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魔杖クロセル

「……俺の才能指数が0?」


「そうだ、お前は恐らく他の人間……いや生物を傷付けることの出来ない才能を持っている」


 冗談だろう、と両手を振りながら頭を垂らす。

 これが本当だとしたら、この異世界が例の"魔物"が蔓延っている世界だと仮定した場合、致命的な才能だ。

 二度捨てた命と言えど、未だ生きている奇跡。それを受け入れ足掻くことは決めたが、これほどまでに致命的な才能を持ち、無事に生きられるのだろうか。


「心配するな、貴様は実に運が良い」


 魔杖が少し誇らしげな声色でそう告げたかと思えば、強い力で引っ張られるかのように手から杖が引き剥がされる。

 そして、杖が宙に浮かび禍々しい気配が更に強まっていく。


「我は最強の杖だ、主人である貴様が振るうまでもない」


 怪しい紫色の光で視界が真っ白になったかと思うと、目の前から魔杖は消え失せていた。

 その代わりに……


「我は契約に従い、貴様の剣となりその生命を守ろう」


 眼の前には人形のような可愛らしい少女が傅いていた。

 透き通るような白髪にゴシックなドレスを身を纏い、魔性を秘めた赤い瞳で見上げる様子は何処か背徳的で、何かが疼くような感覚が全身に走る。

 気が付けば俺は、蛇に睨まれたかのように動けなくなっていた。


「綺麗だな」


 思わず再びそんな台詞を口にする。

 間違いなく見惚れていた、俺は前の人生でこれほど綺麗な女を見たことがない。


「ふふっ……褒めても何も出ないぞ。

 ところで、貴様の名はなんだ?ずっと貴様だと不便だろう」


「そう言えばだが、主人に対して貴様を連呼するのはどうなんだ?」


「うっ……それもそうだな、なら主人とでも呼べば良いか?」


「いや……ご主人と呼べ、それと俺の名前はヤマトだ」


 思わずニヤリと意地悪い笑みを浮かべながら、クロセルにそう命令する。

 加虐的な一面は相変わらず。自分より弱い立場の人間には大きな態度を崩さない。

 今までそう生きてきた分、変えろと言われてもそう簡単にはいかないし、変えるつもりも更々無いのだが。


「くっ……きさっ……ご主人、さては鬼畜だな?」


「かもな。それで、クロセルの言ってた"契約"ってのはなんだ?突然代償として命を取って来たりしないよな?」


 これだけ優秀……な杖を"契約"という形で使うのは些か不安が残る。

 もしクロセルが答えなければ契約を破棄することも考えるべきだろう。


「あぁ、その心配は無い。我の契約は我の解放の対価として与えられる物だ、我を解放した者は我の力を自由に使う権利を得る。そしてこの契約は契約者が死ぬまで継続する。」


「随分と良い条件だな、その契約内容はお前が決めたのか?」


「もちろん、我自らが考えた条件だ。封印されていた700年に比べれば寿命100年足らずの人間に寄り添う程度、造作もない」


 赤い瞳を見つめる。俺の経験と直感からするに、嘘は付いていないように思える。

 となると……こいつは俺の協力者で間違いない。

 自ら最強の杖と名乗るほどだ、こいつが俺に力を貸してくれる限りはだいぶ保身が効くことだろう。


「常にその姿で良い、俺は杖は使えないし、何より目の保養になる」


「うぐっ……そう言われると無性に杖の姿で居たくなるのだが……」


「照れるな杖の分際で」


「ご主人、自分の方が偉いと分かった途端急に冷たくなったな…?」


「これが素だ、慣れろ」


 そんな会話を交わしつつ、次に気になっていた螺旋階段の方へと目を向ける。

 ドームの天井は高く、跳んで再び水中へと戻るのは現実的ではない。

 となると……道は一つしか無い、か。


「そう言えばクロセルはこの施設に封印されてたんだよな。ならこの施設の構造を知ってたりは……」


