王城での日常
騒々しさで目が醒める。
確か俺はティアと別れてから部屋に戻り、そのままベッドで寝ていたはずだ。
その筈なのだが……
「何故お前が此処に居るんだ……」
「ほらヤマト!早く起きて!わたしと遊びましょ!」
「……お前の仕業か?」
「何のことですかね……私も何がどうなってるのか、説明を要求しますよ……」
目を開けば、視界に入るのは、横になった俺の腹の上で飛び跳ねるティア。
そして騒ぎを聞き付けて来たのか、困惑したように俺とティアを交互に見て、頭を抱えるアカツキの姿。
「あぁ……確かにお前はそんな悪戯をする性格じゃなかったな」
「勘違いが解けたようで何よりですが……どうしてティア様が此処に?」
「部屋を抜け出してきたのよ!凄いでしょ!」
「おいおい……冗談じゃないぞ……」
「ヤマトさん、一体この数日の間に何があったんですか……」
「何故か知らないがこいつに懐かれたんだ、俺も訳が分からない」
「そうですか、まぁティア様を害されてないのなら大丈夫でしょうが」
「こいつの父親って誰なんだ?何かと父上に言い付けるだとか偉そうに言いやがる。まるで教育がなってない」
「国王陛下ですよ……」
「何がだ?」
「彼女、ティア様はラオン国王陛下の娘様、この国の王女様です」
「……マジ?」
「マジです、現実を受け入れてください」
思わず現実逃避しかけるような、衝撃の事実が告げられる。
だが何となく察していたことではあった。
それにしても、王女様か……そりゃ使用人も逆らえない訳だ。
「国王って何人子供が居るんだ…?」
「ティア様とレオ様の二人です、レオ様は現在王都には居ませんが……」
「なるほど、兄が居なくて遊び相手に困ってた訳だな」
「かもしれませんね……それにしてもどうしてヤマトさんなんかに懐いたんでしょうね」
「そこまで意外って顔をされると傷付くんだが」
取り敢えず、このままだと肋骨がやばい。
片手でティアの服の襟を捕まえると、そのまま持ち上げてベッドから降ろす。
「朝から元気だな、お前は」
「ヤマトはだらしないわね、もうお日様も登ってるのに」
「すること無いから長めに寝てただけだ、ったく……起こすにももう少し方法を考えろよ」
鈍く痛む胸元を抑えながら、俺はベッドから降り、ひとまずは立ち上がる。
軽くストレッチをして身体を伸ばしながら、再びアカツキに視線を向けて言葉を続けた。
「それで、準備の進捗はどうなんだ」
「名のある冒険者から優秀な才能持ちを数名手配してあります、恐らく今週中には準備が整うかと」
「流石は仕事が早いな、本当に一人でやってるのか?」
「お褒め頂き光栄……ヤマトさんでなければもっと良かったのですが」
「何かアカツキ、俺に当たりが強くないか?」
「さぁ、何ででしょうね?私にも分かりません」
ストレスが溜まっているのか、或いは俺が嫌われているのか。
なんでかアカツキの俺に対する対応は少し雑だ。遠慮せず腹を割って話してくれていると思えば嫌ではないのだが。
「まぁ良い、取り敢えず仕事中だったんだろ、邪魔したな」
「いえ、今回に関してはティア様にも問題がありますから、お気にせず」
「んじゃこいつ連れてさっさと出て行くよ、悪い悪い」
軽い口調で謝罪しながら、ティアの手を引いて寝室を出る。そのまま執務室を通り、廊下に出る。
すると、此処ぞとばかりにティアが俺の手を引いて走り出そうとする。させないが。
「ほら!遊びに行くわよ!」
「待てよ、その前に俺は厨房に行かなくては」
「なんで?」
「わざわざ俺の分の食事なんて用意されてないからな、厨房を使う許可は出てるから軽く朝食でも食ってくる」
「へー、ならわたしも着いていくわ!」
「勝手にしろ、作ってもあげないからな」
「えー……なんで?」
「変な物食わしたとバレたら俺の首が危ういからだよ、お前ももう少し身分を弁えろ」
「もうー……ヤマトも父上と同じようなこと言うのね、酷いわ」
