表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/133

皇帝エルク

「はぁ、手間を掛けさせられた」


「おや、これはこれは……勇者のご登場とは、これも君達の計らいかな?」


アカツキとリツが倒れた今。俺は茫然自失とした様子で、皇帝に虚ろな視線を向けながら、棒立ちになっていた。

はっと気が付けば、勇者が到着したようだ。この様子ではゲーテとアシュバルもやられたと見て良いだろう。

勇者は俺の方を一瞬見るが、直ぐに皇帝へと視線を移す。あの勇者……馬鹿のように見えて、最低限の優先順位は弁えているようだ。


「おい!お前!その魔杖を使って何か悪いことをするつもりだろう!この勇者ニコラスが貴様を成敗してくれる!」


「おぉ、怖い怖い、祝福の勇者様が相手となると……僕も油断は出来ないなぁ……」


「うるさい!みんな揃って僕を舐めやがって……僕は選ばれし勇者なんだぞ!」


皇帝の毅然とした態度に、勇者は怒りを顕にする。

その手には聖剣を握り、勇敢にも皇帝へと立ち向かって行った。

先程までは脅威的な敵であったが、今となっては彼すらも頼もしく見える。彼があのまま皇帝を仕留めてくれれば……


「大英雄キュリオスの聖剣か、確かに強力だが……」


「なに……!?くそっ、唸れ聖剣!」


「あはは……残念だけど、君の聖剣は大英雄キュリオスの時代、ざっと700年も前の代物だ。それに対して僕の獲物は180年前、55代魔王オロバスが振るったとされる魔剣だ」


