星屑
「これで……最後っ!と……」
ゲーテが槍の柄で一人の敵の頭部を殴り昏倒させ、アシュバルがこれまた一人の敵を投げ飛ばし、意識を失わせた所で、敵側は全滅。
こうして呆気無く戦闘は終了した。
「お疲れ様です、ゲーテさんアシュバルさん」
「これ以上、建物内から出てくる様子もないし打ち止めか」
「そのようですな」
「倒れてる方々を軽く調べてみましたが、帝国の人間では無さそうですね」
「あぁ、雇われの傭兵って所だろう。よくもまぁこんな数を集めたと感心はするが、所詮雑魚、俺達には及ばないな」
「……中に入ろう、ステラが居る筈だ」
俺がそう告げると、アカツキは少し考えるように腕を組み、やがて頷く。
その様子を見た面々は、死屍累々の人の間を縫いながら、風車小屋へと入っていく。
風車小屋の中は、大凡前に来た時と変わっていなかった。あの時と同じ、確かに地下に続く階段がある。
「この階段を降りて廊下を真っ直ぐ進めば行き止まりだ、そこにステラが居る筈」
「まだ敵が潜んでいるかもしれません、先行はアシュバルさんにお任せします」
「承知しましたぞ」
アシュバルを先頭に、ゲーテが最後尾に位置し、俺達を挟むような形で廊下を進んでいく。
警戒してはいた物の、罠や伏兵の類は現れること無く、無事に廊下の最奥に辿り着いた。
「おら!観念しやがれ、ステラ!」
ゲーテが俺達を掻き分けて前に出ると、ドアを蹴破って中へと入っていく。
それに続いて中に入れば、その部屋の全貌が目に入る。
質素な石造りの部屋には、ぽつんと机と椅子が一つずつ置かれていた。
机の方には直接魔法陣らしき紋様が描かれており、只の机では無いのだと分かる。
そしてその奥、壁の端で……俺達に背を向けたまま黙り込むステラの姿があった。
「……今度こそ言い残すことはあるか?」
「ゲーテ、待て……殺すにしても情報を引き出してからだ」
「そうだな、さっさと済ませてくれ」
「ステラさん幾つか質問を。貴方は帝国の人間で間違い無いですね?」
「……」
アカツキの問いに、ステラは何も答えない。俺も言葉を掛けようとするが……言葉が出てこない。
ステラが敵であるということが、今でも信じられないのだ。
何かの間違いか、脅されているだとか、嘘でもそんな理由が欲しかった。
しかし、ステラは嘘をついた。俺達の前で帝国への忠誠を誓い、関係は破綻した。
それは事実だ、目を背けてはいけない。そう自分を律する。
「はぁ……もう良いですよ、その通り、肯定します。ボクは帝国の人間で皇帝に仕える薬師でした」
「どうしてタルフの村で薬屋を?」
「皇帝の命で封能薬が必要になって、それを安定して作り届ける為にタルフの村で活動していたんです」
「……待て」
話を聞いていると、一つ違和感を覚える。
ステラが星屑屋として活動していたのは俺達がタルフの村を訪れる前からだ。つまり……
「本来、封能薬は何に使うつもりだったんだ……?」
「知ってたとしても言えませんし、ボクのような下っ端が知ってるような事でも無いです、ヤマトさんとクロさんが村で派手な動きをして、途中で計画が変更になったのは事実みたいですけどね」
「クロセルは本来封能薬を使うつもりだった"何か"の代わりとして選ばれた、そういうことだな」
「かもしれません。ボクには分かりません」
「……まさか」
アカツキは気付いたらしい。
恐らくそれが分かるのはこの場で俺とアカツキだけだろう。
「あぁ、そのまさかだろうな……結果としてはクロセルにターゲットが向いて良かったのかもしれない」
「とは言い切れませんが……」
「まぁ良い……過ぎた話だ」
「そうですね、では続きですが……ステラさん、貴方は帝国を裏切る気はありませんか?」
「おいアカツキ、今更そんな話をしても野暮なだけだろう」
「そうですかね?私は今でもあわよくばステラさんが此方に協力してくれないかと思っているのですが」
「残念ですが……そこの赤髪の男の人が言う通り、ボクの決心は揺らぎません、もう再生用の魔法薬もありませんから、ひと思いに殺して下さい」
「殺す必要は無い、王都に連れ帰って然るべき処罰を与える、それじゃ駄目なのか?」
