回帰
「一体いつまで遊んでるんですか……行きますよ、ヤマトさん」
「分かってる分かってる、ティアはさっさと拘束を解いてくれ」
予定していた出立の日が訪れた。
王城での生活も今日が最後になると思うと、少しだけ寂しくもある。
此処での日々はとても快適だった。身の回りの世話は使用人がしてくれるし、残り物であれど飯は美味い。
ティアという良い暇潰しもあり、このまま王城で怠惰に生きるのも幸福なんだろうなとしみじみ思う。
「嫌よ!ヤマトは此処に居て私の相手をしなさい、命令よ」
「それは出来ない相談だ、俺は大切な物を取り返しに行かなきゃならない、決意は固いんだ、今更辞める事なんて出来ない」
俺とアカツキが王都を離れると分かったティアが、それを阻止しようと俺を魔術で生み出した鎖で拘束して今の状況に至る。
別れを惜しんで貰えるのは良いことではあるが、流石に強硬手段に出るのは想定外だった。アカツキに無言で助けてと視線を送る。
「……私としては置いて行っても良いんですけどね」
「んな薄情な……俺とお前の関係だろ?な?」
「冗談ですよ、陛下にお目付け役を頼まれたのですから最後まで面倒は見ます
魔術回路構築……詠唱……
リ・トゥーム・エクセト・ティル
空間魔術……亜空切断!」
アカツキが俺に手をかざしながら魔術の詠唱をすると、一瞬にして全身を覆っていた鎖がバラバラに裂けていく。
空間魔術と言っている辺り、対象の位置を空間ごと切り離しているように見える。先日俺を襲った狼に放った魔法もこれなのだろう。
「ふぅ、助かった……間違って腕の数本吹き飛ばされないかと焦ったが」
「貴方は私を何だと思ってるんですか……」
「あぁ、それで思い出した。アカツキ、お前って日本出身?」
「なっ……!?どうしてそれを……」
「やっぱりな、同郷の人間だった訳だ」
「その言い方だと、ヤマトさんも?」
「そういうことになるな」
躊躇うこと無く直球で問い掛ける。
ティアの話に嘘はなかった、確かにこいつは俺と同じ転生者らしい。
「いつからこっちに来てるんだ?」
「今年で5年目です、ヤマトさんは?」
「一ヶ月位前だ、まだこの世界に来たばっかだな」
「ねぇねぇ、一体何のお話?ヤマトは渡さないわよ?」
「お前には関係ない話だ、帰ってきたらまた相手してやるから大人しく待ってろ」
「本当!?絶対に戻ってくる?」
「あぁ、絶対に戻ってくるから安心して待ってろ」
取り敢えずは適当なことを言ってこの場を凌ぐ、俺とアカツキが約束の時間に遅刻しては示しがつかない。
実際にクロセルを奪還した場合、王都に移り住むことになるだろうからあながち嘘ではない。
「んじゃ、取り敢えず歩きながら話すぞ、じゃあな、ティア」
「うん!行ってらっしゃい!」
「そうですね、驚いて何から話すべきか迷いますが……取り敢えずお供します」
ティアとの別れを済ませると、アカツキと二人並んで王城の廊下を歩く。
アカツキ曰く、正門前で集合予定らしい。時間は歩いて行って丁度と言った所か。
「んじゃさっきの話だが……」
「私が気になるのは転生した際の状況です、時間がある時に、お互いにこの世界に降り立った経緯を話すとしませんか?」
「同意だな、俺もそこが気になる。話せば長くなるから、また今度な」
「はい、それと……これから調査を進めるに当たってヤマトさんの才能を確認しておきたいんですが、ご自身の才能、把握してます?」
「俺の才能は『傷害』だ」
「戦闘向けの才能ですか……特定の技術に対する才能ではなく傷害その物が才能というのは珍しいですね」
「いや……確かに傷害の才能なんだが、才能指数がな……0なんだ」
「……?どういうことです?才能指数が0以下になることなんてあるんですか?」
「それがあるんだよ、ディザビリティって言ってな、その才能に明示された行為が出来なくなる、要するに……」
徐にアカツキの前に立つと、そのまま額にデコピンを放つ。