皇帝は、片手に携えた赤い長剣で勇者の剣戟を軽々と受け止めると、そのまま飄々とした顔色でそれを弾き返す。

自分の武器に相当の自信があったのだろう、まさか安々と攻撃を弾かれるとは思いもしなかったようで、勇者は困惑している様子だ。


「馬鹿な……この聖剣、黒金貨1枚もしたんだぞ!?」


「無駄だ、根本的に世代が違う」


勇者が全力で剣を振るい、皇帝へと迫るが、皇帝はそれを片手で容易に防ぎ続ける。

傍から見れば防戦一方に見えなくもないが、全力で攻勢を掛ける勇者に対し、皇帝の顔色には余裕の色が見える。


……祝福を受けた唯一無二の勇者でさえ、あの男には届かないというのか。


「くっ、僕の攻撃が通用しないなんて有り得ない!あってなるものか!」


「そろそろ幕引きと行こうか、生憎……僕も暇では無いのでね」


そう皇帝が呟いたかと思えば、俺の視界から皇帝の姿が消える。

否、消えたように見えただけだ。俺の動体視力を大幅に上回る動きで、皇帝は勇者の背後へと回ると……そのまま剣を振り、勇者の背に深々と突き刺した。


「ぐっうぁぁ……あああああああ!?」


「実力の伴わない不死とは、何とも辛そうだ」


勇者は剣を落とし、そのまま血を吐きながら倒れる。

どう見ても致命傷だが、祝福がある為、あれでも死んではいないのだろう。

皇帝は勇者の背から剣を引き抜くと……それを軽く振って返り血を払い、腰の鞘に仕舞った。


「これで今度こそ邪魔者は居なくなったね、儀式を続けるとしようか」


「おい、待てよ」


「待たないよ、嫌なら止めてみるんだね」


「チッ……待てって言ってるだろ!!!」


居ても立っても居られなくなって、俺は駆け出した。

皇帝に近付き、怒りに任せて拳を叩き付ける。


「おや、残念」


殴った時のエネルギーが一切の減衰もなく逆流し、俺の身体は皇帝から弾き飛ばされる。

その様子を、皇帝はニヤリと口角を上げ、挑発的な口調で俺を貶しながら観察する。

俺はそれでも、懲りずに立ち上がり……皇帝へと拳を叩き付けた。

再び反動が全身に来る。それを踏ん張り耐えながら、次の拳を叩き込む。

無駄だと分かっていても、そうする他に無かった。


「僕の邪魔はしないようにね」


「くそっ……お前だけは絶対に許さねぇ……」


「君も懲りないね、傷害のディザビリティを持つ君に、何が出来ると言うんだい?」


「クロセルを……返しやがれ!」


俺は皇帝に掴み掛かった。

皇帝の持つ魔杖を握り、強引に奪い取ろうとする。

だが、勿論そう簡単に杖を離すことなど無く、面倒だとでも言いたげに溜息を一つ。

杖を振り、俺の手を払うと、邪魔だとばかりに俺の腹を蹴り飛ばした。


「ごほっ……くそっ……」


「儀式は八割方終了した、後は魔力を注ぐだけだ。さぁ出番だ、魔杖クロセル」


皇帝は片手に杖を持ったまま、剣を抜き……それを倒れた俺の首元に突き付ける。


「君が目覚めているのは先程から魔力の供給が止まっている時点で既に気付いている。彼を殺されたくなければ大人しく魔力を解放するんだ、そうすれば彼等の非礼は不問とし、君自身も解放してやろう」


「……ふざけるな」


「お喋りが過ぎるよ、ヤマト君、死にたいのかい?」


怒りが全身を支配する。

こんな奴の言いなりになんてなるものか。

俺は……絶対にこいつを止めてやる。


"才能『再起動10』を強制解放しました

エラー……才能データが破損しました"


聞き慣れない、変な音声らしき物が俺の脳内に流れる。

同時に、俺の身体に変化が起きた。今なら……視える。


「ふざけるな!貴様なんかが、俺のクロセルに……命令をするんじゃない!」


「なんだと……!?」


身を竦めて喉元の剣に気を付けながら、素早く横転すると、そのまま地面に突き刺さった聖剣を抜く。

その一連の動きが、まるで俺の身体にプログラムされてるかのように、完璧に実現した。

これが……才能か。


「まさか無才のお前にそんな動きが出来たとはな……驚いたが、それまでだ」


「それはどうかな……」


一度出来たのなら二度出来ない道理はない。


"才能『剣術10』を強制解放しました

エラー……才能データが破損しました"


脳内で音声が流れる。剣が驚くほどに手に馴染み、その使い方を脳が理解させられる。

一体どういう道理か知らないが、今の俺は望んだ才能を任意に習得できる状態にあるようだ。

何時までこの奇跡が続くか分からない。ならば、刹那の力であろうとこの奇跡を利用する他ないだろう。


剣を構え、皇帝に斬り掛かっていく。皇帝も剣を構え、打ち合いが始まる。


上段からの振り下ろし、横薙ぎ、袈裟懸け、逆袈裟、突き……と見せかけての胴打ち。


今なら彼の動きが完全に読める。この剣の打ち合いで、負ける未来が俺には見えない。


「っ……剣術7の僕が……押されている!?」


ドクン……と心臓が跳ねる。同時に締め付けるような激痛。

やはり都合の良い話はないようだ。この力にも、恐らく何らかの代償がある。


"エラー……エラー……エラー……"