「しないな。我は封印されてから此処に持ち込まれた。この先がどうなってるかまでは分からない」


 クロセルも知らないとなると、このまま先に進んで地上に出れるかは運次第になるが……此処で留まって餓死するよりはマシだろう。

 徐に螺旋階段へと近付いていき、躊躇うこと無く降り始める。

 クロセルの封印後に持ち込まれた場所ということは、この封印を守る為に罠の類があってもおかしくはない。足元には気を付けつつ先に進む。


「暗いな……これは、洞窟か?」


「ふむ……魔物の気配もするな、ご主人は戦えないのだろう?ふふっ……いざとなったら我を頼るが良い」


「気配が分かるなら話が早い、出来る限り魔物を避けて進めるか?」


「折角我が力を見せてやろうと思ったのに……ご主人は空気が読めないな」


「戦わずに済むならそれに越したことはない。それに神もそれを望んだんだろうしな」


「神が望んだ……?」


「あぁ、俺は一度死んで生まれ変わってるんだ。だから俺のディザビリティは神の与えた罰であり、この生命はチャンスだ。神には与えてもらった恩があるからな、間接的と言えど他の何かを傷付けることは控えるつもりだ」


「魔物は人類悪だというのに……中々変わり者だな」


「生憎、この世界の住人じゃないんでね」


 そのまま暗い洞窟を手探りで進んでいく。

 何処からか聞こえる魔物の生きた音、眼前に広がる暗闇に本能的な恐怖を覚える。

 今までに起きた不運と幸運の連続を思い出せば、これから何か悪いことが起きてもおかしくはない。


「ご主人、怖いなら手を繋いでやろうか」


「ったく……心を読むな、エスパーか」


「似たような物だな、我は人の仕草や言動で感情や思考を読み取れるのだ」


「迷惑な力だな」


 片手に柔らかい感覚。怖がっているのを知られたのが些か不本意だが、手を繋ぐ事自体は嫌ではない。

 寧ろこんな美少女と手を繋ぐチャンスが人生に何度あるだろうか。


「うっ……不健全なこと考えてる……」


「だから心を読むな……分かってても口に出すな、命令だ、良いな?」


「ふふっ分かっておる、我は賢いでな」


 時々キャラが崩れるような様子が見える辺り、彼女のこれも虚勢なのだろう。

 素のままで振る舞っても可愛らしいと言うのに、無駄なことをしている。

 欲しいのは威厳なのか……?だとすればあの口調は逆効果だと思うが……


「っ……!」


 暗闇で表情が伺えないが、怒っているのか照れているのか、残念ながら俺に確認する術はない。


 やがて、真っ暗な視界に一筋の光が差し込む。

 クロセルの誘導のおかげか、魔物に出会うこともなかった。

 この魔杖は思っていたより優秀なようだ。


「出口みたいだな……さて、何処に出るか」


 最後の最後で上り坂になった洞窟を進み、あと少しで外に出られると言った所。


「止まれ!大人しく武器を捨て投降しろ!さもなければ撃つ!」


 首筋を矢が掠めていき、俺の後方の壁に突き刺さる。それと同時に、何者からか警告が発せられた。

 逆光になっていて上手く見えないが……どうやら出口は数人の武装した人間によって囲まれているようだ。


「不味いな……取り敢えず抵抗の意志はない、ほら……クロセルも見習って」


「ご主人、この程度の雑魚なら我1人で片付けられるが……」


「無駄な血を流すのは好きじゃない、それに相手も一発目で威嚇射撃してきたってことは交渉の余地があるってことだ。大人しく投降してくれ」


「そうか、ご主人の命であれば仰せのままに」


 俺達二人は両手を上げ、ゆっくりと地面に膝を付く。もし殺されたならそれまでだ。

 誠実な態度で接すれば、決して悪いことにはならない……と信じたい。

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