である。

 ディザビリティは非常に稀有な存在だ。故にこれは俺だけの力だと考えるべきだろう。

 そして、次に疑問となるのがどうして俺がそんな力を持っているのか。

 才能を目覚めさせる時の感覚は思い出せるが、何時からそんな力を持っていたというのだろう。気が付かなかっただけで最初から持っていたのかもしれない。

 今まで一度も神などに祈った覚えはないが、こればっかりは才能の仕組みを作った神の仕業だと考えるのが一番しっくりくる。


「何がしたいんだよ……神様って奴は」


 呆れたような声色で呟く。

 俺の力に一体どんな思惑があるのかと深読みこそする物の、案外理由も何も無いのかもしれない。

 そう思えば、考えるのも馬鹿らしくなる。仮にそうだとすれば、随分と適当な神様も居た物だ。


「ま、俺の元居た世界の神様も似たような物か……」


 神出鬼没で対象を問わず、意味不明な奇跡を起こしたり起こさなかったりする。神なんてそんな物なんだろう。


「ご主人、それは……」


「あ?これか?見ての通り、ディザビリティの確認だな。まぁ剣を持てないだけで生活には支障は無さそうだ、再起動の方はそもそもどんな才能なのか良く分からないから調べようがないんだけどな」


「ご主人は一体何者なのか、なんて考えてしまったが……ご主人はご主人だな、何も変わり無さそうで良かった」


「お前も何事も無さそうで良かった、心配したんだからな」


「ほほう?珍しくご主人が素直じゃないか、一体何のつもりだ?」


「別に裏も何も無いわ、純粋にお前が無事で良かったと思ってる、悪いか?」


 そう吐き捨てながら、クロセルの手を取り軽く引くと、そのまま抱き留める。

 驚いた様子で目を丸くするクロセルの瞳を見つめ、強く両手で抱き締めながら言葉を続けた。


「もう何処にもお前を行かせはしない、俺が死ぬまで、俺の側に居ろ、命令だ」


「あわわ……ご主人、流石に積極的過ぎるというか……えっと、返す言葉に困るというか……」


「一体何を慌ててるんだ、俺が求めてるのは命令に対する肯定だけだぞ」


「えっあっ……そうだよね、肯定!肯定します!私もご主人に一生付いていきます!」


「キャラ崩壊してるぞ……ったく、調子狂うな」


 どん、と突き放すと、呆れた様子で大きな溜息を一つ吐き、目を逸らしながら頭を掻く。

 冷静に考えてみれば確かに中々に恥ずかしい台詞を言っていた。

 良くもまぁあれを真顔で言えた物だ。無自覚な自分が恐ろしい。


「んまぁ、たまには良いだろ。困惑してるクロセルも可愛かったしな」


「ご主人!?そういうとこだぞ!?そういうとこなんだぞ!?」


 何故か焦って抗議している、正直に物を言うといつもこうだ。何とも解せない。

 その時、ふと唐突に。遥か遠くからゆっくりと地響きが近付いてくる。

 地震のようだ。立っているのが難しい、そこそこの震度だろう。


「っ……何だこの揺れは」


「……まさか!?」


「どうしたクロセル」


「ご主人!急いで塔を登るぞ」


「まさか儀式が終了したのか!?」


「あぁ、今が丁度最終工程って所だろう。魔力さえ供給すれば儀式は完了する状態だった!皇帝の最後の抵抗か、或いは第三者の干渉があったと考えられる」


「ところで儀式ってのは何の儀式なんだ?」


「魔王の封印解除だ!儀式が終了すれば56代目魔王グレモリーが目覚める!」


「それって相当やばいんじゃないか……?魔王ってことはお前と同レベルの奴が人類の敵として君臨するんだろ?」


「魔王は世代を重ねるごとに力を増していく、56代目は49代目の我なんかよりずっと危険な存在だ」


「皇帝の魔剣が55代目の物だったか、基本的には新しい方が強いんだったな」


「そうだ、まだ間に合う!起動してしまった以上、もはや儀式の停止は出来ないが、魔力を引き抜いて時間を稼ぐことなら出来る!」


「良く分からないが何か出来るなら任せた!」


「あぁ、我に任せておけ!魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

 ロ・スォーム・アラネル・ティロ!

 属性魔術……上昇暴流(アッパートルネード)!」


 短い詠唱と共に、クロセルの足元で空気が渦を巻いたかと思えば、突如上向きの突風が吹き上がり、彼女の身体は真っ直ぐ上へと吹き飛んでいく。

 相変わらず派手で豪快な魔法を使うのだな、としみじみ思いつつ。


「……終わったか?」


 それから数十秒と経たずに、続いていた地響き、揺れが収まる。

 クロセルがなんとかしてくれたのだろう。相も変わらず彼女には頭が上がらない。


魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

 ル・ウォース・レウラン・ティロ

 属性魔術……緩衝水球(ウォータークッション)

 ……っと」


「お疲れ様、クロセル」


 それから直ぐに、空からクロセルが降ってくる。

 クッション代わりに再び水の球体が現れ、彼女の身体を受け止める。


「儀式の魔法が効果を発揮するまで暫く猶予は出来た、だが時間の問題だな……いずれは魔王の封印が解ける」


「どちらにしろまずい状況に変わりはないって訳か……猶予はどれくらいだ」


「長く見積もっても一ヶ月程度だな」


「そうか……取り敢えず王都に戻ろう、一先ずは事の顛末を報告しなければな」


「分かった、ところで……こいつはどうするのだ?」


 クロセルが勇者を指差す。

 勇者はクロセルの魔術で生み出した鎖で縛られたまま、乱雑に転がされている。

 こいつのしたことを考えれば、生かしておくのも許せないが、殺せないとなると話は別。

 この手の厄介な相手は、厄介だからこそ中立的な立場に持っていきたい所だ。


「王都に連れて帰るか……こいつも国王の御前じゃ下手な真似は出来ないだろ」


「それじゃあ早速転移するとするか、全員あの女性の近くに集まってくれ」


「了解した、ほらゲーテ!行くぞ!」


「あぁ……分かった」


 勇者を引き摺ってアカツキの近くに連れて行く。

 これで俺、クロセル、ゲーテ、アカツキ、勇者ニコラスの五人が一堂に会した。

 全員が集まったのを確認すると、クロセルが詠唱を開始する。


「ではゆくぞ?魔術回路構築(クリエイト)……詠唱……

 ル・トゥーム・アウナデム・ティロワール

 空間魔術……空間接続(ゲート)!」


 そう言えばタルフの村から王都に移動する際も、クロセルの魔術を使えばこうはならなかったのでは無いだろうか。

 いや、もしかしたらクロセルが誘拐される前は王都の場所を知らなかったのかもしれない。

 なら何故今は知っているんだ?という疑問が浮かぶが、ええい。どう考えても今更だ。この事は忘れよう。

 何度目か分からない転移魔術。強い光に備えて目を閉じる。

 魔術は発動し、俺達の視界は真っ白に染まった。

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