が、案の定、もはや見慣れた感覚と共に、俺の指先はアカツキの額の前でばしんと弾かれた。
「こういう事だな」
「それはまた……随分と不便ですね」
「だろ?まぁ俺の才能なんてこれだけだ、他には何もない」
「なんというか……ご愁傷様です、ヤマトさんも苦労していたんですね」
「そういうお前はどんな才能を神から授かったんだ?」
「空間魔術3、分析5、直感5、と……こんな物ですかね」
「流石は優秀だな……前世の行いが良かったのか?」
「余り関係ないと思います、私が特別に良い人間だった訳ではないですし……どちらかと言えば運が良かっただけな気がしますね」
「もし運で才能が決まるなら、俺は相当不運だったんだな……」
「そう落ち込まないで下さい……と私が言うと嫌味ですね、すいません……」
「気にするな、この才能に関してはもう割り切ってる」
直接的な傷害行為が出来ないだけで、傷害の遠因であったり間接的な傷害は可能だと言うことが証明されている。
となれば、後は使い手の工夫次第だ。最弱無才の俺でも、何も出来ない訳じゃない。
「っと、あれがそうか?」
「そうですね、皆さんお待たせしました、此方が魔杖の主のヤマトさんです」
城門の前で待っていた1つの集団に歩み寄りながら、アカツキが俺のことを紹介する。
そこに立っていたのは、俺の見知らぬ顔ぶれが三人。
一人は赤い髪にすらりとした高い身長。そして黒いコートを羽織った無愛想な吊眼の男。
二人目は、一言で形容するとすれば大男。1.9mはあるであろう体躯に、鎧の重装備をした、見るからに屈強な茶髪の男だ。
そして最後は、フードで顔を隠した占い師、呪術師と言った言葉が似合うような小さな人間。
これほど小さな身体をしているのだから、恐らく女性だろう。
「俺はヤマトだ、宜しく頼む」
「あぁ、俺はゲーテ・フォルモントだ」
「ははっ、私はアシュバル・ゴッドフリーで御座います」
「……リツ、です」
「そして改めまして私がアカツキです。念の為に再確認しておきますが、基本的に指揮は私が執ります、皆さんは私の指示に従って動いて下さい」
「妥当だな、この中じゃ分析の才能持ちはお前だけだ」
「念の為に才能を確認しておくか……俺は槍術5、炎魔術2だ」
「私は格闘5、強靭4ですぞ」
「占星術5、闇魔術4……」
「ご存知だと思いますが一応、私は空間魔術3、分析5、直感5ですね」
「……傷害0だ」
「は?何言ってんだお前」
「毎回この反応をされるのも疲れるんだが……ディザビリティって知らないか?俺がそうなんだよ」
「要するに無能かよ、こんな奴を連れてって意味はあるのか?」
口調がキツい、ゲーテと名乗る青年と睨み合う。
それに気付いたアカツキが、俺とゲーテの間に割って入り、慌てた様子で言葉を続ける。
「彼は魔杖の主人です、仮に魔杖の救出に成功しても、魔杖が言うことを聞かない可能性があります。その際に彼は必ず必要になるので、意味はあります、ゲーテさん」
「ま、そういうことだな」
「チッ……まぁ良い、精々足手まといにはなるなよ」
去り際に俺に向けて小さく舌打ちすると、そのまま大人しく引き下がる。
アカツキが上手い言い訳を考えてくれたようで何よりだ。これで俺が同行しても大義名分が通る。
彼女には感謝しないとな。
「それでは早速出発しましょうか、馬車を用意してあります、それでタルフの村に向かいましょう」
「何故タルフなんだ?他に村なら無数にあるだろ」
「タルフの村近くの森でしか採れない素材があるんです、それが封能薬の材料になっているので……もし動きがあるならタルフの村周辺だと判断しました」
「なるほどな、一理ある」
「寧ろそれ以外に何処を探すんだって話になるな」
俺達五人組は、そんな風に駄弁りながら、アカツキが手配した馬車に乗り込む。
馬車には悪い印象しか無いが、アカツキが手配したのなら今度こそ悪いことにはならないだろう。
そうして、俺達は王都を発った。