「っうるせぇ!奇跡は黙って俺に力を貸してろ!」


「ヤマト君、君は一体……何者だと言うんだ!?」


「俺は……俺だ!それ以外にあるかよ!」


怒号と共に聖剣を切り上げる。そして遂に、皇帝の持つ魔剣をその手から弾き飛ばす事に成功する。


「くっ……こんな筈では……何処に、何処に間違いがあった!?」


気が付けば、俺は皇帝をかなり後退させていたらしい。

展望台のようになっている塔の最上層部。この場所には手すりの類は存在しない。

故に、このまま皇帝を突き飛ばせば、彼はビルの数十階近い高さのあるこの塔から転落することになる。

幸か不幸か、どうやら皇帝は自分の足場がそれほど危険な場所にあるとは気付いていないらしい。

時間は無い、次のチャンスも恐らく無い。俺は……覚悟を決めた。


「終わりだ、皇帝」


「っ……ヤマト!何をする気……だ……」


俺は皇帝を強く睨み付けながら、その胸元を引っ掴むと、そのままゆっくりと押し倒す。

無論、俺達に倒れ込む床など存在しない。縺れ合った俺達の身体は宙に放り出され、やがて重力に従って自由落下していった。

その時に、俺は二度目にして初の走馬灯を見た。

アランの民との邂逅、クロセルとの出会い。タルフの村での日常、王都での日常。ステラ、アカツキ、そして三人の仲間との思い出。

それは短い期間であったが、走馬灯として流れる程には、俺の記憶に強く刻まれた良い思い出だった。


「……ご主人!」


幻聴だろうか。風を切る音と共に、クロセルの声が聞こえる。

最後に声が聞けて良かった、そう思いながら……俺の身体は鈍い音と共に地面に叩き付けられた、のだろう。

何度めか分からない。全身が弾け飛ぶのではないかという衝撃。

痛みで思わず意識が飛びそうになるが、既の所でそれを堪える。

そして、俺はそのまま水底へとずぶりと沈んでいった。


「は?」


俺は何故水の中に居るのだろう。何故沈んでいるのだろう。そもそも何故生きているのだ。

塔の下は一面の荒野だった筈だ。水場など存在しない。

この状況に強い既視感を覚えつつ、俺は水底で手を伸ばす。

すると、その手が何かに掴まれ……ぐいっとそのまま手を引かれる。

促されるままに手の引く方向へと泳ぐと、やがて空気に手が触れる。

今直ぐに酸素が欲しい。その一心で、手の引く方向へ、俺は水から顔を出した。


「ごほっ……おえっ……」


「全く……ご主人は相変わらず無茶をするのだな」


「クロ……セル?」


目を開ければ、そこには呆れた様子で俺の手を握る、何度と無く見慣れたクロセルの姿があった。

慌てて水から上がり、ぺたぺたと触れて確かめる、夢でも幻覚でもない。ただ、半透明だが。

後ろを振り向けば、水の球体が宙に浮いていた。これがクッションになって俺は助かったらしい。


「封能薬で完全に消滅した"ふり"をしていて正解だった、こんな事もあろうかと思ってな」


「力を温存してたって訳か……その様子だといつもみたいな馬鹿らしい大魔法は使えないんだろ?」


「その通り、万が一があった時に一度だけ対処できる程度の余力を残すのが限界だった、我もかなり追い詰められてたのでな」


「んじゃこの水はお前の仕業か……全く、助かった」


「ふふっもっと褒めてくれても良いのだぞ?」


「それを言うなら俺のことも褒めてくれたって良いだろ?なんせあの皇帝と……っ!?」


クロセルと他愛無い会話をしている時のこと。再び心臓を握り潰されるかのような激痛が走り、脳内に謎の声が響く。


"致命的なエラーが発生した為……

破損箇所のある才能を破壊します『再起動0』"


"致命的なエラーが発生した為……

破損箇所のある才能を破壊します『剣術0』"


「っぐあああああああ!?」


胸と頭に焼けるような激痛が走る。余りの痛みに意識が吹き飛びそうになる。


「ご主人!?大丈夫か!?」


「ぅ……あぁ……大丈夫だ、それより俺の才能を……見てくれないか」


「……ご主人?これは……どういうことだ?」


「なんだ……何があったんだ……」


「ご主人の才能が増えておる……しかも『再起動0』『剣術0』と来た……

――両方とも、ディザビリティなのだ」


「なるほどな……そういうことか」


「一体どういうことだ?長く生きてきた我でもこんなケースは初めて見たぞ……」


「……どうやら俺は持っていない才能を使えるみたいだ、ただし使用した才能は二度と使えなくなる、これはそういうことだろう」


理屈は不明だが、事実として俺はそういう力を持っていた、或いは先程獲得したのだろう。

俺が望めばどんな才能でも使えるのだろうか。それは形容するならば、まるで奇跡の力だ。

この力はクロセルなんか比ではない。俺に不可能はない。

一度しか使えないという制限があれど、逆に言えば一度だけならどんな逆境でも覆せるだけの力を秘めている。


「そんなことより……アカツキ達を助けに行かないと」


「この姿でも回復魔法ぐらいなら使える、ご主人は休んでおれ」


「あぁ、分かった。助かる」


正直に言えば、クロセルのこの提案はかなり有難かった。

どうやら先程の力は消耗が激しいらしい、多用出来る代物では無い。

睡魔が酷い、今目を閉じれば、そのまま意識を失ってしまいそうだ。

皇帝は死んだ。もう恐れる者は居ない。

そう分かった途端に、全身から力が抜け、思わず気を抜いてしまう。


まずいと思った時にはもう遅い。俺の意識は瞬く間に闇の中へと沈んでいった。

やっとこさタグ回収です、今後とも宜しくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