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疑惑

「おい、起きろ」


「ったく……なんだよ」


「着きましたよ、ヤマトさん」


「あぁ、そうか……そう言えばそうだったな」


 ゲーテとアカツキに叩き起こされ、促されるままに馬車から降りる。

 そこに広がっていたのは、俺に馴染みのあるタルフの村だ。あれから特に変わった点は見当たらない。


「それにしても……また此処に戻ってくることになるとはな」


「おやおや、ヤマトさんは此処の出身で?」


「いや、少しの間滞在していただけだ、そんな縁がある場所でもない」


 アシュバルの質問に、適当な返答を返す。

 むさ苦しい男の相手はしていてもつまらない。

 アシュバルの奴には悪いが苦手な物は苦手だ。


「んで……何で此処に来たんだったか?確かに俺達が捕まったのはタルフの村近くだと思うが」


「封能薬の素材が採れるのがタルフの村の近くなので、この村で必ず敵側の動きがある、と思ったからですね」


「なるほどな……薬ならあれだ、星屑屋に行ってみよう、彼なら何か知っているかもしれない」


「この村に関しては俺達よりあいつの方が良く知ってるようだな、アカツキ、どうする?」


「ヤマトさんの言う通りにしてみましょう、星屑屋と言えば私も聞いたことがあります、何でも王国でも五本の指に入る薬屋であるとか」


「では星屑屋とやらに行ってみましょう、何か手掛かりが掴めるやもしれませぬ」


 意見が一致した所で、ふと思い出したかのように俺は辺りを見渡した。

 先程まで馬車に一緒に乗っていた筈の、フードの少女は何処に行ったのだろう?