「はい、そもそもステラさんは封能薬を作って帝国に流していただけのようですし、その行為に違法性はありません」
「勘違いしないでください、ボクはヤマトさんとクロセルさんに睡眠薬を盛りました、馬車を襲って二人を誘拐したのもボクです、罪人に変わりはありません」
「……正直なんですね」
「本当は嘘なんて好きじゃないんです、人を騙すのもあれほど胸が痛む事だとは思いませんでした。ボクは許されない事をしたんです、だから……ボクを殺して下さい」
「ステラ……」
「ごめんなさい、ヤマトさん……貴方には何度謝っても償い切れません、無事にクロさんを助けられるよう……祈ってます」
「お前の帝国への忠誠心は何処から来るんだ……お前が助かる道は無いのか!命が惜しいなら嘘でも俺達の味方になれよ!」
「命は惜しくない。忠誠心……と言えるほど崇高な物でも無いんですが、ボクが帝国に仕えるのは、他でもない皇帝に恩義があるから……ですかね、才能を腐らせていたボクを拾って此処まで力を、チャンスを与えてくれたのは他でもない帝国の皇帝です、だからボクは最期まで忠義を尽くします」
隠し切れない震えた声。虚勢を張っているのだろう。
ふと、言の葉を語りながらステラが振り返る。そして、俺に眩しい笑顔を向けてくる。
ステラは変わらない、変わってない。最初から最後まで、ステラという人間自身、存在に嘘や偽りはなかった。
「それと……これで封能薬のルートは断てますが、そうなるとクロさんに残された時間は余りありませんよ」
「そうだ、クロは何処に移されたんだ?答えてくれステラ!」
「そう焦らずとも答えますって……ボクが知る限り、彼女の身柄は魔王領の魔の塔に移される手筈です」
「魔王領ですか……かなり遠くまで移されましたね、移動だけで五日は掛かりますよ」
「その机の魔法陣に移送先の座標が記録されてます、貴女なら使えると思いますよ」
「……そんな事まで言って本当に良いんですか?」
「あはは……本当は黙って死ぬべきなんですけど……実はボクはこうも思ってるんです、皇帝を止めて欲しい……と」
「お前は皇帝に忠誠を誓ってる筈だろう、なのに皇帝を止めることを望むなど……矛盾してないか?」
「人間なんて矛盾だらけの生き物なんです、何時からか、皇帝は変わってしまった。だから彼自身を救う為に彼を止めて欲しい、それがボクの願いです」
「なるほど……分かりました」
「話は終わったか?」
ゲーテが槍を抜く。相変わらず気の早い男だ。
「待って下さい、ゲーテさん」
「なんだよ……まだ何かあるのか?」
アカツキは槍を構えたゲーテを静止し、自身の掌をステラの方向へと向ける。
そして耳馴染みのある詠唱を唱えたかと思えば、ステラの首元でバチンと空間が弾ける。
あと少しでも位置がズレていれば首が両断されていただろう。
「この時点で"逆賊ステラ"は死にました、良いですね?ですから私達は任務を続行します、転移しますよ皆さん私に掴まって下さい」
「おい!どういうことだ!こいつはまだ生きて――」
「いや、死んだ。ステラは死んだんだ、良いから黙って行くぞ、ゲーテ」
「チッ……意味が分からねぇ、待てよ!俺を置いてくな」
「全員私に掴まりましたね?離したら置いてけぼりですよ?」
アカツキは机の上の魔法陣に手を当て、そこに重ねるようにして俺達の手が置かれる。
アカツキの考える事は大凡察した。アカツキはステラを死んだ物として報告するつもりだろう。
これからどうするのか、後はステラ本人次第だ。
最も……この状況を一番驚いてるのはステラ自身なのだが。
「どういうことですか……?ボクには理解が出来ないです……」
「理解しなくていい、取り敢えずお前は死んだんだ、これ以上悪いことはせず大人しくしてろ、んじゃな」
「飛びます、魔術回路構築……詠唱……
ル・トゥーム・アウナデム・ティロワール
空間魔術……空間接続!」
アカツキが詠唱を終えると、あっという間に俺達は光に包まれる。
そして、そのまま揃ってその場から消え去った。
後に残されたのは、茫然自失としたステラ一人のみ。
これから先に彼がどう生きるかは、彼自身の物語だ。