「ならお前の父上の言うことは正しい、俺と比較出来るってことはちゃんと聞いてるんだな、偉いぞ」
乱暴に頭を撫でる。こういう所は無遠慮だが、別に少しなら構わないだろう。
「えへへ、やっぱりヤマトはいい人ね」
「残念ながら悪い人だぞ、お前みたいなチビを取って食うような奴だ」
「悪い人ならとっくにわたしに酷いことをしてる筈よ!だからヤマトはいい人だわ」
「乱暴出来無いだけなんだけどな」
そのままぐりぐりと拳骨をティアの頭に食い込ませようとするが、既の所でばしーんと弾かれる。相変わらず判定が謎だ。
「さて、厨房はどっちだったっけな……こりゃ地図でも無いと全く覚えられないな」
慣れない俺にとって、この城は迷宮のような物だ。
虱潰しに探せば辿り着けるのだが、目的地に真っ直ぐ向かえるアカツキのような人達は尊敬する。
最も、長く過ごしていれば嫌でも覚えるのかもしれないが。
「あぁ、此処だな」
暫く歩き回っていると、見覚えのある場所に出る。厨房に到着だ。
ティアには付き合わせてしまって悪いが、元気なこいつのことだ。きっと疲れ知らずだろう。
厨房に置かれたバスケットの中に入っている今朝の焼き立てであろうパンを数切れ拝借する。
料理なんてしないししたこともない。故に躊躇うこと無くそのまま口にする。
空腹さえ解消できれば味など大した問題じゃない。
「美味しい?」
「そりゃまぁ、流石は城の食事って感じだな……田舎町で食ってたパンより断然美味い」
「田舎町って……ヤマトは何処から来たの?」
「タルフの村だ。と言ってもそこで過ごしたのも一ヶ月程度、その前に過ごしてたのは更にずっと遠い遠い場所だ」
「遠い場所って……別の国?」
「更に遠い、別の世界だ」
「他の世界からやって来たの?ならアカツキと一緒だね!」
「……なんだって?もう一度頼む、ティア」
「えっと……だから、アカツキさんとヤマトさんは別の世界からやって来たんでしょう?」
これは驚いた。まさかとは思っていたが。
ティアとアカツキに交友関係があったのも不思議……ではないか、国王秘書という立場上、ティアの相手をすることも多々あったのだろう。
そんなことより重要なのは、アカツキが俺と同じ異世界からやって来た人物だということだ。
何処かに居るとは薄々確信していたが、まさかこんなに早く巡り合うことになるとは思わなかった。
そうと分かれば時々抱いていたアカツキに対する違和感と親近感も説明がつく。
「どうしたの?ヤマト」
「いや……びっくりしただけだ、アカツキからどんな世界から来たとか聞いたことはあるか?」
「あるわよ、馬の無い鉄の馬車が毒を吐き散らしながら走り回って、有限な資源を取り合って人が人を傷付けあう、酷い世界だって」
「それはまた……随分と嫌味の効いた世界の説明だな」
その世界は、恐らく地球だ。彼女はきっと地球からやって来た。それも恐らく日本人。
これほどまでに都合の良い事があるだろうか?
この世界に来るには何か条件があって、それが俺達二人が日本から来たことと関係しているのかもしれない。
兎も角、この話は後にアカツキとすることにしよう。その方がこいつから聞き出すより合理的だ。
「んまぁ、取り敢えず俺はアカツキと同じとこから来たみたいだな」
「そうなの、すごいわね」
「まぁな」
こういう事は子供の方が飲み込みが早い。
何時ぞやのアランの長老も、こいつのような素直さを見習って欲しい物だ。
「さて、ご馳走様。少し休憩したら……中庭に行くとするか」
「今日も遊んでくれるのよね!」
「他にすることも無いからな……あと数日したらまた王都を出ることになる、それまでの間は付き合ってやるよ」
「やった!」
ティアが嬉しそうに飛び跳ねる。
こいつの相手をするのもあと数日かと思うと……清々するな。
そんなことを思いつつ、俺はティアに手を引かれて、そのまま中庭へと連れ去られた。
そして、そんな程良く刺激的で暇の無い日々が幾日か続いた。