 何度確認しても、その姿は俺の目の届く範囲には見えない。先に個人で行動を起こしたのだろうか。


「なぁアカツキ、リツは何処に行ったんだ?」


「あぁ、彼女でしたら先にギルドの方に向かって貰ってます、彼女の本領は占い師の才能を利用した情報収集ですから」


「一人で行動するのは危険な気もするが……まぁ、アカツキの命令なら大丈夫か」


 腑に落ちないが、分析と直感の才能を持ったアカツキの言葉であれば信用出来る。

 過大評価かもしれないが、彼女を信じていれば失敗は無いとまで思えるほどだ。

 王やその重鎮達も今の俺と同じ感情を抱いていたのだろう。今思えば納得だ。


「んじゃ星屑屋とやらに行くか、案内しろ」


「あぁ、言われなくとも。着いてこい」


 ゲーテに命令され、不本意ながらも渋々言葉に従う。

 他人に命令口調で物を言われるのは気分が良い物では無い。俺も人のことは言えないが。


 それから暫く歩いて行き、見覚えのある古びた小屋を見付ける。

 俺はそれを指差しながら、アカツキに目で此処だ、と伝える。


「一見するとお店には見えないですが……此処が星屑屋ですか?」


「あぁ、俺もその意見には同意するよ、ま……取り敢えず中に入ってみろ、店主は寝てるか仕事してる筈だ」


 星屑屋の店主、ステラとは何かと縁があった。

 高額の採取依頼を何度も出してくれていたのもあって、文無しの俺が世話になった恩人でもある。


「むむっ……この狭い道は私には通れそうもないですな、私は入り口で待っております故、この先は三人で行ってくだされ」


「ふんっ、図体ばっかりデカイと苦労するんだな」


「植木鉢と木箱で殆ど足の踏み場が無いですね、これは誰だって通るのを躊躇いますよ……」


「邪魔するぞ、ステラ!居るか?」


 各自、様々な感想を抱きつつ、俺達は星屑屋へと足を踏み入れた。

 狭い廊下を進み、一階正面の扉を開け、馴染みのある部屋に入る。

 そこには、七輪のような鉢に火を灯し、その上で小釜を吊るしながら、中の液体を鉄の棒で掻き回すステラの姿があった。


「実際に作ってる所を初めて見たが……如何にも怪しい魔女って感じだな」


「えっ、あっ、ヤマトさん!?王都に行ったと聞きましたが、戻って来てくれたんですね!」


「久しぶり……って程久しくはないか、ただいま、ステラ」


「おかえりなさい!っと……ところでそちらの皆様はどちら様で?」


 心底嬉しそうな笑顔を向けられ、眩しくて思わず目を逸らしてしまう。

 そんな俺の心境などいざ知らず、彼の視線は自然と俺の後ろの二人に注がれる。


「まずは自己紹介ですね、私達は王国の使いで、とある事件について調べています、ヤマトさんとは面識があるようですし、私達の身元は彼が証明してくれる筈です」


「あぁ、こいつの言う事は間違いない、俺も含めて……良いのかは分からないが、取り敢えず国からの使いで間違いない」


「お前、薬屋なんだろう。単刀直入に問おう、この店では封能薬を扱ってるか?」


「王国の方……ですか?でしたら喜んで協力しますよ!と言いたいんですが……生憎、此処の店では封能薬は扱って無いんです」


「では、この店では封能薬は作れないという認識で合ってますか?」


「そうですね、僕も一端の薬師ですから、作り方は存じてます。ですが、今は材料が揃って無くて作れないんですよ」


「私の知る限り、封能薬の材料はこの村の近辺で全て揃う筈です。集めようと思えば集められるのでは?」


「そこまで需要のある薬では無いので……売れない薬を作っても仕方ないんですよね……」


「なるほど、そういう訳ですか」


「……んで、事実として今現在、お前の所に封能薬の在庫は無いんだな?」


「はい、何ならお店を見て回って貰っても大丈夫ですよ」


「……嘘をついているようには見えませんね、信じましょう」


「取り敢えず……事情は聞いたら不味い感じですかね?ボクで良ければ協力したいと思っているんですが……」


「こいつは信用出来る、だから俺は構わないが、アカツキ……どう思う」


「何とも言えませんね、大丈夫な気もしますし駄目な気もします……」


「お前の勘がそんな曖昧になることもあるんだな」


「この才能も、便利なだけで万能では無いので……ピンと来る時もあれば全く反応を示さないこともあるんですよ」


 三人で一人を責め立てるような状況になっていて、少しだけ罪悪感を感じる。

 兎も角、最終的な判断はアカツキに委ねよう。直感が働かなくとも、彼女に分析の才能があるのは確かだ。


「そうですね……取り敢えず話すだけ話しましょうか、それを聞いて、協力するかどうかはステラさんにお任せします」


 結果としては、そういうことになった。

 狭い屋内で立ち話と言うのも手持ち無沙汰だ。

 それを知ってか、気を利かせたアカツキの提案で、俺達は五人でギルドに向かい、そこに居るリツを交えて六人で話をすることになった。


「こうやって揃うと相変わらず大所帯に見えるな」


「これでも目立たないようにかなり人数は絞ったんですけどね、取り敢えずリツさんの報告から聞きましょうか」


「あっ……はい。えっと……まずギルドの方で見せてもらった依頼の記録に関してですが、確かに封能薬の材料と思われる素材の採取依頼が何度か出されていたみたいです」


「その納品先は何処だ?」


「星屑屋という薬屋です。他に比べて報酬の額も多い為か依頼の消化速度はかなり早かったみたい……です」


「だそうだが……何か言うことはあるか?星屑屋」


「……その事実は確かです、ボクも知識はありますから、封能薬の素材であると知った上で採取依頼を出していました」


「さっきは売れないから作らないと言っていたじゃないか」


「それは……売り物じゃないからです、この件に関しては追って話します、今は皆様の話を聞かせて下さい」


「んな都合が良いこと許される訳がねぇだろ……!」


「ゲーテさん、落ち着いて下さい……彼女にも事情があるみたいですし、取り敢えず今は話を続けましょう、リツさんお願いします」


「はい……次に、ギルドの冒険者の方に話を聞いたんですが……案の定、ヤマトさんと魔杖のことが噂になっていました。最強の魔術師を奴隷として持っている男が居る、力がある癖に簡単な依頼を片っ端から解決してしまう迷惑な奴らだ、と……」


「ヤマトさん……そんな事をしていたんですね」


「依頼を消化して人助けをするのがまさか悪い事だとは思わねぇだろ……それに難しい依頼が残って困るってなら実力の及ばない方が悪い、それにあんなの早い物勝ちなんだから俺が責められるのは絶対おかしいって」


「あはは……確かにこの短期間でヤマトさんには一杯お世話になりましたね、あれほどのペースで依頼をこなす人は確かに珍しいですよ」


「だからと言って……なぁ……逆恨みはないだろ、ったく……」


 冒険者らに襲われた時のことを思い出すだけで嫌になる。

 あんな八つ当たりのような怨恨で命を狙われるなどたまったものではない。

 鈍い頭の痛みと疲労感から、思わず頭を抱えながら、俺は大きな溜息を吐いた。


「私の方で分かったことは……以上です……」


「ふむ、こうなってくると確かに怪しいのはステラ様ですなぁ」


「つか他に居ないだろ、この村で唯一の薬屋なんだから」


「んじゃ次は俺達が何でこんな風に探偵の真似事をしているのか……だな、説明はアカツキに頼む」


「任されました、では……」


 それからアカツキは、ステラに今まで起きたことの一切合切と、今に至る経緯を説明した。

 俺とクロセルが何者かに拐かされたこと。

 そこから俺だけが逃げ出し、アカツキに助けられたこと。

 俺達五人はクロセルの救出の為に動いているということ。

 話した内容はざっとこんな物だ。これだけでも十分事情は理解出来ただろう。


「なるほど、そう言えばクロさんが居ませんでしたね……どうも違和感があると思ったら……」


「んで、理解を得られたようだし今度はお前が話す番だ、洗いざらい知ってる事を言ってみろ」


「……観念しますよ。確かにボクは封能薬の材料を集めていました」


「そうだろうな、つまりさっき言ってたことは全て嘘ってことか?」


「嘘ではありません、確かに封能薬は取り扱ってないですし、在庫もありません、品物として並べるつもりもありませんでした」


「ではどうして材料を集めていたのですか?」


「ボクの知り合いに封能薬が必要な人物が居て……その人に渡す為に薬を調合していたんです。まさかそれがヤマトさんとクロさんの誘拐に使われるとは思いもしませんでした」


「アカツキ、本当か?」


「私はクロセルさんとは違って嘘発見器になれる訳じゃないので……何とも言えないです」


「そうか……」


 俯きながら、本当に驚いたとでも言いたげな様子で、ステラは言葉を続ける。

 俺の感じ方では、ステラは嘘を言っていないように思える。

 本気で取り繕うつもりならばもっと上手い言い訳がある筈だ。

 これほど言い訳らしくて怪しい弁明を聞けば、一周回って信じられる……ような気がする。

 それにあの時、俺を捕らえていた人間は恐らく女性だ。よって犯人はステラではない。


「ボクは皆さんに協力すると決めました、ですので……恐らく皆様が探しているであろう、その知り合いの場所まで案内することも出来ます」


「は?この状況でお前を信用しているのは、馬鹿なヤマトとお人好しなアカツキだけだぞ」


「ふむ、確かに、この場でそのような提案をするのは、卑劣な罠に嵌めようとしているように聞こえますな」


「そんなぁ……信じて下さい、ボクは本当に皆様の味方です」


「……」


「アカツキ、決定権はお前にある、こいつの言うことを信じるか否か、お前が決めるんだ」


「そう……ですね、分かっています」


 アカツキが思い悩むような声を漏らせば、辺りはしん、と静まり返る。

 ギルドの一室で、机を囲む六人組。

 その場の全員が、何かを考えるような難しい顔をして並んでいる。


 そして、永遠に続くかと思われた長い長い静寂は、ふと唐突に破られた。


「信じましょう、ステラさんを」


「……了解」


「分かりましたぞ、アカツキ様がそう仰るのならそうしましょう」


「良いと……思います」


「俺はお前が悪い人間には見えない」


「皆さん……ありがとう御座います!

 そしてヤマトさん……知らずと言えど酷い目に合わせてしまって本当にごめんなさい」


 ステラがぺこりと深く頭を下げる。

 そんな姿を見ながら、俺は何と答えるべきかと言葉に迷う。

 ステラの言うことが確かならば、間接的に被害を受けたのは事実だ。

 だがそれを咎めるのは何かおかしい気もする。だから俺は、こう返した。


「気にするな、お前は悪くない」


「ですが……」


「良いから黙ってその知り合いって奴の所に案内しろ、それでおあいこだ。俺達がそいつを懲らしめてやる」


「……分かりました」


 こういうのは早く行動した方が良い。別の日にすればステラが仮に敵側に通じていた場合、此方の情報が漏れるリスクが有る。

 こんなことを考えるということは、俺はきっと心の底から彼を信じ切れていないのだろう。

 そんな自分に嫌気が差しつつ、俺は席を立った。


「そうですね、こういうのは早く済ませてしまった方が良いでしょう、ステラさん案内をお願いします」


「罠の可能性は考慮しないのか?」


「だとしても私達は今日此処に到着してステラさんの所に押しかけた訳ですから、向こうにそんな準備をする猶予はないはずです。相手の情報が相当早ければ、今置かれているこの状況が相手の予想通りの可能性もありますが、その場合は既に情報戦で負けているのですから結果は変わりません。」


「確かにそうですな、もし何かあっても私にお任せあれ、私は頑強ですので、皆様の盾になりましょう」


「心強いですね、ゲーテさんも何かあったら直ぐに戦闘に移れるように準備をお願いします」


「あぁ分かってる……ったく仕方ねぇな、アカツキ様様の命令なら従ってやるよ」


「助かります、では行きましょうか」


 こうして俺達六人は、ステラの"知り合い"と称される人物の元へと向かうことになった。


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